読切小説
[TOP]
トロイの木馬 ― VOTOMS ―
「突然ですがオマエは死にました」

〜 「へ?」 〜

俺は周りを見渡す。
何処までも白い空間。おまけに「見えるはず」の自分の手が見えない。
この白い空間に声の主の姿はない。

「オマエの死因は睡眠中の心臓発作。医者の言う通りにダイエットすればもう少し長生きできたかも・・・でつ」

〜 「というとやっぱり地獄送り?ボンテージ姿のメス鬼に調教されるのもいいかも・・・」 〜

「ソレは無し。救いようのない変態でつね・・・。ココに天国も地獄もないでつ。なのでオマエは問答無用で異界流しでつ」

〜 「それってまさか・・・・!」 〜

「な〇うでよくある異世界転生でつ。テンプレで記憶保持、能力付与、そして好きな世界へ転生できるでつ」

〜 「それは願ってもいないけど・・・なんで?正直、俺は聖人でも善人でもないよ?むしろ外道だよ?」

「鋭いでつね・・・。異界流しは世界を補強する、言うなれば維持するためなのでつ。オマエ、多重世界つまりはパラレルワールドって知ってるでつ?」

〜 「まぁ・・・。自分、一応SF者なので」 〜

「単純に言えばこの世界はパラレルワールドが添え木になって補強されているのでつ。パラレルワールドであると知覚している人間はそれだけでも、パラレルワールドを確定させることができるでつ」

〜 「・・・・つまりはこの世界を維持する人柱になれと?」 〜

「オマエ、察しがよくて助かるでつ。で、どの世界に行きたいでつ?」

俺は少し悩んだ。
仮にも異世界転生の機会が得られたのだ。悩まない方がどうかしている。
「貞操逆転世界」も捨てがたいが、コチラはあくまで貞操が逆転しているだけだ。そんな世界は面白くない。
むしろ・・・・

〜 「同人誌だけど、クロビネガの図鑑世界は大丈夫か?」 〜

「性別と種族は選べるけどそれだけだけでつ、いいでつか?」

俺は頷いた。もっとも、「身体」のない状態なので頷けたのかわからなかったが。
男の娘やレディボーイにも興味があったが、流石に俺がイケメンのチンポを咥えるのは想像がつかない。
女ないしは魔物娘なら間違いなく雌堕ち決定だ。

〜 種族は人間、性別は男。勇者の方がいいな 〜

「能力はどうするでつ?あ、言っとくけど一つだけでつ」

困った。
異世界転生、それもクロビネガの「図鑑世界」。
金や地位、圧倒的な戦力など無意味。バッドエンドの存在しない愛し愛される世界に「転生モノ」にありがちな異能は浮くだろう。
しかし何もなしというのも勿体ない。

「サッサと決めるでつ」

俺の脳裏に鉄の棺桶に爆弾(ポリマーリンゲル液は発火します)を積んでレスリングする、とあるアニメが蘇った。

〜 「決めました!!お願いします!この能力なら・・・・」 〜



― 聖別都市国家「アリアス」―

50年前、一人の勇者が国の礎となり深い眠りについた。
その勇者の名前は今や誰も知らない。
だが、彼はたった一人、どんな絶望的な戦場であっても必ず帰ってきた。
人々は彼をこう呼んだ・・・・。
「孤影の勇者」と。


「司教様!早く脱出を!もうこの国は・・・」

白銀のプレートアーマーを身に着けた一人の女性が壮年の男性の傍らに立つ。

「フィアナか・・・・。儂は此処に残る。残り勇者様の蘇生をやり遂げねばならぬ」

「司教様!あれはただの屍です!!!いくら勇者と言えども、氷に閉じ込められて生きているはずなんて・・・」

フィアナと呼ばれた赤い髪の女性の視線の先。
そこには氷の棺に横たわる短髪の青年が眠りについていた。
氷の棺の下、古ぼけた銘板には「国に災いあらば、我を呼ぶべし。我、国を守る也」と彫られていた。

「我、アリアスの国家司教、ワルダーヴェルトなり。盟約により封印を解くものなり!」

ワルダーヴェルトは懐から金の鍵を取り出すと鍵穴に差し込んだ。

ヴゥゥゥゥン・・・・

微かな機械音が響くとともに氷の棺がゆっくりと開く。

「これは・・・・・?」

「やはり古の文書の通りだ!文書によるとこの氷の棺は氷室と同じく人間の身体を冷やして冬眠させることができるとあった!」

「ですが、50年もの昔です!!!そんなこと・・・」


― 「俺が死んでるとでも?」 ―


ハリのある声が教会の地下に響いた。

「あ、貴方様が伝承に伝わる孤影の勇者様でいらっしゃいますか・・・?」

「どうやらそうらしいな」

そう言うと男は棺から身を起こして身体を伸ばす。身体の節々からコキコキと音が響いた。

「勇者様、目覚めたばかりで申し訳ありません。ですが・・・・」

「言わなくていい。俺を目覚めさせた、ということは奴らが来たんだな」

「ええ。既にサルバリシオンも陥落してしまいました。主神様のご加護もなく・・・」

男は慣れた手つきで銘板を外すとそこに収められている愛用の「鞭」を取り出した。
ずっしりと重いソレを彼は軽く振る。

― ハンガリー鞭 ―

鞭は武器というよりも戦場で剣やフレイルの代わりとして使われる、あくまで補助武器としての意味合いが大きいがこれは違う。
ハンガリーの軽装騎兵たちが主に使用したこれは、鞭の先端に鉛が仕込まれておりフルスピードで振れば堅牢なプレイトアーマーに穴を穿つほどの威力を持つ。
そのためこの鞭を持っている兵士が捕虜となった場合は、通常は身代金目的に生かされるところ問答無用で縛り首になったくらいだ。

「聞くがサルバリシオンはどのように陥落した?」

「はい。狡猾にも魔物どもは人間の姿になりそのままサルバリシオンに侵入。口に出すのもはばかれるような淫虐の限りを尽くして堕落させたのです・・・」

「死人は?」

「奴らは人を殺さないと言っていますがウソに決まっています!その証拠に援軍に行った私の親友はまだサルバリシオンより・・・」

「これフィアナ!」

ワルダーヴェルトがフィアナを窘める。
それを男が制する。

「大丈夫だ問題ない。そうか・・・親友がな・・・。なら、俺がその親友に会わせてやる」

「ほ、本当?」

「ああ。何なら今すぐにでも会わせてやるよ!」

そう言うと男が鞭を振り下ろした。

バギィィィィィィン!!!!

「キャァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

フィオナの堅牢なプレートアーマーがハンガリー鞭の一撃で砕け散り、そのまま地下室の壁に縫い付けられる。

「ありゃー?ちょっとやり過ぎたかね。まぁ、死なないように加減したから大丈夫だろう、多分」

ワルダーヴェルトは目の前の惨劇を信じられなかった。民草を守るべき勇者が騎士団長であるフィアナを手にかけたのだ。
信じろというのが無理だろう。

「勇者様!何故・・・何故フィアナを!勇者様はこの国を・・・・」

「国に災いあらば、我を呼ぶべし。我、国を守る也、か。それはな・・・」

男がワルダーヴェルトに近づく。

「嘘だよ」

ワルダーヴェルトが最後に見たもの。
それは男が真鍮と鉛で強化された鞭のハンドルを振り上げる姿だった。



俺は目撃者二人を「始末」した後、城のテラスに立つ。誰も殺してはいない。魔物娘は血と死の匂いに敏感だからだ。
実際のところ、俺は「勇者」として現役だった頃も極力魔物を殺すのは避けていた。
当然だ。
代替わりで「魔物娘」となるのがわかっている「魔物」を好き好んで殺すのは異常者だ。彼はサイコパスであっても殺しを楽しむ異常者ではない。
異世界転生者ご用達の「プリン」で懐柔した妖精から得た「眠りの粉」を使用すれば、魔物の群れを退けるのは無理ではないのだ。
空を見ると、ハーピーやワイバーンがゲットした旦那と空中子作りに夢中で、城下を見ると魔女とショタが大人のリアルおままごとをしている。

「永かった・・・・・」

願いは確かに叶った。
だが、それは魔王の代替わり前の「図鑑世界」だった。
殺し殺され犯し犯される世界。
「魔王の代替わり」が既定事項であるとはいえ、それが明日かもしれないが100年後かもしれない。
最悪、心に決めた嫁とイチャラブする前に俺自身が死ぬ可能性もある。
幸いにして俺には「ギフト」があった。
そう、「全知全能の神」さえ乞い願い羨んだ「ギフト」が。

― 異能生存体 ―

TVアニメ「装甲騎兵ボトムズ」の主人公「キリコ・キュービー」が持つ能力で、端的に言えばどんな事をしてもされても死なない「主人公補正」だ。
どんな危機的な状況であっても生き残れる。
ちなみに俺はあまりにあまりな展開(原作ガン無視)なので「ベルゼルガ物語」は無かったことにしている。アーマードトルーパーのベルゼルガは好きだが。
俺は神から得たこの能力を余すことなく最大限活用した。
勇者となり、どんな危機的な状況でも恐れずにたった一人で立ち向かう。
故についた綽名が「孤影の勇者」。
実際のところは仲間がいても、この能力では助けられないから一人で行動していただけなのだが。
たった一人で方々を調べた結果、この世界は書籍版のほぼ50年前であることが判明した。
ハッキリ言って50年は長い。
しかしそれに対処する方法はある。
アニメの最後キリコはヒロインと一緒に冷凍睡眠に入った。俺はそれを参考にしたのだ。
勇者保存計画とか、適当な事を上に吹き込んで冷凍睡眠装置を製作させた。
怖くはない。
この能力のおかげで「死ぬこと」はないのだ。原作の設定上寿命では死ぬが。
後は騙して手に入れた「寝床」に「魔物娘」が男漁りに来るのを夢見ながら待てばいい。

「キシシシ!男みっけ!!!」

灰色の肌にギザ歯、オマケにツルペッタン!なスレンダーロリロリロリボディ。
ルビーのような一つ目に触手。
クロビネガで屈指の人気を誇る魔物娘「ゲイザー」だ。

「・・・・・・・・・」

「な、なんだよお前!こっちを睨んで!!」

カラン・・・!

手にしたハンガリー鞭を無言でその場に投げ捨てると・・・・。

「す・・・・・好きじゃァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

俺はそのゲイザーに組み付いた。

「ギザ歯で勝気なところがイイ!!!そして迫られてワタワタしているところが可愛い!!!!」

「何だコイツ!!眼術もかけていないのに!!!」

「グへへへ!!ゲイザーたんの触手をペロペロしちゃうぞ〜〜〜」

「離せ!!!離せよぉぉぉぉ!!!!!」

「こちとら50年以上おあずけを喰らって、イロイロ溜まってんじゃァァァァ!!!!」

祝福を受けた勇者である以上、そこら辺の娼婦を買うこともできないので当然である。

「うぅぅ・・・。お前、そんなにアタイがいいのかよ?こんなツラだし不愛想だし・・・」

「バッキャロォー!!!!!!」

「ヒッ!」

俺は彼女を抱きしめる。

「お前だから良いんだ!もっと誇れ!この起伏の無いボディを!!俺は牛乳女なんて興味はない!」

「でも・・一つ目だし・・・」

「それがどうした!!!」

ズギュン!!

俺は彼女の一つ目にキスした。

「その人全てを愛する・・・恋するってそうだろ?」

・・・・かなりキモイセリフである。

「アタイ嫉妬深いし、料理っていっても魔界豚の丸焼きしかできないよ?」

「キ・サ・マァァァ!!!まだ言っているのか!」

「キャッ!」

俺は彼女の手を掴むと股間にあてた。

「これでも信じないのか?」

彼女の顔が赤く染まる。

「ロニー。・・・・それがアタイの名前」

「俺の名前はキリコ。キリコ・キュービーだ」






神様

俺、この世界に転生して良かったです

あと、ゲイザーたんを嫁にしました

尻に敷かれてますけど

・・・ゲイザーたんの触手ムチ、最高




50年の時を超え、愛するゲイザーを手に入れたキリコ!
しかし「過去」は彼を許さなかった!

とあるティターニア

「許しませんわキリコ様・・・」

ブランデーたっぷりのプリンでティターニアを酔わせて魔法具を盗む→イベントアイテム「偽りの鏡」をゲット


とあるデュラハン

「許さんぞ!余を・・・余をストレッチ一人エッチ中毒にしたツケを払うがいい!!!」

偽りの鏡で魔物の姿に変わり強襲。偉そうなデュラハンを眠りの粉で眠らせた後、首を外して声が出せないように股間に押し付けた状態で固定。眠りから目覚めても羞恥のあまり助けが呼べない状態で放置する。


とあるミノタウロス

「アタシの角に松明を括りつけやがって・・・・男なら筋肉で勝負せんかい!!!」

眠らせたミノタウロスの角に時限発火式の松明を括りつけ、爆竹でエキセントリック寝起きドッキリをプレゼンツ。パニックに陥った魔王軍はそのまま敗走。


彼らの名は「キリコ被害者の会」
次回、『あまり嬉しくない5P』。来週も、キリコと地獄に付き合ってもらう。





18/10/13 21:40更新 / 法螺男

■作者メッセージ
― 法螺男鎮守府 ―

「来たかゴトランド。これより貴様にF作業の任務を与える。装備や作業については大淀に聞け。アイツは漁獲量ナンバーワンだからな」

遠路はるばる北欧から来たのに、いきなりF作業にぶち込まれた軽巡ゴトランド。彼女の未来はどっちだ?!

ちょっと書きたくなりました。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33