求道者 ― Folklore ―
彼は生まれついての求道者だった
どんな僻地でも足を運び、雨や雪の中でもそれを得るために何時間も待つことさえ厭わない
人は彼を狂人と蔑むこともあった
だが、彼はそんな心無い言葉に左右されることはなかった
ただ無心に
道を望み、それを得るために努力する
彼に人の世の理など関係なかった
しかし
彼は悲しいかな人の子であった
ある日下された突然の死刑宣告
― 今後この生活を改めなければ確実に死ぬ ―
生きるために、道を求めることを諦めなければならないのか?
否!
断じて否!
彼は制止する友人達を振り切りなおも道を求め続けた
そうして・・・・
彼は、「死んだ」
いくら彼が鋼の如き精神を得た、ニーチェの言う「超人」であろうと、肉体は違う
「その日」、心臓は彼の為に血潮を送らず、脳はただのたんぱく質の塊へと変わった
ボォォォォォォ!!!
浄化の焔が彼の身体を焼き尽くす
だが身体は死んでも彼の「心」は死ななかった
まだだ・・
まだ・・・
まだ死ねない!!!!!
身を焼く浄化の焔を蒼き魔力を纏った魔炎へと変えて、死から彼は蘇った
魔物娘「スケルトン」として
― とある公立高校 ―
キーンコーンカーンコーン!
「おいお前ら来週はテストだかんな!」
教師の鬼渕がそう宣言すると教室の方方から抗議の声があがる。
「ねぇねぇ知ってる、ラーメンさんの話?」
隣のラタトスクが俺に声を掛けてきた。
大方、どっかから仕入れたいつもの噂話をしたいのだろう。
彼女の名前は「九重 嵐」。
移住希望の魔物娘はまず「学園」で教育を受け卒業してから、本格的に移住が認められる。
なのになんでまた学校に通っているのかと言うと・・・・。
― 「普通の人間には興味ありません!限界を超えたデブ、ハゲ、チビ、ドスケベ、居たらあたしの所に来なさい 以上!」 ―
そう。
彼女は理想の「ブ男」を探しに学校へ編入したのだ。
なんでも「学園」に人間の学生もいるのだが、大概は他の魔物娘のお手付きだったりとなかなか出会いがないのだそうだ。
そのため、彼女が言い寄ってくるイコールブ男という公式が成り立つため、彼女の事を「ブ男チェッカー」なんて呼ぶ連中もいるくらいなのだ。
「なんだよソイツ?小池さんみたいにラーメンばっかり食べているヤツの事か?」
「違うよ!ラーメンさんってね・・・」
彼女はゆっくりとラーメンさんの噂話を話し始めた。
〜 その日、Aくんは部活が長引き一人家路を歩いていました 〜
〜 ふと見ると、目の前にはラーメンの屋台 〜
〜 芳しいラーメンの香りに誘われて、Aくんが屋台の暖簾をくぐると一人のスケルトンが店番をしていました 〜
〜 Aくんが椅子に座ると、まだ注文すらしていないのにAくんの目の前に一杯のラーメンが置かれました 〜
〜 まさか自分で出汁をとったラーメンを食わせているんじゃ? 〜
〜 しかし、恐る恐るスープを啜るとそんな懸念なんて吹き飛んでしまいました 〜
〜 あっという間にAくんはラーメンを完食していました。スープも一滴すら残っていません 〜
〜 その時、店主のスケルトンが口を開きました 〜
「・・・・金は・・・・み・・・」
〜 ぼそぼそと小声で話すスケルトン。よく聞こうとAくんが身を乗り出した時です 〜
「代金はお前だァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
〜 スケルトンはAくんの首根っこを掴むと空いていた寸胴にAくんを放り込み、夜闇の奥に消えていきました 〜
〜 Aくんはまだ帰宅していないそうです 〜
「0点。お前ホントにラタトスクか?なんで被害者が行方不明なのにそこまで詳細に話がわかるんだよ!」
「うじゅぅ・・・・・・。折角、仕入れた噂話なのに」
「そもそも、俺がそんな手垢のついた噂にビビるわけないだろ?」
そう言うと俺は波動突の構えを九重に見せる。
「流石は日本拳法部、期待のエース!!その名は松風シュウ!ラーメンさんにもビビらないってか!」
「当然!!」
〜 おい、シュウのヤツ九重と親し気に話してるぞ 〜
〜 つまりはブサイク認定されたって事だろ 〜
外野がうるさいが、ここはヤツの噂に乗ってみるのもいいだろう。
退屈な学校生活にこういったサプライズは必要だ。
「お、あれが・・・・」
時間は9時。
九重の情報通りだった。
なお九重はオタイベントで理想のブ男を探しに行ったため、この場にいるのは俺一人だ。
ブ男認定されていなかったことに安堵しつつ、俺は件の屋台へと向かった。
「・・・・・・・」
〜 噂通りだな 〜
暖簾の向こうにはエプロンをして、髪が落ちないようにアップしたスケルトンが一人いた。
俺が椅子に座ると、そのスケルトンは注文を聞かずに一杯のラーメンを置いた。
ズルズル!
噂通り、そのラーメンは絶品だった。
透き通ったスープは往年の志那そばを彷彿とさせるが、アゴだしによく似た魚介の風味がアクセントになっている。
文句なしの最高の一杯だ。
「・・・・・・・かん・・おね・・・」
〜 来たか! 〜
俺は九重から教えてもらった対処法を迷わず実行した。
― スケルトンがブツブツ言い始めたら、代金をテーブルに置き急いで逃げる ―
タッタッタ!!
「ハハッ!!やってやったぜぇぇぇぇ!!!!」
いくら何でも人間が魔物娘とタイマン張って勝てるはずがない。
故に噂の検証のみを行うことにしたのだ。怪異の討伐なんぞ、勇者的なバカに任せればいい。
シュウは勝利を確信していたが・・・・・。
ガッシャ!!ガッシャ!!!
「へ?」
「・・・ま・・てぇ・・」
あのスケルトンが寸胴を持って追いかけて来ていた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
思わずシュウはスピードを上げた。
何故だ?
何故、私が人生も命も全て捧げて完成させたラーメンの感想を聞こうとしたら皆逃げるのだ?
「・・・わ・・だし・・・とって・・・」
カパッ
地獄の釜が開いたような音にシュウは思わず振り返る。
その時シュウは見た。
見てしまったのだ、寸胴の中身を。
角の生えた得体のしれない骨
萎びたサソリのようなモノ
闇よりも暗い眼窩
彼らは囁く
― ツギハオマエダ ―
ブチッ!
「びぇぇぇぇぇえぇぇん!!!!!!怖いよママーーーーーーーーーー!」
根源的な恐怖がシュウを幼児化させてしまったのだ。
そのままリミッターが外れた急加速でスケルトンを追い放す。
何も「彼」はシュウを恐怖に陥れようと寸胴の中身を見せたわけではない。
スケルトン出汁なんてゲテモノではなく、魔界殻虫の干物や魔界蜥蜴、選び抜かれた魔界豚から出汁をとっていると教えたかっただけだったのだ。
それに「彼」がシュウを追いかけたのはラーメンの感想の為だけではない。
「お釣り・・・・」
元々コミュ障だった彼は「スケルトン」と化して更にそれが悪化していた。
おかげでフォークロア、都市伝説化してしまった事を彼は知らない。
そんな彼が竜皇国ドラゴニアで屋台王となり、ドラゴニア唯一のラーメン屋「紅白亭」とカフェ「焔龍亭」(どう見ても中華料理店だが、店主は頑なにカフェと言い張っている)と出汁で出汁を洗う、熾烈なラーメン戦争を繰り広げることになるが、それは別の機会に。
どんな僻地でも足を運び、雨や雪の中でもそれを得るために何時間も待つことさえ厭わない
人は彼を狂人と蔑むこともあった
だが、彼はそんな心無い言葉に左右されることはなかった
ただ無心に
道を望み、それを得るために努力する
彼に人の世の理など関係なかった
しかし
彼は悲しいかな人の子であった
ある日下された突然の死刑宣告
― 今後この生活を改めなければ確実に死ぬ ―
生きるために、道を求めることを諦めなければならないのか?
否!
断じて否!
彼は制止する友人達を振り切りなおも道を求め続けた
そうして・・・・
彼は、「死んだ」
いくら彼が鋼の如き精神を得た、ニーチェの言う「超人」であろうと、肉体は違う
「その日」、心臓は彼の為に血潮を送らず、脳はただのたんぱく質の塊へと変わった
ボォォォォォォ!!!
浄化の焔が彼の身体を焼き尽くす
だが身体は死んでも彼の「心」は死ななかった
まだだ・・
まだ・・・
まだ死ねない!!!!!
身を焼く浄化の焔を蒼き魔力を纏った魔炎へと変えて、死から彼は蘇った
魔物娘「スケルトン」として
― とある公立高校 ―
キーンコーンカーンコーン!
「おいお前ら来週はテストだかんな!」
教師の鬼渕がそう宣言すると教室の方方から抗議の声があがる。
「ねぇねぇ知ってる、ラーメンさんの話?」
隣のラタトスクが俺に声を掛けてきた。
大方、どっかから仕入れたいつもの噂話をしたいのだろう。
彼女の名前は「九重 嵐」。
移住希望の魔物娘はまず「学園」で教育を受け卒業してから、本格的に移住が認められる。
なのになんでまた学校に通っているのかと言うと・・・・。
― 「普通の人間には興味ありません!限界を超えたデブ、ハゲ、チビ、ドスケベ、居たらあたしの所に来なさい 以上!」 ―
そう。
彼女は理想の「ブ男」を探しに学校へ編入したのだ。
なんでも「学園」に人間の学生もいるのだが、大概は他の魔物娘のお手付きだったりとなかなか出会いがないのだそうだ。
そのため、彼女が言い寄ってくるイコールブ男という公式が成り立つため、彼女の事を「ブ男チェッカー」なんて呼ぶ連中もいるくらいなのだ。
「なんだよソイツ?小池さんみたいにラーメンばっかり食べているヤツの事か?」
「違うよ!ラーメンさんってね・・・」
彼女はゆっくりとラーメンさんの噂話を話し始めた。
〜 その日、Aくんは部活が長引き一人家路を歩いていました 〜
〜 ふと見ると、目の前にはラーメンの屋台 〜
〜 芳しいラーメンの香りに誘われて、Aくんが屋台の暖簾をくぐると一人のスケルトンが店番をしていました 〜
〜 Aくんが椅子に座ると、まだ注文すらしていないのにAくんの目の前に一杯のラーメンが置かれました 〜
〜 まさか自分で出汁をとったラーメンを食わせているんじゃ? 〜
〜 しかし、恐る恐るスープを啜るとそんな懸念なんて吹き飛んでしまいました 〜
〜 あっという間にAくんはラーメンを完食していました。スープも一滴すら残っていません 〜
〜 その時、店主のスケルトンが口を開きました 〜
「・・・・金は・・・・み・・・」
〜 ぼそぼそと小声で話すスケルトン。よく聞こうとAくんが身を乗り出した時です 〜
「代金はお前だァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
〜 スケルトンはAくんの首根っこを掴むと空いていた寸胴にAくんを放り込み、夜闇の奥に消えていきました 〜
〜 Aくんはまだ帰宅していないそうです 〜
「0点。お前ホントにラタトスクか?なんで被害者が行方不明なのにそこまで詳細に話がわかるんだよ!」
「うじゅぅ・・・・・・。折角、仕入れた噂話なのに」
「そもそも、俺がそんな手垢のついた噂にビビるわけないだろ?」
そう言うと俺は波動突の構えを九重に見せる。
「流石は日本拳法部、期待のエース!!その名は松風シュウ!ラーメンさんにもビビらないってか!」
「当然!!」
〜 おい、シュウのヤツ九重と親し気に話してるぞ 〜
〜 つまりはブサイク認定されたって事だろ 〜
外野がうるさいが、ここはヤツの噂に乗ってみるのもいいだろう。
退屈な学校生活にこういったサプライズは必要だ。
「お、あれが・・・・」
時間は9時。
九重の情報通りだった。
なお九重はオタイベントで理想のブ男を探しに行ったため、この場にいるのは俺一人だ。
ブ男認定されていなかったことに安堵しつつ、俺は件の屋台へと向かった。
「・・・・・・・」
〜 噂通りだな 〜
暖簾の向こうにはエプロンをして、髪が落ちないようにアップしたスケルトンが一人いた。
俺が椅子に座ると、そのスケルトンは注文を聞かずに一杯のラーメンを置いた。
ズルズル!
噂通り、そのラーメンは絶品だった。
透き通ったスープは往年の志那そばを彷彿とさせるが、アゴだしによく似た魚介の風味がアクセントになっている。
文句なしの最高の一杯だ。
「・・・・・・・かん・・おね・・・」
〜 来たか! 〜
俺は九重から教えてもらった対処法を迷わず実行した。
― スケルトンがブツブツ言い始めたら、代金をテーブルに置き急いで逃げる ―
タッタッタ!!
「ハハッ!!やってやったぜぇぇぇぇ!!!!」
いくら何でも人間が魔物娘とタイマン張って勝てるはずがない。
故に噂の検証のみを行うことにしたのだ。怪異の討伐なんぞ、勇者的なバカに任せればいい。
シュウは勝利を確信していたが・・・・・。
ガッシャ!!ガッシャ!!!
「へ?」
「・・・ま・・てぇ・・」
あのスケルトンが寸胴を持って追いかけて来ていた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
思わずシュウはスピードを上げた。
何故だ?
何故、私が人生も命も全て捧げて完成させたラーメンの感想を聞こうとしたら皆逃げるのだ?
「・・・わ・・だし・・・とって・・・」
カパッ
地獄の釜が開いたような音にシュウは思わず振り返る。
その時シュウは見た。
見てしまったのだ、寸胴の中身を。
角の生えた得体のしれない骨
萎びたサソリのようなモノ
闇よりも暗い眼窩
彼らは囁く
― ツギハオマエダ ―
ブチッ!
「びぇぇぇぇぇえぇぇん!!!!!!怖いよママーーーーーーーーーー!」
根源的な恐怖がシュウを幼児化させてしまったのだ。
そのままリミッターが外れた急加速でスケルトンを追い放す。
何も「彼」はシュウを恐怖に陥れようと寸胴の中身を見せたわけではない。
スケルトン出汁なんてゲテモノではなく、魔界殻虫の干物や魔界蜥蜴、選び抜かれた魔界豚から出汁をとっていると教えたかっただけだったのだ。
それに「彼」がシュウを追いかけたのはラーメンの感想の為だけではない。
「お釣り・・・・」
元々コミュ障だった彼は「スケルトン」と化して更にそれが悪化していた。
おかげでフォークロア、都市伝説化してしまった事を彼は知らない。
そんな彼が竜皇国ドラゴニアで屋台王となり、ドラゴニア唯一のラーメン屋「紅白亭」とカフェ「焔龍亭」(どう見ても中華料理店だが、店主は頑なにカフェと言い張っている)と出汁で出汁を洗う、熾烈なラーメン戦争を繰り広げることになるが、それは別の機会に。
18/06/30 19:56更新 / 法螺男