連載小説
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ログハウス
一心不乱にログハウスのドアを叩き続ける。

「助けて!助けてください!!!」

俺は開かれたドアへと身を滑り込ませた。
ホームレスだろうが、病院からの脱走患者だろうが今の俺にとっては「人間」の形をしていれば安心できた。

「どうしたんだい?此処は関係者以外立ち入り禁止ってそとの看板に書いてあったろう!!」

「罰金ならいくらでも払います!!警察を呼んでもかまいません。でもログハウスの外に出すのだけは・・・・・」

「やれやれ、何があったんだい?」

「仲間が化け物に・・・いや仲間じゃなかった・・・」

「?君はどうやら混乱しているようだ・・・確かブランデーを飲める年齢だったね。用意しよう。」

そう言うと男は近くの暖炉に置いてあったブランデーの瓶と小ぶりのグラスを手に戻ってきた。

「さあ一杯も飲めば落ち着くだろう」

「いただきます・・・」

俺は男が差し出したグラスの中の琥珀色の液体を一気に呷った。
安酒によくあるアルコールの焼き付くような刺激はなく、それでいてどこか甘い口当たりで体がぽかぽかしてくる。

「話、聞いてもらえますか・・・・」

男は静かに頷き、椅子に座った

「事の始まりは九十九荘という寂れた旅館からでした。こんなこと言うのもあれですが、仲間内で廃墟探検を趣味としていて偶然この遊園地のことを知って大学の休暇を利用して此処に来たんです」

ふと背後が気になった。
恐る恐る窓を覗くが、そこには寂れた遊園地があるだけだった。

「三人だけで・・・そう三人で。いや楽しかったな。久しぶりに仲間で酒を飲んで朝まで四人で麻雀していて・・・」

「君はさっき三人って?」

「ええ、いくら考えてもおかしいんです。三人で来たはずなのに、ここには四人で来た・・・そしてそのおかしさを誰も気づきませんでした。俺もさっきまで・・・」


方多がレストランへ閉じ込められた後、俺は放心していた。
光也が攫われ、方多も化け物に捕まった。
ありえない、ありえないと否定しても事実は変わらない。
ここには俺と・・・「島田」だけ・・・。

「えっ?」

俺は、いや俺たちは「三人」だけだったはずだ。

「そうだ、スマフォを見れば・・・」

外部へ連絡はできないが、少なくとも内蔵されている機能は使用できるはずだ。
スマートフォンの履歴を探りそれを見つけた。
旅館に行く前、俺たちは記念写真を撮っていた。
立ち寄った牛串焼きの出店でとった記念写真。
串焼き屋の巨乳なねーちゃんに撮ってもらったはずだ。

「!」

そこに写っていたのは・・・俺と光也、方多の「三人」。
アイツは「いない」。

「・・・角谷どうしたの?」

「お前・・・・・誰だ?」

思えばおかしかった。
最初に光也が襲われた「ゴーゴン人形館」へ皆を案内したのも、レストランで方多を自販機にわざわざ連れて行ったのも・・・・「島田」だ。

「誰ってひどいなぁ。俺は大学の・・・」

「どこの大学のどこの学部だ!!!お前はいったい誰だ!!!!!」

俺は「島田」と呼んでいた人物に写真を見せる。

「ははっ!わかっちゃった?」

そいつは両手で顔を隠した。
そして嘲笑するかのように笑い声をあげた。

「アッハッハッハ!!!途中で暗示が解けそうになってヒヤッとしたけどアンタは全然気にしてなかったもん!笑っちゃうよね!!!」

島田の声が幼い少女のモノへと変わり、黒髪が腰のところまで伸びていく。
そしてそこから赤い一つ目がついた六本の触手が伸び、目の前のモノはゆっくりと手を下した。

「ばぁ!」

ルビーのような赤い一つ目が俺を見つめていた。




「そして半狂乱になりながら走っていて、ここのログハウスが見えて・・・・」

「そうか・・・・」

目の前の男は否定することなく静かに俺の話を聞いていた。

「しかし、まあ君も勇気があるね」

「大学でも何処でも連絡してください!いくらでも罰金を払います!」

「いや君、入るときに看板を見たかね?」

「え?看板って?」

「ほら正面のゲートに置かれた看板に書いてあったろ?・・・・これより日本国の法律は通用しません、て」

男が笑みを浮かべる。

「!!!!!」

ここから逃げなきゃ、奴もアイツラの仲間だ。
俺は立ち上がろうとするが足が縺れて倒れてしまう。
それどころか声すらあげられない。
男はいつの間にか手にした無線機を耳に当てる。

「サーラ、私だよ。君がキープしていた男を捕獲した。ああ手荒なことはしていないさ、君が予め用意してくれた薬は使ったがね。ん?ログハウスの中に入るとこが見えたからもう向かっている?」

・・・・舌を噛み切ろうとしてもそれすらできなかった。

ギィィィ

ドアが開き、ローブを着た小柄な人物が入ってきた。
死人のように青ざめた肌、老人のような白髪。
その少女は俺を見ると笑みを浮かべた。




「そんなに怯えなくともいいのに・・・・」

サーラは恐怖のあまり気絶した青年を魔法で浮かび上がらせると寝床であるクリーピーダイナーへ連れ帰っていた。
ほんの半年前、私も彼らと同じ運命を辿った。
その当時の私は仕事もなく、ただ無計画にバイク旅行をしていた。
此処に来たのも適度な寝床になりそうだからだ。
何も知らずにここに訪れ、そして・・・・。

ギィィィ

「ただいまー!疲れたぁぁぁぁ!!!」

「お帰り、ダナ」

ゲイザーのダナ。
私の妻であり、この廃墟で私を襲った魔物娘だ。
赤い一つ目と目のついた触手、血の気のない灰色の肌は「化け物」そのものだ。
だが、私は恥ずかしながらそのルビーのような瞳に魅了されてしまった。
怯える私に暗示をかけ犯したのはダナだが、気が付くと私はダナのヴァギナやアヌスどころか全身精液でドロドロに犯しつくしていた。
嫌悪感なんてなかった。
ただただ目の前の彼女を愛せずにいられなかった。
そして・・・私は彼女の夫となった。

― 魔物娘休暇村 デルエラランド ―

ここは普段は人間社会で身を隠して生活している魔物娘や、野生が恋しくなった魔物娘の憩いの場所として魔王の娘であるリリムが密かに建設した場所だ。
ダナも含め、彼女たち魔物娘の中には人間の姿をしていない者も多い。
そういう魔物娘が肩を寄せ合い住んでいた。
しかし、今や酷道アドベンチャーや奇界探検と称して、山奥へ旅行へ行くものも多い。
事実、私もそうだった。
その為、偶々目撃された「一反木綿」が「くねくね」に、自慢の巨乳でよく転ぶホブゴブリンが「巨頭オ」、モスマンが「モスマン」と勘違いされることも目立ち始めた。
ここで生活する魔物娘にはこの場所を破棄して拠点を移そうという意見もあったが、私はそれを彼女たちの婚活に役立ててはどうかと考えた。
ダナと結婚してわかったが、魔物娘たちは人間の伴侶を常に求めている。
出会いの機会としては悪くないだろう。
私はこの意見をオーナーであるリリムに話した。
もっとも、なし崩し的に私がデルエラランドの管理人になることになってしまったが。
ランドの近くにぬらりひょんが女将を務める旅館を立てて、彼女の配下であるカラステングに対象の情報を調べさせその情報を魔物娘に提供する。
あとはこちらが出会いの「お手伝い」をする。

「なぁ・・・その・・だな・・・流石に三人同時の暗示は疲れるわけで・・・」

今回は三人だったため、予め妻のダナを旅館に潜入させ暗示使って違和感なく潜り込んだ。
しかし暗示が得意である「ゲイザー」といっても今回の難易度は高かったようだ。

クィクィ

「どうした?」

ダナが私の服の裾を引く。

「そのアタイ・・・お腹が空いて・・・がんばったし・・」

ダナが目を伏せもじもじする。
その姿に悪戯心が刺激される。

「ん〜〜〜?ちゃんと言わないとわからないな〜」

「この陰険!変態!このロリコンどもめ!!」

目に涙を溜めて罵倒する。
体形とも合わさって子供のようで可愛らしい。

「冗談だよ。さぁベッドに行こうか」

魔物娘にとってのセックスはいうなれば食事と同じ。
三人同時の暗示は彼女にとって負担が大きかっただろう。
私はダナを抱えあげるとベッドへ行く。
無論、ドアに「休憩中」と看板を掛けておくのも忘れない。

「獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

森の奥でアマゾネスの勝鬨の声が響く。
此処を訪れる人間の中には「旅館」を経由しないものもいる。
そういう場合、大概は彼女たち「アマゾネス」の獲物となる運命を辿ることになる。
今夜は夜通し宴会となるのだろう。

「酒と料理の手配もしなければな」

管理人の仕事は多い。
しかしやりがいはある。

― 此処に足を踏み入れたものは逃さない 誰も不幸なままで返さない ―

管理人としての仕事を得た時に宣誓した言葉に誓って、愛する妻と一緒に生きていく。










17/01/19 19:35更新 / 法螺男
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