読切小説
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益荒男 ― 四角い墓場 ―
人間は罪深く、そして欲深い存在だ。
口にできないような嗜好を持つ人間も多くいる。
だが、人間と愛し合うことをその存在意義とする魔物娘に対応できない嗜好など無きに等しい。

屍姦を好むのならスケルトンやゾンビが。

クンニバル、もといハンニバルばりの人肉食をお好みならショゴスや濡れおなご等のスライム系の魔物娘が。

幼児性愛をお求めなら、魔女やバフォメットなどサバトに所属する魔物娘が手取り足取りレクチャーしてくれる。ショタ化薬を使用すれば幼い者同士の性愛「インピオ」も可能だ。

睡姦なら、多少レアではあるがドーマウスという選択肢がある。

強姦や輪姦願望は少々高価ではあるが分身薬で欲求を解消するカップルも多い。

「外地」との門が開いたことにより、新たな出会いを求めて「門の向こうの国」こと日本を訪れる魔物娘も多い。彼女達が働きながら出会いを見つける方法として風俗を選んだのは当然の流れともいえる。
しかしながら、魔物娘専門の風俗店 ― 「人間」の風俗店よりもサービス満点ではあるが ― が乱立するようになってどの店も似たようになり、新鮮味の薄れた風俗を利用する人間は少なくなっていっていた。これには「学園」が積極的に情報を開示し人間が彼女達を受け入れた結果といえるのだが。結果、処女を守っているとしても風俗慣れした魔物娘よりも初心な魔物娘が多く参加する、国家主催の「魔物娘婚活パーティー」を利用する男性は年々増えていくことになったのだ。
この事態に頭を抱えたのが風俗店のオーナー達だ。利用する男性が少なければキャスト、いうなればそこで働く魔物娘達が店を見限って辞めて行ってしまう。そうした流れで、通常では満たせないニッチな嗜好を満たす特殊性癖専門の風俗店が現れるのは必然だった。
ここはそういった特殊性癖専門の風俗店「苦楽部XYZ(もうお終い)」。今、一人の男が特殊性癖プレイに勤しんでいた。

ギシッギシッ!

ラテックス地のボクサーパンツを履いた筋肉質な男がリングの横に張られたロープに身を委ねていた。鎧のような筋肉を誇り褐色に色づくその肉体を持つ男は、まさに益荒男と呼んでもいいもの。しかし、その男の表情はだらしなく緩んでいる。そう、彼は悦んでいるのだ、自らの性癖を満たすことができて。

「オラァ!!まだまだオードブルだぜ?来いよ!来いよぉぉぉぉぉぉ!!!!」

魔界銀製のヘッドギア、エルボーパッド、ニーパッド、レガースを装着したレスラーパンツ一丁のミノタウロスが歯を剥いて威嚇する。

「言われなくとも・・・・イくさぁぁぁぁぁ!!!!!」

男がミノタウロスに一直線に向かう!。しかし、彼からは闘争に殉じる戦士のような闘気は感じられない。おまけにガードさえとっていない。

「これでも喰らえやぁぁぁぁぁ!!!!!!」

対するミノタウロスが立って体を正面に向けたまま、足の曲げ伸ばしの反動に体重を乗せるだけの簡単な蹴り技を繰り出す。かの名プロレスラー「蝶野正洋」の得意技である「ヤクザキック」 ― もっとも今では「ケンカキック」と呼ばれているが ― だ。彼女の魔界銀製の靴底は男の胸板を正確に打ち抜いた。

「あへぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇ!!!!」

白目を剥いて絶頂しその場に膝をつく。柔軟性のあるラテックスは限界まで勃起した男の男根を浮かびあがらせていた。それと同時にカルキに似た臭いがリングに立ち込める。

「デザートも喰ってもねぇのにもう腹いっぱいか?」

ミノタウロスが嗜虐的な笑みを浮かべて男の頭を掴む。

「ま・・・まだだ・・・」

押し寄せる快楽を御して、ミノタウロスの手を弱弱しいながらも払いのけ男が叫び立ち上がる。

「いいね、惚れちまうぜ!!!」

ミノタウロスが男に組み付く、例の如く男は全くガードすらしない。

「こいつが自慢のポワソンだ!!」

男の右脇に頭を潜り込ませて相手の股を右手で右肩を左手で、ガッチリ抱え込んだ。並みの、いや特別な訓練を受けた兵士といえども逃げられぬくらい技が決まっている。この体制で繰り出される技は一つしかない。

「もっと!!もっとだ!!!!」

「ん?もっと強くか?全く注文の多い客だぜ!!!」

「フグッ!」

より強くミノタウロスがホールドを強める。男の体を右肩にうつ伏せの状態で担いで背中に右手を首の後ろに左手を回しそのまま前のめりに倒れ込み、相手の背中をリングに叩きつける。

― オクラホマ・スタンピード ―

今は廃れてしまったプロレス技の一つではあるが、なかなか見た目の派手な良い技である。・・・技名を見てオクラホマミキサーを連想したヤツは著者が直々にオクラホマ・スタンピードをかけます。足をばたつかせてガードしないように。

ドゴォォォォォォォォ!!!!!

リング全体が揺れる。このリングもミノタウロスの女が装着している魔界銀製の防具同様何らかの魔術的な仕掛けが施されているのだろう、男に外傷はおろか流血すら見えない。涎を垂らしだらしない笑顔を見せていたが。

「グフッ!グフフフフ!!!」

「おやおやもう頭がイッちまったのか?そんなんじゃメインを味わえるのかよ」

男がゆっくりと立ち上がる。もうすでに表情は緩み切っていて目も虚ろだった。無理もない、いままで古今東西ありとあらゆるプロレス技を受け続けているのだ。人を傷つけないといっても代わりに与えられる快楽は容赦なく彼を責め続けていた。

「これで最後だ!!!」

ミノタウロスが突進する。その動きに一切の逡巡が見られない。見る人間が見れば生命の危険すら感じさせるほどの凄みだ。


― かつてお茶の間を沸かせたプロレスラーがいる ―


― 元教師という異例の経歴を持ち、当時のアナウンサーから「不沈艦」、「ブレーキの壊れたダンプカー」と名づけられたそのプロレスラー ―


― 彼は「この技」で伝説となった ―


― 今や彼の技は彼だけのものではない。多くのレスラーは彼に敬意を払うことなく日々その技を使っている ―


― だが、彼一人。彼一人だけがこう呼ばれている。「The Lariat」と・・・ ―


― 彼の名は「スタン・ハンセン」 ―


「ウィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

彼女は前傾姿勢で突進し左腕を振りぬいて男の首を刈り倒す。かつて一世風靡した伝説の決め技「ウェスタン・ラリアット」を喰らい、木の葉のように男はものの見事に吹き飛んだ。
彼女の装着した魔界銀製の防具が彼に与える暴力的な快楽の波動の中で彼は確かに見た。
リングの中央、特徴的なテンガロンハット、ベスト、チャップスのカウボーイスタイルで決めたナイスガイが右手の中指と薬指を曲げ高く高く掲げているのを・・・

〜 ウィィ!!!!!!!! 〜

勝利の雄叫びをあげるスタン・ハンセンの幻影を見ながら、男は満足の内に目を閉じた。



「おや、お目覚めかい。アタシご自慢のデザートはどうだい?」

男が身を起こすと、リングの中央で彼にありとあらゆるプロレス技を喰らわせたミノタウロスが彼の頭を撫でながら膝枕していた。

「ちょっと硬いけど、いい夢を見れたよ。カームちゃん」

「ありがとうよ」

そう言うとカームと呼ばれたミノタウロスの女性は頬を赤らめた。

「それよりも・・・・アンタ、既婚者だったんだな」

「指輪を外しておいたんだがな」

「魔物娘の嗅覚を舐めてもらっちゃ困るぜ。この具合からして恐らくは水棲の魔物かな?」

「ご名答。嫁はサハギンさ。俺は外回りの方が身体に合ってんのに、上は怪我させちゃいけないと内勤。嫁にも満足しているし今の生活に問題はない。だが・・・・」

「だが?」

「平和な日常に溺れていくうちに俺は気づいちまったんだ・・・・俺の心は戦いを望むと!激しい肉弾に為すすべもなく蹂躙されたいとね」

男は目を閉じた。

「この気持ちを打ち明けたら、嫁も色々と協力してくれていた。でも・・・・・やはり甘いんだ。技のかけ方も極め方も。このままじゃ目についた不良にケンカを売りかねない、そう思った彼女は俺に此処を勧めてくれた」

「で、満足した?」

「ああ、最高だったよ!!!特に最後のウェスタン・ラリアットは絶品だった。スタンドみたいにスタン・ハンセンの幻影が見えたくらいだ」

「帰ったらちゃんと嫁にサービスしなよ。嫉妬されて殺されるのはごめんだからね」

「ははっ!笑えるな。魔物娘は人を傷つけないし、魔物娘であっても同じだよ。サハギンや白蛇が嫉妬で他の魔物娘を殺すと信じているのは、彼女達魔物娘の愛を知らないねんねだけさ」

「冗談さ」

「また来るよ」

そう言うと、男は服を着てプレイルームを後にした。

男が去ってもカームはその身に留まる熱を持て余していた。

「アイツ以外にアタシの技を受けきったヤツはいない。今すぐアイツを組み敷いて・・・・・・・・・キャメルクラッチをかけたい」

カームは夢想する。

「全裸になったアタシとアイツ。アイツが絶品と言ってくれたウェスタン・ラリアットをたっぷりと喰らわせてから、徐にホールドの体制に入る。そして、アイツの鉄板のような背に跨るんだ、そう・・・ラクダの背に乗るみたいにな。首から顎を掴んで相手が海老反り状になるようにしてやる。無論、魔界銀製のガントレットを使うから傷つけることなくアイツをヨくできる・・・」

もはやカームの脳内では少々、いやかなりバイオレントな男との結婚生活が繰り広げられていた。

「そうなってくるとヤツの半魚人が邪魔だな・・・・・」

あの男は嫁に満足しているといっていた。ココへはあくまで性癖を満足させるために来ただけ、オナホや電マと同じだ。そんなヤツが真剣に恋を語ってどうなるのだ。煙たがられるだけだ。

「・・・・・・・・・」

― ヤツの嫁をどうにかすればいい ―

「あ・・あはっ!簡単だ・・・簡単だよ!!なんで気付かなかったんだろ!!」

カームの目に光はなく、代わりにどす黒いものが浮かび上がってきていた。その日、カームは風俗店を退職した・・・退職金代わりに魔界銀で作られた防具一式を持って。



或る日

或る時

ある場所


リングに向かい合う、サハギンとミノタウロス。

「この前、負けてからトレーニングしてたみたいだが、アタシから見てまだまだだな!」

ミノタウロスのカームが蔑むように笑う。

「・・・・負けない。半魚人空手は無双だから」

サハギンといえば少々幼い姿の個体が多いが、相対するサハギンはミノタウロスにも勝るとも劣らない鍛え抜かれた筋肉を誇っていた。ミノタウロスの筋肉を「剛」とすればサハギンのそれは「柔」。力で押しつぶすのではなく、手数を増やし相手を徐々に行動不能にするためだけに身体を仕上げていた。
二人は正面を向く。

「アイツを先にイかせた方が一週間彼を独占する。いいな?」

サハギンは静かに頷く。

「二人とも早くしてくれぇぇぇぇぇ!!!もう我慢限界だぁぁぁぁぁ!!!!」

そこには・・・・、二人の夫となった警察官の「黒谷剛」が褌一丁で立っていた。



カームはミノタウロスにしては「狡猾」だった。
彼の妻である、サハギンのユリア。その性癖を満足させるために風俗を利用していいと言ってもそこは魔物娘。自分の男が別の女のところに通うのは面白くないはずだ。ならば・・・・。

〜 ヤツの妻はジムに通って技を学ぼうとするはずだ 〜

蟲使いのベルゼブブ、探偵のベルデッドに調べさせた通り、彼の妻である黒谷ユリアはありふれたブラジリアン柔術の道場に通っていた。後は偶然を装って近づいて抵抗感をなくさせて「調教」という名のトレーニングを課せばいい。

「カームさん・・・もう・・無理です」

「おやおや〜腹筋も100回もいってねーじゃねーか。そんなんだったら求める筋肉には程遠いぜ?」

「・・・・・続けます」

ユリアの決意を秘めた瞳にカームは笑みを浮かべる。

「うっ!不味い・・・・・」

「コイツはだれでも飲んでるもんだぜ!オラァ!つべこべ言わずに飲みやがれ!!!プロテインを!!!」

もはや彼女は通常のサハギンではなかった。魚よりも肉を好み、プロテインとたゆまぬトレーニングにより錬成された筋肉はユリアを変えていた。そしてどす黒い欲望を秘めたカームを「師匠」と呼ぶまでになったサハギンを操り、彼女は問題なく男の家に入り込んだのだ。ユリアの夫である剛もカームのプロレス技が恋しかったのだろう、抵抗することなく二人のプロレス技を受けた、満面の笑みで。

「私が!」

「アタシが!」

「「剛さんを満足させます!!!!」」

バシッ!!ドガァァァァ!!!!!

「武藤敬司のシャイニングウィザードにアントニオ猪木の延髄切り!!!フォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

リングという名の四角い墓場を舞台に、女たちの戦いの火蓋が切って落とされた。



18/01/07 21:26更新 / 法螺男

■作者メッセージ
プロレスファンの夢、それは往年の名選手に持ち技をかけてもらうこと。魔物娘なら、命の危険がないばかりか快感が伴う。何処かに全裸のねーちゃんがコブラツイストや恥ずかし固めをかけてくれる風俗はないかな・・・

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