パーティー・ナイト ― kiss in the dark ―
― いいのよ。慣れっこだから ―
そう言うとそのスケルトンは悲しく笑った。
お互い納得して別れた。
そのはずだ・・・・。
「よう中西!今週はいつにもまして沈んでるな!やっぱりあの娘のことか?」
同期の汐留和樹が声をかける。
コイツはゲイザースキーの単眼スキーだ。
その為、国主導で週一で開催される魔物娘との婚活パーティーの常連だ。
魔物娘と番うことにより男性はインキュバスと呼ばれる半魔物と呼ばれる存在へと転化する。
体力、精力の向上により医療費過多は解消され、若々しい肉体は年金が貰える年齢となっても働き続けられる。
少子高齢化に怯える必要はない。
魔物娘は伴侶を求め、国は更なるインキュバス化を推し進めたい。両者の利害が一致した結果、定期的に婚活パーティーが開催されているわけだ。
無論、パーティーに行ったって求める出会いがあるとは限らない。かわいいアリスのお兄ちゃんになりたくて参加しても、なぜかダークエルフの奴隷になってしまうこともある。
彼、和樹も何度いってもレア魔物娘の筆頭ともいえるゲイザーにそうそう出会えることなく、目下婚活50連敗中だ。
思えばヤツの口車に乗って生まれて初めて婚活パーティーに参加したのが始まりだった。
「ビシッとスーツで決めてるね!!いいよいいよ!」
「そう言って・・・要は友達紹介割りを使いたいだけだろ?」
「ははっそう言うなよ。中々ものだぜ。エロくてイイ女にちやほやされるのはよ」
「でもヤっちまったら結婚だろ?」
「そういうならフェラで抜いてもらえばいいさ。魔物娘にとってはザーメンも食料のうちだし。抜いてもらってあとは後腐れなく別れればいいだけさ」
「・・・・・」
「そう睨むなって!中に入ったら酒も食い物もタダだし」
此処まで来て俺は腹を括った。
〜 そうだな・・・合コンが大規模になったと思えば・・・ 〜
俺はまだ見ぬゲイザーとの出会いに思いを馳せる和樹とともにゲートを潜った。
「おやまた来たんかい。・・・・どの娘が来てるかは教えへんで?」
「お願いしますよ。キヌさん!袖の下をば・・・・」
「あかんあかん!ウチこう見えても公務員やねん。受け取れへんな」
見ると、和樹が受付の刑部狸と押し問答していた。
パーティーではどの魔物娘が来ているという情報は公開されない。
人気のある魔物娘がいる日に男が固まるのを避けるためだ。
「いい加減にせえへんと警備呼ぶで!」
キヌと呼ばれた刑部狸が呼び鈴に手を伸ばすのが見えた。
「申し訳ありません!すぐ行きますので!!」
「ふーん・・まあいいわ。友達に感謝しとき」
「助かるぜ!結城!愛してるぅ!!!!」
「ひっつくな!!離れろ!!」
俺達は参加費5000円を支払いIDタブを受け取ると逃げるように会場に向かった。
「思ったよりも広いな・・・・」
「そうだろそうだろ!あの奥にあるのが休憩室・・・というよりヤリ部屋だな」
和樹の指さす先に部屋がいくつかあるのが見える。
実際、婚活パーティーで盛り上がりそのまま致すこともある。そういうためにこういった施設も用意されている。
もっとも使用できるのはお互いの同意が必要で、その際に両者のIDタブの照会が必要だが。
「じゃあ俺は愛しのゲイザーちゃんを探す旅に出るから、お前は適当に女を引っかけてフェラしてもらえよ」
「酒でも飲んでるさ」
「ったく、人生楽しまなきゃ!だぜ?」
五月蠅い和樹と別れ、俺は一人会場を歩く。
サキュバスと恐らく彼女の「妹」であろうレッサーサキュバスが二人イチャイチャしながらカクテルを楽しんでいたり、ラミアにロールミーされている男がいたりと会場は既にカオスだった。
〜 疲れるな 〜
人間的な感性の俺にとってはもう腹いっぱいだ。会場を回るのもそこそこに俺はバーコーナーに向かった。
「いらっしゃい。何がお望みかしら?」
バーカウンターのサテュロスが微笑みかける。
「あ、自分カクテルとかよくわからないので・・・・」
「そうね・・・。ポンピエとかどうかしら?ベルモットカシスハイボールともいうわね。甘くておいしいカクテルよ」
「じゃあそれで」
「かしこまりました」
彼女は慣れた手つきでカシスリキュールとドライベルモットをビルドスタイルで調合し、それにソーダを加える。
「お待たせしました。ポンピエでございます」
「ありがとうございます」
「貴方こういったパーティ―は初めて?」
「ええ、友人に誘われて」
俺はグラスを受け取ると薄紅色に染まったカクテルに口をつけた。
「美味しい・・・」
「このカクテルはフランス語で消防士という名前がついておりますわ。冷静に自分の心の命ずるままに行動なさってください」
「ありがとうございます」
「良き出会いが貴方に訪れますことを」
俺は飲み干したグラスをカウンターに置くと、スツールを立った。
「さてと・・・・」
腕に巻いたオリエントスターを見るとまだ入場して30分くらいしか経っていなかった。
さすがに5000円も払ってカクテル一杯で帰るのはもったいない。
そう思って歩いていた時だ。
ドン!ガシャン!
誰かにぶつかってしまったらしい。
「ごめんなさい!」
「いや俺も・・・・ひぃ!」
目の前の惨状に俺は悲鳴を出してしまった。
バラバラになった白い骨
色素の抜けた髪、赤い瞳
魔物娘「スケルトン」がバラバラになって倒れていた。
「ごめんなさいごめんなさい!!」
すぐさまバラバラになった骨を拾おうとするが、
「大丈夫ですよ」
スケルトンの首が空中に浮かぶとバラバラになった骨が一つに集まる。
見る見るうちにスケルトンの姿が復元される。
ラテックスのチューブトップとタイトスカート。
ややがっしりとした骨格を持つスケルトンが立っていた。
「すごい・・・・」
「感心することでもないわよ。スケルトンなら誰でもできることだしね」
「じゃあ私行くから」
そう言うとスケルトンが歩き出そうとしていた。
〜 そうだな折角なら楽しまないと! 〜
「あの!もしよければだけど・・・一緒に飲まないか?」
「名前は・・・?」
「中西祐樹っていいます。キミは?」
「メイよ」
俺はメイと一緒にバーコーナーへと向かった。
彼女との会話は楽しかった。
特に彼女のメジャーリーグ愛は凄かった。
何でも生前は本気で野球選手を目指していいたくらいだそうだ。
あっという間に時間は21時を回っていた。
メイの腕が俺の手に触れる。
「この後・・・・どう?」
彼女の誘いを断る道理なんてなかった。
ヤリ部屋もとい「休憩室」は割と広く、二人が入れる広い風呂やキングサイズのベッド、バイブやローターやペニスバンドといった道具も用意されている。
「ここまであからさまだと逆に萎えるな・・・」
「あら?貴方のココはそうでもないけど?」
メイがその白い指でスーツの上から男根を撫でる。
「ちょっ!」
彼女は口でファスナーを開き、口でソレを咥える。
魔物娘の性技は本能でわかっているといえ、彼女のフェラは絶品だった。
たまらず俺は彼女の口内に熱い滾りを放った。
「もう溜まり過ぎだよ。お口を妊娠させる気?」
そう蠱惑的に笑う彼女に俺の理性は焼き切れた。
「メイ!!」
俺は彼女をベッドに押し倒し彼女のラテックス地のチューブトップをずらしその蕾に舌をあてがった。
「はぁぁ・・・・・・いいわ」
メイの喘ぎ声がさらに俺の理性を蕩けさせた。
「メイ・・・いいかい?」
「いいわ・・・・でもスる前に教えておかなきゃいけないことがあるの・・・」
メイがタイトスカートからスマートフォンを出して操作する。
「これが私の生前の姿なの・・・・」
彼女の差し出した画面に映し出された姿。
「嘘・・・・」
ドウェイン・ジョンソンばりの筋肉だるましか映っていない。
「私の本名はメイトリアス・ジョンソン。生前はアメリカ軍の上級曹長(サージェントメジャー)だったわ。去年の武装組織掃討作戦で部隊全員死亡して全員スケルトンになったの」
「・・・・・」
「USじゃ、友人や家族にも爪弾きにされ、日本に留学していて日本語ができることから日本で大使館付きの武官として勤めているわ。仕事にも満足しているし、私自身も黄泉がえりを肯定的にとらえるようになった。でも・・・」
「でも・・・?」
「魔物娘として生きるうちに男が欲しくなってきたの。本当は嫌だった。だって元男だよ?でもだんだんとその違和感がなくなって・・・・。お願い!私を・・私を抱いて!」
彼女が俺に手を握る。
彼女の顔に先ほどの筋肉だるまの姿が重なる。
「痛ッ!」
咄嗟に彼女の手を払ってしまった。
「ごめん・・」
「いいのよ・・慣れっこだし。貴方は行きずりの女にフェラしてもらって、私は行きずりの男に精を分けてもらった。それでいいのよ・・・」
もうどうしていいのかわからなかった。
俺は乱れた服を直すとベッドから身を起こす。
「帰るのなら振り向かないで・・・・」
「ああ・・・」
俺はロックを外しドアを開いた。
その時、振り返り彼女の顔を見てしまった。
泣きそうな顔で精いっぱいの笑顔のメイ。
俺はメイから逃げるようにその場を後にした。
その後なぜか大量のフェアリーにひっつかまれた和樹を見つけるとヤツと一緒に会場を出た。
それが先週の金曜日の夜に起きたことだ。
「やっぱり謝んないとな・・・」
「気にすんなよ。魔物娘ってのは意外とサバサバしてるもんだぜ?今頃、元筋肉だるまのスケルトンも別の男と腰を振ってるさ。昔の女より今の女!だぜ」
「今日も行くのかよ?」
「当然!!お前も行くだろ?」
「なんでだよ!」
「さっきも言ったろ?さっさと別の女を探せってこと。そうすりゃお前も立ち直れるぜ。あ、でもアルプに引っかかるかもな。今度は元プロレスラーだったりしてな」
「不吉なことを言うなよ・・・・」
魔物娘との婚活は別として、あのバーのカクテルは気に入った。
「こうなったらヤケだ!あのバーのカクテルを全部飲んでやる!!」
「そうそう!!世界は俺たちの為にある!!!」
俺たちは再び、今夜の婚活パーティーに参加することを決めた。
「おやこの前のあんちゃんか?」
「えっとキヌさんでしたっけ?今日もお願いします」
「僕もいますよ!!」
「お前はええ!」
漫才のようなやり取りを横目に俺は先週と同じようにIDタブを受け取り入場する。
「ホラアンタも行きな」
「へいへい」
和樹も後に続く。
〜 まただ 〜
悲し気なメイの顔が脳裏に浮かぶ。
「俺はバーコーナーにいるから・・・・」
一刻も早く度数の高い酒でメイの面影を洗い流したかった。
「おや?サテュロスのバーテンドレスは?」
たどり着いたバーコーナーに先週いたはずのサテュロスはいなかった。
そこにいたのはダイヤモンドのように輝く黒い髪をしたサキュバス一人だった。
「あ、あのコね。なんでも酔いつぶれた客を介抱しているいるうちにお互い好きになってそのままゴールインしたわ。ここではよくあることよ」
彼女のカクテルを楽しみにしていたがいないのなら仕方ない。
「何かモヤモヤした気持ちを洗い流せるカクテルを頼むよ」
「そうね・・・」
そのサキュバスは髑髏をモチーフにした変わった形の瓶を手に取った。
「テキーラはお好きかしら?」
「飲んだことはありませんが・・・・よろしくお願いします」
「テキーラホッパーをご用意いたしますわ」
彼女は細長いショットグラスにテキーラブランコとトニックウォーターを少量加えそれを紙製のコースターで蓋をして目の前に置いた。
「このカクテルには飲み方があって、そのコースターを押さえてそのまま敷いたコースターにグラスをぶつけ発泡した泡が消えないうちに飲むものですよ」
「変わったカクテルですね」
「主にメキシコのギャングが景気づけに飲むカクテルですから。お試しになってみればいかがですか」
俺は習った通りにコースターにグラスをぶつけそのまま飲み干した。
熟成されていないテキーラの青臭い風味と爽快さを持ち味とするトニックウォーターが合わさり、心の中のモヤモヤとしたものが洗い流されていく。
「うまい!」
「気に入られましたか?」
サキュバスが笑顔を見せる。
「あの・・・相談いいですか?」
「かまいませんわ」
「俺・・・先週、このパーティーで女の子に恥をかかせちゃったんです。彼女が折角誘ってくれたのに・・・怖気づいてしまって」
飲みなれないテキーラの酔いもあったのだろう。俺はあの夜にあったことを全て話した。
「事情は分かりましたわ。私がいえることは・・・今すぐこのバーを出て彼女を迎えに行くことです。たとえ元男といっても愛せない男を誘う魔物娘はいません。きっと彼女もこの会場にいるはずです。彼女も貴方に会いたいはずですわ」
「彼女は許してくれますか?」
「耳をお貸しくださいませんか?」
彼女が何事かを囁く。
「さあ、お行きなさい。勇ましい騎士様。愛しいお姫様を取り返しにね」
俺は静かに頷いた。
「どこだ・・・」
バーコーナーを出ると俺は彼女の姿を探した。
「おーい祐樹!助けてくれぇぇぇ!!」
バ和樹がまた性懲りもなく大量のフェアリーにひっつかまれているが、今はどうでもいい。
彼女の姿が見えた。
あの夜と同じ、黒いラテックスのチューブトップとタイトスカートのメイがいた。
「なっ頼むよ!その肋骨で骨ズリさせてくれよ!!」
耳にピアスをつけた男が彼女を口説いていた。
俺はメイの手を掴むと男から引き剥がした。
「ちょっと!!」
「いくぞメイ!!」
「なんだよおっさん!俺が先に口説いたんですけど〜」
「・・・・お前メイが元男って知ってんのか?」
「えっ?本当かよ?」
男がメイを見る。
彼女は静かに首を縦に振る。
「チッ!騙しやがって!!」
男は散々悪態をつくと人混みの中へと消えていった。
「・・・・今更何のつもりよ?」
「こういうつもりだよ」
俺は彼女を引き寄せると彼女の唇に自らの唇を重ねた。
「あの時はごめん!秘密を教えてくれたのに・・・・。でも・・・!」
メイの身体を強く抱きしめる。
「俺・・・メイのことが好きだ!!元男だろうが筋肉の似合うナイスガイだろうが好きなのは変わらない!!」
バーのサキュバスが教えてくれたこと。
― 真剣に告白されて恋に落ちない魔物娘はいませんわ ―
「そんな・・・貴方卑怯よ・・・そんなに真剣に告白されて・・・・断れないじゃない!!」
メイが俺を抱きしめる。
「あの夜の続きをして?」
俺は頷くと彼女と「休憩室」へと向かった。
彼女の骨の指はほんのりと熱かった。
後日聞いた話によると、バ和樹はあの後フェアリーに連れ去られて現世からログアウトしてしまったらしい。
合掌。
そう言うとそのスケルトンは悲しく笑った。
お互い納得して別れた。
そのはずだ・・・・。
「よう中西!今週はいつにもまして沈んでるな!やっぱりあの娘のことか?」
同期の汐留和樹が声をかける。
コイツはゲイザースキーの単眼スキーだ。
その為、国主導で週一で開催される魔物娘との婚活パーティーの常連だ。
魔物娘と番うことにより男性はインキュバスと呼ばれる半魔物と呼ばれる存在へと転化する。
体力、精力の向上により医療費過多は解消され、若々しい肉体は年金が貰える年齢となっても働き続けられる。
少子高齢化に怯える必要はない。
魔物娘は伴侶を求め、国は更なるインキュバス化を推し進めたい。両者の利害が一致した結果、定期的に婚活パーティーが開催されているわけだ。
無論、パーティーに行ったって求める出会いがあるとは限らない。かわいいアリスのお兄ちゃんになりたくて参加しても、なぜかダークエルフの奴隷になってしまうこともある。
彼、和樹も何度いってもレア魔物娘の筆頭ともいえるゲイザーにそうそう出会えることなく、目下婚活50連敗中だ。
思えばヤツの口車に乗って生まれて初めて婚活パーティーに参加したのが始まりだった。
「ビシッとスーツで決めてるね!!いいよいいよ!」
「そう言って・・・要は友達紹介割りを使いたいだけだろ?」
「ははっそう言うなよ。中々ものだぜ。エロくてイイ女にちやほやされるのはよ」
「でもヤっちまったら結婚だろ?」
「そういうならフェラで抜いてもらえばいいさ。魔物娘にとってはザーメンも食料のうちだし。抜いてもらってあとは後腐れなく別れればいいだけさ」
「・・・・・」
「そう睨むなって!中に入ったら酒も食い物もタダだし」
此処まで来て俺は腹を括った。
〜 そうだな・・・合コンが大規模になったと思えば・・・ 〜
俺はまだ見ぬゲイザーとの出会いに思いを馳せる和樹とともにゲートを潜った。
「おやまた来たんかい。・・・・どの娘が来てるかは教えへんで?」
「お願いしますよ。キヌさん!袖の下をば・・・・」
「あかんあかん!ウチこう見えても公務員やねん。受け取れへんな」
見ると、和樹が受付の刑部狸と押し問答していた。
パーティーではどの魔物娘が来ているという情報は公開されない。
人気のある魔物娘がいる日に男が固まるのを避けるためだ。
「いい加減にせえへんと警備呼ぶで!」
キヌと呼ばれた刑部狸が呼び鈴に手を伸ばすのが見えた。
「申し訳ありません!すぐ行きますので!!」
「ふーん・・まあいいわ。友達に感謝しとき」
「助かるぜ!結城!愛してるぅ!!!!」
「ひっつくな!!離れろ!!」
俺達は参加費5000円を支払いIDタブを受け取ると逃げるように会場に向かった。
「思ったよりも広いな・・・・」
「そうだろそうだろ!あの奥にあるのが休憩室・・・というよりヤリ部屋だな」
和樹の指さす先に部屋がいくつかあるのが見える。
実際、婚活パーティーで盛り上がりそのまま致すこともある。そういうためにこういった施設も用意されている。
もっとも使用できるのはお互いの同意が必要で、その際に両者のIDタブの照会が必要だが。
「じゃあ俺は愛しのゲイザーちゃんを探す旅に出るから、お前は適当に女を引っかけてフェラしてもらえよ」
「酒でも飲んでるさ」
「ったく、人生楽しまなきゃ!だぜ?」
五月蠅い和樹と別れ、俺は一人会場を歩く。
サキュバスと恐らく彼女の「妹」であろうレッサーサキュバスが二人イチャイチャしながらカクテルを楽しんでいたり、ラミアにロールミーされている男がいたりと会場は既にカオスだった。
〜 疲れるな 〜
人間的な感性の俺にとってはもう腹いっぱいだ。会場を回るのもそこそこに俺はバーコーナーに向かった。
「いらっしゃい。何がお望みかしら?」
バーカウンターのサテュロスが微笑みかける。
「あ、自分カクテルとかよくわからないので・・・・」
「そうね・・・。ポンピエとかどうかしら?ベルモットカシスハイボールともいうわね。甘くておいしいカクテルよ」
「じゃあそれで」
「かしこまりました」
彼女は慣れた手つきでカシスリキュールとドライベルモットをビルドスタイルで調合し、それにソーダを加える。
「お待たせしました。ポンピエでございます」
「ありがとうございます」
「貴方こういったパーティ―は初めて?」
「ええ、友人に誘われて」
俺はグラスを受け取ると薄紅色に染まったカクテルに口をつけた。
「美味しい・・・」
「このカクテルはフランス語で消防士という名前がついておりますわ。冷静に自分の心の命ずるままに行動なさってください」
「ありがとうございます」
「良き出会いが貴方に訪れますことを」
俺は飲み干したグラスをカウンターに置くと、スツールを立った。
「さてと・・・・」
腕に巻いたオリエントスターを見るとまだ入場して30分くらいしか経っていなかった。
さすがに5000円も払ってカクテル一杯で帰るのはもったいない。
そう思って歩いていた時だ。
ドン!ガシャン!
誰かにぶつかってしまったらしい。
「ごめんなさい!」
「いや俺も・・・・ひぃ!」
目の前の惨状に俺は悲鳴を出してしまった。
バラバラになった白い骨
色素の抜けた髪、赤い瞳
魔物娘「スケルトン」がバラバラになって倒れていた。
「ごめんなさいごめんなさい!!」
すぐさまバラバラになった骨を拾おうとするが、
「大丈夫ですよ」
スケルトンの首が空中に浮かぶとバラバラになった骨が一つに集まる。
見る見るうちにスケルトンの姿が復元される。
ラテックスのチューブトップとタイトスカート。
ややがっしりとした骨格を持つスケルトンが立っていた。
「すごい・・・・」
「感心することでもないわよ。スケルトンなら誰でもできることだしね」
「じゃあ私行くから」
そう言うとスケルトンが歩き出そうとしていた。
〜 そうだな折角なら楽しまないと! 〜
「あの!もしよければだけど・・・一緒に飲まないか?」
「名前は・・・?」
「中西祐樹っていいます。キミは?」
「メイよ」
俺はメイと一緒にバーコーナーへと向かった。
彼女との会話は楽しかった。
特に彼女のメジャーリーグ愛は凄かった。
何でも生前は本気で野球選手を目指していいたくらいだそうだ。
あっという間に時間は21時を回っていた。
メイの腕が俺の手に触れる。
「この後・・・・どう?」
彼女の誘いを断る道理なんてなかった。
ヤリ部屋もとい「休憩室」は割と広く、二人が入れる広い風呂やキングサイズのベッド、バイブやローターやペニスバンドといった道具も用意されている。
「ここまであからさまだと逆に萎えるな・・・」
「あら?貴方のココはそうでもないけど?」
メイがその白い指でスーツの上から男根を撫でる。
「ちょっ!」
彼女は口でファスナーを開き、口でソレを咥える。
魔物娘の性技は本能でわかっているといえ、彼女のフェラは絶品だった。
たまらず俺は彼女の口内に熱い滾りを放った。
「もう溜まり過ぎだよ。お口を妊娠させる気?」
そう蠱惑的に笑う彼女に俺の理性は焼き切れた。
「メイ!!」
俺は彼女をベッドに押し倒し彼女のラテックス地のチューブトップをずらしその蕾に舌をあてがった。
「はぁぁ・・・・・・いいわ」
メイの喘ぎ声がさらに俺の理性を蕩けさせた。
「メイ・・・いいかい?」
「いいわ・・・・でもスる前に教えておかなきゃいけないことがあるの・・・」
メイがタイトスカートからスマートフォンを出して操作する。
「これが私の生前の姿なの・・・・」
彼女の差し出した画面に映し出された姿。
「嘘・・・・」
ドウェイン・ジョンソンばりの筋肉だるましか映っていない。
「私の本名はメイトリアス・ジョンソン。生前はアメリカ軍の上級曹長(サージェントメジャー)だったわ。去年の武装組織掃討作戦で部隊全員死亡して全員スケルトンになったの」
「・・・・・」
「USじゃ、友人や家族にも爪弾きにされ、日本に留学していて日本語ができることから日本で大使館付きの武官として勤めているわ。仕事にも満足しているし、私自身も黄泉がえりを肯定的にとらえるようになった。でも・・・」
「でも・・・?」
「魔物娘として生きるうちに男が欲しくなってきたの。本当は嫌だった。だって元男だよ?でもだんだんとその違和感がなくなって・・・・。お願い!私を・・私を抱いて!」
彼女が俺に手を握る。
彼女の顔に先ほどの筋肉だるまの姿が重なる。
「痛ッ!」
咄嗟に彼女の手を払ってしまった。
「ごめん・・」
「いいのよ・・慣れっこだし。貴方は行きずりの女にフェラしてもらって、私は行きずりの男に精を分けてもらった。それでいいのよ・・・」
もうどうしていいのかわからなかった。
俺は乱れた服を直すとベッドから身を起こす。
「帰るのなら振り向かないで・・・・」
「ああ・・・」
俺はロックを外しドアを開いた。
その時、振り返り彼女の顔を見てしまった。
泣きそうな顔で精いっぱいの笑顔のメイ。
俺はメイから逃げるようにその場を後にした。
その後なぜか大量のフェアリーにひっつかまれた和樹を見つけるとヤツと一緒に会場を出た。
それが先週の金曜日の夜に起きたことだ。
「やっぱり謝んないとな・・・」
「気にすんなよ。魔物娘ってのは意外とサバサバしてるもんだぜ?今頃、元筋肉だるまのスケルトンも別の男と腰を振ってるさ。昔の女より今の女!だぜ」
「今日も行くのかよ?」
「当然!!お前も行くだろ?」
「なんでだよ!」
「さっきも言ったろ?さっさと別の女を探せってこと。そうすりゃお前も立ち直れるぜ。あ、でもアルプに引っかかるかもな。今度は元プロレスラーだったりしてな」
「不吉なことを言うなよ・・・・」
魔物娘との婚活は別として、あのバーのカクテルは気に入った。
「こうなったらヤケだ!あのバーのカクテルを全部飲んでやる!!」
「そうそう!!世界は俺たちの為にある!!!」
俺たちは再び、今夜の婚活パーティーに参加することを決めた。
「おやこの前のあんちゃんか?」
「えっとキヌさんでしたっけ?今日もお願いします」
「僕もいますよ!!」
「お前はええ!」
漫才のようなやり取りを横目に俺は先週と同じようにIDタブを受け取り入場する。
「ホラアンタも行きな」
「へいへい」
和樹も後に続く。
〜 まただ 〜
悲し気なメイの顔が脳裏に浮かぶ。
「俺はバーコーナーにいるから・・・・」
一刻も早く度数の高い酒でメイの面影を洗い流したかった。
「おや?サテュロスのバーテンドレスは?」
たどり着いたバーコーナーに先週いたはずのサテュロスはいなかった。
そこにいたのはダイヤモンドのように輝く黒い髪をしたサキュバス一人だった。
「あ、あのコね。なんでも酔いつぶれた客を介抱しているいるうちにお互い好きになってそのままゴールインしたわ。ここではよくあることよ」
彼女のカクテルを楽しみにしていたがいないのなら仕方ない。
「何かモヤモヤした気持ちを洗い流せるカクテルを頼むよ」
「そうね・・・」
そのサキュバスは髑髏をモチーフにした変わった形の瓶を手に取った。
「テキーラはお好きかしら?」
「飲んだことはありませんが・・・・よろしくお願いします」
「テキーラホッパーをご用意いたしますわ」
彼女は細長いショットグラスにテキーラブランコとトニックウォーターを少量加えそれを紙製のコースターで蓋をして目の前に置いた。
「このカクテルには飲み方があって、そのコースターを押さえてそのまま敷いたコースターにグラスをぶつけ発泡した泡が消えないうちに飲むものですよ」
「変わったカクテルですね」
「主にメキシコのギャングが景気づけに飲むカクテルですから。お試しになってみればいかがですか」
俺は習った通りにコースターにグラスをぶつけそのまま飲み干した。
熟成されていないテキーラの青臭い風味と爽快さを持ち味とするトニックウォーターが合わさり、心の中のモヤモヤとしたものが洗い流されていく。
「うまい!」
「気に入られましたか?」
サキュバスが笑顔を見せる。
「あの・・・相談いいですか?」
「かまいませんわ」
「俺・・・先週、このパーティーで女の子に恥をかかせちゃったんです。彼女が折角誘ってくれたのに・・・怖気づいてしまって」
飲みなれないテキーラの酔いもあったのだろう。俺はあの夜にあったことを全て話した。
「事情は分かりましたわ。私がいえることは・・・今すぐこのバーを出て彼女を迎えに行くことです。たとえ元男といっても愛せない男を誘う魔物娘はいません。きっと彼女もこの会場にいるはずです。彼女も貴方に会いたいはずですわ」
「彼女は許してくれますか?」
「耳をお貸しくださいませんか?」
彼女が何事かを囁く。
「さあ、お行きなさい。勇ましい騎士様。愛しいお姫様を取り返しにね」
俺は静かに頷いた。
「どこだ・・・」
バーコーナーを出ると俺は彼女の姿を探した。
「おーい祐樹!助けてくれぇぇぇ!!」
バ和樹がまた性懲りもなく大量のフェアリーにひっつかまれているが、今はどうでもいい。
彼女の姿が見えた。
あの夜と同じ、黒いラテックスのチューブトップとタイトスカートのメイがいた。
「なっ頼むよ!その肋骨で骨ズリさせてくれよ!!」
耳にピアスをつけた男が彼女を口説いていた。
俺はメイの手を掴むと男から引き剥がした。
「ちょっと!!」
「いくぞメイ!!」
「なんだよおっさん!俺が先に口説いたんですけど〜」
「・・・・お前メイが元男って知ってんのか?」
「えっ?本当かよ?」
男がメイを見る。
彼女は静かに首を縦に振る。
「チッ!騙しやがって!!」
男は散々悪態をつくと人混みの中へと消えていった。
「・・・・今更何のつもりよ?」
「こういうつもりだよ」
俺は彼女を引き寄せると彼女の唇に自らの唇を重ねた。
「あの時はごめん!秘密を教えてくれたのに・・・・。でも・・・!」
メイの身体を強く抱きしめる。
「俺・・・メイのことが好きだ!!元男だろうが筋肉の似合うナイスガイだろうが好きなのは変わらない!!」
バーのサキュバスが教えてくれたこと。
― 真剣に告白されて恋に落ちない魔物娘はいませんわ ―
「そんな・・・貴方卑怯よ・・・そんなに真剣に告白されて・・・・断れないじゃない!!」
メイが俺を抱きしめる。
「あの夜の続きをして?」
俺は頷くと彼女と「休憩室」へと向かった。
彼女の骨の指はほんのりと熱かった。
後日聞いた話によると、バ和樹はあの後フェアリーに連れ去られて現世からログアウトしてしまったらしい。
合掌。
17/10/30 22:53更新 / 法螺男