連載小説
[TOP][目次]
淫虐の檻 ― 悲しみの向こう側へ ―
俺は壊れている。
あれはまだ俺がガキだった頃だ。
あの日、夜遅く親父の部屋から聞こえる物々しい音で俺は目覚めた。
俺が親父の部屋で見たもの

「あぁいいわ!!もっと滅茶苦茶にしてぇ!!!!」

母さん以外の女の人を縄で縛り犯している親父。

「父さん・・・・何を・・・」

「何を?ハハッただ雌を悦ばせてやってるだけさ。そうだお前、誠人も楽しませてやれ」

親父の傍らにいた首輪を身に着けた女が近づく。

「可愛いコね・・・・」

嫌な臭いがする。逃げようとするが女は俺を組み敷いて・・・・
女なんて獣だ。
なら・・・・飽きたら捨ててもいいだろ?


「入ってよ。今ジュースを持ってくるから」

俺の家。
親父は当分帰らない予定だ。
また例の如く年増相手の種付け旅行だろう。
まぁ、女から搾り取った金を置いてってくれているからまだマシだがな。

「ええ、お構いなく」

コイツは瀬界。前の女の「友達」で軽く誘ったらついてきた女だ。
しかし、俺が親友と付き合っているのを知ってんのになんでホイホイ誘いに乗るかね?
まあ、前の琴羽だっけ?
あんな重い女から別れて正解だったな。一回やって中出ししただけで恋人面しやがって。
前回、家に誘ってもできなかったが、今瀬界が飲んでいるジュースにはサバト製薬とかいうところの媚薬を仕込んである。
何でもマンコが濡れ濡れになって我慢ができなくなるらしい。今夜はたっぷりと味わせてもらうか。

ピンポーン!

「ちょっと見てくるね」

俺は紳士的な笑顔を張り付かせながら玄関へ向かう。
念のためドアスコープを見るが何もいない。
確認の為にドアを開いた瞬間だった。
暗闇から飛び出した何かに押し倒される。

「アハッ!誠人ちゃん!逢いたかったよ!!!!!!」

前の女「琴羽」が俺の顔を盛りのついた犬みたいに嘗め回しながら腰を擦りつけていた。

「畜生!離れやがれ!!!!」

力ずくで引き剥がそうとするがまるでビクともしない。

「どうしたのですか誠人さん?」

瀬界がリビングから顔を覗かせる。
そこには顔を上気させ「彼女の恋人」である誠人を押し倒す琴羽の姿があった。

〜 チッ!今夜もお預けかよ!!! 〜

「琴羽・・・ちゃん?」

「瀬界ちゃん、こんばんわ〜。逢いたかったよ〜〜仲直りしようとしてもなかなか会ってくれなくて琴羽寂しかったなぁ〜〜」

酩酊しているような琴羽の声。
明らかに正気ではない。

「離れてください!!誠人さんも嫌がってるでしょ!!!」

嫌悪の表情で瀬界が琴羽を睨みつける。

「ええ〜嫌がってるぅ〜〜?こんなに誠人ちゃんは喜んでるのに〜〜?」

琴羽が誠人のソレを握る。ズボンの上から見ても勃起している。
瀬界が頬を赤らめ目を反らす。

「ねぇ瀬界ちゃんってまだ処女?」

「そんなっ!私は心に決めた殿方に初めてを・・・?!」

琴羽が瀬界の口を自らの唇で塞ぐ。
彼女の口から瀬界の口へ錠剤大の何かが流れ込む。

「うぐっ!!何・・を!!」

「瀬界ちゃんを素直にする魔法の種だよ〜〜」

ドクン!!

彼女の奥底、胎内が熱を持つ。

欲しい・・・

欲しい・・・

男の「精」が!

「はっ・・・はぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」

彼女の下腹部から麝香の香りを放つねっとりとした蜜が流れ落ちる。

「体中がキモチいい!!!オカシクなっちゃうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

彼女がその肢体を乱暴に弄ぶ。
自慰とも呼べない愛撫。その姿は薬物中毒者が自らの肌の下に潜む蟲を抉り出そうとする姿にも似て、淫靡さよりも狂気しか感じない。

「あ・・あぁぁぁぁぁ!!!!」

目の前で繰り広げられる狂気の光景に誠人はその場にへたり込み呻き声をあげることしかできなかった。

ゾゾゾ・・・・・

瀬界の髪が黒からゆっくりとピンク色に染まり、その雪のような白い肌が薄い緑色へと染まる。
そして頭の上に白い百合の花が咲く。


― リリラウネ ―

二人で一人の夫を共有するアルラウネの変種だ


「うわぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!!!」

目の前で魔物娘への転化を見せられた誠人が悲鳴をあげながらドアを開こうとするが・・・

「なんだよこれ!!!!!」

ドアに使われている木材から伸びた枝が邪魔をして開くことができない。
誠人が護身用に携帯しているバタフライナイフを使って枝を切り裂くが、再生した枝が再び彼を阻む。

「糞!!糞!!!!糞がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

半狂乱になりながらナイフを振り回す誠人。
その手を風切り音を響かせながらしなやかなツルが打つ。

ガチャン!

「痛ッ!!」

ナイフを取り落とした誠人が振り向くと二人のリリラウネ、いや「一体」のリリラウネが彼を見ていた。
彼女達が身を沈める花弁から伸びた触手が彼に迫る。

「「さあ楽しみましょう?」」

「嫌だ!!嫌だ!!嫌だぁぁぁぁぁ!!!!!」

ツルが誠人を拘束して服を引き裂いていく。

「リリラウネになった初めては瀬界ちゃんにあげるね」

「じゃあ、誠人さんのアナルは琴羽ちゃんに譲るね」

「ありがとう!やっぱり瀬界ちゃんは私の親友だよ!!」

二人は抱き合うとお互いの腰を擦りつけながら口づけを交わす。
ツルが口枷のように誠人の口に絡みつく。
舌を噛んで自決する自由すら、誠人にはなかった。

リリラウネによる淫欲の宴が行われる最中、一人の人物がその家を見つめていた。

チャッ!

突如、その人物の首筋にサーベルが突きつけられる。

「見覚えのある魔力を感じて来てみれば・・・・動くな!」

「あら〜?久方ぶりの友人にそんな挨拶ってないとおもうわ〜」

「私がお前を友と認めていたのはとうの昔だ。今、お前はただのテロリストだ!レーム!!!」

月光がサーベルを持った人物のシルエットを浮かび上がらせる。
ブラックダイヤモンドのように光り輝く黒髪、おおよそサキュバスらしくない黒いロングドレス。
ペイパームーンのオーナーであるグランマだ。

「あらあら〜貴方が私をどう思ってもいいけど〜〜丸腰の相手に魔界銀製のサーベルはないわね」

その人物が振り向く。

「動くなと言っている!!!」

グランマのサーベルが躊躇なくその人物を切り裂いた。
だがそこには倒れ伏す人影はなかった。

「おおこわいこわい」

グランマが見上げると、街灯の上にその人物は立っていた。
蒼い肌、黒と赤の瞳、サキュバスのそれよりも禍々しい捻じれた角、漆黒のボディスーツ。
伝承における「悪魔」そのものの魔物娘「デーモン」がグランマを見下ろしていた。

「本当にたまたまこの街に来て、たまたま恋に苦しむ女の子を助けてあげただけよ?私が助けなければあの子、みんな殺して死ぬつもりだったんだから〜〜〜」

デーモンの姿が掻き消える。

「?!」

手首の衝撃を感じると同時に手にしたサーベルが消えうせた。
それと共に何者かが彼女を背後から拘束した。
グランマが振り向くとレームと呼ばれたデーモンが彼女から自由を奪っていた。

「なかなか面白かったわよ〜〜特に相手の男の子。愛なんてなくただただ自分の欲望を満たすためにしか女を見ていない。あのままにしておけばもっともっと不幸になる人間、いや魔物娘も増えるわ。だからこれは必要な処置よ。もうどこにも行けない、帰り道なんてないのよ」

「ッ!」

「私はいつも言ってるわよ〜〜。人類や魔物娘のためにも魔界化は必要だと。そうでしょう・・・淫虐のヴァン?」

― 淫虐のヴァン ―

かつてサキュバスは他の魔物と比べると能力が低くかったため格下の存在として見られていた。
そんな中、一軍を率いていたサキュバスがいた。
彼女はどんな相手にも容赦することがなく歯向かうものがたとえ子供でも許さなかった。
そんな彼女でも現魔王が即位するとその本質は変わった。
人を傷つけず愛し合う存在となった魔物。
だが、彼女が人と愛し合うにはあまりにも罪深かった。
伝承では自らの罪の重さに耐え切れず発狂して死んだとも、終わりのない贖罪の旅に出たともいわれている。

「私を!!私をその名で呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

グランマの身体から膨大な魔力が放出される。
オープンクロッチのレザーショーツ
たわわな果実をおさめる銀のブレストアーマー
両手を覆う鉤爪をつけた籠手にドラゴンを模したレッグアーマー
かつて、前魔王の下で一軍を率いていたサキュバス、あのドラゴンすらイかせたと謂われる魔将「ヴァン・ロゼッタ」がそこに立っていた。

「ふふっらしくなったじゃない」

ヴァンの盟友、デーモンの「赫奕たるレーム」こと、マクスウェル・レームが愉快そうに笑みを浮かべる。

「この手にサーベルを・・・・!」

グランマの手に再びサーベルが握られる。
その瞬間、グランマの身体は一陣の風となり、レームへと向かう。
恐らく第三者が見ていたら、古い映画のコマ落ちのようにしか見えないだろうグランマの瞬間移動。。
迫る白刃のサーベル。
しかしレームは彼女の斬撃を躱さずそのまま受けた。


「!」

手ごたえは確かにあった。が、レームの身体から精は流れ出さず空気の抜けた風船のように萎れていく。

「傀儡!逃げたか・・・・」

念のために魔力を調べてみるが、辺りに嗅ぎなれたレームの魔力は感じなかった。
逃げたレームを追うよりもグランマには気になることがあった。
仮にも過激派に属するテロリストであるレームがただの酔狂で人を助けるはずがない。

「これは・・・タロットカードに偽装した魔力符か。小癪なマネを」

案の定、このタロットカードを使って、あの家を中心に魔法陣が組まれていた。
「人々の為」と嘯いていても彼女の本質はテロリストだ。交わりによって魔力を溜めた彼女達をどこぞの都市に送り付け、魔力を拡散させることにより周囲の人間を魔物化させようとしていたのだろう。
その為の転移ゲートもご丁寧に用意してあった。
「魔力爆弾」と化した魔物娘によるテロは過激派の常套手段だ。
なら話は早い。
かつてこれに似たものは見たことがある。
解除は容易かった。
グランマは術式を解除しながら魔力で件のリリラウネを走査する。
レームが言った通り、彼女の「夫」からは複数の女たちの精を感じる。
中には絶望を感じながら犯された女の思念も感じた。
それも一人や二人ではない。
今まで様々な人間を見てきたがその醜悪さに吐き気を覚える。

「人類と魔物の為のテロか・・・・・」

「彼女」デーモンのレームは誰よりも強く部下の信頼もあった。
魔将の身分も私よりも彼女の方が相応しかった。
でも彼女は選ばなかった。
彼女が私に花をもたせるために一歩引いたことは知っている。
一度彼女に真意を問うたことがある。
でも彼女は優しく笑うだけだ。
だが現魔王が即位してから彼女は変わった。
常に何かに怯えているかのように私には見えた。
声をかけても大丈夫と繰り返すばかり・・・。
そして・・・盟友にも何も言わずレームは姿を消した。
再び彼女の姿を見たのはテロリストとして指名手配された姿だった。
・・・・彼女の生き方を許すことはできない。
彼女のテロで死んだ人間はいなくとも多くの人が永遠に人として生きる道を失ったことは事実だ。
あの娘、「若葉」もその一人だ。
だから、私は人魔共生を掲げ世の理を学ぶ「学園」を、悩む苦しむ人々がひと時の安息を得るための止まり木「Barペイパームーン」を開いた。
この小さな手で救える人間も高が知れる。
でも私は救いたい。
この世界に泣く人間がいれば彼らのかたわらに私は寄り添いたい。
心無い人々に偽善だと罵られてもかまわない。
「淫虐のヴァン」は死んだ。
今の私は「グランマ」、ただのしがないバーのオーナーだ。

「学園長?至急迎えを寄こして欲しいんだけど。うん、新入りよ。ただ少々厄介なケースだからリッチのクライン博士を待機させておいてくれ。ああ頭の中専門の方だ」

いくら罪深く、見下げ果てた外道である彼にも救済を受ける権利がある。・・・最も彼が望む形ではないかもしれないが。
少なくとも彼が夫として「彼女たち」の愛を受け入れるための準備が必要だ。
「学園」はその為にあるのだから・・・・

「魔王様・・・私やレームに人を愛せる日は来るのでしょうか?」

自らを檻に閉じ込め贖罪を続けるグランマの呟きに青ざめた月は答えることはなかった。




17/10/11 22:10更新 / 法螺男
戻る 次へ

■作者メッセージ
やっぱりシリアスは疲れる!
次は頭空っぽにして読める小品を用意しますね。
感想欄でネタ募集はしていますのでよろしくお願いします。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33