黒牢 ― 裁きの翼 ―
僕は妻に「秘密」を持っている。
それは妻である若葉と付き合う前、まだ幼かった頃の事だ。
僕は一年間、遠縁の家で生活していた。
そこで僕は「夏樹伽耶」と出会った。
彼女は事故で自らの母親と弟をいっぺんに亡くしていた。
僕は彼女が落ち着くまで話し相手としてその家にいたのだ。
歳が一つしか変わらない僕は伽耶のことを「お姉ちゃん」と呼んでいた。
やがて彼女の心の整理がつくと僕は家へ戻ることになった。
実家へ帰る前夜、僕は彼女に告白された・・・・
「ハァっハァッ!!!」
雨の中若葉は走っていた。
彰のスマートフォンに電話をしても反応はなく、事前に喫茶店の場所を教えてもらっていたがそこに彰の姿はなかった。
方々を探し、彰の魔力を辿って見つかったのは・・・・彼のスマートフォンだけだった。
通常は警察組織に連絡するのが普通だろう。
しかし、警察は昨今の時世から誘拐程度ではなかなか動いてくれない。
なぜなら、「白蛇に監禁」や「妖精の国へご招待」など魔物娘絡みの拉致・誘拐事件が相次ぎ、おまけに拉致された本人も満更でもないなど労力と結果が釣り合わないことも多々ある。
そんなことに警察のリソースを割り当てるわけにはいかない。
故に、魔物娘絡みの誘拐事件では塩対応となってしまう。
若葉は唯一頼りになる人物の所へと向かっていた。
― Bar ペイパームーン ―
荒々しく、若葉がドアを開く。
黒衣のサキュバス ― グランマ ― がグラスを磨き開店の準備をしていた。
「グランマ!!!助けて・・・彰くんが彰くんがぁぁぁぁぁ!!」
グランマの姿を見た途端、堰を切ったように若葉が泣き出す。
グランマがグラスを置くとカウンターから出て泣きじゃくる若葉を抱きしめる。
「まずはこれを飲んで」
そう言うとグランマは彼女にグラスに入れられたコニャックを差し出した。
喉を焼くようなアルコールは絶望に沈んだ彼女の精神を覚醒させる。
「落ち着いた?」
若葉は黙ってにうなづく。
グランマの目の前には雨に濡れた彰のスマートフォン。
それに触れ静かに目を閉じる。
「確かにこの携帯からは魔物娘の魔力を感じるわ。それもかなり高位の・・・彰さんはなんて?」
「遠い親戚に会うとだけ・・・・」
「それだけじゃ・・・・。若葉それは?」
グランマが指さす先にあるもの、彰と一緒に出店で買ったペンダントがあった。
「ええ、これは彰くんとペアで買ったもので・・・・」
「ちょっと貸して!」
グランマが若葉からペンダントを引っ手繰ると、それをまじまじと調べニヤリと笑う。
「若葉、彰さんは大丈夫よ。迎えに行ってあげて」
数時間後、若葉はグランマが呼んでくれたワイバーンのクーラに乗って雲の上を飛んでいた。
他の人間を背中に乗せるのを嫌うワイバーンの彼女でも、グランマの頼みとあっては断れない。
それに事情が事情だ。
〜 いい?エロス神は愛し愛する者の味方よ。そして愛する二人を結びつける女神 〜
〜 私が魔力で見た限りでは、彰さんは生きている。でも私には彰さんのいる方角以上のことはわからなかった 〜
〜 頼りになる移動手段は用意するわ。貴方ができることは彰さんのことを想い愛する気持ちをこのペンダントに注ぎ込むこと。きっと居場所を教えてくれるわ 〜
〜 心配しないで。エロス神は愛する者達の味方よ 〜
「待っててね彰くん!!!」
弱気になりそうな自分を鼓舞し若葉は夜空に叫んだ。
ぼんやりとした意識が覚醒する。
壁に飾られた調度品。
厳つい西洋甲冑。
遠い昔、一時期伽耶と暮らした屋敷に彼はいた。
ガチャ
四肢を拘束するのは禍々しい黒鉄の鎖。
インキュバスの力をもってしてもピクリとも動かせない。
「起きたのかしら彰くん?」
彰が唯一動く目で見ると、ウィルオーウィスプと転化した伽耶が立っていた。
「なぜだよ・・なぜこんなことをしたんだ・・・・」
「なぜ?愛している人と交わりたいと思うのは魔物娘の性ですわ」
恍惚とした表情で伽耶が身をくねらす。
彼女の太ももをねっとりとした蜜が滴る。
「僕は・・・君の愛を受け入れることはできない」
彰の脳裏に浮かぶのは愛する妻、若葉の笑顔。
彼女を裏切ることなど考えられなかった。
「そう・・・でも私は!!貴方が欲しいの!!!!」
伽耶が彰の服を引き裂く。
男らしい、程よく筋肉のついた胸板。
そして成長し、男子の淫臭を漂わせる肉槍。
そのすべてが彼女の理想だった。
「フフッ・・貴方が私の肉体で狂う姿をビデオに撮って送ってあげたら愛する奥さんはどう思うかしら?」
「やめろっ!!」
彰が叫ぶが伽耶にとってはどうでもよかった。
夜明けまで時間がある。
彼を「塗り潰す」には十分すぎる時間だ。
伽耶が彰のソコに手を伸ばした瞬間だった。
「ッツ!!」
何者かに手を振り払われたような衝撃を感じる。
彰の胸元がピンク色の光を放っていた。
「そのペンダント・・・まさかエロス神の加護を受けているの!」
いくらウィルオーウィスプが高位の魔物娘だとしても、性愛の女神エロスには太刀打ちができない。
解除するには彰が自分から外すように仕向けなければならない。
〜 厄介だがあの女の方を何とかするか・・・なにカードはこちらにあるわ 〜
伽耶が若葉を「壊す」方法を思案している時だ。
ゴゴッ
家が揺れていた。
何か。
何かが近づいてくる。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「地震?逃げなければ!!彰くん!!!!」
伽耶が彰を連れて逃げようとした時だ。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!」
何者かの大絶叫と共に伽耶の意識が刈り取られる。
私がその家のドアを破壊して見たもの。
それは服を引き裂かれあられもない姿の彰くんの姿だった。
・・・・この後何があったのか私は覚えていない。。
気が付いたら、クーラさんの背中に私と彰くん、知らない女が乗っていて、ペイパームーンに着いたらグランマに二人分の気付けのコニャックをもらったこと。
そしていつの間にか彰くんと一緒に家に帰っていて・・・
いつもは彰くんと私の声が響くリビング。
でも今は重苦しい空気が漂う。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
目の前には半裸になった彰くん。
その表情は暗く何の感情も感じない。
「あのっ若葉・・・・!」
私は彰くんの唇に私の唇を重ねた。
「お風呂入ろうか?」
「ああ・・・」
私たちはいつものように服を脱ぎ浴室へと向かった。
いくらコニャックを飲んだとしても私たちの心は冷え切っていた。
それは妻である若葉と付き合う前、まだ幼かった頃の事だ。
僕は一年間、遠縁の家で生活していた。
そこで僕は「夏樹伽耶」と出会った。
彼女は事故で自らの母親と弟をいっぺんに亡くしていた。
僕は彼女が落ち着くまで話し相手としてその家にいたのだ。
歳が一つしか変わらない僕は伽耶のことを「お姉ちゃん」と呼んでいた。
やがて彼女の心の整理がつくと僕は家へ戻ることになった。
実家へ帰る前夜、僕は彼女に告白された・・・・
「ハァっハァッ!!!」
雨の中若葉は走っていた。
彰のスマートフォンに電話をしても反応はなく、事前に喫茶店の場所を教えてもらっていたがそこに彰の姿はなかった。
方々を探し、彰の魔力を辿って見つかったのは・・・・彼のスマートフォンだけだった。
通常は警察組織に連絡するのが普通だろう。
しかし、警察は昨今の時世から誘拐程度ではなかなか動いてくれない。
なぜなら、「白蛇に監禁」や「妖精の国へご招待」など魔物娘絡みの拉致・誘拐事件が相次ぎ、おまけに拉致された本人も満更でもないなど労力と結果が釣り合わないことも多々ある。
そんなことに警察のリソースを割り当てるわけにはいかない。
故に、魔物娘絡みの誘拐事件では塩対応となってしまう。
若葉は唯一頼りになる人物の所へと向かっていた。
― Bar ペイパームーン ―
荒々しく、若葉がドアを開く。
黒衣のサキュバス ― グランマ ― がグラスを磨き開店の準備をしていた。
「グランマ!!!助けて・・・彰くんが彰くんがぁぁぁぁぁ!!」
グランマの姿を見た途端、堰を切ったように若葉が泣き出す。
グランマがグラスを置くとカウンターから出て泣きじゃくる若葉を抱きしめる。
「まずはこれを飲んで」
そう言うとグランマは彼女にグラスに入れられたコニャックを差し出した。
喉を焼くようなアルコールは絶望に沈んだ彼女の精神を覚醒させる。
「落ち着いた?」
若葉は黙ってにうなづく。
グランマの目の前には雨に濡れた彰のスマートフォン。
それに触れ静かに目を閉じる。
「確かにこの携帯からは魔物娘の魔力を感じるわ。それもかなり高位の・・・彰さんはなんて?」
「遠い親戚に会うとだけ・・・・」
「それだけじゃ・・・・。若葉それは?」
グランマが指さす先にあるもの、彰と一緒に出店で買ったペンダントがあった。
「ええ、これは彰くんとペアで買ったもので・・・・」
「ちょっと貸して!」
グランマが若葉からペンダントを引っ手繰ると、それをまじまじと調べニヤリと笑う。
「若葉、彰さんは大丈夫よ。迎えに行ってあげて」
数時間後、若葉はグランマが呼んでくれたワイバーンのクーラに乗って雲の上を飛んでいた。
他の人間を背中に乗せるのを嫌うワイバーンの彼女でも、グランマの頼みとあっては断れない。
それに事情が事情だ。
〜 いい?エロス神は愛し愛する者の味方よ。そして愛する二人を結びつける女神 〜
〜 私が魔力で見た限りでは、彰さんは生きている。でも私には彰さんのいる方角以上のことはわからなかった 〜
〜 頼りになる移動手段は用意するわ。貴方ができることは彰さんのことを想い愛する気持ちをこのペンダントに注ぎ込むこと。きっと居場所を教えてくれるわ 〜
〜 心配しないで。エロス神は愛する者達の味方よ 〜
「待っててね彰くん!!!」
弱気になりそうな自分を鼓舞し若葉は夜空に叫んだ。
ぼんやりとした意識が覚醒する。
壁に飾られた調度品。
厳つい西洋甲冑。
遠い昔、一時期伽耶と暮らした屋敷に彼はいた。
ガチャ
四肢を拘束するのは禍々しい黒鉄の鎖。
インキュバスの力をもってしてもピクリとも動かせない。
「起きたのかしら彰くん?」
彰が唯一動く目で見ると、ウィルオーウィスプと転化した伽耶が立っていた。
「なぜだよ・・なぜこんなことをしたんだ・・・・」
「なぜ?愛している人と交わりたいと思うのは魔物娘の性ですわ」
恍惚とした表情で伽耶が身をくねらす。
彼女の太ももをねっとりとした蜜が滴る。
「僕は・・・君の愛を受け入れることはできない」
彰の脳裏に浮かぶのは愛する妻、若葉の笑顔。
彼女を裏切ることなど考えられなかった。
「そう・・・でも私は!!貴方が欲しいの!!!!」
伽耶が彰の服を引き裂く。
男らしい、程よく筋肉のついた胸板。
そして成長し、男子の淫臭を漂わせる肉槍。
そのすべてが彼女の理想だった。
「フフッ・・貴方が私の肉体で狂う姿をビデオに撮って送ってあげたら愛する奥さんはどう思うかしら?」
「やめろっ!!」
彰が叫ぶが伽耶にとってはどうでもよかった。
夜明けまで時間がある。
彼を「塗り潰す」には十分すぎる時間だ。
伽耶が彰のソコに手を伸ばした瞬間だった。
「ッツ!!」
何者かに手を振り払われたような衝撃を感じる。
彰の胸元がピンク色の光を放っていた。
「そのペンダント・・・まさかエロス神の加護を受けているの!」
いくらウィルオーウィスプが高位の魔物娘だとしても、性愛の女神エロスには太刀打ちができない。
解除するには彰が自分から外すように仕向けなければならない。
〜 厄介だがあの女の方を何とかするか・・・なにカードはこちらにあるわ 〜
伽耶が若葉を「壊す」方法を思案している時だ。
ゴゴッ
家が揺れていた。
何か。
何かが近づいてくる。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「地震?逃げなければ!!彰くん!!!!」
伽耶が彰を連れて逃げようとした時だ。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!」
何者かの大絶叫と共に伽耶の意識が刈り取られる。
私がその家のドアを破壊して見たもの。
それは服を引き裂かれあられもない姿の彰くんの姿だった。
・・・・この後何があったのか私は覚えていない。。
気が付いたら、クーラさんの背中に私と彰くん、知らない女が乗っていて、ペイパームーンに着いたらグランマに二人分の気付けのコニャックをもらったこと。
そしていつの間にか彰くんと一緒に家に帰っていて・・・
いつもは彰くんと私の声が響くリビング。
でも今は重苦しい空気が漂う。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
目の前には半裸になった彰くん。
その表情は暗く何の感情も感じない。
「あのっ若葉・・・・!」
私は彰くんの唇に私の唇を重ねた。
「お風呂入ろうか?」
「ああ・・・」
私たちはいつものように服を脱ぎ浴室へと向かった。
いくらコニャックを飲んだとしても私たちの心は冷え切っていた。
20/06/13 22:21更新 / 法螺男
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