ちいさなメイドさま
煩わしい掃除機の音に目が覚める。
薄く目を開けると、寝室のドアが僅かに開いていて、そこから見える部屋……リビングでせっせと掃除をする小さな影が。
「大変大変、もうすぐご主人が起きちゃうのっ」
細くて長いムチのような尻尾がシュルシュルとせわしなく動き、ピコピコと丸い耳が可愛らしく揺れている。
体を起こすと、ベッドの軋む音に気付いたのか、せっかちに動く影がピタリと止まる。そのまま影は寝室のドアを乱暴に開け放ち、猛スピードで僕の体に体当たりする。
「ま、ままままま……！」
「落ち着けシトリー。まずは深呼吸」
「すー……ふぅ……まだご主人は寝てるのっ。用意できてから迎えたいのっ」
「そこまで気を使わなくていいよ」
「でもでもでも、シトリーはメイドなのっ」
フリルがたっぷり施されたスカートの端を広げるシトリー。彼女はラージマウスの少女で僕の恋人。せっかちでちょっとダメイド。
「もう少し気楽にしていいんだよ？」
「うぅ……」
慰めに頭を撫でていると、シトリーは急に立ち上がる。
「た、大変！朝ご飯の支度、全っ然できてなかったのっ！」
慌ててベッドから飛び降りようと脚に力を入れた瞬間、シーツに足を滑らせて転倒してしまった。
「だ、大丈夫!?」
「びええええん！」
大声で泣き出してしまった。どうやら鼻を打ったらしい。
天性のスーパードジっ子である。
シトリーをなだめてひとまず寝室を出る。向かった先はキッチン。
「…………おおう」
背の低いシトリー用の踏み台があるだけで、あとは何も準備されていなかった。おそらく料理しようとしたところで、何かを思い立ったのだろう。
そうか、それで掃除か。
「おーい、シトリー？」
一緒に朝ご飯を作ろうかと呼んでみたが、一向に来る気配がない。
「シトリー、シトリー」
連呼しながら寝室の扉を開けると、シトリーがシーツに抱き付いて眠っていた。
「まったく……」
近くに座って寝顔を眺めてみると、これまた可愛らしい寝顔である。唇の端がつり上がって、微笑んだ表情。
悪戯に頬をぷにぷにするが、起きない。
試しにネズ耳をふわふわと触る。
「んゅ……ご主人……♪」
ドキューン！とハートを貫かれた。
僕はシトリーをそのまま寝かせたままにし、朝ご飯を作ってあげることにした。
というか、これが日常である。
「はわわ、ご主人ー！」
テーブルに朝ご飯を並べきったところで、シトリーがバタバタと音を立てて走ってきた。
「ど、ど、どどど……！」
「はい深呼吸ー。吸うー、吐くー」
「……どうして起こしてくれなかったのっ!?」
「いや、あんなにもスヤスヤ眠ってたら……ね」
「そ、それは……そのぉ……ご主人の匂いが……」
真っ赤になってモジモジするシトリー。
ああもう、本当に可愛い。
「朝早くから頑張ってくれてたんだろう？寝ていても文句は言わないよ」
「でもぉ……えぐえぐ」
「泣かない泣かない」
抱き締めて背をぽんぽん叩く。
「ほら、朝ご飯を食べようよ」
「は、はいっ！」
「今日はシトリーの好きなチーズトーストだからね」
「チーズーっ♪」
シトリーの大好物はチーズ。テンプレートだがそれがいい。
ちなみにブルーチーズは苦手。
「はむはむ……♪」
嬉しそうにトーストをかじる姿を見て、僕はさり気なくコップに水を注ぐ。
さて、そろそろアレが起きるころだ。
「んむぐっ!?」
せっかちなシトリーはよく食べ物を喉に詰まらせる。パンのような水分の少ない食べ物は特に詰まりやすい。
「んーっ、んーっ!!」
「ほら、お水お水」
僕は彼女の口に水をゆっくり注ぐ。
解消したようで、シトリーはほっとため息を吐いた。
「もっとゆっくり食べないと……」
「き、気を付けるの……」
「それじゃあ僕は仕事に行くからね」
シトリーの完食を見届け、僕は典型的なサラリーマンの恰好に着替えて玄関に向かう。
「それじゃ、行ってきます」
「ご主人、ご主人」
リビングから急ぎ足で来たシトリーが僕を呼び止めた。だが顔を赤らめるだけで、何も言おうとしない。恥ずかしくて言えないのだ。
こういう時は少しかわいそうだが、シトリーの口からどうしても言わせないと。
「なに？」
「えっと、えっと……」
「時間がないから行くね」
「ご、ご主人っ！」
行こうとしたとき、シトリーは脚に抱き付いた。
「行ってきますの……だっこ……///」
「はい、よく言えました」
僕はシトリーを抱き上げ、強く抱き締める。
しばらく抱擁し、右の頬にキスをして下ろす。
「はぅぅ……///」
「行ってくるね」
僕は扉を閉めて鍵を掛ける。
腕時計を見ると、時刻は遅刻ギリギリを示していた。
「これはヤバいな」
午後６時。
今日は残業なく帰ることができたので、僕はケーキを片手に余裕で帰宅。
「ただいまー」
返事がない。
シトリーの靴は玄関にあるみたいだし、部屋の電気も点いている。
「シトリー？」
まず寝室に入ってみたが、誰もいない。
「どうしたかな……普段だったら飛びついて出迎えてくれるのに……」
「ごしゅじーん……」
声のした方を見ると、チャーシューみたいにナイロン紐でぐるぐる巻きになったシトリーが転がっていた。
「絡まって動けないのぉ……」
シトリーのすぐそばに積まれた新聞紙があった。
たぶん新聞紙をまとめるために縛ろうとして、自分を縛ってしまったのだろう。
「よっと」
ハサミで紐を切ると、涙を浮かべて僕に抱き付くシトリー。
「もうダメかと思ったの……ぐすん」
「泣かないでシトリー。もう大丈夫だぞー」
「うん……そ、そうなの！お風呂お風呂……」
お風呂を沸かし直すため風呂場にシトリーは向かう。
さて僕は夕飯でも作ろうか……そう思ったとき、風呂場から悲鳴が聞こえた。
「シトリー!?」
「でででででで……！」
「深呼吸！」
「すぅー……はぁ……出たのっ！」
「何が？」
「何がって、そそそれは(ぴたっ)ひっ……」
視界の隅で、何かが飛んでいるのが見えた。それは黒くて平たくて、名状しがたい光沢があった。それが不規則に空間を縦横無尽に飛び、やがてシトリーの耳のてっぺんに止まった。
それを確認する。
「「…………」」
部屋中に２人の悲鳴が響き渡った。
ヤツとの戦いはかなりの苦戦を強いられた。今まで地面を這い回るだけの平面的逃避しか能の無いヤツらしか戦ったことのない僕は、ヤツの使った『飛行』という奥義に度肝を抜かれた。ヤツは僕らが怯んでいる間にそのままシトリーから飛び立ち、家中を飛び回る。
僕らは殺虫剤『〇キ〇ェットプロ』を片手に追い回すもヤツの高い敏捷性に翻弄され、その戦いが１時間経過すると、薬剤が漂う空気にシトリーがダウンしてしまった。窓を開けて換気する必要があるが、そうすれば罪深きヤツは外に逃げてしまう可能性があった。
もはやヤツは害虫ではない。嫁の仇である。
一向にヤツは疲れを見せず、僕の体力と殺虫剤『ゴ〇ジェッ〇プロ』の中身がイタズラに減るだけ。もうダメかと思った。そんなとき、ヤツの動きが一瞬だけ鈍った。僕は最後の力を振り絞ってノズル噴射した。
ヤツはついに地に墜ちた。
窓を開けて風上にシトリーを寝かせ、僕はヤツをゴミ箱に葬った。
戦いは、終わった。
「ごしゅ、じん……」
「大丈夫？」
「頭がくらくらするぅ……」
ゆっくり上半身を起こして、抱き締める。そのまま頭を撫でて、ひとまず終戦を祝った。
「夕飯を作ってあげるから、シトリーは寝てて」
「うん……♪」
シトリーに目を配りながら、体に優しいメニューを浮かべる。とりあえずお粥でも作ろうかと、僕はキッチンに向かった。
食事する頃にはシトリーもなんとか回復し、夕食はしっかり食べてくれた。でもまだ家事をやらせるわけにはいかないので片付けは全て僕がやり、シトリーを着替えさせて先に寝かせ、僕はその後にベッドに入った。
数分して、寝室のドアが小さくノックされる。
「入って」
シトリーが目を擦りながら、そこに立っていた。
「一緒に……寝たいの……」
「いいよ、こっちに来て」
もぞもぞと、シトリーが布団に入る。
腕枕をすると顔を赤らめて微笑んだ。
「ごめんなさい……シトリーがメイドなのに、任せっきりなの」
「シトリーは小さいから、上手くいかないのは当たり前だよ」
「こ、子ども扱いは嫌なの……っ」
「ごめんごめん」
涙目のシトリーを撫でる。嬉しいのか、耳をピコピコと小刻みに震わした。
シトリーもお返しか、僕の腕に尻尾を巻きつける。
「ご主人」
「なに？」
「あったかい……」
ひし、と抱き付くシトリー。
「おやすみなさい」
「おやすみ、僕の小さなメイドさま」
「小さなは余計なのっ」
朝。
目を覚ますと、隣で密着して眠るシトリーが目に入る。スヤスヤと眠る彼女の頭を撫でながら時計を探すと、針は遠回しに遅刻を教えてくれた。
「やばっ！」
「ふぎゅ！」
勢いよく体を起こすと、それに驚いたのか、可愛らしい悲鳴を上げた。
「目覚ましつけわすれてた…遅刻遅刻……！」
「ごめんなさいなの……」
「いや、シトリーのせいじゃないよ」
朝食を作る余裕はない。僕はすぐに着替えて玄関に走る。
「それじゃあ、行ってきます！」
「ご主人ー！待ってほしいのー！」
大慌てでシトリーが走ってくる。
「その、あの、えっと……」
「早く言ってくれないと行っちゃうよ？」
「い、行ってきますの……だっこ///」
「可愛いなぁもう……」
遅刻を諦め、僕はシトリーを抱き締めた。
薄く目を開けると、寝室のドアが僅かに開いていて、そこから見える部屋……リビングでせっせと掃除をする小さな影が。
「大変大変、もうすぐご主人が起きちゃうのっ」
細くて長いムチのような尻尾がシュルシュルとせわしなく動き、ピコピコと丸い耳が可愛らしく揺れている。
体を起こすと、ベッドの軋む音に気付いたのか、せっかちに動く影がピタリと止まる。そのまま影は寝室のドアを乱暴に開け放ち、猛スピードで僕の体に体当たりする。
「ま、ままままま……！」
「落ち着けシトリー。まずは深呼吸」
「すー……ふぅ……まだご主人は寝てるのっ。用意できてから迎えたいのっ」
「そこまで気を使わなくていいよ」
「でもでもでも、シトリーはメイドなのっ」
フリルがたっぷり施されたスカートの端を広げるシトリー。彼女はラージマウスの少女で僕の恋人。せっかちでちょっとダメイド。
「もう少し気楽にしていいんだよ？」
「うぅ……」
慰めに頭を撫でていると、シトリーは急に立ち上がる。
「た、大変！朝ご飯の支度、全っ然できてなかったのっ！」
慌ててベッドから飛び降りようと脚に力を入れた瞬間、シーツに足を滑らせて転倒してしまった。
「だ、大丈夫!?」
「びええええん！」
大声で泣き出してしまった。どうやら鼻を打ったらしい。
天性のスーパードジっ子である。
シトリーをなだめてひとまず寝室を出る。向かった先はキッチン。
「…………おおう」
背の低いシトリー用の踏み台があるだけで、あとは何も準備されていなかった。おそらく料理しようとしたところで、何かを思い立ったのだろう。
そうか、それで掃除か。
「おーい、シトリー？」
一緒に朝ご飯を作ろうかと呼んでみたが、一向に来る気配がない。
「シトリー、シトリー」
連呼しながら寝室の扉を開けると、シトリーがシーツに抱き付いて眠っていた。
「まったく……」
近くに座って寝顔を眺めてみると、これまた可愛らしい寝顔である。唇の端がつり上がって、微笑んだ表情。
悪戯に頬をぷにぷにするが、起きない。
試しにネズ耳をふわふわと触る。
「んゅ……ご主人……♪」
ドキューン！とハートを貫かれた。
僕はシトリーをそのまま寝かせたままにし、朝ご飯を作ってあげることにした。
というか、これが日常である。
「はわわ、ご主人ー！」
テーブルに朝ご飯を並べきったところで、シトリーがバタバタと音を立てて走ってきた。
「ど、ど、どどど……！」
「はい深呼吸ー。吸うー、吐くー」
「……どうして起こしてくれなかったのっ!?」
「いや、あんなにもスヤスヤ眠ってたら……ね」
「そ、それは……そのぉ……ご主人の匂いが……」
真っ赤になってモジモジするシトリー。
ああもう、本当に可愛い。
「朝早くから頑張ってくれてたんだろう？寝ていても文句は言わないよ」
「でもぉ……えぐえぐ」
「泣かない泣かない」
抱き締めて背をぽんぽん叩く。
「ほら、朝ご飯を食べようよ」
「は、はいっ！」
「今日はシトリーの好きなチーズトーストだからね」
「チーズーっ♪」
シトリーの大好物はチーズ。テンプレートだがそれがいい。
ちなみにブルーチーズは苦手。
「はむはむ……♪」
嬉しそうにトーストをかじる姿を見て、僕はさり気なくコップに水を注ぐ。
さて、そろそろアレが起きるころだ。
「んむぐっ!?」
せっかちなシトリーはよく食べ物を喉に詰まらせる。パンのような水分の少ない食べ物は特に詰まりやすい。
「んーっ、んーっ!!」
「ほら、お水お水」
僕は彼女の口に水をゆっくり注ぐ。
解消したようで、シトリーはほっとため息を吐いた。
「もっとゆっくり食べないと……」
「き、気を付けるの……」
「それじゃあ僕は仕事に行くからね」
シトリーの完食を見届け、僕は典型的なサラリーマンの恰好に着替えて玄関に向かう。
「それじゃ、行ってきます」
「ご主人、ご主人」
リビングから急ぎ足で来たシトリーが僕を呼び止めた。だが顔を赤らめるだけで、何も言おうとしない。恥ずかしくて言えないのだ。
こういう時は少しかわいそうだが、シトリーの口からどうしても言わせないと。
「なに？」
「えっと、えっと……」
「時間がないから行くね」
「ご、ご主人っ！」
行こうとしたとき、シトリーは脚に抱き付いた。
「行ってきますの……だっこ……///」
「はい、よく言えました」
僕はシトリーを抱き上げ、強く抱き締める。
しばらく抱擁し、右の頬にキスをして下ろす。
「はぅぅ……///」
「行ってくるね」
僕は扉を閉めて鍵を掛ける。
腕時計を見ると、時刻は遅刻ギリギリを示していた。
「これはヤバいな」
午後６時。
今日は残業なく帰ることができたので、僕はケーキを片手に余裕で帰宅。
「ただいまー」
返事がない。
シトリーの靴は玄関にあるみたいだし、部屋の電気も点いている。
「シトリー？」
まず寝室に入ってみたが、誰もいない。
「どうしたかな……普段だったら飛びついて出迎えてくれるのに……」
「ごしゅじーん……」
声のした方を見ると、チャーシューみたいにナイロン紐でぐるぐる巻きになったシトリーが転がっていた。
「絡まって動けないのぉ……」
シトリーのすぐそばに積まれた新聞紙があった。
たぶん新聞紙をまとめるために縛ろうとして、自分を縛ってしまったのだろう。
「よっと」
ハサミで紐を切ると、涙を浮かべて僕に抱き付くシトリー。
「もうダメかと思ったの……ぐすん」
「泣かないでシトリー。もう大丈夫だぞー」
「うん……そ、そうなの！お風呂お風呂……」
お風呂を沸かし直すため風呂場にシトリーは向かう。
さて僕は夕飯でも作ろうか……そう思ったとき、風呂場から悲鳴が聞こえた。
「シトリー!?」
「でででででで……！」
「深呼吸！」
「すぅー……はぁ……出たのっ！」
「何が？」
「何がって、そそそれは(ぴたっ)ひっ……」
視界の隅で、何かが飛んでいるのが見えた。それは黒くて平たくて、名状しがたい光沢があった。それが不規則に空間を縦横無尽に飛び、やがてシトリーの耳のてっぺんに止まった。
それを確認する。
「「…………」」
部屋中に２人の悲鳴が響き渡った。
ヤツとの戦いはかなりの苦戦を強いられた。今まで地面を這い回るだけの平面的逃避しか能の無いヤツらしか戦ったことのない僕は、ヤツの使った『飛行』という奥義に度肝を抜かれた。ヤツは僕らが怯んでいる間にそのままシトリーから飛び立ち、家中を飛び回る。
僕らは殺虫剤『〇キ〇ェットプロ』を片手に追い回すもヤツの高い敏捷性に翻弄され、その戦いが１時間経過すると、薬剤が漂う空気にシトリーがダウンしてしまった。窓を開けて換気する必要があるが、そうすれば罪深きヤツは外に逃げてしまう可能性があった。
もはやヤツは害虫ではない。嫁の仇である。
一向にヤツは疲れを見せず、僕の体力と殺虫剤『ゴ〇ジェッ〇プロ』の中身がイタズラに減るだけ。もうダメかと思った。そんなとき、ヤツの動きが一瞬だけ鈍った。僕は最後の力を振り絞ってノズル噴射した。
ヤツはついに地に墜ちた。
窓を開けて風上にシトリーを寝かせ、僕はヤツをゴミ箱に葬った。
戦いは、終わった。
「ごしゅ、じん……」
「大丈夫？」
「頭がくらくらするぅ……」
ゆっくり上半身を起こして、抱き締める。そのまま頭を撫でて、ひとまず終戦を祝った。
「夕飯を作ってあげるから、シトリーは寝てて」
「うん……♪」
シトリーに目を配りながら、体に優しいメニューを浮かべる。とりあえずお粥でも作ろうかと、僕はキッチンに向かった。
食事する頃にはシトリーもなんとか回復し、夕食はしっかり食べてくれた。でもまだ家事をやらせるわけにはいかないので片付けは全て僕がやり、シトリーを着替えさせて先に寝かせ、僕はその後にベッドに入った。
数分して、寝室のドアが小さくノックされる。
「入って」
シトリーが目を擦りながら、そこに立っていた。
「一緒に……寝たいの……」
「いいよ、こっちに来て」
もぞもぞと、シトリーが布団に入る。
腕枕をすると顔を赤らめて微笑んだ。
「ごめんなさい……シトリーがメイドなのに、任せっきりなの」
「シトリーは小さいから、上手くいかないのは当たり前だよ」
「こ、子ども扱いは嫌なの……っ」
「ごめんごめん」
涙目のシトリーを撫でる。嬉しいのか、耳をピコピコと小刻みに震わした。
シトリーもお返しか、僕の腕に尻尾を巻きつける。
「ご主人」
「なに？」
「あったかい……」
ひし、と抱き付くシトリー。
「おやすみなさい」
「おやすみ、僕の小さなメイドさま」
「小さなは余計なのっ」
朝。
目を覚ますと、隣で密着して眠るシトリーが目に入る。スヤスヤと眠る彼女の頭を撫でながら時計を探すと、針は遠回しに遅刻を教えてくれた。
「やばっ！」
「ふぎゅ！」
勢いよく体を起こすと、それに驚いたのか、可愛らしい悲鳴を上げた。
「目覚ましつけわすれてた…遅刻遅刻……！」
「ごめんなさいなの……」
「いや、シトリーのせいじゃないよ」
朝食を作る余裕はない。僕はすぐに着替えて玄関に走る。
「それじゃあ、行ってきます！」
「ご主人ー！待ってほしいのー！」
大慌てでシトリーが走ってくる。
「その、あの、えっと……」
「早く言ってくれないと行っちゃうよ？」
「い、行ってきますの……だっこ///」
「可愛いなぁもう……」
遅刻を諦め、僕はシトリーを抱き締めた。
14/05/26 15:41更新 / 祝詞