ふぃふす
罪とは何か。国、文化や価値観、法律…様々な要素によって、それぞれの罪の定義が成り立っている。ただ、そこまで難しく考えなくても、誰かが「自分は罪を犯した」と後悔すれば、それは既に罪なのだろう。では罪を犯したとしたら、どうすればよい?
「マンディ、さっきはすまん…」
無論、罪を償うのが道理である。それぞれのやり方で。
「マンディ?」ともう1度デニスは呼びかけたが、可愛い生き物は既に意識を失って夢の中にいる様だった。初めてのときめき、そしてその後の体験。それらが積み重なって肉体と精神にどっと疲れが押し寄せたのかも知れない。魔の存在であっても疲れるのだから余程の重労働だったとも言える、幸せな労働だったのも事実だが。子を成す、科学や魔術はそのほとんどが解明されたが、それでも新たな生命の誕生が依然神秘的である事に変わりはない。
満ち足りた表情で眠りに就いたおにゃのこの側で、彼女の将来の伴侶はベッドに腰掛けて複雑な心境に眉を潜ませていた。ちらりと彼女の方を見て、彼は「これでよかったのか?」と自分に言い聞かせる様に呟いた。
その後、デニスは眠り続けるマンディをお姫様抱っこで担ぎ上げて、風呂場に連れて行った。眠る相手の服を脱がせるのは少々葛藤を感じるものだったが、それでも何とかなった。軽く彼女の体を流してから浴槽に入れてやり、それから自分がシャワーを被った。まあまあの勢いで流れ落ちる温水に打たれながら、再び己のしでかした事の重大さについて熟考したが、5分経った辺りでやめた。全く起きる気配もなくすやすやと眠るマンディの姿をそれから1分程見つめてから、彼女を抱えて脱衣所に戻って体を拭き始めた。
デニスの着ていたシャツにも言えるが、行為の最中もずっと着ていたせいで、マンディのシャツは彼女の汗で濡れていた。より正確に言えばその前の「演習」中から彼女のシャツは濡れていたのだろうが。スカートと下着はどうにもならないので、ひとまず寝室に戻って彼女が脱ぎ捨てたパンツを取りに戻った。上着はデニスの物を着せる事になった。案の定ブカブカになったが、彼女はデニスの匂いが好きなので特に問題はないだろう。
「っ! 朝か…」
デニスはいつ眠ったのか自分でもよくわからなかったが、隣を見ればマンディがまだ眠っていた。彼女に服を着させてリアル人形遊びをした後に寝室まで担いできたのだろう、と適当に納得してからベッドに腰掛けた。
「デキ難いとは言うが、どうだろな…」
やはりデニスの懸念事項は昨日の一件である。彼は知らないが、彼女がしてきた「ガシッとする行為」には日本のネット界隈において「だいしゅきホールド」と呼ばれる事もあった。
彼は別に子供を望んでいなかったわけではない。ただ単に、ああいう純粋な乙女を初っ端から孕ませるという行為について思う所があったのだ。冷静に考えればマンディが望んでだいしゅきホールドしてきたのであって、デニスのせいとは言い切れないが、彼はそう考えてはいなかった。デニスにしてみれば、避妊もせず周期も聞かずにヤってしまった時点で相当申し訳ない気分であった。1回で妊娠するとは限らないが、もしもという事も考えられる。
考えても考えても埒が明かない、そう思ってデニスは後ろで眠るマンディの方を振り返ろうとしたが、その前に「ん…む…」と言う声が彼の耳に届いた。
私、どれぐらい眠っていたの? 記憶が曖昧なのだけど。というより昨日は何をしたのかさえ。確か砂浜で…
「きゃっ!」
全部思い出した…そう、そうだ。デニスにシてるところを見られて、それで、それで…
「え? やだ、デニスこっち見ないで! 恥ずかしくてどうにかなっちゃう…」
というわけで予想通り長い長い眠りから覚めたお姫様の羞恥タイムが始まった。起きて早々「きゃっ!」と言われたのでデニスは嫌われてしまったのだろうかと心がズキリと痛んだが、その後布団を被って丸まった彼女を見て和んだ。彼女曰く「恥ずかしくてどうにかなってしまいそう」らしいが…
だがそこで昨日自分がしてしまった事を再び思い出して、彼は布団という岩陰に隠れたエンジェルフィッシュに恐る恐る声をかけた。
「マンディ、昨日は悪かった。俺は…」と少し言いよどんだが何とか続けた。「いや、本当は中に出すつもりなんかなかったが、呪いか何かで腰が固定されちまって、本当に済まなかった」と申し訳なさそうに心境を述べた。普段の堂々としたデトックスの姿はどこにも無く、申し訳なさ過ぎてマンディを直視さえ出来ないただの若者がそこにいた。しかし。
「も、もしかして…」マンディはヒョコっと鼻から上の辺りだけを布団から出した。「子供なんかいらない…?」と付け加えた。
するとそれに呼応するかの様に「そ、そんなつもりは! マンディ、こうなった以上は絶対蔑ろにするつもりはねぇからな!」と意気込んだデニスが、未だに布団という岩陰に身を潜めた可愛い生き物を抱きしめていた。
――ようデニ、そっちの女の子は友達か?
――いや、そのうち結婚するつもりだよ。
――神よ、何という事だ。息子にも春が来たのか。
――なあ親父、俺が結婚出来ないといつから錯覚していたんだ? っていうかそっちの幽霊っぽい姉ちゃんは誰だよ。
――紹介が遅れたな、妻だ。お前が幼い頃に亡くなったから、こうしてまともに会うのも初めてだろう。
――WTF? まあいい。んで、死別して再会した場合って法律的にはどうなんだ?
――さあ、この前役所に行った時はやけに微笑ましい目で見られて「こっちで何とかしておきます」と言われたぞ。
――何だそりゃ。マンディも黙ってねぇで気楽に喋っていいんだぜ。
――あ、えと、その…む、息子さんを下さい!
――マンディ、それ普通逆なんじゃ…
5月のボーンマスには、今日も爽やかな風が吹いていた。来年の3月頃にはこの地で新たな命が誕生するだろう、他の多くの命と同じ様に。
「マンディ、さっきはすまん…」
無論、罪を償うのが道理である。それぞれのやり方で。
「マンディ?」ともう1度デニスは呼びかけたが、可愛い生き物は既に意識を失って夢の中にいる様だった。初めてのときめき、そしてその後の体験。それらが積み重なって肉体と精神にどっと疲れが押し寄せたのかも知れない。魔の存在であっても疲れるのだから余程の重労働だったとも言える、幸せな労働だったのも事実だが。子を成す、科学や魔術はそのほとんどが解明されたが、それでも新たな生命の誕生が依然神秘的である事に変わりはない。
満ち足りた表情で眠りに就いたおにゃのこの側で、彼女の将来の伴侶はベッドに腰掛けて複雑な心境に眉を潜ませていた。ちらりと彼女の方を見て、彼は「これでよかったのか?」と自分に言い聞かせる様に呟いた。
その後、デニスは眠り続けるマンディをお姫様抱っこで担ぎ上げて、風呂場に連れて行った。眠る相手の服を脱がせるのは少々葛藤を感じるものだったが、それでも何とかなった。軽く彼女の体を流してから浴槽に入れてやり、それから自分がシャワーを被った。まあまあの勢いで流れ落ちる温水に打たれながら、再び己のしでかした事の重大さについて熟考したが、5分経った辺りでやめた。全く起きる気配もなくすやすやと眠るマンディの姿をそれから1分程見つめてから、彼女を抱えて脱衣所に戻って体を拭き始めた。
デニスの着ていたシャツにも言えるが、行為の最中もずっと着ていたせいで、マンディのシャツは彼女の汗で濡れていた。より正確に言えばその前の「演習」中から彼女のシャツは濡れていたのだろうが。スカートと下着はどうにもならないので、ひとまず寝室に戻って彼女が脱ぎ捨てたパンツを取りに戻った。上着はデニスの物を着せる事になった。案の定ブカブカになったが、彼女はデニスの匂いが好きなので特に問題はないだろう。
「っ! 朝か…」
デニスはいつ眠ったのか自分でもよくわからなかったが、隣を見ればマンディがまだ眠っていた。彼女に服を着させてリアル人形遊びをした後に寝室まで担いできたのだろう、と適当に納得してからベッドに腰掛けた。
「デキ難いとは言うが、どうだろな…」
やはりデニスの懸念事項は昨日の一件である。彼は知らないが、彼女がしてきた「ガシッとする行為」には日本のネット界隈において「だいしゅきホールド」と呼ばれる事もあった。
彼は別に子供を望んでいなかったわけではない。ただ単に、ああいう純粋な乙女を初っ端から孕ませるという行為について思う所があったのだ。冷静に考えればマンディが望んでだいしゅきホールドしてきたのであって、デニスのせいとは言い切れないが、彼はそう考えてはいなかった。デニスにしてみれば、避妊もせず周期も聞かずにヤってしまった時点で相当申し訳ない気分であった。1回で妊娠するとは限らないが、もしもという事も考えられる。
考えても考えても埒が明かない、そう思ってデニスは後ろで眠るマンディの方を振り返ろうとしたが、その前に「ん…む…」と言う声が彼の耳に届いた。
私、どれぐらい眠っていたの? 記憶が曖昧なのだけど。というより昨日は何をしたのかさえ。確か砂浜で…
「きゃっ!」
全部思い出した…そう、そうだ。デニスにシてるところを見られて、それで、それで…
「え? やだ、デニスこっち見ないで! 恥ずかしくてどうにかなっちゃう…」
というわけで予想通り長い長い眠りから覚めたお姫様の羞恥タイムが始まった。起きて早々「きゃっ!」と言われたのでデニスは嫌われてしまったのだろうかと心がズキリと痛んだが、その後布団を被って丸まった彼女を見て和んだ。彼女曰く「恥ずかしくてどうにかなってしまいそう」らしいが…
だがそこで昨日自分がしてしまった事を再び思い出して、彼は布団という岩陰に隠れたエンジェルフィッシュに恐る恐る声をかけた。
「マンディ、昨日は悪かった。俺は…」と少し言いよどんだが何とか続けた。「いや、本当は中に出すつもりなんかなかったが、呪いか何かで腰が固定されちまって、本当に済まなかった」と申し訳なさそうに心境を述べた。普段の堂々としたデトックスの姿はどこにも無く、申し訳なさ過ぎてマンディを直視さえ出来ないただの若者がそこにいた。しかし。
「も、もしかして…」マンディはヒョコっと鼻から上の辺りだけを布団から出した。「子供なんかいらない…?」と付け加えた。
するとそれに呼応するかの様に「そ、そんなつもりは! マンディ、こうなった以上は絶対蔑ろにするつもりはねぇからな!」と意気込んだデニスが、未だに布団という岩陰に身を潜めた可愛い生き物を抱きしめていた。
――ようデニ、そっちの女の子は友達か?
――いや、そのうち結婚するつもりだよ。
――神よ、何という事だ。息子にも春が来たのか。
――なあ親父、俺が結婚出来ないといつから錯覚していたんだ? っていうかそっちの幽霊っぽい姉ちゃんは誰だよ。
――紹介が遅れたな、妻だ。お前が幼い頃に亡くなったから、こうしてまともに会うのも初めてだろう。
――WTF? まあいい。んで、死別して再会した場合って法律的にはどうなんだ?
――さあ、この前役所に行った時はやけに微笑ましい目で見られて「こっちで何とかしておきます」と言われたぞ。
――何だそりゃ。マンディも黙ってねぇで気楽に喋っていいんだぜ。
――あ、えと、その…む、息子さんを下さい!
――マンディ、それ普通逆なんじゃ…
5月のボーンマスには、今日も爽やかな風が吹いていた。来年の3月頃にはこの地で新たな命が誕生するだろう、他の多くの命と同じ様に。
12/10/09 00:46更新 / しすてむずあらいあんす
戻る
次へ