ワイトっ子とイチャイチャ

 俺は死ねない呪いによって長い年月を生きる羽目になった。まだ教団や魔物がいた頃…深く考えちゃいかん、そいつは相当な昔の事だ。真面目に考えてしまうと己の呪いに絶望するぞ!
 俺はその頃まだ熱心な教団の信仰者だった。奴らの狂った教えを正しいと信じていた。だがある異端の女を捕まえて来いと言われて、俺は躊躇ってしまった。名は忘れたが女は美しく、見惚れる程だ。この女を捕まえた後、拷問するというのか! ああ、正常なる神々の髭にかけて、そんな残酷な事を出来るものか! 俺は彼女に事情を説明し、酷い拷問を受けて死ぬぐらいならという事で首を素手で絞め上げた。彼女の目が忘れられない。死への恐怖と拷問から逃れられる安堵の混じったあの目!

 俺は当時嘘をつくのが下手で、己の行為を弁解する事なく全て話した。そしたらあの神の奴、俺に激怒して死ねない呪いをかけやがった! 教団に俺を拷問させた! 皮膚をなぞる刃の感触! ハンマーで潰される足の小指! 焼かれた皮膚に夜な夜な纏わりつく蛆虫! 俺は死ねないだけで、傷の治りが早いわけでも何でもなかった。奴らめ、俺を斬首してそのまま野ざらしのまま生かせる気だったのだ! 俺はあの女に慈悲をかけた事を後悔しそうになったが、それでもあの安堵の表情は俺が正しかったと物語っていた。

 詳細は覚えていないがそこから俺は脱出して、可能な限りの治療を受けた。後遺症は思った以上に軽く、以降俺は教団信仰を完全に棄てて各地を転々としながら生きてきた。やがて数年後教団は追放され姿を消し、魔物も姿を消した。俺の名は多分ジェイソンだった――もしかしたらウィリアムだったかもな、拷問の壮絶さと人生の長さのせいで忘れてしまった! ヨーロッパ各地を渡り歩き、アメリカを転々としていたが長い時の流れの果てに再び奴らは現れた! オーストラリアを足ががかりに、教団は一時期南米や北米まで勢力を伸ばしやがった。長すぎる人生に飽き飽きしていた俺は喜んで奴らとの戦いに志願し、奴らへの呪詛を吐きながら戦場へ向かったのだ! 全てはあの女から始まった。俺は戦う、遠い昔自分が仕方なく殺した女への罪滅ぼしと、これ以上彼女のような犠牲者を生まないために! 治癒できぬ程の大怪我を負って永遠の後遺症に苦しむ運命が待っていようと、後悔はしないぞ!

 運良く勝利し、教団を撃滅すると魔物が再びこの世界に戻ってきた――魔物娘と呼ぶべきらしいな。今では安心して暮らせるため、ジェイソン・リンチと名乗っていた俺は軍を辞めて復興中のシアトルで働いていた。朝から夕方まで汗を流しては次々と撤去される瓦礫を複雑な気持ちで見つつ、運び込まれるコンクリートの匂いを嗅いでいた。
 だがある日、俺が帰宅前に事務所へ寄ると同僚達が拍手と共にぞろぞろやってきて、俺がただの人間の身で不死の人生を歩んできた事を不屈の精神だと称賛した。ああ、神々の威光にかけて! 何故お前達が知っている! 恐らくその当時から生きていて俺を知る長寿の魔物娘がいたに違いない!
 俺はたちまち地元の有名人だ。恥ずかしくて仕方ないぞ! 顔を赤くしながら買ってきた安い肉を食う日々が続いた。

 しかしいい事もあるにはある。でなければ俺がこんな上品なパーティーに呼ばれるものか。今まで食ってきた飯の中で一番美味い! 死ねない男として有名になったお陰で腹を満たせるとは! 注目されるのは恥ずかしいがな! 見ろ、気品のある男女が俺を見たり話しかけているぞ! 多分何度か色目も使われただろう!
 だが俺はパーティーの主催者に気がついて呆然とする。ここに来ている魔物娘は主にアンデッドが多い。死臭ではなくとびきりの芳香のする死者達が。彼女達は主に犠牲になったシアトル市民の一部が運良く蘇ったもので、このパーティーだって破壊されたシアトルの一角、ミッドタウンの一部をアンデッド住人の街として再建する計画に関するものだった。戦前であればアンデッドを嫌いそうな保守派も何も言ってこないし、俺も異論はない。しかしこのパーティーの主催者は! なんて事だ! 彼女は俺が何世紀か何十世紀前かに殺したあの哀れな女だ! 彼女と目が合った途端、手の内に絞め殺した時の感覚が戻り、俺は猛烈な吐き気と共にトイレへ駆け込んだ。

 幸い何故か吐かずに済み、俺は手洗い場の鏡を眺めていた。まるで魔法の効果みたいで、不自然に気持ちが楽になったのだ。必死の形相を浮かべたせいか俺の顔は疲れているように見える。この被害の小さく修復中であるパーティー会場のホテルで今夜だけ安い部屋を借りていたから、俺は今から休もうと思っていた。10分ぐらいだろうか、俺はぼんやりと真っ暗な部屋の天井を見つめながら慈悲をかけて殺した女――そして蘇ったその女――の事を考えていた。入り混じった複雑な感情の中で最も大きかったのは、彼女に恨まれてないといいがという願いだった。すると部屋のベルが鳴って、俺は飛び起きるとドアを開けに行った。覗き窓から部屋の外を見た俺は驚いて声をあげてしまった! あの女が会いに来てるじゃないか!

「マリアとお呼びになって」
 部屋に薄暗い照明を点けて、俺は椅子に座らせた女と向き合っていた。一瞬目を離すと俺の腰かけたシングルベッドが揺れていて、すぐにそれが俺自身の震えが原因だと気づき驚いた! 
「美しい人よ、あなたは俺が誰か、ジェイソン・リンチがどんな奴かを知っておられるのか?」
 真っ赤な目と死体のような肌、色褪せたような金髪、当時よりも成熟したグラマラスな容姿、あの時より低くなった声色など異なる点も多い。しかし今まで俺が名は忘れたが特徴ははっきりと覚えていたあの死んだ女と身間違えるはずがない。妖しげな魅力が増したが、あの時と全く同じ微笑みだ! しかも彼女ときたら! 外見上は忌々しくいつまでも若いままの俺よりも何世代か年上に見えるが、俺が「美しい人」と言った事に反応して頬を染めた。やめてくれ、そんな魅力的なところを見せるのは! 俺は自分で殺してしまった女を可愛いと思ってしまったぞ!
「もちろん存じておりますわ…二重の意味で。その黒い髪の色合いと少し濁った黒い目は身間違えるはずがありませんもの」
 やはりあの女だ! あの時代、何千といたありふれた俺の普通な容姿をはっきりと覚えていた! 今ではその女が上目遣いで俺を見ながら微笑み、俺を破滅へ誘おうとする女悪魔のような恐ろしさを内包している! 
「すまなかった! 俺はもっといい手を思いつくべきだった! 俺は結局面倒事を手早く解決するために安易な道へと走って手を汚したのだ!」
 だがマリアは俺を嘲笑うように、あの妖しげな笑みを浮かべたまま俺の隣にするりとやって来た。紫のナイトドレスは彼女の谷間やスリットから見える肉づきのよい成熟した脚を彩っていて、俺は頭がのぼせてきた。
「でも、あなたが私を殺しに来なければ…」あなたと巡り会う事も、こうして再会する事もなかったでしょう? そう言ってマリアは俺に身を預け、彼女の胸や脚の柔らかな感触といい香りが俺を満たした。腕にはめた飾りの手袋を外すと、綺麗な青ざめた手が俺の胸や腹を這い、そして彼女は俺の手を取ると握りしめてきた。ああ、なんと抗いがたい誘惑だ! 今では俺は、自分で殺した女の事を愛しいとさえ思い始めている! マリアの妖しい笑顔が可愛くて狂いそうになっている! 俺はなんと意志の脆い男なのだ!

 安く小さめの部屋で照明を消し、スタンドが放つオレンジの明かりに照らされながら、シングルベッドの上で俺達は激しく求め合った。俺は彼女のドレスの上部分をずり落として実った乳房を露出させ、手と口でそれを堪能している。柔らかくて、俺がずぶずぶと彼女の中を突いてやるとそれに合わせてブルブルと前後に揺れた。
 俺もマリアも時折気持ちが昂ぶって、そんな時は一心不乱に腰を降った。もっと気持ちよくなりたくてもっと彼女に乱れて欲しくて激しいペースで突く。それからお互い凄い声をあげた後に暫く休む、その繰り返しだ。これ程の貴婦人がブルっと震えながら息を整えて俺を見上げてくる姿を見ていると、可愛すぎて辛い。いても立ってもいられず、レース付きの膝上タイツに包まれた脚に頬擦りをした。
「そろそろスパートをかける」
 俺がそう言うとマリアは淫らな笑みを浮かべて頷く。赤い目の端に涙を浮かべて見上げる姿が愛しい。俺は彼女を横向けつつベッドを降りた――高めのベッドだったから、少し脚を開いて立ち、仰向けになった彼女の腰を抱えればちょうどの高さになる。そう、俺は本気で腰を振るために降りたのだ!
 そこからはもう必死だ。マリアのふくよかな美脚を腕と胴に挟んで両脇に抱えつつ、両手で彼女の素晴らしい肉感があるくびれをがっしりと掴んで一心不乱に打ちつけた。その都度マリアは嗚咽みたいな必死の喘ぎに混じってもっともっとと懇願してきた。歳経て熟した愛しい嬌声は気持ちよさそうに高くなったり、行きすぎた快楽による苦痛を感じているように低くなったりを繰り返しており、俺も限界がやって来た。
「そろそろ出る!」
 その途端締めつけがキツくなった! くそ、また可愛くなりやがって!
「出してジェイソン! そのまま出して!」息も絶え絶えに言ってきたではないか! こんなものを見ておいて我慢はできんな! 俺はうおお、と獣のように叫んで更に加速した。ただの変態だ!
「出すぞ! くっ、出すぞっ、中に出すぞ!」
 彼女は快楽に表情を歪めて、喘いで、両手を胸の上でキュッと結んでどうしようもない快楽に耐えている! そしてどんどん仰け反り、反った首や腹に目が奪われる。ああもう、君は可愛いな! 何かの淫語――恐らく「きちゃう」と言っている――と喘ぎの混ざったマリアの声を聞きながら俺は中に出した。新たな世界の栄光にかけて、魂が抜けたかと思ったぞ! 俺も彼女もビクビクと痙攣して仰け反り、余韻に浸る。
「はぁ、大量に出たな…」

 もちろん一回では終わらずその後も抱きしめ合いながら何度も交わった。これは俺の勘だが、彼女は俺の顔が見えないのが嫌なはずだ。なので向き合えない体位は除外した。
 今はベッドに腰かけた状態でマリアを抱え、抱きしめ合いながら上下に揺らしている。俺達の腰が動くのに合わせてベッドのスプリングが軋み、声が漏れた。俺の首の後ろに回されたマリアの腕はひんやりとしていて、それが逆に庇護欲を沸き立たせる。ペースをあげると彼女のストッキングに包まれた美しい脚が俺の背中に回され、ギュッと抱きついてきた。ああ、こうやって快楽に耐えながら愛しさで一杯の心を満たすのか。
「くっ、可愛いな!」おっと俺は声に出してしまった! その途端マリアはドキリとして目を見開き、締めつけが強くなった。
「可愛いと言われるのが好きなのか!」
「やっ、意地悪言わないでっ!」
 くそ、恥ずかしいのか! 可愛いじゃないか!
「すまんな、君が可愛すぎるから!」
 謝罪の証に長い口づけを交わした。キスしながら一番奥を突いてやるとんーんーと甘い声が漏れて、低い嗚咽混じりの声もそれに続いた。キスが終わるとマリアはとろけた目で名残惜しそうに俺を見てきた! 畜生、またなのか! 俺はどんどん堕ちていく! 俺はその日最後のスパートをかけた!
「ジェイソン! マリアって、マリアって呼んでっ!」
「ああマリア! 可愛いマリアの中に出すぞ!」
 マリアの手足は更に強くホールドしてきて、中も同様だった。俺はマリアと共に果てて共にブルンと跳ねた。マリアはその途端仰け反って天を仰ぎ、暫くすると糸が切れたように力が抜けた。俺はそんなマリアを抱きしめ、安心させる事に努めた。「マリア…君は本当に可愛かった」
 俺が耳元で呟くと彼女は身震いし、恐らくゾワゾワとしたように見えた。嬉しいが恥ずかしいらしい。俺は興奮して少し調子に乗りすぎたかも知れんな。

「さっぱりしたな」
 マリアの髪を乾かしながら俺は言った。それが終わると洗い流してさっぱりした肌触りに満足しながら布団を被る。マリアは俺の左腕を抱きしめて一緒に横たわっている。赤い目はとても愛しげに俺を見ている。
「俺の可愛い人…」
「もうっ…」彼女は赤くなる頬を手で隠すように振る舞った。
「俺は一度君の命を奪い、それから君に慈悲をかけた事を罪に問われて永遠の命を押しつけられた。だから俺は一生君のために償える。可愛い人、俺はどうやって償えばいいか?」
「なら私をいつまでも愛して下さいな…」
 妖しげな魅力を持つマリアは俺の腕の内にいる時は不安げなう少女のように小さく思えてしまう。
「君の事をどんどん好きになっている。君が俺を許すなら、君を愛させて欲しい」
 嬉しそうな彼女の顔が見える。
「これからも可愛がりたいな」
 再びマリアが赤くなったので俺は素早くベッド横のスタンドのスイッチを切って部屋を真っ暗にして、マリアを抱きしめた。調子にのってすまない、おやすみと俺は囁きかけてシングルベッドの上で、共に窮屈だが暖かな眠りについた。
 おやすみ、俺の可愛い人。永遠に償おう。永遠に愛そう。そして永遠に可愛がろう! …程々にな。

もっと殺した相手に対する葛藤を入れようかと思ったけどどうせほのぼのなのでどうでもよくなったでござる。

14/12/25 19:52 しすてむずあらいあんす

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