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 私はアヴェロン、ヴァルキリーだ。我々の神はその座を追われたので、もう天使とは言えない。より正確に言えば、教団が異端者達に敗れて消え去り、仕えるべき神は他の神々の介入によって追放され、忘却された。もう二度とあの神は姿を現すまい。あろう事か魔物達と手を結んだ異端者達が戦争に勝利し、教団を絶滅させたのだ。教団は当時まだ封印されていた我々ヴァルキリーを戦力として使うつもりだったが結局間に合わなかった。とは言え、封印されていた次元の狭間から一部始終を見ていたので、いずれにせよ協力したかは怪しい。教団がアデレードという都市に何をしたのかという事、そして我々の仕えるべき神がそれを賞賛していたという事を、我々は決して忘れない。なるほど確かに昔、教団が異端扱いを受けて異界へ落ち延び、おぞましさのあまり歴史書から抹消されたのにも頷ける。

 意外にも我々ヴァルキリーには自由が与えられた。異端者達には我々を教団同様に絶滅させる選択肢もあったが、結局そうはしなかった――終戦後の復興で大変だったろうに、我々の封印を解いてくれたのだ。魔物達が言うには、遅かれ早かれヴァルキリーも堕落するらしい。まあそれは私にとっては無関係だしどうでもいい。重要なのは、我々に自由が与えられたという事だ。そうして我々は久々に地球の大地へと降り立った。皮肉にも神に教わった言語の魔法がコミュニケーションに役立った。お陰で知らない言語もマスターできるからである。

 実際のところ、確かに我々は変わりつつあった。もはやヴァルキリーは神とのリンクが断たれ、その声を聞く事はない。人間と挙式を挙げた初のヴァルキリーというカナダ発のニュースを立ち寄った量販店のテレビで目にしてから、私はかつてであればありえない事に感心を持った――人間の男に魔物同様の劣情を抱くのか? モヤモヤとした思いを断ち切るように、羽を休めるため降りさせてもらった輸送船のコンテナから飛び去った。しかし下腹部に熱がこもっていた事を否定はできないが。

 2ヶ月ほど諸国を漂い、函館へとやってきた。この世界のルールにも随分慣れ、普通の服を着てパスポート――魔物以上に得体の知れないヴァルキリーでも作れるとは――を片手に入国した。ついでに飛行許可証も。話によれば戦前より世界中の国境は薄くなったそうだが最近まで封印されていた私には実感できない。
 麓の神社や教会の近くを見て回り、有名な函館山からの景色を眺めた。人間以外の種族は私の他にもいくらかいて、意外と奇異の目では見られない。ヴァルキリーが世界に受け入れられ始めたという事か。山頂にはカップルが多く、正直に言えば劣等感を抱いた。

 その晩、津田義人(よしひと)という男の家に上がらせてもらった。山頂でぼんやりしていた私と何気なく会話し、何気なく以降の時間を共有した。45だと言っていたがそれよりも老けて見えた。黒で染めた髪のところどころに白髪が見え、50代の管理職みたいだった。少し肥えているが全体的にはがっしりしていて、背は私より少し高い。顔はこの年齢層にしては悪くない、もちろんそんな事は以前なら気にもとめなかっただろう。津田を見ていると彼が異性である事を意識してしまう…。
 家はなかなか大きく、立派な地下室もある。気が付けば私は津田と親しくなっていて、彼の人となりに感心した。それが恐るべき才能だったとは知らなかったが。

 津田め、卑劣な…目が覚めると昼間奴が案内した地下の寝室で私は拘束されていた。津田は魔法の知識が深いようで、もしかしたら戦時中政府か軍――この国で軍という言い方はまずいな――の元で働いていたのかも知れない。武器もなく、魔法も使えず、力も出せない。ぞっとする話だ。

 もう何日経ったのかわからない。津田は私を穢し、調教してきている。初めてを奪われた時は痛くないようにと何かの薬を使って…なんて最低な男なのかしら! 必ず脱出しなければ。
 しかし暴れようという気になれない。それどころか逃げる気力さえ…奴が何かの術を使ったに違いない。

 津田のパターンがわかってきた。私を初めて穢した時は何かの薬を使って私を更に弱らせたが、その時でさえ私が苦痛を感じているかどうかを覗いながらだった。ここは地下なのでもう何日経ったのかわからないが、奴は不定期の間隔で発情したように背後から私に触ってくる――もちろん胸や性器に。しかし奴の太い腕は不愉快で自分勝手にもぞもぞ、いやごそこそと無遠慮に弄ってくるわけではない。むしろ津田は明らかに私を気持ちよくさせようとしてくる。
 口で奉仕を強要してもこない。最終的には奴の手や口で息も絶え絶えになり、私は深い屈辱を感じる。しかし私が拒むと奴はそこで打ち切るし、本番に至った場合も中には出さない。奴は必ず避妊具を使うし、私が絶頂の快楽で痙攣したりやめてと頼んだりした場合は私が落ち着くまで気遣う…そういえば何日か過ごすうちに、私はキスを拒まなくなっていた。悔しいはずなのに!
 やがて私はセックスの本番も拒まなくなった。実際我々は同棲しているようなもので、奴は何から何まで私の世話を焼き養っている。例えば私が事後に放心してそのまま眠ると、奴は全ての後片付けをしてくれている。だから起きた時には体がサラサラになっている。
 奴が家を空ける時は逃げ出すチャンスである。最初の夜以降私は手錠などの拘束具を使われていないから家の上階や庭にも行ける。しかし駄目だ、何故か逃げ出せない。そして奴が家を空けている間は、私は無心に自分を慰めた。ベッドや服に染みついた津田の匂いをおかずにして、声をあげながら何度も何度も…私は何をしているのだろう。

 今日の体験は特におぞましかった。
 奴は私を何度か達しさせてヴェルも気持ちよさそうだねと言ってきた。私は口ではそんなわけがないでしょと怒鳴った。それを聞いて奴はいつも通り微笑みながら下手ですまないと謝る。しかし本当はどうしようもないほど気持ちがよかった。何度もそうしてきたように、奴の体へと必死にしがみつきながら耐えた。プライドは既に崩れつつあるし、それに内心奴が優しく抱きしめ返す時の感触と、散々喘いだ後ビクビクと震えながら荒い呼吸をしている私を落ち着かせようと背中や頭を優しく撫でる感触が癖になりつつあった…私の翼も手足と同じく奴へと絡まりつく。
 それから数分経って奴は避妊具を交換しながら、もう一度してもいいかと聞いてきた。私はベッドで仰向けになったまま顔を隠し、好きにしたらいいじゃないと言い放った。言葉と裏腹に私の下腹部はジンジンと熱を帯び、胸もドキドキとしていた――最近ではいつもこうだった。
 問題はその後だ…あれはなんだったのだろうか? 奴はいつも通りの慎重さで私の知らない感覚を刻みつけた。一番奥を突かれた時に私は今までにないような声をあげて必死に津田の逞しい体へとしがみついて耐えた。奴は私を優先するから私が慣れてくるまで待ってくれた。我々は、これではまるで…。
 ヴェル、大丈夫だったかと聞きながら津田が私の体をシャワーで洗う。奴に触られた時に私はさっきまでの体験を思い出してビクッと震えてしまった…津田が眠った後、私は共用のベッドから抜け出してトイレに行った。その夜は結局何度も奥を突かれた感覚を思い出しながらオナニーに浸り、今更思い出したような悔しさを感じて泣いた。津田がやってきて、奴は私を淫乱だと罵るのかと思った。だが奴はいつも通り私を大切に扱った…津田に優しく抱きしめられながら、私は更に泣いた。だが何故だろう、奴はどこか後悔しているようにさえ見えた。

「解放するって、どういう事…?」
「言葉通りだ。私は卑怯にも君に屈辱を与え続けた。私は君が欲しかったから卑怯な手を打ったんだ」
 次の日の晩、津田は窓の外の月を眺めながらそう呟いた。
「こっちを見なさい! 今更何なの!?」
 なんで? 今日は気持ちいい事しないの…?
「君は…本当に不幸な女性だよ。下衆の目にとまったばかりに、その体を穢された。さて、君は再び魔法を使ったり武具を召喚できる。君にかけていた術は全て解除してあるからもう自由だ。立ち去ってもいいし、通報してもいい…バレない自信があるなら殺してもいい」
 確かに力が戻っている。また以前のように…以前のように…以前の…あれ?
 待って…。
「謝っても仕方ないが、あの日山頂で君を一目見て…馬鹿だね私は」
 待ってよ…。
「人は魔の影響を受けて調和し、世界的にも戦前と比較して治安は遥かに良くなった。だというのにとんでもない凶悪犯が生まれてしまったな。今更何をかっこつけて責任を取ろうとしているのかと思うだろう。自分勝手なのは事実だけど、君には本当に悪い事をしてしまった」
 待ってったら…。
「本当にすまない。ごめんなさい、アヴェロン」
 もうやめて…そうじゃないの。
「そんな他人行儀に呼ばないで! いつもみたいにヴェルって呼んで!?」
 もう駄目だ。私は完全に墜ち切っている。これも津田の狙いかどうかはわからない。でも少なくとも本当に後悔してるみたい。でも私はもう駄目…津田ともっと気持ちいい事したいって体が求めてるもの…心も同じ。
「ね、もう生意気言わない。何でも言う事聞くから。ね、私をはけ口に使っていいから。ね、ね?」
 津田の腕を掴んで私は股間で挟みながら彼の手に擦りつけた。みっともなく雌として懇願している。みっともない私、そう、これが今の私…。
 津田はしばらく面食らっていたが、やがて私を安心させるために抱きしめてきた。やった、津田も雄なんだわ…!
「ね、義人の好きにしていいから、だからお願い、もっと気持ちよくしてっ!」
 私はもう天使ではない。

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勢いで書いてみると予想以上に内容が倒錯していて苦笑。

14/12/25 19:51 しすてむずあらいあんす

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