読切小説
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ケルピーは意地悪じゃないですよ


「ただいまフリーハグ実施中です、ぜひ」

「水底に連れて行こうとしてない?」

「してない、してない」

「ケルピー 〇生息地…湖 〇気性…『意地悪』」

「誰が意地悪ですか!?」

「ケルピーじゃない?」

「ワタシ、ケルピージャナイデスヨ
 ケンタウロスデスヨ」

「ケンタウロス 〇生息地…草原 森林 〇気性…狂暴 好色」

「私らより酷い事書かれてて草」

「ケルピーじゃない?」

「ケルピーチガウ、ケルピーチガウヨ」

「ならお酒は飲む?」

「嗜む程度に」

「ならやっぱりケルピーか…」

「ケンタウロス的にはどう答えるのが正解だったの?」

「『私は酒癖が悪く、酔っ払うと自制出来ません』」

「それって種族の問題じゃなくて個人の話じゃない!?」

「いや、種族的に酒乱、しっかりと図鑑に書いてある」

「酒乱扱いはちょっと勘弁してほしいので…やっぱりユニコーンで」

「角はどうしたの?」

「家に忘れました」

「ケルピーとしての誇りも?」

「水の中に落としてしまったみたいなので一緒に探していただけますか」

「絶対引きずり込んでやるというケルピーとしての誇りを感じられていいね」

「安心してください、ケルピーじゃないですよ」

「でも角じゃなくて水の王冠被ってるじゃん」

「好きなんです、はご〇もフーズ」

「シーチキン美味しいもんね」

「初めて見た時、『え、セイレーンのお肉!?』ってびっくりしちゃいました」

「分かる、シーホース(タツノオトシゴ)って言われたら
 ケルピーのことかと思うよね」

「それはちょっと違いますね、私は淡水住みですし、
 しいていうならウォーターホースになります」

「やっぱりケルピーじゃない?」

「ケルピーじゃないです」
 
「背中に乗ると水底に連れていく?」

「いかない、いかない」

「清純そうな雰囲気で人を騙そうとする?」

「騙されて何か不都合でも?」

「水中でめちゃくちゃにされるのはちょっと…」

「魔物娘に捕まったら陸海空どこでもめちゃくちゃにされるのに何言ってるんですか」

「それもそうだった」

「でもケルピーは安心して身を任すことができます」

「安心した途端にめちゃくちゃにするのは意地悪すぎない?」

「正直、自分でもそう思うけどこれはもう性癖ですから」

「性癖ならしょうがないか」

「水と自分との境目が分からないくらいドロドロに犯してあげますよ」

「それは普通に怖い」

「コワクナイ、コワクナイヨ」

「この安心させる気のないトーク力、これはマジでケルピーじゃないかもしれない」

「ケルピーです」

「穏やかで控えめな笑顔」

「ゲヒッ!」

「穢れを知らない清純さと無垢さ!」

「水中だとどこでもトイレできて楽!」

「だめだね」

「会話選択肢の一番ダメそうな選択肢ばっかり選んでしまうタイプのケルピーです」

「ネタプレイはもういいから真面目に攻略して」

「貴方だってネタプレイみたいな人生送ってるのに」

「それは意地悪の範疇を超えた暴言だぞ」

「私の言いたい事はズリネタでひとりプレイするよりも、
 真面目に私を攻略してふたりプレイした方が良いということです」

「真面目に攻略するつもりだったから魔物娘図鑑を読み込んでんだよね」

「魔物娘図鑑が出て、得した魔物娘と損した魔物娘がいると思うんですよ」

「ケルピーとか思いっきり後者だな」

「景気よく手の内載せちゃいますからね、今からでも不都合な所は黒塗りにしてほしい
 私たちのところだけでいいから」

「そんなんだから意地悪って書かれるのでは?」

「でもどうせどの娘に遭ってもデスエンカですよね」

「大抵はそうなんだけど、ごく稀に対策できる奴がいるんだよね、
 『ぬれおなご』さんとか『ナイトメア』さん『ケルピー』とか」

「なんで私らだけ呼び捨てなんすか」

「けるぴーちゃんって言うと語感がどうも…液体にも縁があるし」

「やってること的にはショゴスさんが適任だと思いますけどね」

「そんなわけで対策できる相手には対策していこうってわけだ」

「ちなみにケルピー対策ってどうやるんですか?」

「ボディタッチしないとか背中と口車に乗らないとかだろ」

「ボディタッチしたり誘惑に負けたりして無事に済む魔物娘っています?」

「心臓に杭を打ち込むと死ぬ、みたいな話だった」

「むしろ他の娘たちと比べれば私たちってかなり穏やかで優しい魔物だと思いますよ
 同じ水辺にいる魔物でもバニップちゃんとかサハギンちゃんとか問答無用ですからね」

「口下手だから仕方ない」

「私だって会話が下手だってよく言われるのに…」

「お前がケルピーの中でも特殊個体だったみたいでよかった」

「貴方も人間の特殊個体だと思いますけどね」

「『みんなちがって、みんないい』って、やつ」

「あ、それ知ってます『なんでもおまんこ』ですよね」

「違うわ。それだとまんこの感想みたいになるじゃねえか」

「名詩になんてこと言うんですか
、題名しか見ないからそんな下品なことが言えるんですよ」

「釈然としない」

「そういう時はこの湖を御覧ください、
 輝く水面に萌える草木、風の音に水のせせらぎ…ね気分がすっきり」

「せせらぎは川に使われる言葉だろ」

「〇気性 意地悪」

「人間が図鑑に書かれたらボロクソに書かれそう」

「そうならないように日頃から善行を積んで置けばよいのでは?」

「やろうと思っても中々出来ないからありがたいんだよ」

「なら、湖周辺のゴミ拾いとかどうですか
 いくら綺麗な湖といっても落ちてるもんですから」

「こんな所にまでゴミが落ちてるのか、誰が捨てているか知らんが信じられん奴だな」

「まったくですね、湖をゴミ箱と勘違いしてるんですよ」

「シーチキンとビールの空き缶ばっかり…
 わざわざ湖に来てまで缶詰を肴に酒を飲むなんてわびしい奴だな」

「別にいいじゃないですか!」

「…このゴミ、ケルピーのじゃない?」

「ケルピーのじゃないですよ、
 決して袋が破れて散乱したゴミを回収させてるわけではないですよ」

「自分の生息地を自分で汚染してる生物って初めて見るな」

「私の目の前にもいますけどね」

「拾った分のゴミ、湖にぶち込むぞ」

「手伝ってくれたお礼をするんで勘弁してください」

「相場的には竜宮城あたりかな」

「せめて金の斧か銀の斧にして、淡水にして」

「湖から急に斧を持った人が飛び出して来たら絶対怖いからそっちは結構」

「それくらい安心させる雰囲気と話術があったんでしょうね」

「お前も見習うべきかもな」

「ええまあ、女神と違って相手の警戒を解くのにかなり手こずりましたからね」

「やっぱり嘘を吐くと信用は得られないってことだな」

「最初からケルピーですって言ってしまうと、すぐに逃げられてしまいますから、
 会話の取っ掛かりにはあれでよかったんですよ、嘘も方便です」

「落とした斧が帰ってこないタイプだな」

「私が落とすのは斧じゃなくて木こりの方だし、帰ってこなくてもいいんですよ」

「魔物娘って基本的に金銀財宝に興味なさそうだしな」

「それじゃあ、竜宮城って程ではありませんが私の家にご案内しますよ」

「ビールと缶詰しかない、とかじゃないよな」

「お茶とお菓子ぐらいあります!バカ言ってないで行きますよ」

「…いや、ちょっと待て、本当に水の中に入るのか?」

「ご安心ください、私の背中に乗れば水の中でも息ができます。
 図鑑にちゃんと書いてあったでしょ」

「そういえばそうだった。
 本当に竜宮城の亀みたいだな、よいしょ」

「では、私の家に出発しんこー!」

「鞍もないから不安だったけど、案外乗り心地がいいな、
 これなら安心して乗ってられる








……あれ?」






「それじゃ、めちゃくちゃにしちゃいますね♥」
24/06/10 14:48更新 / ヤルダケヤル

■作者メッセージ

「たとえ逃げても普通に追いかけて捕まえますけどね」

「下半身馬だしな」



読んでいただきありがとうございました。

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