読切小説
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魔剣が嫁を探してくれるというのに三千里どころではない剣
 
 みんな!おはよう!私、魔剣!つまりカースドソード!名前は・・・ないよ!残念ながら魔剣って言ってもピンからキリまでいるからね。仕方ないね。

 新しい魔王に封印された時は、これから一体どうなるんだろうって不安だったけど、案外何とかなるもんだ!

 こうやってもう一度元気に娑婆に出ることが出来たんだから剣生ってわからないね!

 昔はもっとイライラクサクサしていた気がするけど今じゃムラムラモンモン!晴れやかな気分!まるで生まれ変わったみたいだよ。

 そんなわけで私の封印を解いてくれた新しい持ち主様を紹介するね!

 はい!じゃーん!このお兄さんです!

 え?ずいぶん冴えない小男ですって?チッチッわかってないなぁ、今時容姿なんて気にする人の方が少ないんだよ・・・と私の本能が直感しているよ!

 これからよろしくねお兄さん!



・・・とまあ、こんな感じで媚びれば誤魔化せるだろう、多分。完全に淫魔の魔力に侵されなければ封が解けないなど、現魔王も質の悪い封印をしてくれたものだ。

 しかし、本当に冴えない男だな・・・容姿は実際どうでもいいが、あまり小さいと剣を振るにも不利になりかねん。私を満たすためにこれから多くの人間を切らねばならぬのにこの男で大丈夫だろうか?

・・・まあ、働き様によっては私を抜いた褒美として、我が主人と認めてやっても良いが

・・・働き様によってだからな?


――――――――――

 ついに俺にも運が向いてきたのだろうか。まさか雨宿りをしていた洞くつの奥に、こんな大層な物が封印されていたとは夢にも思わなかった。カースドソード、話には聞いていたが自分が見つけることになるとは。

 初めは何かが大量の鎖に巻かれているとしか認識できなかったが、松明で照らして柄らしきものを見た瞬間、これが封印された魔剣であることを理解した。厳重に巻かれていた鎖も長い時を経て根元のくさびが朽ち果てており、簡単に外すことが出来た。それほどの長い年月に晒されていたはずの魔剣は、錆は愚か刃こぼれの一つも見当たらず、火に照らされて黒い刀身に紅い一本の線を怪しく輝かせていた。

・・・

 しばらく刀身に見惚れていた。俺は意を決して柄を握り、突き刺さっていた刃を引き抜くと、あっさりと地中から脱し、全身を俺の前に表わした。目の前で妖光を放つそれは何者をも圧倒する禍々しさと、どこか惹かれる艶めかしさを感じさせた。

 そのまま握っていると得体のしれない何かが流れ込んでくる、これが魔剣か。
だが、流れ込み続ける妖気は肩に届く前に汗が噴き出るように腕から抜けて落ちてしまった。やはり、図鑑に記載されていた通り、俺を浸食することは叶わないようだ。

 人間の女が持てば人斬りの衝動に駆られた挙句、体を乗っ取られ伴侶が見つかるまで闇雲に剣を振り続けることになる。だが、男が持てば自分の好いてくれている女性を探し、斬りかかってくれるというではないか!これでやっと俺も運命の相手と愛を育むことが出来るぞ!

さあ!魔剣よ、俺を運命の相手に導き給え!!


――――――――――

 ・・・・・・なんということだろう。このアホは私をキューピッドの矢か何かと勘違いしているようだ。私は魔王に作られし魔剣。そんな恋占いのような真似が出来るか!

 と言いたいところだが、何故かは知らんが今は出来る。おそらく、強者に反応しそこに導かせる機能がこの時代の魔力によって変質してしまったのだろう。我ながら情けない限りである。

 仕方ない。望まれているならやらざるを得ない。少しでも期待した私が馬鹿だった。とっとと女を探して魔物化させて、こいつが満足したら他のまともな奴の所に行こう。

んぬぬぬぬ・・・ハァ!







・・・あり?





――――――――――

 なんだろう、限りなく反応がない気がするのだが。もっとこう・・・脳内でピキーン!みたいな感じかラピ○タの飛○石みたいにビームが出るものだと思っていただけにこの無反応さは正直拍子抜けである。

 まさか、俺の事を好きな女性がこの世にいないというわけではないだろう。もしかしたら該当女性が多すぎて一番俺の事を好きな女性の検索に時間がかかっているのかもしれない。きっとそうだ。

――――――――――

 そのまさかだ。いくら探しても見つからない。確かにこのナリでは人間にはモテないだろうが、一人くらいいたって良いものだと思うが・・・

 こいつの記憶を遡って脈がありそうな女を探してみても箸にも棒にもかからない。別に悪い男ではないのだがなぁ・・・

――――――――――

 いつまで経ってもそれらしい事が起きない。本当に俺を好きな女性が見つからないのだろうか・・・?

 ・・・残念だがそうならそうで潔く受け入れるしかないだろう。

――――――――――

 そうだな。そして私のことも潔く受け入れて人を斬りまくる方にシフトチェンジするのだ。

――――――――――

 では、この魔剣はもう一度ここに埋め直して、他の愛を求める人に使ってもらおう。

――――――――――

 そうじゃないだろ!!お前は魔剣を何だと思っているのだ!

 このままではまた地中で過ごすなど真っ平御免だ!

 ええい!もう適当に言ってしまえ

――――――――――

 魔剣を地中に再び突き刺そうとしたその時だった。魔剣が一層赤く輝いたかと思うと私の頭の中に声が響いた。

――えー・・・あー・・・聞こえているか。私だ。

お前が求めている女はえーっと、多分・・・東の島・・・?とかにいるかもしれない。

あと、これから私の所有者となるのだから小まめな手入れと人斬りを忘れるなよ。

以上だ――

 それだけ言うと、魔剣から出ていた光は元のゆらめく様な淡いものとなった。にしても、かなりアバウトだったが東の島というのは何処を指すのだろうか?

 東の島といえばジパングが有名だが、小さな島も合わせれば無数に存在する。その中からしらみつぶしに運命の相手を見つけ出すとはなかなか骨の折れる旅になりそうだ。救いなのは旅の安全が確約されているくらいか。

 手入れは良いとして、問題は人斬りの方だ。まあ長い旅の間、何度か振るう機会があるだろうし、その時に存分に暴れさせれば、無理に斬っていく必要もないだろう。

――――――――――

 ・・・自分でもどうして東の島などといったのか分からないが、何とか誤魔化せたようだな。私を護身用具程度にしか思っていないのは気に食わないが、この際良いだろう。一度人を斬ってしまえば私の良さに病みつきになるはずだ。

 その頃になれば運命の相手なぞ、頭の片隅にも残っていないだろうしな。とにかく私を早く外界に出すのだ!

――――――――――

 さて、そうとなればすぐにでもここを発つ準備をしなければ。長旅の支度はもちろんだが、まずはこの魔剣に合う鞘を鍛冶屋に作ってもらわな

――待て。『鞘』を作るだと?ふざけるな、私をあんな窮屈な物に閉じ込めようなどと絶対に許さんぞ!――

 と、魔剣の声が割って入って来た。すっかり俺の考えることは筒抜けらしい。それなら少々手間だが包帯で巻くというのは

――却下だ――

 そう言われてもなぁ、このまま持ち歩くのには大きすぎて不便だし、何より町に入れるかどうか怪しくなるなぁ。もっと言えば島を渡る船にさえ乗れそうになくなるなぁ。困ったなぁ。

――うるさいな。そんなのお前がどうにかしろ――

 了解。

――おい、待て。なんで私を地面に刺し直した――

 逆転の発想で、それっぽい人をここに連れて来てここで判定してもらおうかなと。

――やめろ!逆転しすぎて捩じ切れてるぞその発想!

 ・・・分かった。不本意だが私が折れてやろう。これでいいか?――

 不承不承に魔剣は、切っ先から焼けた鉄のようにドロドロと溶けだした。そして、俺の手から腕の中ほどまで覆っていき、徐々に元の硬さを取り戻し、完全に固まった頃には魔剣と似た装飾が施された手甲が出来上がっていた。

 手を握って手首を回してみたりなど一通り動かしてみたが一切邪魔にならない。それに重さを感じないほどに軽いのだ。何より特徴的なのが温かさと質感だ、人肌に包まれているようにじんわりと温かく、金属とは思えない柔らかさで、微かに鼓動しているのが感じられる。これなら一日中着けていても問題ない。


――・・・むー・・・やはり近すぎて落ち着かん――

 魔剣がぼそりと何事かを呟いた気がした。なるほど、近すぎて魔剣の思考までこちらに流れ込んできてしまうのか。まあ、これから長旅の困難さを思えば些細な事だろう。むしろ、スキンシップが取りやすくなっていいかもしれないな。これからは大事な相棒になるのだから。

――ふん、お前がちゃんと人を斬ればだがな――



――――――――――

 魔剣が手甲に変わってくれたおかげで、難なく町に入ることが出来た。俺の貧相な体と豪奢な手甲の組み合わせで多少視線を感じたが、それといって支障なく買い物も出来た。そんなわけで、旅の支度を終えた俺は宿で休息を取ることにした。

 ――ふう、やはり私はこの姿でなければな――

 部屋に入った途端、魔剣は勢いよく俺の手から離れ、元の剣になってベッドの上に横たわった。どことなくその一連の動作にだらしなさ感じつつ、魔剣の手入れをしようと今日買った砥石や油をバッグから取り出すと

――なんだ、その石と水は?――

 不思議そうな声が頭に響いた。触っていなくても会話できるのか。

――もうお前の波長と合わせてあるからな、遠くない距離なら離れていても会話できるぞ――

 はるか昔の品物と思っていたが、今の人間の技術に勝るとも劣らないのは流石、魔剣といったところか。

――ふふふ、当然だ!――

 得意気な魔剣をベッドから持ちあげて、錆や刃こぼれしている部分がないか丹念に調べる。

 剣先は向けるだけで対象を穿つのではないかと思われるほど鋭く、肉厚な両刃は両断も破砕も思いのままに出来るだろう。真黒の刀身の中央には、紅く光る樋が切っ先近くまで伸びている。その光は呼吸するかのように穏やかに明滅を繰り返し、魔剣を一種の生物のように思わせる。

 長いこと地中に埋まって、目立たなくともかなり傷んでいるだろうと覚悟していたが、全くの杞憂だった。それどころか改めて魔剣の華麗さに見惚れるばかりだ。人を斬るためだけの道具という枠を越えて、一種の芸術品とさえ呼べる。はるか昔の魔王が悪意の限りを込めて創造したと言われているが、如何なるものでも研ぎ澄まされたものは美しいのだと実感する。人間を超越した存在が創り出したという一点では、魔王の産物も神の産物も同じであり、この魔剣もまた神器に匹敵す

――す、ストップ!一旦ストップだ!――

 取り乱して魔剣が脳内の思考に割り込んできた。

――お前の頭と波長を合わせたと言っただろうが!思っていること私に丸聞こえだぞ!――

 ああ、そうだった。しかし、そう言われてもこちらとしては対策のしようがない。そもそも、別に貶しているわけでもないのに。

――だとしても、あんなこそばゆい事言われ続けられるのを我慢できるか!
いいか、お前はもうあんなこと考えるな!――

 自分で勝手に覗き見て何を言っているのだこのポンコツは・・・

――誰がポンコツだ!――

 まあいい。とにかく手入れをする必要なさそうだ。

――そうなのか?――

 錆も刃こぼれもないし、砥石や油を使うとかえって痛む。

――なに、砥石!?お前は私を包丁か何かだと思っているのか!――

 人斬り包丁でしょうに。

――三枚に下ろしてやろうか、お前を――

 真面目な話、普通の刃物と手入れの仕方が違うなら先に言ってもらわないとこちらも分からないです。

――されたことがないから分からんな。人を斬って精を補充すればいいんじゃないか?――

 あー・・・そういうのか、ちょうどいい

――そういうのだ。だからさっさとそこら辺の人間を斬って来――

 インキュバスになれば体も丈夫になって長旅もラクラクだ!

――へ?――

 魔剣を一息に胸に突きたてると、赤く透き通った蒸気のようなものが切り口から噴き出す。それと同時に俺は強烈な倦怠感に襲われ、ベッドに倒れ込んだ。

――な、な、何をしているんだお前!!!!――

 胸に突き刺さった魔剣が今までにないほど激しく明滅し、紅い光を部屋中に乱反射させている。

 見てのとおり、精を差し出す代わりに魔力を貰ってインキュバスになって病気や怪我に強い体を手に入れるためのだ。魔剣は精を補充し自分の手入れを出来るしで、まさに一挙両得。

――ば、馬鹿か貴様!まだ出会って一日も経ってないのに、私にお前の精を啜って魔力を寄こせなどと・・・この変態が!!――

 さっきまで人を斬って魔力を寄こせとやかましかったのに、何が不満だというのだろう

――それとこれとは別問題だ!持ち主の精を吸ってしまったら・・・!――

 吸ってしまったら?

―― 〜〜〜〜っ!!ええぃ何でもない!そのままさっさと寝てしまえ!!――

 まさかそこまで嫌がるとは思ってもみなかった。何故いけないのか分からないがすまないことをした。明日の朝に謝ろう。
 どちらにしてもこの疲れ方だとこれ以上は起きていられない。胸に刺さった魔剣を引き抜いたところで、落ちるように意識が遠ざかった。

――――――――――

 まさか自分の精を差し出してくるとは・・・何とか私の魔力があいつに流れるのだけは避けたが、間一髪といったところだった。

 今の魔王に替わって、我々魔剣は血ではなく精を糧にすることを強いられることになった。それと同時に人間、もっといえば男に対して『愛情』という感情を芽生えるように変容させられてしまった。

 事実、あいつの過去の思い出や感情が流れ込むたびに・・・

 いや、絶対気のせいだ。

 ・・・にしても、飛び散った精がまだ残っているのか。案外長持ちするものだな。私には味覚も嗅覚もないはずなのだが、この漂っている精が堪らなく美味しそうに見えて仕方ない。








 ・・・まあ、一口くらいなら。






――――――――――

――いつまで寝てるつもりだ?おい、起きろ―― 

 不機嫌そうな声で目を覚ますと握りしめたままだった魔剣がすでに手甲の姿に変わっている。カーテンを開けると日が昇って間もないようだが、何を急かしているのだろう。

――お前は何も話さないし景色も変わらないしで暇だ、早く出発しろ――

 そんな暇なら、今度から俺の夢の中にでも入ったらどうすかね・・・

――考えておく――

 この時間に二度寝するとおそらくチェックアウトの時間に間に合わないだろう。しょうがない、早いがこのまま出発しよう。

――あー・・・その前に一ついいか?精の事なんだが――

 あれはこちらの浅慮で失礼なことをしてしまいました。これからは気を付けます。

――そうじゃないんだ。実はだな・・・昨日は食わず嫌いで嫌がったが、やっぱり精を吸収すると調子が良いみたいなんだ。だから・・・これからも寝る前にあれをやってくれないか?

 断じてお前の精がクセになってしまったとかそういうのじゃないからな!

 もちろんタダでとは言わん。お望み通り私の魔力も分けてやる。悪くない話だろ?――

 それはこちらとしては願ったり叶ったりですけど・・・

――よし、それなら契約成立だ。これからよろしく頼むぞ・・・我が主――

 最後の言葉だけ聞き取れないほど不明瞭だったのが気になるが、これで俺もしばらくすればインキュバスになることが出来るだろう。独身童貞のインキュバスとは自分のことながら笑いが出るが、旅をしているうちにきっと相手も見つかることだろう。

 しかし、いつ見つかるか全く想像できないのも不安だな・・・せめて何か手掛りがあればいいのだが。例えば名前とか特徴とか・・・


――あー・・・それはだな・・・ちょっと遠すぎてまだ分からんのだ・・・うん――

 なるほど、近づけばより正確に分かってくるのか。少しだけ希望が見えてきた。

 そういえば、魔剣、魔剣と適当に呼んでいたが彼女?に名前はないのだろうか。

――そんなものはない――

 不機嫌そうにそれだけ吐き捨てると、押し黙ってしまった。それなら俺が名前を付けようか?そうだな。ラディスとか・・・


――余計なお世話だ!そんなこと考えてないでとっとと出発するぞ!――

 それもそうだ。いくら早めに出るからといってあまりもたもたしている時間もない。

 これからどんな旅になるのか見当もつかないが、この魔剣と一緒ならば寂しさを感じずに済みそうだ。こうして俺たちは東の島に向けて旅を始めたのだった。 




――――――――――
――――――
―――



 あれから我が主と私はひたすら東に向けて歩き続けた。道中いろいろあったがここでは割愛しよう。そしてついに東の果てジパングまで到達したのだ。結局、ここに至るまで主様は一度も自分以外を斬ることもなく、そのおかげ私の身は主様の精にすっかり染まってしまった。昔の私ならば激怒するだろうが、今はそう悪くないと思っている。

 ここに来るまでにきっと運命の人など諦めていると思ったが、我が主は私というものがありながらまだ忘れていないらしい。はてさてどうするか・・・


――――――――――

 ついにジパングにまで着いてしまった。途中何か所か島にも寄ったが、魔剣が反応することはなかった。そんな魔剣との付き合いも長いものになったが、昔に比べると随分丸くなった気がする。

 ジパングは本命といえば本命だったので、そこまで焦りは感じない。だが、運命の人との出会いが目前に迫った今、自分が今まで探してきた運命の人は一体どんな人なのかドキドキしてきた。

・・・そもそも、俺はどんな人が好きなのだろうか?がむしゃらに旅してきたが、自分はどんな人と恋をしたいのかという根本的な部分を今まで考えたこともなかった。

 俺がこの見た目だから容姿はあまり関係ない、なにより大切なのは性格だ。俺の事を理解してくれて、ずっと傍にいても苦にしないような人が良い。それに冗談が言い合えたらなお良し。そして、何か困難なことに直面しても俺と手を取って一緒にぶつかっていける人。そんな人だったらいいな。まあ、こう注文が多いと高望みするなと魔剣に怒られそうだ。実際にこれに全部当てはまるような女性なんて今まで一度もあったことがな・・・いや、一番条件に合う奴が右手に付いているな。


――ん?主様、何か言ったか?――

 最近ではコツをつかんだので頭の中で思っていることがダダ漏れになることなく、魔剣に語りかけたい時だけ話せるようになった。じゃないと、手入れをしているときなど魔剣が照れてしまう。

(いや、これから会う人がどんな人なのか気になってきたのさ)


――あ、あ〜・・・そ、そうなのか――

 毎回この話になると魔剣の答えが歯切れ悪くなるが一体どうしてなのか気になるが、彼女なりに何か思う所があるのだろう。言い淀む理由を無理に聞くつもりはない。

(ここまで近づいて来たんだから名前とか髪の色とか、何かわかった事ないの?)

――・・・ちょっと待っていろ。今からもう一度詳しく探してみる――


――――――――――

 まずい、まずいまずいまずい!

そういえばそんなこと昔言ったことあったのを忘れていた!どうしよう、何も考えてなかったぞ!流石にここまで来て何も分かってないなんていったらいい加減疑われる!

 ええい、どうするべきか!いっそのことやっぱり別の島だということにしておくか?

 そして、次の島に行ったらまた適当に誤魔化せばいい。

 ・・・ふふ、そうやってずっとこのまま当てもなく二人で旅をし続けるのもいいかもしれんな。主が他の女と暮らしているのを眺め続けながら生きていくよりも、ずっと私だけと一緒にいてくれた方が断然良い。

 そして主様が亡くなったら私も棺桶に入って一緒に眠り続けるのだ。そうすれば永遠に私だけの主様だ♥





――いや〜必死になって探しているのだが、まだ見つからないみたいだな――

(そうか・・・)

――ジパングは島国と言ってもかなり広い所だ。根気よく探すしかないだろう――

(そうだな・・・)

――どうした?いつもと違って元気のない返事だな――

(・・・もし、ジパングで見つからなかったら、もう諦めようと思うんだ)

――そ、そうか!それはそれでお前の自由だ――

(まあ、でもまだジパングに来たばかりでこんなことを言っててもしょうがないな!
じゃあ魔剣、すまないがそれまでは嫁探しよろしく頼むぞ!)

――あ・・・あぁ・・・任せておけ!――



 やった!ジパングさえうまくごまかせばこれからもずっと、主様は私と一緒だ!


 ・・・だが、ほんの一瞬だけ主様から悲しみと絶望を感じたが多分私の勘違いだろう。




――――――――――
 
 それからか、主様が時々心を閉ざして考え事をするようになったのは。表面上は今まで通りの主様だが、ジパングを旅するにつれて徐々にその回数が増えていった。

 私は彼に残酷な仕打ちをしているのだろう。だが、それでも主様と付き添っていたい。

 もし私が人間だったなら、両足で主様に駆け寄って、両手で主様を抱き寄せて、唇で主様に好意を伝えて、躰で主様を慰めたい。

 だが、私は所詮『物』に過ぎない。いくら主様を愛していたとしても、愛し合うなど叶うはずのない望みだ。女に寄生して満たすことも考えたが、主様の事を好きでもない女に寄生しても、その女が他の男を好きだったとしたらそいつの方になびいてしまうだろう。それに主様を好きでもない奴と融合などしたくない、私の気持ちが中途半端なものになってしまいそうだ。我儘なのは分かっている。だが、私にはこの生き方しかないのだ。

――主様――

(ん・・?どうした?)

――探しているものの名前が分かったぞ――

(本当なのか!?)

――ああ、ただ場所や距離は掴めず、最悪ジパングなのかどうかすら・・・それでもよければお前の事を愛する物の名前を教えよう――

(もちろんだ!教えてくれ!)

――わかった。その物の名前は・・・ラディス――

(ラディス・・・?どこかで聞いたことがあるような)

――・・・私からはそれだけだ――

(探してくれてありがとう。おかげでもう少しだけ頑張れるよ)






 思い出さなくてもいい。

 ただ、あなたにもらった私の名前を一生追い続けてくれたら幸せというだけだ。






『だいぶ拗らせちゃってるわね・・・アナタ』

――っ!?

何者だ貴様!・・・ここは私と主様だけの領域だ。勝手に踏み入ると容赦せんぞ――


『私はただのデバガメ幽霊さん、そっち風に言えばゴーストかしらね。
馬鹿みたいに魔力を溜めこんだ刀と死んだような目をしたインキュバスなんて誰だって気になるじゃない。それでちょっと波長を合わせたらアナタの恋心が聞こえてきたわけ』

――不作法にも程があるぞ、さっさと出ていけ。これは私たちの問題だ。貴様には関係ない――

『あら、そう邪険に扱わないでよ。アナタ達を助けられるかもしれないわ』


――・・・なんだと?――












――――――――――

 朝、目を覚ますと魔剣がいなくなっていた。盗まれたかと思ったが、昨日は手甲のまま俺の腕にはまっていたはずで魔剣本人が外れようと思わなければ外れないはずだ。そうなると、考えられることは一つ。

 愛想を尽かされたのだ。

 一度も人を斬らない俺に日々不満を抱えていたのだろう。俺の精を与えるだけでよいのだと思い違いしていた。何も言わずにひたすら俺が人を斬るのを待ち望みながら仕えていたのだ。

 喪失感という言葉だけでは言い表せない負の感情がぽっかりと空いた心の穴からドロドロと滲み出て来る。なぜこうなる前に気が付かなかったのか。運命の人を見つけても、見つけられなくとも魔剣がずっと俺の傍にいると思っていた。魔剣がいることを当たり前のように享受していた俺は愚か者だ。

 もう、運命の人など見つからなくてもいい。魔剣のためだったら何人でも人を斬り裂こう。だから戻ってきてくれ・・・















「どうしてそんなに落ち込んでいるんだ?」




聞き慣れた声に振返ると、いつも右手に感じてた柔らかく温かな感触に全身が包まれた。

俺を抱き寄せた手には見慣れた手甲が着けてある。


「まったく、私が主様を離れるはずなどないだろう」

 床にまで届きそうな長く艶めく黒い髪、紅く血のように鮮やかに光る瞳は、毎夜俺の胸に突き立っていた姿そのままだ。

 そして、人の体を得たことによって生物としての美しさが加わり、どのような美女も美術品も彼女には到底及ばない人外の美貌となっていた。


「・・・このような姿になっても私は私だ。
だから、これからも一緒にいてくれるな?・・・主様♥」



「もちろんだ。改めてよろしく






・・・ラディス」








終わり
16/04/25 21:13更新 / ヤルダケヤル

■作者メッセージ
少し前

――ハァ!?貴様の死体だと!?――

『そうよ、お墓も魔力の濃い場所にあるから多分体は綺麗に残っているはずよ。勿論処女!

 姿はアナタの好きにしていいわ。アナタくらいの魔力があるなら簡単でしょ?』

――いいだろう。そこまで言うならお前の死体を使わせてもらうぞ。だが、それでお前に何の利点があるのだ?――

『アタシの所の墓地が魔力の濃い場所にあるって言ったわよね。だから放っておくと死体に魔力が溜まっていって亡者として蘇っちゃうの。そうなると体に残っている生前の記憶でアタシのダンナ様の所に来ちゃうじゃない。例え自分の体だったとしてもダンナ様はアタシ以外触れさせないわ』

――お前も拗らせてないか?――


そういう訳で少々長めになりましたが読んでいただきありがとうございました。

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