読切小説
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理想の恋人作成日記
 


10月15日

 まずは元となる人形を手に入れなければならない。手っ取り早く古物店で中古の人形を買おう。…いや待てよ、そのような人形が本当に魔物娘となることが出来るのか?
 魔界と交流を持ってからしばらくが経つが、この世界そのものが魔力で充満しあちらの世界と全く同じになったわけではない。そのような状況で魔界と同じようにリビングドールが生まれてくるのだろうか。もしかしたら、未だに解明されず蔓延る者たちの依代となっているのでは…
…話がオカルティックになってしまった。とにかく徒労とならぬように新品を購入し一から自分が手を加えていった方が安心であろう。だがこんな呪術紛いのことをするのだ細心の注意を払っていきたい。
 そしてせっかく新品を買うならこだわりにこだわり抜きたい。本場の職人のオーダーメイドで目の色から肌の色まで自分好みに!髪の毛も人毛を使って…はやめておこう。さっそく探してみることにする。


10月16日

 ネットの情報力は偉大という他ない。魔界で人形を制作していたという人物が日本に住んでいるそうだ。幸い明日から連休である。明日にでも伺わせてもらうことにしよう。今からアポ取れるだろうか…

10月17日

 多少迷ったものの無事に目的の人形作家さんの家に着き、話を聞いてもらうことが出来た。勝手なイメージとして白鬚を生やした老人を想像していたが、ずいぶん若く綺麗な女性だった。そういえば電話で応対してくれた声もこれくらいの女性のものだったか、てっきり娘か孫が出たものだと思っていた。まあそれはいいとして。人形作家さんは、女慣れしていない挙動不審な俺の注文を真摯に丁寧に聞いてくれた。俺が満足できるであろう人形を作ることは可能だそうだ。それを聞いたときは思わずその場で飛び跳ねるところだった。しかし、足りない部品があるため正確な見積もりは後日送ってくれるそうだ。まあ、高くても10万ほどあれば余裕で買えるだろう。

10月21日

 見積もりが届いた。三桁に限りなく近い二桁万円だった。もうマジ無理、寝よ。

10月22日

 なぜか無性に気になって普段開けないタンスの段を開いてみた。そこには買ったまま忘れていた今年の宝くじが束になって置かれていた。まさかと思いPCの画面に映った当選番号とくじを見比べる。……これで人形が買える。

11月26日

 ついに人形が出来上がったらしい。居ても立ってもいられず連絡があった後すぐに取りに行き、なんとか遅くならずに着くことができた。
 人形作家さんが大切そうに抱えているものが一瞬人形とわからなかった。それほどまでに精巧なのに人間では決して表すことのできない美しさ怪しさが漂っていた。なるほど、呪いの人形に魅入られた怪談は腐るほどあるが、皆こういう心持ちだったのだろう。
 大切にしてくださいと人形作家さんに言われたが、言われるまでもない。俺の一生涯を持ってこの子を大切にしたいと思う。

11月27日

 我が家に人形が来た。机の上に座らせているが、男の殺風景な一人暮らしの家に華やかなものができた気がする。まずは彼女に名前を付けなければ…ベタに「メアリー」とかいいんじゃないかな?試しに呼びかけてみる。無論反応などありはしないが少しだけ顔が明るくなったような気がする。気がするだけだが。
 さて、彼女が来たというのにこの散らかった部屋は少々情けないものがある。昨日は彼女の服などを買っているうち帰りが遅くなって寝てしまったが、なかなか乱雑な状態である。このような環境ではメアリーに悪影響を及ぼすかもしれない。しっかりと片付けよう。

11月28日

 人間だれかしらの視線がなければ堕落してしまう。かく言う俺も最近は大学をサボり気味で今日もサボろうと思っていたのであったが、朝目覚めてメアリーの視線を感じるとサボってもう一度寝ようという気にならなくなった。
 人形に見られるというのはもっと不気味なものかと思っていたが、不快感や恐怖は感じない。そもそも、見られていると考えている時点でどうなのだろうか…

11月29日

 メアリー用の絵本を数冊実家から持ってきた。ただ座らせて一緒にテレビやパソコンを見させているだけではよくない気がするからだ。やはり俺の理想のレディーとして賢く教養があって欲しい。これからも少しづつ読む本を増やしていこうと思う。
 メアリーを膝の上に載せて本を読んでやったが、少し暖かかった。

12月1日
 
 朝起きるとメアリーが持ってきた絵本の中で座っていた。気に入ってくれて何よりだ。メアリーは読書家らしい。彼女の読書する姿を妄想をしてみる。窓辺で日に当たりながら読書するメアリーはまるで名画のようだ。そして俺に気付くと本から目を上げて俺に微笑みかけてくれるのだ…その日が待ち遠しい。ただ、本の読みすぎで目が悪くならなければいいが

12月2日

 メアリーの服を替えてみた。服を脱がせた瞬間にふわっとかすかな匂いがした。服自体に匂いが付いているのかと考えたが、今着せようとしている洋服からは同じ匂いがしてこない。どのような匂いかというと、花や果物のような甘い香りの中に少しだけツンとする生き物の臭いが混じっている。扇情的な芳香である。特にその匂いは下着からは顕著で、しばらく夢中で嗅いでいたがメアリーの視線で我に返った。これから毎日家を焼…じゃなくて着替えさせた方がいいだろうか?ちょっともったいない気もするが。とか思っているとメアリーからジトッとした目線が送られてしまった。

12月3日
 
 毎日着替えさせることにしたが、服をただローテーションさせるだけでは結局例のにおいが染み付いてしまうだろう。俺としてはそれはそれでいいのだが、着ている本人は嫌がりそうだ。洗濯機にそのまま突っ込むとボロボロになってしまうので、風呂場で手洗いで選択することにした。こうしてみると選んで買ってきた服は皆フリフリ満載のドレスだ。それに、人形作家さんから大きめの物を買うようにと念を押されているため、少々動きづらそうである。今度は動きやすそうな服も安ければ何着か買ってこよう。
 服を洗っていると風呂場の前でゴトンという音がした。風呂場から出てみると、メアリーが下着姿で倒れこんでいる。なるほど、服だけ洗っても仕方がない。彼女を風呂場に連れ込んで体を石鹸で撫でるように洗うと、僅かに指が沈むくらいの弾力があった。まるで人の肉のような柔らかさだ。流石魔界の人形作家さんだ。髪も短いながらもさらさらと指通り滑らかな綺麗な銀髪だ。まさに希望通りといったところである。メアリーも洗ってやるとどことなく嬉しそうな表情をしていた。それにしても、脱がせた時も思ったのだが、体の造りが思ったよりリアルに出来ている…ちょっとくらい…いや立派なリビングドールになるまでは我慢だ。

12月4日

 メアリー用の本を何冊か新たに買ってきた。あいうえお帳と少し気が早いが小学生用の教科書も買ってきてみた。少し値段が張ったが、宝くじの残りで余裕で賄える。今日もメアリーを膝にのせて本を読んで過ごした。
 ところで、最近は寒さがさらに厳しくなっていっている。メアリーにももう一枚何か着せたほうがいいだろうか。

12月5日
 
 朝目が覚めると、胸のあたりに何かが乗っているので布団をめくってみるとメアリーだった。まだ6時前だったので、そのまま一緒に寝ることにした。メアリーは人形とは思えぬほど暖かく柔らかい。おかげで胸や腹の周りを冷やすこともなかった。これからは寝るときは一緒に寝よう。

12月6日

 メアリーが来て一週間経った。なんとも密度の濃い一週間に感じた。実際に大学の講義も欠かすことなく出席したし、家に帰ってからもメアリーに申し訳が立たないので俺も勉強した。散らかった部屋もメアリーが来たから掃除をしたし、規則正しい生活リズムを送れるようになったのもメアリーが来てくれたおかげだ。本当に感謝している。

12月7日

 あいうえお帳の練習欄に、拙いながらも50音が書かれ、そしてそれの下に俺の名前と、「めあり」という文字が並んでいた。ただ、「り」というよりも「い」で「あ」と「め」が反対なのはご愛嬌といったところだろう。

12月8日

 今日はテーブルにあいうえお帳と一緒に算数の教科書が開かれて置いてあった。あいうえお帳はカタカナのページに及んでおり、教科書は例題の足し算を解いてあった。8の書き方が○を二つくっ付けたようだが、それはそれ、しっかりと答えが合っているし平仮名カタカナも昨日と比べればとても進歩している。布団の中にいたメアリーの頭を撫でながら褒めると照れくさそうな笑い声が聞こえた…気がした。

12月9日

 想像していたよりも早いペースでリビングドールへと変化している。俺はこれからそれを更に後押しするために、色々と工夫というか実験を行っていこうと思う。今の現状に不満があるわけではないが、少しでも早くメアリーと会話や今は出来ない日常を送ってみたい。
 そういうことで俺の精を与えてみようと思う。…とはいったものの流石に精子をメアリーにぶっかけるのは気が引ける。何よりそのあとの始末が大変そうだ。
 そこで私は同じ体液の、血を代用してみようと思う。多少勇気が要ったが、包丁で指先を切ってみた。深く切ってしまったらしく、血を貯めるために用意した小皿から零れそうになり、慌てて台所の水で洗い流したがしばらく血が止まらないままだった…ティッシュで何重か巻いた後テープで固定した。ペンは持ちにくいわキーボードが打ちにくくて仕方ないわ、しかもかなり痛む。
 小皿に貯めた血に筆の先を少し浸し、メアリーの唇に塗ってみた。そのままの口元も愛らしかったが紅を差したことでより一層美しさに磨きがかかった。…がなぜだろうかメアリーの表情が浮かない。まあ、まだおしゃれが分かる年頃ではないのかもしれない。血が入った小皿を冷蔵庫に入れて明日からも続けていこうと思う。

12月10日 

 朝目が覚めると、メアリーが俺が包丁で切った指先を咥えていた。ティッシュに包まれていたはずなのだが寝ているうちに取れたのだろうか。舌や歯の質感がとてもリアルだ。メアリーの口から指を引き抜いてみると不思議なことにすっかり傷が塞がっていた。そして、自家製の口紅もすっかり消えている。台所に行ってみると昨日血を入れておいた小皿がシンクの中に放られていた。
 ここまで俺の血を気に入ってくれるとは思わなかった!小皿に残していた分や指についていた分まで飲んでしまうとは、まるでヴァンパイアだな。これからはもっと血を上げたいと思う。毎回刃物で指を切るのは辛いが愛しいメアリーのためだ。この程度の痛みは甘受しよう。また唇に血を塗ってやるとまた浮かない顔を…というかこれ完全にキレてないか…?おそらくツンデレだろう。

12月11日

 今日もメアリーが切った指をしゃぶっていた、昨日よりもさらに生々しい感触になっているようだ。枕元にノートが開いておいてあった。中を覗いてみると、強い筆圧で「血 は やめて」とだけ書かれている。布団の中では指を咥えたままメアリーがこちらを冷たくじっと見ている。……もしかして逆効果だったのだろうか?
 メアリーが指をなかなか引き離さなかったが何とか引き抜いてトイレにたつと、燃えないごみの袋に入れた覚えのない新聞紙の塊が入っていた。不思議に思い中を開いてみると、一昨日から使っていた小皿と包丁が包まれていた。これはもう疑う余地もないだろう。
 部屋に戻ると空気が張りつめている。それの源であるメアリーとはもはや目を合わせることすらできないほどだ。なんとか土下座をして許してもらった(気がする)が「次はない」とはっきりと目で訴えていた。

12月12日

 血で代用する方法は失敗であった。それどころかメアリーからの好感度を下してしまった。今回は失敗しないように熟考して臨みたい。
 血で代用がダメであるならば、もっと別の観点からアプローチを試みよう。そういえば魔物は人間と同じような栄養の摂り方でも生活が出来るらしい。ならばメアリーも俺と同じ食事を与えることが可能ではないか?試しにコンビニ弁当の中身を幾分か皿に移してテーブルに置いて就寝してみることにする。
 ところで、この数日でメアリーの国語能力と算数能力またほかの教科に関しても加速度的に知識を吸収していっている。すでに低学年用すべての教科書を理解し終えたようだ。今度は高学年と中学の教科書や問題集を取り寄せるか。金は教育にケチらず使っていこう。

12月13日

 テーブルに乗せておいたご飯が半分ほど減っていた。メアリーの表情を窺ってみるがどうやら怒ってはいないみたいだ。これは手ごたえありだ。だが昨日は考えが足りなかったが冷えて固まった飯を食べさせるのは気の毒だ。メアリーを台所に連れていきレンジの使い方をみせてやる。彼女ならすぐに理解したはずだ。食べるときに温めるように伝え、レンジを床に置いて寝ることにした。
 教科書が届くまでPCの使い方とローマ字を教えることにした。これで彼女の世界も広がることだろう。まあ実際に外に出て学ばせた方がいいのだが…いろいろ理由は挙げられるが何より彼女を他の男に盗られる可能性があるのが一番辛い。小さい人間だと笑わば笑え。

12月14日

 昨日の夜にレンジの音で目が覚めた。がしかし、なぜか目を開けることも体を動かすこともできなかった。いわゆる金縛りという状態である。足音が俺の横を通り過ぎ、テーブルに皿を置く音と掠れた声で「いただきます」という声が聞こえたところで気が遠くなりもう一度眠りに落ちた。夢ではないらしく、半分減った皿の下に「ごちそうさまでした」と書かれたメモが挟まっていた。
 
12月15日

 注文していた教科書などが届いたのでメアリーにプレゼントしてみた。彼女の様子を見ると喜んでくれたようだ。それとついでにメモ帳を一冊渡した、他にも欲しいものがあればこれに書いてもらう予定だ。
 PCの履歴を見てみると、身に覚えのないページが並んでいる。こちらのほうも有効活用出来ているようだ。それにしても、青○文庫に気が付くとは大した奴だ…

12月16日

 さっそく、何冊かの教科書やノートに色々と書き込まれていたので褒めてやると明らかに、僅かにではあるが目じりが下がった。そろそろ俺の前ででも体を動かすことが出来るようになるのだろうか。まだ3週間ほどだが驚くべき速さだと思う。それよりも俺へのリアクションが顕著になったことが何よりも素晴らしい成果だ。メアリーの微笑みで時が止まったように動くのを忘れて見とれてしまったほどだ。こんな少しの所作でさえ俺を更に魅了するなんて…この子がリビングドールになることは間違いないだろう。

12月17日

 今日は帰ってドアを開けると、メアリーが玄関前で座っていた。出迎えがこんなに嬉しいものなのだと初めて知った。そして、抱き上げただいまと声をかけると、メアリーが昨日よりもはっきりと笑いかけてくれたのだ。この時の感動を俺は一生忘れることはないだろう。もう寝て、メアリーを思う存分抱きしめたい。

12月18日
 
 毎日風呂に一緒に入っているのだが、メアリーが少しづつ大きくなってきている気がする。それに髪もだんだんと長くなっているような…気のせいだと思っていたが最近のメアリーの変化を見るに、どうも思い過ごしとは思えなくなっている。言われた通り大きめの服を買っておいて本当に良かった。膝にのせていても本当の人間の少女を膝にのせているような質量を感じる。今度試しに体重計にのせてみようか…?
いや、それはメアリーが怒りそうだな…実際に伸びていたとしたら、リボンでも買ってみようか。

12月19日

 ノートに欲しいものが丁寧な字で書いてあった。料理本といくつかの食材や調味料が書かれている。もうすっかり漢字もマスターしたらしい。早すぎるといえば早すぎるが彼女の学習意欲と吸収力は人間とは比にならない、まさに人外並であるといえるだろう。にしても、急に料理本と食材とはなんだろうか?さすがにコンビニ弁当と惣菜ばかりでは、不満が出てきたのであろうか?しかし、俺は料理がからっきしで、それらよりも上手な料理が出来るとは思えないが…愛しいメアリーのためだ明日の夜からでも挑戦してみるか…
 さて、そろそろメアリーに言われていたものを買ってこよう。ついでに教材も揃えてしまえ。…本当にメアリーのためだけに当たりくじを使い切ってしまったな、もったいないとは全く思わないが。

12月20日

 期末試験が終わり家に帰ると、玄関先から食欲をそそる良い香りする。近所の家のものだろうかと少し羨ましく思いながら玄関を開けると、家の中から漂ってくるのが分かった。不思議に思いつつもメアリーを抱き上げて居室に入ると、湯気の立った味噌汁と白いご飯、肉じゃがにほうれん草のおひたし、冷凍庫には林檎がウサギに切られている。あっけにとられてメアリーの方を向くと、得意げな顔でこちらを見返していた。
 味のほうも大変良かった。味噌汁は出汁から取ったらしく風味豊かで、ご飯も丁度食べごろの温度で米もほどより硬さだった。おひたしにはジャコや鰹節が混ざっておりそれがまた味わい深い、リンゴは齧ってみるとレモンの香気が一瞬だけ口の中に広がり爽やかなアクセントだ、後に知ったのだがレモン汁に林檎を付けると色が変わらないのだそうだ。何よりも肉じゃがが驚くほどに旨かった。じゃがいもは煮崩れしていないにも関わらず芯まで味がしみ込んでほくほくとし、肉も買ってきたのは安い切り落としだったのだがそれも柔らかく旨味の出るように調理されている、他の食材も文句のつけようがない。驚くような旨さというよりかは、味わい噛み締めた後にふとこぼれる様に言葉が出るような旨さとでもいえばいいのだろうか。
 俺が夢中で食べているのをメアリーはずっと横でニコニコと眺め、俺がおいしい、と言うとさらに嬉しそうに目を細めるのだ。

 関係ないだろうが食事をした後からずっとムラムラというか…悶々というか…、下半身がいやに元気になってしまっている…仕方ない寝る前に久々に秘蔵のフォルダーを……開こうとしたがメアリーからの強烈な視線が突き刺さる。だが、もうパンツの中のものが限界寸前だ、気にせず始めてしまおうか…待てよそういえばこの子、料理ができるってことは包丁もフライパンも持つことが出来るんだよな…
メアリーをリビングドールにする前にこちらがリビングデッドになってしまうのは勘弁願いたい。かなり辛いがこのまま寝ることにしよう…

12月21日

昨日の性欲に苛まれた夜が嘘のようにすっきりとした目覚めだ。
メアリーが俺のパンツに頭突っ込んでいる以外は。愚息を口に突っ込んでいる以外は。

 根元まですっかり咥えこまれている息子をゆっくり解放すると、ぬらぬらと唾液まみれで、メアリーの口から離れるとふにゃりとくたびれてしまった。
 いろいろと言いたいことがあるが、目の前に朝食が用意されているのでそれを食べてからにしよう。

12月22日
 
 今日も同じ姿で自分の物が喰われている。昨日にやめろと言ったはずなのだが、どうやら聞く気がないらしい。まあ、誰が見ているわけでもなし、料理を作ってくれる分として好きにさせよう。おそらくは俺が寝ているうちに精を摂取しているのだろうが、実感が沸かないため少々もったいなく残念でならない。だがこれで、さらに魔物として目覚めるのならば願ったり叶ったりである。

12月23日

 本屋でいろいろと物色して家に帰ると、ベランダに俺の洗濯物が干してある。もしかして、お袋が俺の様子を見に来たのかと慌てて家に入ろうとしたが、玄関には鍵がかかったままで、俺の靴だけが並んでいる。
 家の中を見るとすっきりと掃除されて本などの家具もすべて整頓されていた。玄関先に居なかったメアリーは、トイレでブラシを持った姿で発見した。

12月24日

 鏡を見ると、自分の首に赤い跡が何か所か付いているのを発見した。虫刺されやアレルギーとも様子が違う。メアリーのおかげで健康そのものであるし、昨日掃除をしてもらったばかりで虫が出るというのものおかしな話だ。おそらく大丈夫だろう。ただ、俺が不思議そうに鏡を眺めている間中、メアリーはずっとニヤニヤと笑っているのが気になった。

12月25日

 あえて触れないようにしてきたが今日はクリスマスである。別に今年はメアリーがいるので辛くはないが、今までの癖的に苦手意識が出来てしまっていた。
 メアリーへのプレゼントは、リボンと新しい服を買うことにした。クリスマス前は短期のアルバイトも多いので助かった。ケーキも喜んでくれるといいのだが。
 料理は買わず、メアリーに任せている。きっとレストラン顔負けのディナーが待っていることだろう。こんなにうきうきとした気持ちでクリスマスを過ごすのなんていつ以来だろうか。メアリーにどうやって感謝を述べればいいだろうか。

 家に帰ると、台に乗って鍋をかき混ぜるメアリーがいた。驚いて立ち尽くしている俺を見て「おかえりなさい」と、毎日やってきた事かのように自然に言葉を発した。

ああ、愛しているメアリー























 月 日
 
 久しぶりにこの日記帳を見つけた。去年のクリスマスから日記を書くことをやめてしまっていたが、せっかくだし今後は何かあったらここに書いていこう。
 あれからそれなりになるが、メアリーはもうほぼ俺と変わりない大きさになった。確かにリビングドールはそれなりに大きくなる種族ではあるらしいが、あくまでもセックスが出来る程度へと大きくなるのが一般的らしくここまで大きいのはいささか異常である。もしかしたら原因は、俺が人形への愛情というよりも「理想的な恋人」を求めて育ててしまったからかもしれない。メアリーも気にしていないようだし特に問題はないだろう。

 月 日

 見知らぬ通帳がテーブル置いてあった、中身を見てみるとかなりの額が貯金されている。そして、どうやって作ったのかわからないがそこにはメアリーの名前が記入されていた。
 話を聞いてみると、メアリーも大学へ行ってみたいということらしい。そのために様々な言語の翻訳のバイトを行い稼いでいたそうだ。入金金額を見るともはやバイトとは呼べない給与が毎月振り込まれていた。メアリーが望むなら俺はそれを全力で応援したいと思う。


 月 日

 ついにメアリーが大学へ合格し、春から大学生だ。俺の通っている大学を希望していたが、もっと良い大学に行くことを俺が薦めたため、ここから通える大学で一番偏差値の高い大学に進学することになった。だいぶ説得には骨が折れたがわざわざ大学へと行くのだ、相応しい所で学んでほしい。メアリーなら造作なく成績を残せることだろう。しかし、自分で薦めておいてなんだが、彼女に言い寄ってくる奴も多そうで心配だ…そんな考えを見抜かれたのか最近はより一層夜の方が激しくなっている。どれだけ好きなのかを耳元でずっと囁かれながら交わりあうのは中毒性が高すぎる。

 月 日

 俺も今年で4年生、就活は始めているがまだあまり実感がないのが現状だ。メアリーは今まで通り家事全般を世話してくれる上に、かなりの生活費を出してもらっている。その上で大学も通っているのだ、非の打ち所がない。才能の少しだけでもいいから分けてほしいくらいだ。

 月 日

 いろいろと説明会など出ているが、その後に繋がらない。エントリーシートを提出しても大半がはじかれる。運よく面接まで行けたとしても、一週間後にお祈りメールだ。何回繰り返せばいいのだろう。俺はこんなに必要のない人間だったのか。メアリーが支えてくれなければとっくにダメになっている。メアリーのためにも頑張ろう。

11月26日

 今日はメアリーと出会って丁度2周年目らしい。それすらも覚えていなかった。未だに内定が貰えない。悔しく情けなくなってくるが傍でずっとメアリーが励ましてくれている。だが、気を遣ってメアリーは隠しているが大学でもトップクラスに優秀らしい。それに翻訳の仕事も質も速さも抜きんでているためかなり本格的な物を任されているみたいだ。そんなメアリーが俺みたいな男と付き合っていていいのだろうか。

 月 日

 メアリーに八つ当たりしてしまった。なんてことをしてしまったのだろう。俺は最低の人間だ。そんな俺でさえ優しくしてくれるメアリーに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。本当にメアリーの恋人として俺は存在していいのだろうか。彼女に求めてばかりで自分は小手先だけで、まともな努力など一切してこなかったではないか。ただいたずらに彼女を生み出して縛りつけている屑ではないか。そのうえ嫉妬までしているとは情けない。あまりにメアリーに相応しくない。こんな男がメアリーの隣にいて良いはずがない。別れよう。いや、今までの責任を取って死ぬべきだ。別れよう。死のう。

 月 日

 別れようと言ってみた。どんなことがあっても別れない、貴方が死ぬことも許さないだそうだ。死のうとしていることは全く口に出していないのだが、完全にお見通しのようだ。
 あんな顔をしたのは、口に血を付けさせた時以来だ。

 月 日

 大学へ行く振りをして家から逃げ出した。適当な電車に乗って、適当なバスに乗ってとにかくメアリーから離れたい一心で闇雲に動いた。自分でもわからないような場所で降りて、たまたま目についたビジネスホテルに泊まることにした。
 が、無駄だった。ホテルの部屋に入るといつものように笑顔のメアリーが待ってた。俺は半狂乱でそこから逃げ出した。心の底からメアリーを怖いと思った。
 着いたころにはもう深夜になっていたが俺は実家に飛び込んだ。きっと親父やお袋なら俺を助けてくれる。そんな望みに賭けて家に飛び込んだ。目の前には、俺の家族と談笑しているメアリーがいた。
 そしてその夜は、2階にいる両親や兄妹達に助けを求める声も出せぬまま、一晩中メアリーに犯されなぶられ続けた。
 
 
















 帰りの電車でぼーっと日記帳読み、それに回想を混ぜ込んで、彼女との今までの出会いを漠然と思い返していた。そんな俺をやはり彼女は横でニコニコと笑ってみているのだ。

「貴方、着きましたよ」

 メアリーに手を引かれ俺たちが暮らしていた家に戻っている。握られた手は、固そうで冷たそうで柔らかく暖かかった。

「私、貴方の理想そのものになれば、貴方はずっと一緒にいてくれると思っておりました」

 見慣れた道を、誰もいない道を二人だけで歩んでいく。

「でも、フフっ、理想が現実になるとそれはもう理想ではありませんものね」

 握る手に徐々に力が込められ締めつけられる。まるで少女がお気に入りの人形を連れ歩いているように。
 家が見えてきた。

「だから、私やりかたを変えてもっと我儘になることにしましたの」

 もうあの家に入ると、二度と出られない気がする。だが、彼女の手を振り払って逃げたとしても、彼女はどこまでも追いかけて俺に愛を注ぎ続けるだろう。












 ……こんな展開も理想的かもな










終わり
15/11/25 00:29更新 / ヤルダケヤル

■作者メッセージ
          みんなー!いつものいっくよー!



お久しぶりです。

アストルティア生活が思ったより楽しく、気が付いたらまた半年近く経ってました。

今更言うのもなんだけどバフォ様も書いてます。
なんか久しぶりにSS書くなら一話完結を一本出さないと
いろいろ思い出せないというかなんというか…まだ待っている方がいらっしゃる限り頑張って書きたいと思います。

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