ファラオ様ゲーム
｢やったぁ!! 2番はあたしにゃん！｣
｢え、じゃあ、3番って俺か? つかいきなりなに言ってるん…?｣鈴木
｢王様の命令は絶対にゃりよ♪｣
スフィンクスの肉食獣のような恐ろしい視線が、3番だった鈴木に向けられる。縦長の瞳孔はすでに開ききっていた。
｢にゃぁぁぁぁぁん♥｣ﾊﾑﾊﾑ…
｢や、やめろ!!…離せぇ！…｣
雄たけびを上げながら、鈴木の首元に飛び掛り組み伏せる。ジタバタと鈴木が暴れるがスフィンクスは体を巧みに使いこなし、しなやかに躱す。動物が止めを刺す様に何度か喉仏を甘噛みし、そのたびにビクビクと反応する獲物(鈴木)の様子を楽しんでいる。
その状況を女性たちはどこか羨ましそうに目を輝かせ、男子たちは口を開けたまま固まっていた。
｢やめろぉ…｣
｢やめにゃい♪｣ﾁｭﾙ…ｼﾞｭﾙ…
鈴木の抵抗が徐々にか弱いものになっていく。ゆっくりと艶やかな唇が、鈴木のよだれが垂れて開ききった口を吸った。何かを吸い取るような音が密着した口内から聞こえると、鈴木の痙攣はさらに激しさを増していく。
男性陣は未だに何が起こったのか理解できず、彫像と化している。
｢た…す…け……｣
最後にこちらに腕を伸ばし助けを求めたが、いっそう激しくスフィンクスが責めたてると力尽きたように腕を床に落とした。
｢ここじゃ、落ち着いて出来ないし。場所を移すことにするにゃ
よいひょっと、そへでは、おはひひまふにゃ〜｣
｢ごきげんよう、明日のお話が楽しみですわ｣
ぐったりとした鈴木の服の首襟を口に咥えると風のように店から出ていった。
｢………あのぉ…二人はどうなったんですか?｣
やっと口が聞けたのは、この合コンを企画した山田だった。
｢ここの近くに休憩所がございましたから、きっとそちらですわ｣
上品な微笑を崩さずに、こともなげにファラオが答える。
｢あの二人なら間違いなくお似合いの夫婦になれますわ。
もちろん、ここにいる『全員』そうなるのですが、うふふ♥｣
｢｢………｣｣
｢｢………｣｣
魔物娘達のギラギラとした気迫というか欲望というか、そういったものを湛えた瞳が耽々と男性たちに向けられている。
｢……(や…山田ぁぁぁぁ!! な、なんだこれ!!これじゃ合コンじゃなくて強姦じゃねぇか!)｣田中
｢……(俺だってしらねぇよ!! まさかファラオが来るなんて思わなかったんだ!!)｣山田
｢……(どうすんだこれ!? 高校生で人生の墓場行きとか洒落にならんぜ?)｣高橋
｢……(俺だってもっと遊びたいわ!!)｣山田
｢……(前向きに考えようじゃないか…こんな綺麗な人たちとこれからの人生を過ごせるんだ、最高だと思わんかね!!)｣佐藤
｢……(正気に戻れ!! お前の目の前にいるのは犬と蠍とミイラと元ツタンカーメンだ!!)｣田中
｢……(黙れ!!貴様には魔物娘の良さが分からんのか!!)｣佐藤
｢……(喧嘩している場合か!! おい、それよりもこの合コンはいつ終わるんだ?)｣高橋
｢……(二次会はないことにすればいいから･･･お開きの8時まで後30分だ。
それまで乗り切ればなんとか…)｣山田
｢……(王様ゲーム自体をやめる事はできないのか?)｣高橋
｢……(流石にさっき一回だけで終わらせるとなると露骨すぎる、このまま時間まで続けるしかない)｣山田
｢……(んなのどうでもいいだろ!! さっさとやめさせろよ!!
さっきから何だ、ビビって敬語でへこへこしやがって)｣田中
｢……(ならお前が言えよ!!)｣山田
｢……(え? お、おう…や、やってやるよ!!)｣田中
勢いよく立ち上がった田中は、キッとファラオを睨め付けたが、それも長くは続かない。いざ目が合うと勝手にファラオの威に圧倒されて、すぐに目を逸らしてどこを見てるかわからない。
｢お……お…お…おお…｣
『王様ゲームなんてつまらないから他のをしようぜ』たったこの一言を言うだけでこの危機終わらせることが出来るのだが、その一言が言いだせない。壊れたCDプレイヤーさながら同じ音を繰り返している。
｢どうされました?｣
｢お、おお、おお…｣
｢もしや、お体が優れないのですか?｣
｢おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……｣ｽﾄﾝ
ファラオの涼やかながら凄まじい情念の篭もった瞳で射竦められた(と勝手に思い込んでいる)田中は、口から魂が抜け出たような、息とも声ともつかぬものを吐き出し自分の席に座りこんだ。その姿は先ほどと比べると幾分か小さく感じる。
｢田中君の体調が優れないようだが、よかったら私が安静にできる場所に連れて行こうか?｣
とファラオの隣にいたメガネのアヌビス。声は心配そうだが、田中を見て舌なめずりしている。
｢だ、大丈夫です!! 炭酸を飲みすぎただけみたいですから、すぐによくなります!!
なぁ!?｣山田
｢あ…あぁ…｣田中
返事なのか臨終前の最期の呻きなのか分からない。
｢そうか…しかし田中君、自分の体調管理も出来ない何事かね?
それならいっそ誰かが代わりに管理したほうが良いと思うなぁ…私は♥｣
｢ひぃぃぃ……｣へたれ
｢……(南無)｣山田
｢……(こうなることくらい予想出来ただろうに…まあいい、弾除けにでも使うか。
俺達３人…いや２人だけでも生き残るぞ!!)高橋
｢……(…了解、男子は出来る限り時間のかかる命令を指示だ!!)｣山田
｢…皆さんいかがいたしました?｣
｢いえいえ、何でもないです
それじゃ、二回目と行きましょうか｣
｢えぇ、わくわくしますわ｣
｢皆くじは持ったかな?
王様だ〜れだっ!!｣
｢…あら? またわたくしですわ♪｣
｢…あはは、よくありますよね…
出来れば今度の命令はもうちょ〜っとソフトな方がいいかな〜っと、ご無礼を承知で申し上げちゃったり…(クソっ…またか…)｣山田
｢そ、それと長めの命令の方が盛り上がるかもしれないと存じておりますです、はい(ハズレロ…ハズレロ…)｣高橋
｢わかりましたわ♪
それなら今日の会が終わるまで１番の膝の上に４番が座るというのはいかがでしょうか?｣
｢あ、とってもいいと思います!!(2番、…実害ないし当たってもよかったかな)山田
｢俺は6番か…(いっそこれの方がよかったか?)｣高橋
｢なんだ、7番か｣佐藤
｢4番は私だ｣
アヌビスが嬉しそうに番号が書かれた棒を見せ付けた。その顔にはすでに勝利の色が見えている。
｢……ボク5番｣
｢あたしは3番だ｣
マミーとギルタブリルが残念そうに棒をテーブルに置いて溜息を吐いている。
｢お二人とも大丈夫、焦らなくとも殿方は逃げませんわ♪｣
｢……((逃げますわ…))｣山田 高橋
｢ということは……１番はキミだね?田中君♥｣
｢………はい｣田中
完全に血の気の引いた顔をしている田中に、アヌビスがジリジリとにじり寄って行く。
｢……(まあ、座られるだけだし、いいじゃないか)｣山田
｢……(安全に良い思いもできるし、割りとよかったな)｣高橋
｢……(まったくだ！)｣佐藤
｢それじゃ…キミの膝の上に座らせてもらおうか!!｣
言うが早いかアヌビスは田中の膝の上にぴったりと座った、が…
｢｢｢向き逆!!!｣｣｣
向かい合い、膝の上に座るというよりか、抱き合うといった方が正しい状態でアヌビスと田中が絡み合っている。簡単に言うと対面座位。
｢んんーー！んむーー!!｣ﾓｶﾞﾓｶﾞ
｢具合が悪そうだったからな、私がちゃんと人肌でお前を温めてやろう♥｣
｢｢(イエティみたいなこと仰ってる!!)｣｣
田中の顔面はアヌビスの胸の谷間に押し込まれ、彼は苦しそうにうめき声を上げている。
｢ん?どうした?水か? しょうがない奴だなぁ…♥｣ｽﾞｷｭｩｩｩﾝ
｢っ!!!!?｣
｢｢(やっ、やった!?)｣｣
アヌビスは、田中のコップのウーロン茶を口に含むと田中の口に流しこみ
｢…くひのなひゃもｼﾞｭﾙあたためなひぇればなｼﾞｭﾙｼﾞｭﾙ(口の中も温めなければな♥)｣
そのまま田中の口腔を弄んでいる。田中の目からだんだんと光が失われて行き、最後には目の端から涙を流して動かなくなった。
｢……(口は悪かったがいいやつだったよ)｣山田
｢……(お前のことは忘れないからな…)｣高橋
｢彼女に任せておけば田中さんもすぐに元気になりますわ。わたくし達はこのまま王様ゲームを続けましょう｣
｢｢え!｣｣
｢続けましょう｣
｢…ハィ｣
ファラオの命令に逆らえるほど、この二人には神の加護も精神力もないのだ。
｢その前にトイレに行かせてもらう｣
佐藤がやおら立ち上がりトイレへと向かって行った。
｢ええ、どうぞごゆっくり♪｣
｢……(あいつはもう、捕まる気まんまんだから余裕なもんだな)｣高橋
｢……(ああ…、だな
って、ちょっと待て!!あいつトイレと反対の方にいったぞ!!)｣山田
｢｢に、逃げやがった!!｣｣
トイレではなく、反対の会計を通り過ぎそのまま店内から出ると一目散に走っていってしまった。佐藤の座っていた席をみると、会費の分の千円札が2枚重なって置かれていた。
｢ハァ…ハァ…逃げ切ったか｣
佐藤は全力であの場から遠のき、すでに自宅近くの住宅地まで逃げ切っていた。後ろを振り返ると電灯の明かりがまばらに道を照らしているが、追って来ている者はいなかった。
｢(敵を欺くにはまず味方からってな、あいつらには悪いが俺は助からせてもらうぜ。そもそも山田のアホめ、合コンなんて慣れないことするからこんな目に会うんだ。魔物娘相手に王様ゲームを始めようとした時は正気か疑ったぜ。高橋だってひそひそ話してたつもりなんだろうが、アレじゃあ丸聞こえじゃねぇか。全く、考えの足らない奴らだ。まあ、結婚式には呼ばれてやるよ、クク、アハハハハハ!!!)｣
ブヅッ
｢え…?｣
首筋に注射器を刺されたような、ゆっくりと鋭い痛みが襲いとっさに振り返った。暗闇の中から茶褐色の甲殻に覆われた蠍のような針が首に刺さっている。そこから毒々しい紫色の液体が滴っている。
｢ちょうどよかった。あたしの家もこの辺りだったんだ｣
｢たすけ…｣
逃げようにも既に体は動かない。地面に倒れこもうとした体を抱き寄せられ、愛おしげに体を撫で回されている。
｢そそる顔をするじゃない♥ ほら、もっと抵抗しないと食べられるわよ?｣
｢ひぎぃぃぃ…｣
捕まえた獲物を毒針を何箇所も突き立て毒を流し込みながら、暗闇に消えて行った。
素早く、そして音もなく佐藤を追いかけて行ったギルタブリルを見送りつつ、すっかり広くなったテーブルにファラオとマミーが一体ずつ、そして生餌が2匹寄り添っている。訂正、隅っこで田中に乗っかって腰振ってる犬もいました。
｢ついに俺達だけか…｣山田
｢お互い、短い付き合いだったな…｣高橋
｢…ボクとは末永くお付き合いお願いします｣
｢ええ、わたくしの夫となったら永遠に一緒ですわ♪｣
｢…(ヤベェよ･･･もうすでに勝利宣言しちゃってるよ…あの二人)｣
｢…(実際詰んでるだろ…)｣
｢では、最後の王様ゲーム始めましょうか…♥｣
｢｢…もうだめだ…｣｣
いらっしゃいませー
｢ん?
……あ、あれは!!｣
ふと、来店した客に目をやると、そこには、
高貴さを感じさせる深紫の肌に
艶やかに照かる尾
邪悪さと美しさを兼ね備えた黒眼
そう
｢｢ア、アポピスさん!!!｣｣
｢!!｣
店に入って来たのはアポピスであった。彼女こそがファラオの唯一無二の天敵である。彼らは自分達が助かった事を確信した。
｢｢…(やったーー!!)｣｣
｢(俺達助かるんだ!)｣高橋
｢(ああ、アポピスさんがファラオを即堕ちさせてくれるさ!!)｣山田
｢｢(勝った俺達は勝ったんだ!!)｣｣
｢……あーあれって〜｣
｢ねえパパ！ふわとろオムライス食べた後にストロベリーパフェも食べて良い!?｣
｢ん〜毎回そう言って頼んでも、半分以上残しちゃうじゃないか｣
｢今日はお腹空いてるから平気だもん！それに残してもママが食べてくれるし｣
｢…最近お腹周りが気になってきたのよね……｣
｢多少むちっとしてた方が僕の好みだよ♥｣
｢もう♥貴方ったら♥｣
｢もー二人でいちゃいちゃして！あ、そだ私トイレ行ってくるね！｣
｢…あれ〜もしかしてアポやん?｣
｢!!!!!!!!｣アポやん
｢あら、本当ですわ、こんな所でお会いするなんて奇遇ですわぁ♪｣
｢｢(知り合いかよ!!!)｣
｢な、な、な、何であなななたたたちがこここに｣アポやん
｢…合コン〜｣｢ですわ♪」
｢家ではあんなキャラなんだねアポやん〜｣ﾆﾔﾆﾔ
｢う、うるさいわね!!あんた達に関係ないでしょう!!｣
｢親子の仲がいいのは素晴らしいことですわ〜｣ﾆﾔﾆﾔ
｢う、うぎぎぎ…｣
｢そんなことはいいからファラオさんどうにかしてくださいよアポやん!!｣高橋
｢アポやん言うな!!｣
｢アポピスなら、目の前にファラオがいるんだからやっつけてくれ!!｣山田
｢わ、わかってるわよ!
こうなったら今日こそそのすまし顔をギャフンと言わせてやるわ!!｣ｼｬｰ
｢まあ!流石にアポピスさんに本気で掛かって来られたらわたくしでも負けてしまいますわ…
ですが、わたくしを倒すのはふわとろオムライスを食べた後でもよろしいんじゃないかしら?｣ﾆﾔﾘ
｢!!!!?｣ｻﾞｸｯ
｢それにパフェも待ってるしね〜｣ﾆﾀﾘ
｢!!!!!!!!??｣ｽﾞｻﾞｸﾞｩ
｢『パパ』様も『ママ』様もお待ちのようですし｣ﾆｯﾀﾘ
｢!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!｣
ＦＡＴＡＬ ＫＯ
｢………｣ﾋﾟｸﾋﾟｸ
｢｢(えげつねぇぇぇぇぇぇ!!)｣」
糸の切れた人形のようにその場に蹲るアポピス。そこには蛇神としての威厳もクソもない。
｢あ･･･あのアポピスさん｣
｢見てない｣
｢え？｣
｢私は誰にも会ってない｣
｢そうよ、私は誰も見てないし会ってないのよ…うふ、うふうふふふ…ｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲ｣ﾌﾞﾂﾌﾞﾂﾌﾞﾂ
｢｢(完全に壊れとる…)｣｣
フラフラと立ち上がり、焦点の合わない目で親のいるであろう席に戻って行った。
｢平気だもん♪｣
｢!!!!!!!!!!!!!!!!｣ｽﾞｶﾞｶﾞｯｶﾞ
｢｢やめたげて!!｣｣
｢ふふふ…本当にアポやんはイジリ甲斐がありますわぁ♥｣
｢普段はクールなかんじなんだけどね〜｣
｢｢(非道すぎる…)｣｣
｢さて…邪魔者もいなくなったところで、やりましょうか♪｣
｢お〜｣
｢もうだめだ……｣山田
｢で〜は〜♪王様だ〜れだ！｣
｢あら、やっぱりわたくしが王様なんですわね♥｣
｢｢でしょね!!｣｣
｢当然と言えば当然ですわね、生まれながらのキングオブキングス!それがわたくしですもの♪｣
｢理由がよくわからないけど、なんか凄まじい説得力…｣高橋
｢では、2番の棺に3番も一緒に入りなさい｣
｢わ〜い｣
｢完全に誰がどの番号かわかって命令してるよこの人!!｣山田
｢フ ァ ラ オ ですもの♪
気にせず高橋さんはこちらの棺にどうぞ♥｣
いつの間にか、壁に石棺が立てかけられている。もはや突っ込むのも野暮だろう。
｢…じゃあな、やまだ…｣マミー高橋
｢高橋く〜んこれからよろしく〜♥｣
｢たかはしぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!｣
パタン
石棺は二人を中に入れると、砂のようにくずれさり何処かへ消え去って行った。
｢高橋さんも満更でもないご様子でしたわね♪｣
｢どこが!?｣
｢それはともかく、わたくしと山田さんの二人きりになってしまいましたね♥｣
｢え、えぇ…｣
｢王様ゲームではなく、ただの命令になってしまいますが、怖がることはありませんわぁ♥ じっくりと従順な旦那さまにして差し上げますわ…｣
｢この人ホントにファラオ!? 言動が完全にダークエルフなんですけど!?
うわ、やめて脱がさないで！
やめて！！こないで！！だれかたすけてぇぇぇぇぇ！！｣
｢泣こうが叫ぼうが無駄、この部屋には結界を張りましたの。ついでに駄犬たちも家に送り飛ばしたし、もはや何をなさっても誰も来ませんわ♥｣
｢たすけて!!たすけてぇぇぇええ!!｣
｢あなたの悲鳴とっても素敵ですわぁ･･･二人きりでもっと聞かせてください…♥｣
ファラオは華奢な見た目からは想像もつかない腕力で山田を捻じ伏せ、情け容赦なく服を剥ぎ取って行く。山田も必死に抵抗するが全く意味をなさず、ただ嬲られるがままにされていた。
｢いいえ…3人よ…｣ガブッ
｢ぐっ!?｣
声に気付いたファラオが振り向くより速く、アポピスの牙がアキレス腱に深々と突き刺さった。アキレス腱を噛まれた拍子にファラオは山田の体へと投げ出された。
｢ア、アポピスさん!!｣
｢待たせたわね!ちょっと結界を破るのに手間取ったけど
私はやるといったら必ずやる魔物よ！｣
｢さすがアポやぁぁぁん！！｣
｢だからそれやめて!!｣
｢う、うう…｣
ファラオが苦しそうに呻くと、流石に襲われかけたとはいえ山田も心配する。
｢あの…ファラオさんはどうなるんですか…?｣
｢あら、貴方知らなかったの?
理性が吹っ飛んで番と交わり続けるようになるのよ｣
｢うぅ!!うぅぅ♥♥｣
｢それって余計悪化したってことじゃないで、あっ
ｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ!!!!!!｣
終わり
｢え、じゃあ、3番って俺か? つかいきなりなに言ってるん…?｣鈴木
｢王様の命令は絶対にゃりよ♪｣
スフィンクスの肉食獣のような恐ろしい視線が、3番だった鈴木に向けられる。縦長の瞳孔はすでに開ききっていた。
｢にゃぁぁぁぁぁん♥｣ﾊﾑﾊﾑ…
｢や、やめろ!!…離せぇ！…｣
雄たけびを上げながら、鈴木の首元に飛び掛り組み伏せる。ジタバタと鈴木が暴れるがスフィンクスは体を巧みに使いこなし、しなやかに躱す。動物が止めを刺す様に何度か喉仏を甘噛みし、そのたびにビクビクと反応する獲物(鈴木)の様子を楽しんでいる。
その状況を女性たちはどこか羨ましそうに目を輝かせ、男子たちは口を開けたまま固まっていた。
｢やめろぉ…｣
｢やめにゃい♪｣ﾁｭﾙ…ｼﾞｭﾙ…
鈴木の抵抗が徐々にか弱いものになっていく。ゆっくりと艶やかな唇が、鈴木のよだれが垂れて開ききった口を吸った。何かを吸い取るような音が密着した口内から聞こえると、鈴木の痙攣はさらに激しさを増していく。
男性陣は未だに何が起こったのか理解できず、彫像と化している。
｢た…す…け……｣
最後にこちらに腕を伸ばし助けを求めたが、いっそう激しくスフィンクスが責めたてると力尽きたように腕を床に落とした。
｢ここじゃ、落ち着いて出来ないし。場所を移すことにするにゃ
よいひょっと、そへでは、おはひひまふにゃ〜｣
｢ごきげんよう、明日のお話が楽しみですわ｣
ぐったりとした鈴木の服の首襟を口に咥えると風のように店から出ていった。
｢………あのぉ…二人はどうなったんですか?｣
やっと口が聞けたのは、この合コンを企画した山田だった。
｢ここの近くに休憩所がございましたから、きっとそちらですわ｣
上品な微笑を崩さずに、こともなげにファラオが答える。
｢あの二人なら間違いなくお似合いの夫婦になれますわ。
もちろん、ここにいる『全員』そうなるのですが、うふふ♥｣
｢｢………｣｣
｢｢………｣｣
魔物娘達のギラギラとした気迫というか欲望というか、そういったものを湛えた瞳が耽々と男性たちに向けられている。
｢……(や…山田ぁぁぁぁ!! な、なんだこれ!!これじゃ合コンじゃなくて強姦じゃねぇか!)｣田中
｢……(俺だってしらねぇよ!! まさかファラオが来るなんて思わなかったんだ!!)｣山田
｢……(どうすんだこれ!? 高校生で人生の墓場行きとか洒落にならんぜ?)｣高橋
｢……(俺だってもっと遊びたいわ!!)｣山田
｢……(前向きに考えようじゃないか…こんな綺麗な人たちとこれからの人生を過ごせるんだ、最高だと思わんかね!!)｣佐藤
｢……(正気に戻れ!! お前の目の前にいるのは犬と蠍とミイラと元ツタンカーメンだ!!)｣田中
｢……(黙れ!!貴様には魔物娘の良さが分からんのか!!)｣佐藤
｢……(喧嘩している場合か!! おい、それよりもこの合コンはいつ終わるんだ?)｣高橋
｢……(二次会はないことにすればいいから･･･お開きの8時まで後30分だ。
それまで乗り切ればなんとか…)｣山田
｢……(王様ゲーム自体をやめる事はできないのか?)｣高橋
｢……(流石にさっき一回だけで終わらせるとなると露骨すぎる、このまま時間まで続けるしかない)｣山田
｢……(んなのどうでもいいだろ!! さっさとやめさせろよ!!
さっきから何だ、ビビって敬語でへこへこしやがって)｣田中
｢……(ならお前が言えよ!!)｣山田
｢……(え? お、おう…や、やってやるよ!!)｣田中
勢いよく立ち上がった田中は、キッとファラオを睨め付けたが、それも長くは続かない。いざ目が合うと勝手にファラオの威に圧倒されて、すぐに目を逸らしてどこを見てるかわからない。
｢お……お…お…おお…｣
『王様ゲームなんてつまらないから他のをしようぜ』たったこの一言を言うだけでこの危機終わらせることが出来るのだが、その一言が言いだせない。壊れたCDプレイヤーさながら同じ音を繰り返している。
｢どうされました?｣
｢お、おお、おお…｣
｢もしや、お体が優れないのですか?｣
｢おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……｣ｽﾄﾝ
ファラオの涼やかながら凄まじい情念の篭もった瞳で射竦められた(と勝手に思い込んでいる)田中は、口から魂が抜け出たような、息とも声ともつかぬものを吐き出し自分の席に座りこんだ。その姿は先ほどと比べると幾分か小さく感じる。
｢田中君の体調が優れないようだが、よかったら私が安静にできる場所に連れて行こうか?｣
とファラオの隣にいたメガネのアヌビス。声は心配そうだが、田中を見て舌なめずりしている。
｢だ、大丈夫です!! 炭酸を飲みすぎただけみたいですから、すぐによくなります!!
なぁ!?｣山田
｢あ…あぁ…｣田中
返事なのか臨終前の最期の呻きなのか分からない。
｢そうか…しかし田中君、自分の体調管理も出来ない何事かね?
それならいっそ誰かが代わりに管理したほうが良いと思うなぁ…私は♥｣
｢ひぃぃぃ……｣へたれ
｢……(南無)｣山田
｢……(こうなることくらい予想出来ただろうに…まあいい、弾除けにでも使うか。
俺達３人…いや２人だけでも生き残るぞ!!)高橋
｢……(…了解、男子は出来る限り時間のかかる命令を指示だ!!)｣山田
｢…皆さんいかがいたしました?｣
｢いえいえ、何でもないです
それじゃ、二回目と行きましょうか｣
｢えぇ、わくわくしますわ｣
｢皆くじは持ったかな?
王様だ〜れだっ!!｣
｢…あら? またわたくしですわ♪｣
｢…あはは、よくありますよね…
出来れば今度の命令はもうちょ〜っとソフトな方がいいかな〜っと、ご無礼を承知で申し上げちゃったり…(クソっ…またか…)｣山田
｢そ、それと長めの命令の方が盛り上がるかもしれないと存じておりますです、はい(ハズレロ…ハズレロ…)｣高橋
｢わかりましたわ♪
それなら今日の会が終わるまで１番の膝の上に４番が座るというのはいかがでしょうか?｣
｢あ、とってもいいと思います!!(2番、…実害ないし当たってもよかったかな)山田
｢俺は6番か…(いっそこれの方がよかったか?)｣高橋
｢なんだ、7番か｣佐藤
｢4番は私だ｣
アヌビスが嬉しそうに番号が書かれた棒を見せ付けた。その顔にはすでに勝利の色が見えている。
｢……ボク5番｣
｢あたしは3番だ｣
マミーとギルタブリルが残念そうに棒をテーブルに置いて溜息を吐いている。
｢お二人とも大丈夫、焦らなくとも殿方は逃げませんわ♪｣
｢……((逃げますわ…))｣山田 高橋
｢ということは……１番はキミだね?田中君♥｣
｢………はい｣田中
完全に血の気の引いた顔をしている田中に、アヌビスがジリジリとにじり寄って行く。
｢……(まあ、座られるだけだし、いいじゃないか)｣山田
｢……(安全に良い思いもできるし、割りとよかったな)｣高橋
｢……(まったくだ！)｣佐藤
｢それじゃ…キミの膝の上に座らせてもらおうか!!｣
言うが早いかアヌビスは田中の膝の上にぴったりと座った、が…
｢｢｢向き逆!!!｣｣｣
向かい合い、膝の上に座るというよりか、抱き合うといった方が正しい状態でアヌビスと田中が絡み合っている。簡単に言うと対面座位。
｢んんーー！んむーー!!｣ﾓｶﾞﾓｶﾞ
｢具合が悪そうだったからな、私がちゃんと人肌でお前を温めてやろう♥｣
｢｢(イエティみたいなこと仰ってる!!)｣｣
田中の顔面はアヌビスの胸の谷間に押し込まれ、彼は苦しそうにうめき声を上げている。
｢ん?どうした?水か? しょうがない奴だなぁ…♥｣ｽﾞｷｭｩｩｩﾝ
｢っ!!!!?｣
｢｢(やっ、やった!?)｣｣
アヌビスは、田中のコップのウーロン茶を口に含むと田中の口に流しこみ
｢…くひのなひゃもｼﾞｭﾙあたためなひぇればなｼﾞｭﾙｼﾞｭﾙ(口の中も温めなければな♥)｣
そのまま田中の口腔を弄んでいる。田中の目からだんだんと光が失われて行き、最後には目の端から涙を流して動かなくなった。
｢……(口は悪かったがいいやつだったよ)｣山田
｢……(お前のことは忘れないからな…)｣高橋
｢彼女に任せておけば田中さんもすぐに元気になりますわ。わたくし達はこのまま王様ゲームを続けましょう｣
｢｢え!｣｣
｢続けましょう｣
｢…ハィ｣
ファラオの命令に逆らえるほど、この二人には神の加護も精神力もないのだ。
｢その前にトイレに行かせてもらう｣
佐藤がやおら立ち上がりトイレへと向かって行った。
｢ええ、どうぞごゆっくり♪｣
｢……(あいつはもう、捕まる気まんまんだから余裕なもんだな)｣高橋
｢……(ああ…、だな
って、ちょっと待て!!あいつトイレと反対の方にいったぞ!!)｣山田
｢｢に、逃げやがった!!｣｣
トイレではなく、反対の会計を通り過ぎそのまま店内から出ると一目散に走っていってしまった。佐藤の座っていた席をみると、会費の分の千円札が2枚重なって置かれていた。
｢ハァ…ハァ…逃げ切ったか｣
佐藤は全力であの場から遠のき、すでに自宅近くの住宅地まで逃げ切っていた。後ろを振り返ると電灯の明かりがまばらに道を照らしているが、追って来ている者はいなかった。
｢(敵を欺くにはまず味方からってな、あいつらには悪いが俺は助からせてもらうぜ。そもそも山田のアホめ、合コンなんて慣れないことするからこんな目に会うんだ。魔物娘相手に王様ゲームを始めようとした時は正気か疑ったぜ。高橋だってひそひそ話してたつもりなんだろうが、アレじゃあ丸聞こえじゃねぇか。全く、考えの足らない奴らだ。まあ、結婚式には呼ばれてやるよ、クク、アハハハハハ!!!)｣
ブヅッ
｢え…?｣
首筋に注射器を刺されたような、ゆっくりと鋭い痛みが襲いとっさに振り返った。暗闇の中から茶褐色の甲殻に覆われた蠍のような針が首に刺さっている。そこから毒々しい紫色の液体が滴っている。
｢ちょうどよかった。あたしの家もこの辺りだったんだ｣
｢たすけ…｣
逃げようにも既に体は動かない。地面に倒れこもうとした体を抱き寄せられ、愛おしげに体を撫で回されている。
｢そそる顔をするじゃない♥ ほら、もっと抵抗しないと食べられるわよ?｣
｢ひぎぃぃぃ…｣
捕まえた獲物を毒針を何箇所も突き立て毒を流し込みながら、暗闇に消えて行った。
素早く、そして音もなく佐藤を追いかけて行ったギルタブリルを見送りつつ、すっかり広くなったテーブルにファラオとマミーが一体ずつ、そして生餌が2匹寄り添っている。訂正、隅っこで田中に乗っかって腰振ってる犬もいました。
｢ついに俺達だけか…｣山田
｢お互い、短い付き合いだったな…｣高橋
｢…ボクとは末永くお付き合いお願いします｣
｢ええ、わたくしの夫となったら永遠に一緒ですわ♪｣
｢…(ヤベェよ･･･もうすでに勝利宣言しちゃってるよ…あの二人)｣
｢…(実際詰んでるだろ…)｣
｢では、最後の王様ゲーム始めましょうか…♥｣
｢｢…もうだめだ…｣｣
いらっしゃいませー
｢ん?
……あ、あれは!!｣
ふと、来店した客に目をやると、そこには、
高貴さを感じさせる深紫の肌に
艶やかに照かる尾
邪悪さと美しさを兼ね備えた黒眼
そう
｢｢ア、アポピスさん!!!｣｣
｢!!｣
店に入って来たのはアポピスであった。彼女こそがファラオの唯一無二の天敵である。彼らは自分達が助かった事を確信した。
｢｢…(やったーー!!)｣｣
｢(俺達助かるんだ!)｣高橋
｢(ああ、アポピスさんがファラオを即堕ちさせてくれるさ!!)｣山田
｢｢(勝った俺達は勝ったんだ!!)｣｣
｢……あーあれって〜｣
｢ねえパパ！ふわとろオムライス食べた後にストロベリーパフェも食べて良い!?｣
｢ん〜毎回そう言って頼んでも、半分以上残しちゃうじゃないか｣
｢今日はお腹空いてるから平気だもん！それに残してもママが食べてくれるし｣
｢…最近お腹周りが気になってきたのよね……｣
｢多少むちっとしてた方が僕の好みだよ♥｣
｢もう♥貴方ったら♥｣
｢もー二人でいちゃいちゃして！あ、そだ私トイレ行ってくるね！｣
｢…あれ〜もしかしてアポやん?｣
｢!!!!!!!!｣アポやん
｢あら、本当ですわ、こんな所でお会いするなんて奇遇ですわぁ♪｣
｢｢(知り合いかよ!!!)｣
｢な、な、な、何であなななたたたちがこここに｣アポやん
｢…合コン〜｣｢ですわ♪」
｢家ではあんなキャラなんだねアポやん〜｣ﾆﾔﾆﾔ
｢う、うるさいわね!!あんた達に関係ないでしょう!!｣
｢親子の仲がいいのは素晴らしいことですわ〜｣ﾆﾔﾆﾔ
｢う、うぎぎぎ…｣
｢そんなことはいいからファラオさんどうにかしてくださいよアポやん!!｣高橋
｢アポやん言うな!!｣
｢アポピスなら、目の前にファラオがいるんだからやっつけてくれ!!｣山田
｢わ、わかってるわよ!
こうなったら今日こそそのすまし顔をギャフンと言わせてやるわ!!｣ｼｬｰ
｢まあ!流石にアポピスさんに本気で掛かって来られたらわたくしでも負けてしまいますわ…
ですが、わたくしを倒すのはふわとろオムライスを食べた後でもよろしいんじゃないかしら?｣ﾆﾔﾘ
｢!!!!?｣ｻﾞｸｯ
｢それにパフェも待ってるしね〜｣ﾆﾀﾘ
｢!!!!!!!!??｣ｽﾞｻﾞｸﾞｩ
｢『パパ』様も『ママ』様もお待ちのようですし｣ﾆｯﾀﾘ
｢!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!｣
ＦＡＴＡＬ ＫＯ
｢………｣ﾋﾟｸﾋﾟｸ
｢｢(えげつねぇぇぇぇぇぇ!!)｣」
糸の切れた人形のようにその場に蹲るアポピス。そこには蛇神としての威厳もクソもない。
｢あ･･･あのアポピスさん｣
｢見てない｣
｢え？｣
｢私は誰にも会ってない｣
｢そうよ、私は誰も見てないし会ってないのよ…うふ、うふうふふふ…ｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲｱｯﾃﾅｲ｣ﾌﾞﾂﾌﾞﾂﾌﾞﾂ
｢｢(完全に壊れとる…)｣｣
フラフラと立ち上がり、焦点の合わない目で親のいるであろう席に戻って行った。
｢平気だもん♪｣
｢!!!!!!!!!!!!!!!!｣ｽﾞｶﾞｶﾞｯｶﾞ
｢｢やめたげて!!｣｣
｢ふふふ…本当にアポやんはイジリ甲斐がありますわぁ♥｣
｢普段はクールなかんじなんだけどね〜｣
｢｢(非道すぎる…)｣｣
｢さて…邪魔者もいなくなったところで、やりましょうか♪｣
｢お〜｣
｢もうだめだ……｣山田
｢で〜は〜♪王様だ〜れだ！｣
｢あら、やっぱりわたくしが王様なんですわね♥｣
｢｢でしょね!!｣｣
｢当然と言えば当然ですわね、生まれながらのキングオブキングス!それがわたくしですもの♪｣
｢理由がよくわからないけど、なんか凄まじい説得力…｣高橋
｢では、2番の棺に3番も一緒に入りなさい｣
｢わ〜い｣
｢完全に誰がどの番号かわかって命令してるよこの人!!｣山田
｢フ ァ ラ オ ですもの♪
気にせず高橋さんはこちらの棺にどうぞ♥｣
いつの間にか、壁に石棺が立てかけられている。もはや突っ込むのも野暮だろう。
｢…じゃあな、やまだ…｣マミー高橋
｢高橋く〜んこれからよろしく〜♥｣
｢たかはしぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!｣
パタン
石棺は二人を中に入れると、砂のようにくずれさり何処かへ消え去って行った。
｢高橋さんも満更でもないご様子でしたわね♪｣
｢どこが!?｣
｢それはともかく、わたくしと山田さんの二人きりになってしまいましたね♥｣
｢え、えぇ…｣
｢王様ゲームではなく、ただの命令になってしまいますが、怖がることはありませんわぁ♥ じっくりと従順な旦那さまにして差し上げますわ…｣
｢この人ホントにファラオ!? 言動が完全にダークエルフなんですけど!?
うわ、やめて脱がさないで！
やめて！！こないで！！だれかたすけてぇぇぇぇぇ！！｣
｢泣こうが叫ぼうが無駄、この部屋には結界を張りましたの。ついでに駄犬たちも家に送り飛ばしたし、もはや何をなさっても誰も来ませんわ♥｣
｢たすけて!!たすけてぇぇぇええ!!｣
｢あなたの悲鳴とっても素敵ですわぁ･･･二人きりでもっと聞かせてください…♥｣
ファラオは華奢な見た目からは想像もつかない腕力で山田を捻じ伏せ、情け容赦なく服を剥ぎ取って行く。山田も必死に抵抗するが全く意味をなさず、ただ嬲られるがままにされていた。
｢いいえ…3人よ…｣ガブッ
｢ぐっ!?｣
声に気付いたファラオが振り向くより速く、アポピスの牙がアキレス腱に深々と突き刺さった。アキレス腱を噛まれた拍子にファラオは山田の体へと投げ出された。
｢ア、アポピスさん!!｣
｢待たせたわね!ちょっと結界を破るのに手間取ったけど
私はやるといったら必ずやる魔物よ！｣
｢さすがアポやぁぁぁん！！｣
｢だからそれやめて!!｣
｢う、うう…｣
ファラオが苦しそうに呻くと、流石に襲われかけたとはいえ山田も心配する。
｢あの…ファラオさんはどうなるんですか…?｣
｢あら、貴方知らなかったの?
理性が吹っ飛んで番と交わり続けるようになるのよ｣
｢うぅ!!うぅぅ♥♥｣
｢それって余計悪化したってことじゃないで、あっ
ｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ!!!!!!｣
終わり
15/11/25 00:30更新 / ヤルダケヤル