山だ!森だ!(恐怖の)虫取りだ! 後編
森の中に夕日が差し込み徐々に暗くなり始めている。マコチューを追っているうちにずいぶんと奥深くまで入ってきてしまったが、ここは儂の庭のようなものじゃ帰り道くらい覚えておる。おそらくあの二人のことじゃろうから、先ほど居た場所にそのままいることじゃろうし心配いらないのじゃ。
テトテトテトテト
「(しかし、何も捕まえられずに帰るのはちょっとかっこ悪いのう…)」
テトテト…
「(かといってもう暗くなってきたし、虫を探すのもこれでは難しいのじゃ
はてさてどうしたものか…)」
ピコーン
「(そうじゃ! ジナンを驚かせるために覚えておいたあの魔法が使えそうなのじゃ!)」
書庫で遊んでいたら、カラールーンの魔導書を何冊か見つけたのじゃ。それのおかげでジナンが教える前に先手打つことが出来るようになったのじゃ! 魔法を覚えさえすれば、あやつは儂と一緒に遊ぶ他なくなるじゃろうと色々覚えたが、まさかこんなことにも役立つとはのう…やってみるものじゃ。
「えっと…黄色と濃灰色を1対1じゃったな…
ルーンで対象を決めて…
発動! ドローマグネット!!」
ヴィーーン
地面に魔法陣が展開し、徐々に速度を上げながら回転し始めたのじゃ。この回転によって対象を引き寄せる特殊な磁場が形成され……とりあえず難しい話はおいて置くとして、つまりだんだん引き寄せる力が増していっていると言うわけじゃ。
……誰に話しておるんじゃろう儂。
ガサガサ!
魔法陣に書かれているルーンが見えなくなり光の線の様になってくると、近くの木の幹から虫が魔法陣の中心に引き寄せられ始めたのじゃ。
「おおっ!魔法陣に面白いほど虫が集まってくるのじゃ!
やっぱり儂ったら天才ね!!」
その集まった虫を屈んで虫かごに入れる。虫かごから変な色の汁が垂れている気がするが気のせいじゃろう。
このままどんどん虫を捕まえるのじゃ!!
ヴィーーー
ガサガサガサガサ
魔法陣の回転速度が上がるにつれ虫が引き寄せられる量もペースも上がってきたのじゃ…
少しずつ虫が魔法陣に溜まり始めてきてしまったのう…ひとまずは満足出来る量になったことじゃし止めるとするかの。
ガクン!!
「ぬ!?」
魔法陣を止めるために腰を上げようと思ったのじゃが、立ち上がれん…
なんじゃ、虫かごの中の虫まで引き寄せられておったのか。
儂としたことがうっかりしておったわ…いったん虫かごを肩から外し…う、肩に食い込んでなかなか外せないのじゃ! そうしているうちに集まってくる虫の数が尋常ではない量になりつつあるのう…うぶっ! 顔にくっ付かれるとくすぐったいのじゃ! は、早く魔法陣を解除しないと…うぐ…む、虫に押しつぶされる…い、い、意識が……
「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
二人で話し合った結果、しばらくはこの場でフォーメルが帰って来るのを待つことになった。決して虫が怖いから森の奥に行きたくないとかそう言うものではない。
「フォーメル様はこの山には、何回も来ているそうですし心配いりませんよ」
「そうだな…」
特段変わった事といったら発情したワーウルフが走っていったくらいだ。
あいつの事だからもう少しすれば自慢げな顔で帰ってくるだろう。それまで少し眠るとしようか…
ギニャァァァァァア……
切り株に腰掛けまどろんでいると、森の奥から聞きなれた悲鳴が響いてくる。
「ん? 今のは…」
「えぇ、間違いなくフォーメル様です」
「何かあったようだな…急ぐぞ!!」
「はい!」
俺達は悲鳴が聞こえた森の方へ駆けだした。
しばらく走っていると、木々が開けて広間の様になっている所を発見した。その中央に何か動いているのが見える。
「っ!!フォーメ………」
「フォーメルさ………」
ギチギチ…
ワサワサ…
カチカチ…
虫が幾重にも折り重なり小さな山を作り出していた。それ以上は見たくない言いたくない。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」」
「あ、あわ…あわわぁ」
「な、なんだあれは!!?」
「あわわわ…」
「新種の魔物…ではなさそうだな…」
「はわわわわ……じ…地獄の業火よ、我が手に来たりて眼前の…」
ブツブツ
「とにかく距離をとって様子を見るぞ…っておい!?」
気がつくとメイギスの手のひらに信じられない程の魔力が集中している。
「か…灰燼となれ!! ヘ、ヘルフレ「待て待て待て!!」
「山ごと吹っ飛ばす気か!?」
「お兄ちゃんどいて!!そいつ殺せない!!」
「落ち着け!!魔女はお前だ!!」
「あばばばばば……」
目がグルグルになっている。こんな時まで古典的な奴である。
「くそッ!!」
ピトッ
ワサワサワサ…
「ん?」
顔に何が付いた? 蛾? …え? 蛾?
「−−−−−−−っっっ!!!?」
声にならない叫びを上げ、メイギスと共に目の前の脅威を消し去る。
「プロミネンスジャベリン!!」
「ヘルフレア!!」
ピカッ!
目の前には、クレーター状に焼け焦げた土地が広がっていた。だいぶ土地が変わってしまったが思ったよりも被害は少なかった。おそらく、二人の魔法がお互いの威力を相殺したのだろう。ご都合主義? そんな言葉この世界には無い。
「………いったい、何だったんでしょうね」
「さぁな……」
「これ、どうやって説明しましょうか……?」
「焼畑的なアレだとでも言っておこう」
「そうですね…」
「まぁ、巻き込まれた奴がいなかったのだけは幸いだったな…」
「はい…」
「さて…フォーメルを探しに行くか、この騒ぎを聞き付けて近くに来ているかもしれん」
「ですね…」
「ところで、何か匂わないか?」
香ばしく、食欲をそそる肉の香りが辺りに充満している。
「えぇ、何だかとっても美味しそうな匂いです…
ビーフ…いや、ポーク…でもないですし…」
「すごいな、臭いでわかるのか」
「魔法です♪」
「何でもありだな…」
「だんだん分かったきましたよ…チキン…ボタン、ん!?」
「分かったか?」
「はい! これはマトンですね♪」
「ん?」
「あ、さらに言うとマトンじゃなくてラムですね」
「………お前それって」
プスプス…
虫の山の中央から角の生えた真っ黒焦げの何かが出てきた。
「………」
「……もしこれがギャグSSじゃなかったら危なかったですね」
「とりあえず、これで大丈夫だろう」
治癒魔法で体を元に戻した。死にさえしなければどうにでもなるのがこの魔法の素晴らしいところである。
「何があったのか思い出せんのじゃ…」
「そういうものは無理に思い出さないほうがいいんですよ♪
さ、もう真っ暗ですから、城に帰りましょう」
「そうじゃの、ジナンも一緒に来るじゃろ?」
「いや、俺は「ええ、もちろん♪」
「いや帰「(私だけバーメット様に叱られるなんて嫌ですよ!!)」
「(俺は別の機会に怒られるからいいよ)」
「(そんなこと言うと、全部ジナン様の所為にしますからね!!)」
「(な!この卑怯者め…)」
「うむむむ……二人でくっ付いて話してずるいのじゃ!!」
「好きでくっ付いているわけじゃないけどな」
「じゃ、フォーメル様が今度はくっ付く番ですね♪」
「うむ!」
よじよじと俺の背中を登り、無理やり負ぶさって来た。
「これで逃げられませんね♪」
「……今のうちに言い訳を考えるか…」
城中
「ただいまなのじゃ母上〜」
「お帰りフォーメル…って、な、なんでそんなに真っ黒なのじゃ!?」
すっかり夜になっていたため気づかなかったが、フォーメルの肌が褐色に変わっていた。
まだ完全に元に戻っていなかったのだろう…これはやってしまった。
「どういうことか説明してもらおうかメイギス…ジナン様……?」
「これは…ほら、あれだよな」
「はい、あれです、あれ」
「「火焼けです」」
二人揃って泣くほど怒られました。
12/10/03 21:12更新 / ヤルダケヤル
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