後日談 なんだかんだで幸せに
おぼろげに目が覚める。
見知らぬ天井、同じく見知らぬ窓から光が差し込んでいる。しかし、大体の状況は予想がつく。すぐに目を閉じ、現実から逃げようとするが自分の行った行為が勝手に頭の中で再生される。
「やっちまったな…」
あの後、教会の衆人環視の中、私が気を失うまで交わり続けていたことは覚えているが、その後どうなったのか分からない。
アーチとの不貞、仲間たちへの裏切り行為、謝って済むことではない。今までの4人の関係には戻れないだろう…後悔してもし切れない。
たとえこの後冥界に帰ったとしても、この出来事の溝は残り続ける。3人の仲に重篤な傷を残しはしないだろうか。
考えれば考えるほど気が滅入ってくる。
打開策も名案も浮ばない。
「…いいや…寝よ」
もしかしたら、夢かもしれない。死んでること自体夢の出来事で、もう一度寝れば何もかもが元通りになっている…
なんて夢想するほど追い詰められています。
どちらにしろ、この辛い現実から一刻も早く逃げてしまいたい。
目をつむり、体を横向きにする。
ムニュ
「…?」
体が何か柔らかく温かなものに触れる。おそらくアーチだろう。
リストとオリアが怒鳴り込んでくるまでアーチにくっ付いていようか、どうせこれっきりだし。
「アーチ♪」
自分でも驚くほど甘えることに抵抗がなくなっている。恐るべき魔物化…
ま、別に死ぬ前からこんな感じだし、やるほうとやられるほうが反対になっただけだ。
背中から抱きつき手をアーチの前に回し密着する。
ムニュムニュ
「…!?」
いくらアーチといえども柔らかすぎる…鍛えている男性の体ではない。
いったい誰なのだ?
慌てて目を開ける。
「う…えぇぇぇぇ!!」
長い白銀の髪、長身でスレンダーな体型、そして羽と尻尾…
「なによ…うるさいわね…」
なぜ私の隣に死刑執行人が裸で寝ているのだろうか。寝起きドッキリにしては残酷すぎる。
「ひぃっ!」
思わず反対側に体が仰け反る。
プニュプニュ
「!!?」
さらに柔らかい2つの物体が頭に直撃する。
後ろに居るものがアーチではないことは明確である。
「なんだぁ…朝かぁ?」
のんきそうなこの声も、今の私にとっては死の宣告を告げる死神の声に聞こえる。
あぁ…もうダメだ…おしまいだぁ…
頭の中を走馬灯が流れ始める。三途の川のせせらぎが聞こえる。時間が遅く感じる。
このまま二人に粉々にされるのか。そう思うと目から涙があふれてくる。
病死の時はある程度覚悟は出来たが、今からされる暴行を受け入れる度胸は持ち合わせていない。元勇者パーティの二人となると尚更である。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
枕を頭に被り、ひたすら二人に謝る。反省の姿勢を見せれば少しは効果はあるのではないか。
「あら?自分が何をしたのかわかっているようね…」
「レイバ、覚悟はいいな?」
こうかはいまひとつのようだ!!
リストが私の体の片側に体を寄せる。それと同時にオリアももう片方に体を寄せてくる。
…逃げ場を封じられた。このあとどのような拷問が待ち受けているのだろうか…
花婿を襲ったのだ。こうなっても仕方ないだろう。でも怖いものは怖いんです。
ガタガタガタ
体が震えてきた。やるなら一思いに…と思ったがリストがいるかぎりそれはないだろう。
「ふふふ…反省しなさ〜い!!」
やけに楽しそう声と共に体に手が伸びてくる。
ああぁ…なんでこんなことに…
コチョコチョコチョ…
「ひゃぃ!ひっあ…あは…あははははは!?」
リストの手が全身をくすぐり始める。予期せぬ行動に構える暇もなかった。
「レイバ、久しぶりだな!それにしてもお前ちっちゃくなったな〜」
今はそんなことどうでもいいだろ。ってなんでお前まで参加してるんだ。
「ははははひっ!?ふひひひひ…」
「な〜にびびってんのよ、あんたが思ってるほど心が狭くないわ」
「レイバの後にたっぷりアーチにしてもらったしな」
思っていたほど怒ってはいないらしい。寛大な仲間たちに感謝である。
しかし、だんだんと厳しくなってきた。
「しょ…しょれなこれやめへ…あひゃ!あひゃひゃははは…」
「怒ってないとは言ってないわ(ぞ)?」
くすぐりが苛烈を極め、まともに呼吸が出来ない。これ本当に死ぬんじゃ…?
「ごめんひゃい!いひひひひひ!! は、はんひぇいしてましゅ!だかりゃやめてぇ!ふひゃひゃひゃは…」
「まったく…あの時あんなに勇者がどうとか言ってかっこつけてたくせに…この様かしら?」
「ち…ちん○にはかてましぇんでしたぁぁぁぁ」
魔物娘の性ですね。してる時はそんなの全然頭の片隅にもありませんでした。
「ふへ…ふへへへへ…」
い…息が…。い…逝くぅ…
「まぁ、スケルトンになったのを黙っていたのは私だし、ここらへんでやめてあげるわ」
「あ…あひひひ…」
全身の疲労感で指の一本を動かすのもままならない。普通に息ができることがこんなに素晴らしい事だとは思わなかった。
「でもなんで言ってなかったんだ?」
確かに私もそれは気になっていた。
「記憶や理性が想像以上に残ってたのよ。その状態で「女になってる」なんて言うと混乱しそうだったから言わなかったわ」
「へ?私は前から女だろ?」
「…そういうことにしておいてあげるわ
元からあった魔力の代わりにアーチ君の精で出来た魔力で体が満たされたから、一気に記憶の変容が進んだようね」
「記憶の変容ってなんだ?」
オリアが首を傾げている。あいつはそんなこともわからないのか…私もわからないが。
デュラハンも似たようなことを言っていたが、どういうことだろうか。
「レイバ、ちょっと簡単に私たちに自己紹介してみなさい」
私を痴呆老人か何かと勘違いしているのではないか?失礼な奴だ。
「いいだろう…いくらでも自己紹介してあげましょう。
私は勇者レイバ!16歳の時勇者として目覚め、恋人のアーチと共に魔王を倒す冒険に…「はい、ストップ」
「どうしたの?名乗り口上邪魔されると困るんだけど」
「誰が誰の恋人ですって?」
「アーチが私の。今までいっしょに冒険してきて覚えていないとは言わせないぞ?」
「…このように記憶が変わってしまうことよ」
「すっげぇ変わりようだな、元に戻らないのか?」
「こうなってしまったら戻らないでしょうね」
「ま、別に戻らなくてもレイバはレイバだしな!」
そういいながらオリアは笑いながら私の頭をくしゃくしゃと撫で回す。一体全体こいつらは何の話をしているのだ? 気にしても仕方なさそうなので考えないようにする。
「それよりもオリア…」
「ん?どうしたんだ?」
「私とリストでアーチを奪うような形になって済まなかった」
リストとオリアがいつも通りだったのでうやむやにするところだったが、はっきりと謝っておかないと気持ちが悪い。
「そんなことか、あたしはアーチが喜ぶならなんでもいいぜ!!
それに、またお前らと一緒にいれるしな!」
「オリア…」
オリアの屈託のない満面の笑顔に神々しささえ感じる。
彼女の元からの性格か魔物娘のおおらかさなのかわからないがとにかく許してもらえたようだ。
「でも…結婚式をめちゃくちゃにしたことは許さないけどな」
「「………」」
二人揃ってオリアの目をみれませんでした。
「ところで…私が気を失った後どうなったんだ?」
聞きたくはないが聞かなければまずいだろう。
「あの後、私たちも合流して4P」
「素晴らしきかな魔物娘」
「で、ある程度満足したら、アーチ君たちの家に帰って第二ラウンド。当然あんたもはまってたわよ?」
「うぅ…思い出せない」
思い出せなくてよかったような…もったいないような…
「そして今に至るってわけ」
「なるほど…それじゃ、お前もアーチと…」
「あの場の勢いで、なし崩し的にやっちゃったわ!」
「お前はそれでいいんかい…」
「過程より結果よ!」
「あっそ…」
本人が良いというなら良いのだろう。
「それから、ちゃんとオリアとは折り合いついたのか?」
決して親父ギャグではない偶然の産物だ。
「えぇ、もちろん。そうじゃなきゃここにいないわ」
「それもそうですね」
「リストがすっごい泣きながら頼むからびっくりしたぜ」
「……それは言わないで頂戴」
どんな状況だったのか、見れなかったのが残念だ。
「そしてアーチがいないのはどうしてなんだ?」
「昨日の事情説明に領主のところよ…」
「あぁ…」
教会を破壊し、罪もない人達に怪我を負わせたとなるとどんな罪に問われるか…考えたくもない。
「刑罰が科されるのが私とあんただけならいいのだけど…」
「私ってお前に操られてやらされてたんだけど…」
「あら? 私教会に突入する時に言ってたでしょ『蘇った後に作用する効果はない』って」
「………」
ダークプリーストの皮を被った鬼め悪魔め…
「……しかし、どんな刑罰に科されるんだ…?」
「私も分からないわ…かなり重いことだけは確かね…」
「冷静に考えればこうなることくらい想像ついたよな…」
「その時はこんなことになるなんて全然考えてなかったわ…」
「「ハァ……」」
顔を見合わせて項垂れる。せっかくアーチと一緒になれたのにこいつと一緒に牢屋生活なんて…あいつの目を見るとどうやら同じ事を考えているようだ。
「ハハハ!!うちの領主様は優しいから大丈夫だって! 心配すんなよ!」
その姿を豪快に笑い飛ばし、私とリストの背中をバシバシと叩くオリア、この脳筋戦士は気休めではなく本気で言っているので涙が出てくる。
「ただいま〜」
「アーチ♥」
少し離れた所からアーチの声が聞こえる。もっと近くで声を聞きたい、声だけじゃない思い切り抱きしめてキスをしたい、無駄のない綺麗な体をほのかに香るオスの匂いを私にはない温かな体温を甘く蕩けそうになる唾液をこの身全てで感じたい!!
……何か違和感を感じるが彼への思いを邪魔する事など出来ない。憂鬱だった頭の中も今ではアーチのことだけしか考えられない。
すぐに声のする方へと駆け出した。
「抜け駆けなんてさせるはずないでしょ?」
「あたしが一番最初にアーチと結婚したんだからな!?」
後ろから二人が追って来た、だが私が一番にアーチに抱きついてスリスリするのだ!
玄関で靴を脱いでいる愛しのアーチ目がけ全速力で飛び込んでいく。
レイバたちが目を覚ますよりも少し前
今回の事件の謝罪をするために病院に行ってみた所、ほとんどの人たちは擦り傷や軽い打撲で済んだらしく、その日のうちに家に帰っていったみたいだ。医者から聞いた話では、魔物娘の頑丈さだけではなく、攻撃を加えた側も最低限の力のみで気絶させたからだそうだ。
ヴァンパイアの一人が頭に瓦礫が直撃し重傷だったらしいが、これは知り合いのせいだから気にするなと不機嫌そうに追い返されてしまった。
「ふふふ…そんなことがあったのね…怪我ならあれくらいどうってことないわ、それにイイ物見れたしね♪」
最後の負傷者の方に謝罪を済ませると昼過ぎになっていた。
もうそろそろ、領主様の所に行かなくちゃ
「ふむ…魔物化した直後はそうやって暴走する事もしばしば起こるものじゃ、事情も事情じゃから、そこまで重い罪にはならないじゃろう。罪刑が決まるまでリストとレイバの両者はそなたの家で謹慎するように伝えるのじゃ」
全身から力が抜け、安堵の息が口から零れる。弁償の方も冒険をしていた時に貯蓄していた分がある。もし、何年もの禁固や死罪だったならば、迷わずに3人を連れて逃げ出していたと思う。やっとまた皆と一緒になれたのだ絶対に離れない。
後は家に帰るだけだ。帰ったら何をしようか、昔の思い出を語ろうか、それともこれからの事を皆で話し合おうか。でも、そういう話し合いをすると、いつも最後にレイバとリストさんが喧嘩するんだっけ。僕が仲裁に入ってもなかなか止めなくて、それを面白そうにオリアさんが見てるんだ。
たった、1年半だけだったのにそんなことも懐かしいや。
気がつくと帰途への歩調が速くなっている。早く帰りって皆と一緒に笑いたい。
足で強く地面を蹴り、彼女達が待っている家に走って行く。
「ただいま」
玄関に入り靴を脱ぐ、こんな所作さえ今はまだるっこしい。そう思っていると寝室から駆けて来るいくつもの足音が聞こえてくる。
「「「アーチ(君)♥」」」
勇者一行は嬉しそうに笑いながら僕に飛び込んできた。
「そういうわけで、私達はここで掃除することになったという訳よ」
「ということだ、よろしく頼む」
「ただの惚気話じゃないすか…」
終わり
見知らぬ天井、同じく見知らぬ窓から光が差し込んでいる。しかし、大体の状況は予想がつく。すぐに目を閉じ、現実から逃げようとするが自分の行った行為が勝手に頭の中で再生される。
「やっちまったな…」
あの後、教会の衆人環視の中、私が気を失うまで交わり続けていたことは覚えているが、その後どうなったのか分からない。
アーチとの不貞、仲間たちへの裏切り行為、謝って済むことではない。今までの4人の関係には戻れないだろう…後悔してもし切れない。
たとえこの後冥界に帰ったとしても、この出来事の溝は残り続ける。3人の仲に重篤な傷を残しはしないだろうか。
考えれば考えるほど気が滅入ってくる。
打開策も名案も浮ばない。
「…いいや…寝よ」
もしかしたら、夢かもしれない。死んでること自体夢の出来事で、もう一度寝れば何もかもが元通りになっている…
なんて夢想するほど追い詰められています。
どちらにしろ、この辛い現実から一刻も早く逃げてしまいたい。
目をつむり、体を横向きにする。
ムニュ
「…?」
体が何か柔らかく温かなものに触れる。おそらくアーチだろう。
リストとオリアが怒鳴り込んでくるまでアーチにくっ付いていようか、どうせこれっきりだし。
「アーチ♪」
自分でも驚くほど甘えることに抵抗がなくなっている。恐るべき魔物化…
ま、別に死ぬ前からこんな感じだし、やるほうとやられるほうが反対になっただけだ。
背中から抱きつき手をアーチの前に回し密着する。
ムニュムニュ
「…!?」
いくらアーチといえども柔らかすぎる…鍛えている男性の体ではない。
いったい誰なのだ?
慌てて目を開ける。
「う…えぇぇぇぇ!!」
長い白銀の髪、長身でスレンダーな体型、そして羽と尻尾…
「なによ…うるさいわね…」
なぜ私の隣に死刑執行人が裸で寝ているのだろうか。寝起きドッキリにしては残酷すぎる。
「ひぃっ!」
思わず反対側に体が仰け反る。
プニュプニュ
「!!?」
さらに柔らかい2つの物体が頭に直撃する。
後ろに居るものがアーチではないことは明確である。
「なんだぁ…朝かぁ?」
のんきそうなこの声も、今の私にとっては死の宣告を告げる死神の声に聞こえる。
あぁ…もうダメだ…おしまいだぁ…
頭の中を走馬灯が流れ始める。三途の川のせせらぎが聞こえる。時間が遅く感じる。
このまま二人に粉々にされるのか。そう思うと目から涙があふれてくる。
病死の時はある程度覚悟は出来たが、今からされる暴行を受け入れる度胸は持ち合わせていない。元勇者パーティの二人となると尚更である。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
枕を頭に被り、ひたすら二人に謝る。反省の姿勢を見せれば少しは効果はあるのではないか。
「あら?自分が何をしたのかわかっているようね…」
「レイバ、覚悟はいいな?」
こうかはいまひとつのようだ!!
リストが私の体の片側に体を寄せる。それと同時にオリアももう片方に体を寄せてくる。
…逃げ場を封じられた。このあとどのような拷問が待ち受けているのだろうか…
花婿を襲ったのだ。こうなっても仕方ないだろう。でも怖いものは怖いんです。
ガタガタガタ
体が震えてきた。やるなら一思いに…と思ったがリストがいるかぎりそれはないだろう。
「ふふふ…反省しなさ〜い!!」
やけに楽しそう声と共に体に手が伸びてくる。
ああぁ…なんでこんなことに…
コチョコチョコチョ…
「ひゃぃ!ひっあ…あは…あははははは!?」
リストの手が全身をくすぐり始める。予期せぬ行動に構える暇もなかった。
「レイバ、久しぶりだな!それにしてもお前ちっちゃくなったな〜」
今はそんなことどうでもいいだろ。ってなんでお前まで参加してるんだ。
「ははははひっ!?ふひひひひ…」
「な〜にびびってんのよ、あんたが思ってるほど心が狭くないわ」
「レイバの後にたっぷりアーチにしてもらったしな」
思っていたほど怒ってはいないらしい。寛大な仲間たちに感謝である。
しかし、だんだんと厳しくなってきた。
「しょ…しょれなこれやめへ…あひゃ!あひゃひゃははは…」
「怒ってないとは言ってないわ(ぞ)?」
くすぐりが苛烈を極め、まともに呼吸が出来ない。これ本当に死ぬんじゃ…?
「ごめんひゃい!いひひひひひ!! は、はんひぇいしてましゅ!だかりゃやめてぇ!ふひゃひゃひゃは…」
「まったく…あの時あんなに勇者がどうとか言ってかっこつけてたくせに…この様かしら?」
「ち…ちん○にはかてましぇんでしたぁぁぁぁ」
魔物娘の性ですね。してる時はそんなの全然頭の片隅にもありませんでした。
「ふへ…ふへへへへ…」
い…息が…。い…逝くぅ…
「まぁ、スケルトンになったのを黙っていたのは私だし、ここらへんでやめてあげるわ」
「あ…あひひひ…」
全身の疲労感で指の一本を動かすのもままならない。普通に息ができることがこんなに素晴らしい事だとは思わなかった。
「でもなんで言ってなかったんだ?」
確かに私もそれは気になっていた。
「記憶や理性が想像以上に残ってたのよ。その状態で「女になってる」なんて言うと混乱しそうだったから言わなかったわ」
「へ?私は前から女だろ?」
「…そういうことにしておいてあげるわ
元からあった魔力の代わりにアーチ君の精で出来た魔力で体が満たされたから、一気に記憶の変容が進んだようね」
「記憶の変容ってなんだ?」
オリアが首を傾げている。あいつはそんなこともわからないのか…私もわからないが。
デュラハンも似たようなことを言っていたが、どういうことだろうか。
「レイバ、ちょっと簡単に私たちに自己紹介してみなさい」
私を痴呆老人か何かと勘違いしているのではないか?失礼な奴だ。
「いいだろう…いくらでも自己紹介してあげましょう。
私は勇者レイバ!16歳の時勇者として目覚め、恋人のアーチと共に魔王を倒す冒険に…「はい、ストップ」
「どうしたの?名乗り口上邪魔されると困るんだけど」
「誰が誰の恋人ですって?」
「アーチが私の。今までいっしょに冒険してきて覚えていないとは言わせないぞ?」
「…このように記憶が変わってしまうことよ」
「すっげぇ変わりようだな、元に戻らないのか?」
「こうなってしまったら戻らないでしょうね」
「ま、別に戻らなくてもレイバはレイバだしな!」
そういいながらオリアは笑いながら私の頭をくしゃくしゃと撫で回す。一体全体こいつらは何の話をしているのだ? 気にしても仕方なさそうなので考えないようにする。
「それよりもオリア…」
「ん?どうしたんだ?」
「私とリストでアーチを奪うような形になって済まなかった」
リストとオリアがいつも通りだったのでうやむやにするところだったが、はっきりと謝っておかないと気持ちが悪い。
「そんなことか、あたしはアーチが喜ぶならなんでもいいぜ!!
それに、またお前らと一緒にいれるしな!」
「オリア…」
オリアの屈託のない満面の笑顔に神々しささえ感じる。
彼女の元からの性格か魔物娘のおおらかさなのかわからないがとにかく許してもらえたようだ。
「でも…結婚式をめちゃくちゃにしたことは許さないけどな」
「「………」」
二人揃ってオリアの目をみれませんでした。
「ところで…私が気を失った後どうなったんだ?」
聞きたくはないが聞かなければまずいだろう。
「あの後、私たちも合流して4P」
「素晴らしきかな魔物娘」
「で、ある程度満足したら、アーチ君たちの家に帰って第二ラウンド。当然あんたもはまってたわよ?」
「うぅ…思い出せない」
思い出せなくてよかったような…もったいないような…
「そして今に至るってわけ」
「なるほど…それじゃ、お前もアーチと…」
「あの場の勢いで、なし崩し的にやっちゃったわ!」
「お前はそれでいいんかい…」
「過程より結果よ!」
「あっそ…」
本人が良いというなら良いのだろう。
「それから、ちゃんとオリアとは折り合いついたのか?」
決して親父ギャグではない偶然の産物だ。
「えぇ、もちろん。そうじゃなきゃここにいないわ」
「それもそうですね」
「リストがすっごい泣きながら頼むからびっくりしたぜ」
「……それは言わないで頂戴」
どんな状況だったのか、見れなかったのが残念だ。
「そしてアーチがいないのはどうしてなんだ?」
「昨日の事情説明に領主のところよ…」
「あぁ…」
教会を破壊し、罪もない人達に怪我を負わせたとなるとどんな罪に問われるか…考えたくもない。
「刑罰が科されるのが私とあんただけならいいのだけど…」
「私ってお前に操られてやらされてたんだけど…」
「あら? 私教会に突入する時に言ってたでしょ『蘇った後に作用する効果はない』って」
「………」
ダークプリーストの皮を被った鬼め悪魔め…
「……しかし、どんな刑罰に科されるんだ…?」
「私も分からないわ…かなり重いことだけは確かね…」
「冷静に考えればこうなることくらい想像ついたよな…」
「その時はこんなことになるなんて全然考えてなかったわ…」
「「ハァ……」」
顔を見合わせて項垂れる。せっかくアーチと一緒になれたのにこいつと一緒に牢屋生活なんて…あいつの目を見るとどうやら同じ事を考えているようだ。
「ハハハ!!うちの領主様は優しいから大丈夫だって! 心配すんなよ!」
その姿を豪快に笑い飛ばし、私とリストの背中をバシバシと叩くオリア、この脳筋戦士は気休めではなく本気で言っているので涙が出てくる。
「ただいま〜」
「アーチ♥」
少し離れた所からアーチの声が聞こえる。もっと近くで声を聞きたい、声だけじゃない思い切り抱きしめてキスをしたい、無駄のない綺麗な体をほのかに香るオスの匂いを私にはない温かな体温を甘く蕩けそうになる唾液をこの身全てで感じたい!!
……何か違和感を感じるが彼への思いを邪魔する事など出来ない。憂鬱だった頭の中も今ではアーチのことだけしか考えられない。
すぐに声のする方へと駆け出した。
「抜け駆けなんてさせるはずないでしょ?」
「あたしが一番最初にアーチと結婚したんだからな!?」
後ろから二人が追って来た、だが私が一番にアーチに抱きついてスリスリするのだ!
玄関で靴を脱いでいる愛しのアーチ目がけ全速力で飛び込んでいく。
レイバたちが目を覚ますよりも少し前
今回の事件の謝罪をするために病院に行ってみた所、ほとんどの人たちは擦り傷や軽い打撲で済んだらしく、その日のうちに家に帰っていったみたいだ。医者から聞いた話では、魔物娘の頑丈さだけではなく、攻撃を加えた側も最低限の力のみで気絶させたからだそうだ。
ヴァンパイアの一人が頭に瓦礫が直撃し重傷だったらしいが、これは知り合いのせいだから気にするなと不機嫌そうに追い返されてしまった。
「ふふふ…そんなことがあったのね…怪我ならあれくらいどうってことないわ、それにイイ物見れたしね♪」
最後の負傷者の方に謝罪を済ませると昼過ぎになっていた。
もうそろそろ、領主様の所に行かなくちゃ
「ふむ…魔物化した直後はそうやって暴走する事もしばしば起こるものじゃ、事情も事情じゃから、そこまで重い罪にはならないじゃろう。罪刑が決まるまでリストとレイバの両者はそなたの家で謹慎するように伝えるのじゃ」
全身から力が抜け、安堵の息が口から零れる。弁償の方も冒険をしていた時に貯蓄していた分がある。もし、何年もの禁固や死罪だったならば、迷わずに3人を連れて逃げ出していたと思う。やっとまた皆と一緒になれたのだ絶対に離れない。
後は家に帰るだけだ。帰ったら何をしようか、昔の思い出を語ろうか、それともこれからの事を皆で話し合おうか。でも、そういう話し合いをすると、いつも最後にレイバとリストさんが喧嘩するんだっけ。僕が仲裁に入ってもなかなか止めなくて、それを面白そうにオリアさんが見てるんだ。
たった、1年半だけだったのにそんなことも懐かしいや。
気がつくと帰途への歩調が速くなっている。早く帰りって皆と一緒に笑いたい。
足で強く地面を蹴り、彼女達が待っている家に走って行く。
「ただいま」
玄関に入り靴を脱ぐ、こんな所作さえ今はまだるっこしい。そう思っていると寝室から駆けて来るいくつもの足音が聞こえてくる。
「「「アーチ(君)♥」」」
勇者一行は嬉しそうに笑いながら僕に飛び込んできた。
「そういうわけで、私達はここで掃除することになったという訳よ」
「ということだ、よろしく頼む」
「ただの惚気話じゃないすか…」
終わり
12/09/09 03:17更新 / ヤルダケヤル
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