連載小説
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土魔法ってなんか地味

 城の近くの原っぱに移動し、いよいよ実践である

「とりあえず、1回目だからと浮かれぬよう足に地を付けて…というわけで土魔法からやっていこうと思う」

「どんな魔法でも儂に掛かればちょちょいのちょいじゃ!」

「私も魔女の端くれですから、頑張ります。予習もしてきましたし」

「じゃ、クエイクからやってみろ」

 低級の土魔法である。低級と言えども本来はもっと修練を積んだ魔法使いがやっと行使できるものだ。この年からやるようなものではないが、まあ大丈夫だろう。

「そんな簡単な魔法も出来ないと思われたのか…
 儂も侮られたものよ!!」

 六芒星のみの簡素な魔方陣に一瞬で七色のルーンが紡がれる。

「クエェェェェェイク!!」

 ポフン

「な…なぜじゃぁぁぁぁ!!」

「次、メイがやってみろ」

「フォーメル様が出来ないのに私にやれといわれても…」

「大丈夫だ、やれ」

「はぁ…そこまでおっしゃられてはやるしかないですね…」

 ゆっくりと魔方陣が描かれてゆく。六芒星のみの魔方陣であることに変わりはないが、フォーメルと違い黄土色のみで構成されたルーンで書かれている。

「クエイク!!」



 ゴゴゴゴゴッ




 周囲の地面を不規則な振動が走る。立っていられなくなるほどの強さではないが十分だ。

「あら?出来ちゃいました」

「なんじゃとぉぉぉぉぉ!!
 ……夢じゃ…これは悪い夢なのじゃ…」

 ふらふらとその場にへたり込み、頭を抱えてぶつぶつ呟き始めた。鋼鉄の心臓どころかガラス以下のメンタルだな。

「起きろ、なんで出来なかったのか教えてやる」

「……いいんじゃ儂はどうせ才能も何もないアフォメットなのじゃ…
 もういっそただの山羊になりたい…ひたすら草を食べていたい…」

 いじいじと周りの雑草を引き抜き始めた。先ほどガラス以下のメンタルと言ったがガラス未満に訂正する。

「フォーメル様! しっかりしてください!お母様を安心させるんじゃなかったんですか!?」

「魔法覚えることが母上安心させる事に結びつくかわからないし…もういいし…」

 雑草の山が出来始めている。そんなに草を抜きたいなら自分の家でやればいい。どうやら口での説得は難しそうだ。
 こうなることを見越してバーメットが対処法を教えてくれていた。本当に気のきく奴だ。

「残念だ…もし出来たら虜の果実シャーベットが待っていたと言うのに…」

 ピクッ

「それはホントかのう…?」

 屈んだままこちらを見上げている。対処法と言うほどでもないが効果は確かにあった。

「そうだ。しかもだ、いつもは1つだけだが今回は2つ盛り付けて貰えるそうだ」

ピクピクッ

「………ホントのホントに?」

「賭けてもいいぞ。
 やるのかやらないのか?」

「・・・やるのじゃ」

「よし、再開するぞ

 あ、いやその前にお前にはやらせないといけないことがあったな…」

「お仕置きですか!?フォーメル様を性的にお仕置きですか!?」

 メイが急に目を輝かし涎を垂らしながら迫ってきた。何か踏んでしまったようだ。

「そ…それは…まだ心の準備が…い、いやおぬしが別に嫌とかじゃないんじゃが…」

 フォーメルの方はいじいじがもじもじに変わっている。



「お仕置き?まあそんなもんだが…」

「きゃっっっほぉぉぉぉぉっぉ!!」
 
 メイが異常に盛り上がって頭を高速で振っている。

「い…いったい何をさせるつもりなんじゃ…
 痛いのは嫌じゃぞ…あっ! でも初めてじゃから…無理かのう…」

「痛くも痒くもないから安心しろ」

「じゃあ、あれですか!?裸で町を一周とかの羞恥プレイですか!!?
 いぇぇぇあぁぁぁぁ!!」

 そんだけ頭を振ってて取れないのが不思議である。

「シャーベットのためじゃ…儂の羞恥心なぞドブに捨てるのじゃぁぁ!!」



「いや、抜いた草を責任持って食って貰うだけだ」



「「え?」」

 その瞬間、メイの首からベキッという鈍い音が聞こえた。
 うつ伏せで地面に倒れているが、多分大丈夫だろう。

「自分で散らかした分は自分で片付けるのが常識だ。だからちゃんと食べなさい」

「いやいやいや、山羊になりたいとは言ったけども!」

「言い訳は、食べた後に聞く」

 ここで甘やかせると今後の本人に返ってきてしまう。少しくらい嫌われようとも、そういうことは教えなければいけない。

「…マジかの」

「大マジだ」


モシャモシャ…


「……案外食べれるのう」













「根本的な何かが間違っていた気がするのじゃ…」

「食べ終わったな。よくやった」

 よしよしと 背中を撫でてやる。意外に量が合ったようで腹がぽっこりと膨らんでいる、途中でやめさせた方がよかったかもしれない。

「撫でるところ違うから、そっちは完全に嫌がらせだから!!ウプゥ…」

「メイは残念ながら早退してしまったが、このまま授業を続けたいと思う」

 フォーメルが草を食べている間も起き上がる様子がなかったので城の医務室に運んでおいた。きっと大丈夫だろう。

「自業自得とはいえ気の毒な奴じゃ…」

「この魔法ができるようになったら見舞いにいってやろう」

「そうじゃの、
 で、なぜ儂がクエイクを失敗するのか教えて欲しいのじゃ」

「お前、クエイクのルーン何色使って書いた?」

「12色じゃ!! 綺麗じゃったろ?」

「メイは何色だった?」

「地味な色一色で書いておった!
 あいつもセンスがないのう…」

「なんで綺麗なお前の魔法が発動しないで、地味なメイの魔法が発動したんだ?」

「……………運?」

「違う。書庫でルーン自体が効果を表していると言ったよな?」

「言ってたのう」

「クエイクに書かれたルーンは、何かの対象を『揺らす』という効果が書かれている。
 その何かをルーンの色で指定することで、効果が発揮されるのだ」

「つまり、赤色で書けば火を水色で書けば水を揺らせるということかの?」

「そうだ。つまり、クエイクの魔法は、『揺らす』という意味を持ったルーンを土色で書くことで、地を揺らすという効果にするという訳だ。火を揺らすなどのように意味が通じない場合は、基本的に効果はないと思ってくれていい。」

「じゃが、儂も土色を使ったぞ?」

「意味の通じない色が一つでも入ると効果を発揮できない。
 そこらへんの可不可はもう少し練習してから覚えていけばいい。
 今は綺麗も何も考えずに1色だけでルーンを書いて基礎を覚えろ」

「むぅ…いまいち地味じゃが仕方ない…」

「クエイク!!」

 ゴガガガガガガッ

 凄まじい揺れが辺りを襲う。平衡感覚が狂ってしまいそうなほどの揺れである。地面に伏せていても体が揺り動かされる。

「うはは!!できたのじゃぁぁ!!
 儂にかかればこんなもんじゃい!
 ウッ…でもなかなか厳しい揺れじゃの…」

「よし!よくやった!!早く止めろ!」

 頭が揺れて気持ち悪い。思っていたよりもずっと強い振動である。

「どっ!どうやったら止まるのかのう…」

 いうのを忘れていた。メイが普通に止めていたのは予習してきたからか…

「魔方陣に終了のルーンを書き込め!!色はなんでも良い!!早く!!」

 そろそろ限界が近づいてきている、今日の昼飯が撹拌されて今にも飛び出そうだ。

「そんなルーンしらないのじゃぁぁぁ!!」

「今までどうやって魔法使ってたんだ!」

「魔方陣の魔力が消えるまでそのままにして置いたのじゃ…」

「こんのアフォメットがぁぁぁぁぁ!!」

 もう限界である。口の脇から酸っぱい唾が出てきている。

「おぬしが教えなかったのが悪いんじゃろうがぁぁぁぁ!!
 うぶぅ…!!」

「………それも…そう…だ……な
 おぶぅ!!」




 俺が最期に見た光景は、緑色の流れ落ちる滝であった。








「……もうお嫁にいけないのじゃ…」

「大丈夫だ、一部マニアが引き取ってくれるかもしれん」

「そんなマニア勘弁願いたいのう…
 とにかく、これでクエイクは覚えたのじゃ!」

「いろいろ犠牲は大きかったがな…」

「自分が原因の1つであることを自覚して欲しいのう…」

「今日の授業はこれで終わりにして、メイの見舞いにでもいくか」

「そうじゃった、あやつのことじゃから大したことないじゃろ」







 医務室に到着した。自分がいた時よりも清潔で明るくなっている。

「なるほど…何はどうあれ、そんな威力になるなんて流石ですフォーメル様!」

 首に牽引機を巻いたメイがベッドに横になっている。思ったよりも酷かったようだ。

「大魔導師フォーメルといわれるのもそう遠くないのう!フハハハ!
 せっかくじゃからおぬしにも見せてやろう!!」

「え!?ちょ!フォーメル様!ま、待ってくださ」

「クエイク!!」

 ゴゴゴゴゴゴッ

「あがぁぁぁぁぁぁあぁ!!!く、くびがぁぁぁぁぁぁあ!!」

「………」






「あんなにメイが怒ったのは初めてなのじゃ…」

 頬に涙が伝った後が残っている。

「しばらくしたら、許してくれるさ」

「だと良いがのう…」

「それよりも、せっかく出来たんだし、バーメットにも見せてくれば良いんじゃないか?」

「そうじゃの!母上も儂の上達に腰を抜かすに違いないのじゃ!」





「母上〜〜!」

「嬉しそうじゃのう、どうしたのじゃ?」

 執務室には何人かの魔物娘たちが集まって、話し合いをしている最中だった。
 これは来るタイミングを間違えたかもしれない。

「バーメット、時間は大丈夫か?」

「えぇ、一息つこうと思っておりましたところですじゃ」

「そういうことにしてもらっておこう…」

「それよりも聞いてくだされ母上!!」

 フォーメルが今日の出来事を楽しそうに聞かせ、バーネットの方もうんうんと頷きながら目を細めてその話を聞いている。

 それを遠巻きに見ていると何人かの魔物娘が近づいてきた。

「この方がフォーメル様の教師様ですか…」
「確かに、人間にしては凄まじい魔力を持っているようだな」
「フン、私ほどではないがな」

 サキュバス、デュラハン、ヴァンパイアと一昔前では気難しいやつらばかりだが、今はそれほどではないようだ。

「いきなり詰め寄ったら失礼ですよ〜初めまして〜ホルスタウロスのミグっていいます〜どうぞよろしく〜」

 縞々の服を着たスイカが近づいてきた。こんな魔物は見たことなかったが…魔王が変わってからの新種だろうか?

「よろしく頼む」

「それもそうですね、私はサキュバスのキューズと申します」

「デュラハンのユラだ」

「貴様に名乗るほど安い名ではない」

「キューズさんにユラさんにキ・サマニ・ナノール・ホド・ヤスイナマーエ・デ・花井さんだな。
 これからよろしく頼む」

「…馬鹿にしているのか?」

 花井が青筋を立てて睨み付けてくる。何か勘に障わることしてしまったのだろうか。

「いや、全然」

「バーメット様のご厚意でやらせて貰っている分際で…
 調子に乗るなよ!?」

「なんでお前はそんなに怒っているのだ?」
 
「どこの世界にキ・サマニ・なんたら花井なんて名前のやつがいるんだ!
 キサマわざと間違えてるだろ!」

「いや、標準的な名前だぞ? 失礼なのはお前のほうだろ、全世界のキ・サマニ・ナノール・ホド・ヤスイナマーエ・デ・花井さんに謝れ」

「そんな訳あるかぁぁぁ!!」

「こう見えていろいろな所を旅して来たのだ。その中で実際に聞いたことのある名前だから
 言っているのだ。頭ごなしに否定してもらっては困る」

「(本当にあんなふざけた名前のやつがいるのか…?
 だがあそこまで自信を持って言われると…
 これ以上否定して本当にそんな名前のやつがいたら私の立場がなくなる…!)
 そ…そういうことならゆるしてやろう…」

「助かる、職場の人とは仲良くしておきたいからな」

「しかし、疑ってるわけではないが…どこでその名前が使われているのだ?」

「どこというわけではないが…
 旅で出会ったドラゴンやお前らヴァンパイアの半分以上は花井だったな」

「それ完全に名前教えて貰えなかっただけじゃないかぁぁぁぁぁぁぁ!!
 やっぱり馬鹿にしてるだろキサマ…というか馬鹿だろキサマ…」

 またよく分からないが怒り始めた。ヴァンパイアはやはり今も昔も変わらないようだ。

「先生さんがどのような方なのかよく分かりました…」
「自覚がないのは性質が悪いな…」
「なんだか面白い人ですね〜」

 俺と花井が言い争いしているうちに俺の第一印象が決まってしまったようだ。



「ここで実際にやってみるのじゃ!!」

「うむうむ、楽しみじゃのう!」

 どうやらここでもやって見せるらしい。自信を持つことはいいことだ、これから先は長いからな。…別に自信と地震を掛けてる訳じゃないぞ?

「やるのは良いが少し威力を下げろ」

「どうやって下げるのじゃ?」

「魔方陣のサイズを小さくするか、ルーンに込める魔力を薄めろ」

「なるほど、こんな感じじゃな?」

 前の魔方陣よりも2回り小さな物が出来上がった。これくらいならば、軽く揺れるだけだろう。

「さすが我が娘じゃ! 物覚えが天才的じゃ!」

 こいつの性格はお前のせいか。

「ではいくのじゃ!!
 クエイクッ!!」

グラグラグラグラ

 地面が跳ねるように揺れる。このサイズでは破格の威力である。
 バーメットではないが本当に天才的だと言ってもよい。

「おぉ!ちゃんと発動できておるぞ!フォーメルはすごいのう!」………

「確かに…今までは発動するかしないかの問題でしたからね…」タユンタユン

「それを考えると成長したな…」ポニュンポニュン

「バーメット様の息女だぞ? これくらいで褒めるのもおこがましい」ポインポイン

「うぅ〜地震怖い〜」バイン!バイン!バイン!

 兄が居れば喜びそうな光景である。魔物娘達の豊満な胸が上下左右に動き回っている、親子山羊二匹を除けば、であるが。

「フォ…フォーメル?…もう十分分かったから止めてもよいぞ…?」………

「まだまだ! こんなこともできるのじゃ!」

 魔方陣に魔力を追加し揺れを促進させる。
 
「これは俺も教えてないな、いつの間に覚えたんだ?」

「これくらい、やっているうちに自然に覚えるのじゃ!」

 普通の人間や魔物ではそんなことはできない。全く、羨ましくなる才能である。

「そ…そうかフォーメルはすごいのう…だから…もう…もうやめてくれ…」………

 目から血の涙を流している

「「「「「……バーメット(様)」」」」ボインボインボイン

「憐れむならその腹の立つ効果音を止めろ!!」

「わ…わかったのじゃ母上!!」

 揺れが収まり、執務室に沈黙が訪れる。

「ジナン様………」

「は…はい…?」

「ちょっとお話があります」

「……あ…あの…俺…関係ないんじゃ…」

「いいから、早く」

「………」
















 あんなにバーメットに怒られたのは初めてでした。


12/08/02 04:28更新 / ヤルダケヤル
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■作者メッセージ
「魔物娘化する前はいろいろ想像したものじゃよ…
 自分が魔物娘になったらボンキュッボンなおっぱいとか、長身でスレンダーなパーフェクトボディとか…」

「バーメット…」

「別に今の姿が嫌いなわけじゃないがのう!!アーレトもこっちの方が好きだっていってくれますし!!幼女最高ですし!!」

「そんな顔で言われても…」

 はい、こんな感じです。こんな感じで連載して見たいと思います。

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