報告書「アマゾネス 上」
「今回、アッシュ君にしてもらうことは尋問である。わが国では〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はぁ」
長い。ひたすらに長かった。
彼はアッシュ。調教師兼拷問師兼尋問師という変わった職業の者だ。基本的に魔物を調教するが、依頼があれば人間でもする。
「つまり、我々は・・・・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼の城に直接来る人間は少ない。穢れた魔物に関わっているため、彼も同様に穢れているという認識が強いのだ。
それでも魔物の尋問依頼は教会や国から時々頼まれる。今回もそんな感じだろう。
彼は長すぎる説明をひたすら我慢して聞き流す。脂ぎった豚のような騎士は、脂汗を流しながら何かを語っている。
彼はここに半分閉じこもっているようなものなので、豚がしゃべっていることが、どれだけすごいか理解できない。しようとも思わない。
「ギース。つまり今回の尋問の目的と期間、それに種族を教えろ」
「うむ、仕事熱心なのは感心だ」
ちなみに目の前にいる豚騎士は結構昔からの知り合いだ。彼がまだ豚の様に肥えていない時から知っている。その時から態度はそのままである。
「それでは、種族は?」
「アマゾネスだ」
「なるほど。目的と期間は?」
「目的はアマゾネスの大規模な侵略行為の作戦内容を聞き出すこと。期間は1週間から3週間だ。こちらでもある程度尋問はしたが、口が堅く何もしゃべらんのだ」
自分が失敗した話だというのに、なぜかふんぞり返って話している。
しゃべり疲れたのか、ふぅふぅと息を切らせている。そして棚にあるワインを勝手に開けて一気飲みをした。
「ギース・ガントレット?」
姿に似合わず、豚騎士は教会の聖騎士団の小隊長をしている。斧を持たせれば敵はいないといわれている。ただし3分だけ。
「まったく、相変わらず安物のまずいワインを飲んでいるようだね。保存状態もわるい。ティエリラーン地方の1年物だね。そうだ、今度私の家からとっておきのワインを持ってこさせよう」
しかも舌も肥えていると来たものだ。これだからアッシュは貴族のことが嫌いなのだ。
「酒なんぞ酔えればいい。とっとと帰れ」
「ふむぅ、今日は止まっていこうと思ってね」
ブフフ、と気持ち悪い声で笑う。彼はこうして時々城に泊まり、調教中の魔物を犯すことを趣味としている。調教に支障がない限り許可をしている。
「今、抱ける魔物は2匹しかいない」
「何の種族かね?」
「いつも通り表にいるホルスタウロス、最近手に入れたベルゼブブ」
「少ないな……他の魔物は?」
「期間が来て、すべて処刑した」
「かー! もったいない。手足を切って、私が飼いたいくらいだ」
ペチン。額を手でたたきながらそんなことを言っている。アッシュは自分のことを最低だと思うが、間違えなく目の前の豚も最低だと確信している。
「ホルスタウロスかベルゼブブにしておけ」
「なんだ、君の助手のスケルトンは抱かせてくれないのかね?」
「あいつは個人的なペットだ」
「残念だ。それではベルゼブブにしよう」
「地下の牢屋。一番奥の部屋。鍵は掛かっていないから好きにしろ」
「不用心だね」
「別にどうでもいい魔物だからな。脱出を図らせて、仕置きと称して拷問している。最近では学習したのか、脱出を図ろうともしない」
「特徴は?」
「ガキだ。叩けばいうことを聞くぞ」
「そうかそうか」
「……仕事の話に戻るが、アマゾネスは?」
「表の馬車につないである。それでは」
頭の中はすでに犯すことでいっぱいなのか、スキップでもしかねないほど上機嫌に部屋を出ていく。アッシュは深々と溜息をついてからギースが乗ってきた馬車に行く。
途中で寝こけているホルスタウロスと老犬がいた。2匹は日向ぼっこをしている。日差しは心地よく、昼寝をするには最高のシチュエーションだ。
「暢気なものだな」
アッシュはホルスタウロスの頬を軽くつねる。うぅん、と呻っただけで起きる気配はない。次に老犬にも同じことをしようとしたら、片目だけを開けてこちらを見ていた。
『なんか用? 用がないらな寝かせてくれ』
そのように語っている気がしたので手をひっこめた。アッシュは調教相手以外には基本的にやさしい。
「存分に寝ればいい」
頬をつねるのをやめ、頭をなでた。
老犬は満足そうにしてすぐに寝始める。
「俺はこれから仕事だというのに」
ため息1つ。ギースが乗ってきた馬車へ足を向ける。それは普通に荷台がついた馬車だった。
「殺す…殺してやる…」
中から、何やら声が聞こえる。それはまさに呪詛の様だった。受けた屈辱を反芻しているのだろう、目は真っ赤になり、どこかを見る目でブツブツと同じことを言っている。
「…臭いな」
予想通りの姿だった。
褐色の肌に精子がデコレーションされ、いたるところに痣のアクセント。右肩は焼けただれた跡がある、おそらく焼けた鉄でも押しつけられたのだろう。手足を厳重に鎖で拘束している。
それなりの尋問を受けて一言もしゃべらない。もともとアマゾネスは痛みに強い種族だ。女尊男卑の世界では女は常に強くあらねばならない。痛みで弱音を吐くことは絶対にない。
「強姦や輪姦ごときで折れる筈もない」
「……」
アッシュの気配に気がついたのか、呪詛を吐くのをやめて黙ってしまう。
「まったく、めんどくさいな」
「…?」
「おい、この場で計画をすべて話せ。そうすれば逃がしてやる」
「貴様…私を舐めているのか?」
以外にも挑発に弱い。おそらく自分や部族に対するプライドが高いのだろう。燃えるような怒りの瞳でニラまれた。アッシュは特に動じることもなく、鎖を引いて彼女を引きずり出した。
「俺はアッシュ・ランバード。これからお前に尋問をする男だ」
「……」
「っは! 名乗られたら名乗り返すのが貴様らアマゾネスではなかったのか?」
「……ッチ。 キリエだ」
「そうか、キリエ。これからゲームを始める」
「…?」
「これから傷を癒す期間を4日設ける。それから10日間尋問をする。その期間で耐えきったのならおまえの勝ちだ」
「…信じられるか」
「俺は人間ではない。インキュバスだ。一応お前らと同じ魔物に分類される。 それに、これは俺からお前への挑戦だ」
挑戦、という言葉に目を光らせた。
「男ごときが私に挑戦だと?」
「逃げるか?」
アマゾネスは負けず嫌いで挑戦と言われればほぼ受ける。そして、逃げることを極端に嫌う。
「何を賭ける?」
「命」
「口先だけではなかろうな?」
アッシュはキリエの拘束を解いてしまう。
彼女は驚いたようにアッシュを見る。もちろんアッシュの作戦の内だ。こうした正々堂々とした挑戦に絶対に応じるとわかっていてやったのだ。
「これでも信じられんか? それに、逃げ出すなら体の傷を癒してからのほうがいい」
「……変な奴だ。だが、挑戦を受けた以上答えないわけにはいかない。アマゾネスの誇り高き戦士、キリエ。挑戦を受けよう、アッシュとやら」
体は衰弱しているはずなのにしっかりと立って宣言する。
「よし、体を癒すのは4日間だけだ。部屋に案内しよう」
「貴様の尋問がどれほどだろうが、すべて耐えきってやる」
表面上には出していないが、アッシュはキリエのことをバカにしきっていた。こういう女ほど堕ち易いことを経験上から知っているからだ。
挑戦を受けると言った以上、どんな要望にも答えなければならない。アマゾネスとはそういう種族なのだ。
それに、快楽がどれほど強烈なものか知らないとみた。
「どれだけ耐えられるか楽しみにしている。……ミリア、案内しろ」
「ああぅ」
ミリアに連れられて城に入っていく。
アッシュは小さく鼻で笑った。逃げることなど出来やしない、屈服させるのにそれほど時間もいらない。ただ犯すだけで口を割るだろう。
「せいぜい楽しませろ……」
今回は魔物を快楽漬けにしようと思い、触手の森に来ていた。
ここは男女関係なく襲いかかる触手がいる。快楽とともに魔力や精力を吸われ、骨だけになった魔物や人間の残骸が落ちている。
魔物ですら近づくことは少ない森。
森は常に媚薬の霧が出ている。薄いピンクの霧だ。生物を興奮させ、判断力を失わせる効果がある。アッシュはマスクをしてある程度対策はしている。
「体に染み込む前に出ないとな」
花が花粉を飛ばすように霧を放出し、肉のツタのようなものがアッシュを狙う。それを手に持っている剣だけで迎撃し、奥に入っていく。
媚薬の霧はさらに深くなり、アッシュもだんだん興奮してきた。何もしていないのに陰茎は勃起し、先走りの汁を流し始める。それでも冷静さは失っていない。
「……見つけた」
それは直径80センチほどの蕾のようなものだった。
アッシュは慎重に蕾が開かないようにロープで縛る。そして根っこごと引き抜いて袋にしまいこんだ。これがアッシュの探していたものだ。
「早く帰らねば」
そろそろアッシュも限界だった。服に擦れるだけで腰が動いてしまう。これ以上ここにいれば、アッシュですら理性をなくしてしまう。そんな場所でさえ森の全体からすれば入り口付近にすぎない。これ以上の探索は不可能だった。
アッシュは蕾を抱えなおし、走り出す。そこらにある触手に自分の陰茎をぶち込みたい衝動が抑えられなくなりそうだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ミリア」
「ううあ?」
森の捜索時間はたったの3時間。それでもアッシュは理性が消えかかる。触手の森とはそういうところなのだ。
帰ってきたアッシュはすぐさま蕾が入った袋をさらに厳重に包む。
一通り処置が終わった瞬間、待っていたミリアに襲いかかった。愛撫も何もない、ただの獣のような行為。
「はあ! はあ!」
1発目はズボンから取り出すだけで射精してしまう。
2発目は秘所に当てるだけで射精。
3発目は入れた瞬間に射精。
今まで理性を無理やり保っていた反動で、アッシュの興奮は止まらなかった。
「ああああうあ! あああううああう!」
乱暴な挿入をされることが分かっているミリアは、アッシュが森に入ってから自慰をしていた。それもあって無理なくアッシュの陰茎を呑み込んだ。
「ミリア、ミリアぁ!」
これほど短い時間だというのに、何回射精したか分からない。もともとインキュバスは己の主であるヴァンパイアに精を提供する存在だ。それだけ精力は強い。
何度射精しようとも萎えることはなかった。
「ああ、あああ、ああ、あうああ、ああ! ……ああああああああああああう!」
アッシュが理性を取り戻すころには日が暮れていた。
「…ッチ。思ったより浸食率が高かったか」
下腹部に残る鈍痛。よほど強く叩きつけたらしい。まだ勃起は収まっていなかったが、御しきれる範囲だ。
ミリアと交合したままで理性を取り戻した。ついでにもう少し繋がっていようと思ったところで、ミリアの異変に気がついた。
「……ぁ………ぅ………」
膣内射精を繰り返し、抜かずにひたすら出し続けたせいでミリアの腹部はボールを1個入れたように膨れ上がっていた。
「出しすぎたか……」
アッシュはこれ以上するのをあきらめ、陰茎を引き抜く。それと同時に今までおさまっていた精子が膣から流れ出した。
それにすら反応せず浅く息を繰り返し、呻き声とも喘ぎ声ともとれることを呟き続ける。
仕方がないので荷台に放り込んだ。
これだけリスクを犯した甲斐はあるはずだ。厳重に収納してある蕾をみてほくそ笑んだ。
「1日耐えられたら褒めてやるぞ」
城に帰れば楽しい時間の始まりだ。
城に戻ってからミリアはいつもよりキビキビと働いていた。おそらくアッシュから大量の精をもらったからだろう。
「いつもこれくらい働けばいいのだがな」
明日から始まる尋問が楽しみだった。久しぶりの快楽漬け調教。
泣いて請わせて、人格を破たんさせてやる。
「……ククク」
「あうあうあー」
「あ?」
ミリアは何かジェスチャーをしている。それはMPを奪っていく踊りにしか見えなかった。意味を理解しようとよく見ているアッシュはだんだん気分が不快になってきた。
「うあー、おううあお」
「……分かった。豚騎士がまだここに滞在していて、どうするか聞きに来たんだな?」
「あい」
「放っておけ、ヴィベルなんぞ壊れても惜しくない」
足元で寝ている犬を軽くなでる。
老犬は嬉しそうに目を細め、また寝始めた。最近寝ている時間が多い。老犬に嫉妬したのか、ミリアが頭を差し出してきた。
「あー」
「うるさい」
コンと軽くたたく。
だいして痛くないだろうに、大げさに頭を押さえて拗ねたふりをする。ミリアは大量に精を摂取した時に行動が変になるときがあった。
「うー」
地面にのの字を書き始める。勘弁してほしかった。しょうがないので無視して寝ることにした。
***************************************
夢は何も見なかった。
あのアッシュとかいう男は目が読めない。表情から心理を読ませないことに長けているのだろう。4日の休みというのも、命をかけるというのも本当かどうか怪しい。が、実際に休みと治療を提供した。
それでも信用ならない奴だと本能が告げている。
城の周りには魔力に反応して出ることが出来ない罠が張ってあり、逃がす気など毛の先もないことを物語っている。
それでも挑戦を受けた以上、アマゾネスのプライドに賭けて逃げるわけにはいかなかった。
どんな不意打ちや拷問にも動じないようにひたすら自分を制する。
今日で3日目の休養だ。大分動けるようになってきた。
「私は誇り高き部族の戦士だ。たかが男ごときに屈指はしない」
今日何度目になるか分からない独り言。
私はなんとなく部屋の様子を見渡す。
ここは牢屋ではなく、客人用の部屋らしかった。もちろんドアに鍵などかかっていない。窓を見下ろせば大して手入れもしていない庭園が見える。そこにはのんびりと寝ているホスルタウロスと老犬が仲良さそうに並んでいる。
ここが本当に拷問や尋問をする所なのか疑ってしまう。だが、城全体から漂う気配は邪悪で暗い。間違えなく良くない場所だと告げているのだ。
―カシャン、カシャン。
この足音はアッシュと一緒にいたスケルトンだ。私は何事もないようにベッドの上に座り、腕を組み目をつぶる。慣れ合う気もない。
「あーぁあうあおえあおういおあ?」
無視だ。
「…」
「うい? …あああおうあうああえ?」
我慢だ。
「………」
「ぅうぅういあ?」
耐えろ。
「……………………」
「ぅうえ! ぉぅえ!」
「吐くなよ!」
「あー♪」
つい突っ込んでしまった。私が構ったのがうれしいのか、あうあう、と言ってはしゃいでいる。気がついたことがある。どうやらこのスケルトンは特別らしい。
言葉がほとんど通じず、要領も悪い。それなのに来ている服や、首から下げているネックレスは上等な物らしかった。
私はこのスケルトンの頭をよく観察した。そこには予想通り、大きな傷があった。生前の傷を覚えているのか、魔物になってから怪我をしたのか、私には判断がつかない。
コレにそれほど注意をする必要はない。そう判断してベッドの下に隠してあったものを取り出す。
それはベッドの土台の一部の木だ。これを口で少しずつナイフのような形に削っていく。もちろん殺傷力はそれほどない。だが、人の喉を刺すには木で十分だ。
「……ガリ……ガリ……ガリ……ゴクン」
これを作っていることを察知されてはいけない。こうして木くずを呑み込まなければならない。期間はたくさんあったので、我ながら良い出来になった。
これであいつの首を突き刺す。
「私に自由な時間を与えたこと、後悔させてやる………ん?」
一瞬、強烈な殺気を感じた。すぐに振り返るが、そこにはスケルトンしかいない。
「あう?」
「気のせいか。……キチガイのスケルトンがそんなことができるはずないか」
あいつは10日しゃべらなければ勝ちと言っていたが、計画が実行されるのはあと1週間後だ。そうとも知らず自分で期限を決めるなど、まったくもって愚かしい。やはり男は男なのだ。
「馬鹿な奴だ」
「あい?」
「お前ではない」
「うあ」
こんな時間を与えるやつだ。どうせ拷問とやらも大したことがないに決まっている。
「私は時間が来るのを待てばいい」
カツカツと歩く音。これはあいつだ。 私は急いで木製のナイフを片づけた。
「ん? ミリアもここにいたのか。……傷の具合はどうだ?」
「貴様になんぞ心配される必要はない」
まだ殺す時ではない。奴と私の間にはスケルトンがいる。万が一にも失敗してはならない。
「強情な奴だ」
私が襲ってこないと確信しているのか、口の端だけをゆがませて笑う。いや、歪んだのは口の端だけだ。表情は基本的に変わらない。瞳は揺らがない。暗い顔で何を考えているのかわからない。
「大したことのない尋問とやらを楽しみにしているぞ? クズめ」
「大したことがないか、明日になればわかる。それまで寝ていることだ」
「どうせ犯すだけだろう。人間は全部そうだ。貴様だって元は人間だ。同じことを繰り返すことしかできない矮小なやつ。猿と一緒だ」
「そうか、……それで?」
この程度の挑発じゃ揺らぎもしない。
「命をかけるといった以上、必ず、貴様を、……殺す」
「楽しみにしてるさ」
殺気を込めた目線も通じない。修羅場に慣れているのか、ただの鈍感か。
首をすくませ、部屋から出て行ってしまう。
「逃げるのか?」
「明日の準備だ。大したことがないらしいからな、もう少し用意をするだけだ」
「………クソ」
全く読めない。強いのか弱いのか、残酷なのか甘チャンなのか。
やはりこの城に閉じ込められている以上、あいつの絶対有利は崩せない。八つ当たりだとわかっていても椅子を蹴飛ばす。
まったく気は晴れない。
私は不貞寝をすることにした。どうせ明日になれば奴の化けの皮も剥がれる。そうして殺す。ただそれだけだ。
「フン」
「あう?」
「お前も出て行け。もう寝る」
「うー」
スケルトンはノロノロと部屋から出ていく。
誰もいなくなった部屋でやっと寝ることができる。
明日。
明日だ。
***************************************
今日から尋問が始まる。
アッシュは今日つかう道具を牢屋に持っていく。尋問する場所は牢屋と決めている。
「うあぁ! ああああ! ごめんなさい! ごめんなさい! ゆるして!」
「ん? 牢屋に誰かいたか?」
不思議に思い、牢屋を覗いた。
すると、そこにはギース・ガントレットとベルゼブブのヴィベルがいた。
「ブフフフ、もっと叫びたまえ!」
「……あの豚、まだ城に滞在してたのか」
ギースは鞭で激しくヴィベルを叩いていた。縛りはしていないので、腕で顔をかばっている。その腕ごと執拗に叩く。
バシン! ペチン!
音は一定ではない。鞭の使い方が下手だった。だが、散々叩かれたヴィベルは鞭の空気を切り裂く音がするだけで体を縮めてしまう。そこにたまたまいい当たりが来てしまう。
「うわああああん! いたいよぅ!」
「ぶt……ギース!」
「んんん? おぉ、アッシュ君。久しぶりだね!」
とっとと帰れと言いたかったが、一応親しく(?)しているとはいえ、向こうのほうが立場が上だ。
「これからアマゾネスの尋問をする。だから…」
「よし、私も立ち会おう!」
鞭を振って汗だくのギースは、顔を脂で光らせながら言う。アッシュは普段絶対に表情を変えない。だが、この時ばかりは眉間にしわを寄せた。
「ひい!」
アッシュが不機嫌なのを察したヴィベルは体を震わせ、これ以上ないほどに小さくさせた。
「ギース、これは仕事だ。お前にも仕事があるだろう?」
アッシュは出来るだけ穏やかに言ったつもりだった。
「……そうか、だがもう少し…」
名残惜しそうにヴィベルを見ている。
アッシュの殺気にあてられながら呑気なことを言っているギース。小さく勃起した陰茎はそのままだ。
「(やはり豚。鈍いな)」
「何か言ったかね?」
「今晩またやればいいだろう。それまで牢屋からいなくなれ」
「そうだな、少し休憩しよう。……ブフフフ、ビベルちゃん。また来るよ?」
「……もう…いや」
「……ビベル? あの豚は名前も理解できないのか」
「ひぃ」
ヴィベルの体には赤い線がいくつもできている。だが、血が滲んでいるところは一つもない。
「ずいぶん易しいたたかれ方をされていたみたいだな……思い出させるか……」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
もはや何に対して謝っているのかも分かっていないのだろう。ギースの前での演技ではない。本気で恐怖している。
「今日は後にほかの尋問が控えているからな。……10回で許してやろう」
「う、あ、ああ、わああああ!」
その場で泣き崩れる。
「背中を出せ。さもなくば耳を持って行くぞ?」
泣きながら、震えながら言われるままに背中を出すヴィベル。
「うぅ、ヒック……グス」
そして鞭が振り下ろされた。
「ぎゃあああああああああああ!」
とんでもない絶叫にキリエは一瞬身を竦めた。
「あう?」
「なんだ? 今の声は?」
「うえあ」
「お前に聞いても無駄だったな」
尋問される地下の牢屋は湿った空気に満ちていた。地や愛液、糞尿や死体の匂い。さまざまな悪臭が混ざり、言いようのない不快感を呼び起こす。
「あ〜ぁあう」
キリエは少し身構えながら、案内されるまま一番奥に行く。
そこにはアッシュがいた。
「1発で失神か。久し振りだから堪えたみたいだな……ん? 来たか。こっちじゃない。正面の牢屋に入れろ」
「あい」
「…貴様……何をしていた!」
「キリエ、お前には関係がない」
「馴れ馴れしく呼ぶな!」
泡を吹き、背中から血を流す魔族を見てキリエは激昂した。背中にあるはずの羽は切り取られ、根元から焼かれている。これでは一生生えることはない。
空を駆けた魔物はもう飛ぶことはできない。足を捥ぐに等しい行為だ。
「さて、始めるか」
無防備に近づいてくるアッシュに、キリエは襲いかかった。タイミングなど頭から消し飛んでいた。目の前の男に憎しみを燃やし、懐に隠してあった木製のナイフを振りかざす。
「死ねえええええええええええええ!」
襲いかかった。アッシュは武器を携帯していない。鞭はすでに持っていない。防具もない。考え無しに向かっていったにしては良いタイミングのはずだった。
「…ふぅ」
「!? なに? ガハァ!」
腕を取られたまでは理解できた。
そこから体が一回転し、背中からたたき落とされた。
「弱い魔物が抵抗をするな」
後ろ頭も軽く打ったらしく、キリエの視界はグチャグチャになっていた。
「なにが……」
動けないうちに手足を拘束していく。キリエはまだショックを受けているようだった。
自分の強さに誇りを持っているものは、それが覆されると呆然する。頼っていたものがなくなり、精神的に不安定になる。
「1日で堕ちるなんてことになるなよ?」
今回の拘束の仕方は、両腕をバンザイ状態で吊るし、足首から下を石で拘束させるものだ。一応蹴りを警戒しての拘束使用だった。
「貴様……いったい何をした?」
「答える必要はない。これからお前には泣き叫んでもらう」
アッシュの手には、キリエが見たこともないものが握られていた。それは陰茎に似ている。何に使われるかはすぐに推測できた。
「この、やはり犯すだけか!」
「やられてからのお楽しみだ。ミリア、始めるぞ」
キリエはたった今理解した。
目の前にいるのが鬼畜だと。
「絶対に屈しないぞ……」
10/05/04 23:35更新 / Action
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