その6.5 魔物娘ウォッチ 新妻誕生の秘密
まるで切り立った崖の様な角、
それが艶やかな黒髪を分け生えている。
そんなミスマッチとも言える二つの感触を手で撫で感じながら。
男はそれらをのせた少女の顔を見る。
年のころは十代半ばと言ったところだろうか。
細められた目の奥の、濡れた瞳は真っすぐに男だけを映し、
紅潮した頬はまるで食べ頃リンゴの様だ。
少し勝気そうなその顔は、熱に浮かされたようで年頃に不釣り合いな色香を纏う。
頤(おとがい)から視線を下げると、瑞々しい弾ける様な肌が、
人間の年頃の娘と比べると、だいぶ豊満な肉付きの体を覆う。
更にその上からグラマーなボディを包む様に、
武骨な竜鱗と牙や角を思わせる有機的な錘が配されている。
その切れ目は丁度、茂みの無い綺麗な下腹部まで続いていた。
ともすればその姿は、姫君が怪物に食べられかけており、
その口腔から衣服も無い上半身だけを出して、
あられもない姿を晒している様にも見えた。
瑞々しい肌は汗でしっとりと濡れ、
その肩と豊かな胸は興奮から大きく上下している。
熱を帯びたその顔色と相まって、
男は何処か倒錯した色香をその姿に感じてしまう。
痴態を晒し食べられかけている姫、
その妄想は男の眠っていた保存本能に火をつけたのか、
急速に彼の意志とは関係なく血をある一点に集め始める。
だが勘違いしてはいけない。
食べられそうなのは目の前の少女ではなく、
それに興奮している自分の方なのだから。
そう男は自分自身に言い聞かす。
自分より一回りは年下の少女が放つ熱。
それに浮かされる様に、
彼は肉体の求めに従って頭を撫でていた手を下に下げる。
そして耳の位置から生えている鰭(ひれ)を軽く撫で上げる。
魚で言う鰭骨(きこつ)に当たる鰭に通った骨を、
ワイングラスの淵を撫で上げる様に軽やかにタッチする。
「ンンッ♥♥」
鼻から熱い風が抜け、
情熱的に男を上目づかいに見ていた少女の顔が緩み蕩ける。
茫洋とした瞳、力を失いだらしなく緩んだ頬、
キュッと上がっていた口の端は下がり、其処から透明な蜜をツゥと垂らす。
「ここ・・・良いんですか?」
男は鰭骨の先をピンピン弾きながら、
反対側では鰭の根本付近を愛おしげに撫でさすっていた。
「あゝん♥」
肯定の代わりに嬌声が上がる。
少女は瞳を閉じて、口を大きく開けていた。
そのだらしない口元からは、
少女の口蜜に濡れた舌がテラテラと滑り、
彼を誘う様に時折ピクピクと震えている。
眉根も下がり焦点を失った瞳、
紅潮した頬と荒い息、
間欠泉の様に喉奥から時々漏れ出す甘い声。
そして彼を誘う様に震える舌と、
彼を迎え入れるピンクの貝の様な唇。
男は呑み込みかけた興奮を鼻から噴き出すと、
呻くようにしてその桃色の酒池に顔を突っ込んだ。
何より先に、突き出された舌が男の唇に触れた。
軽くそれを唇でつまんで味わう。
温かく心地よい弾力と、まみれた熱い唾液が男の口周りを濡らす。
蕩け脱力した顔はそのままに、舌がまるで別の生き物の様に男の唇に反応する。
ツプッと伸びて唇を割ると、一気に喉奥まで届きそうな勢いで男の口内を蹂躙する。
「んん?!」
その勢いに男は驚き、一瞬痙攣気味に頭を離しかけるが、
ピタリと絡められた舌と舌が、男のその動きを抑制する。
いっちゃだめ 少女の甘い瞳が、蠢く舌が暗にそう言っていた。
男も判ったと頷くことすら煩わしく、
少女の舌を甘い蜜ごと吸いながら、
頭どうしを近づけて口と口をピタリと合わせ、
行動で少女に応える。
互いに互いを貪るように口内の液体を循環させ飲み下し、
舌と舌を互いの根本や頬、歯茎に走らせ続ける。
鼻から抜ける嬌声とくぐもった水音が洞窟の内部でタップを踏む。
(アア・・・止まらない・・・止まれない・・・・・・いい・・・)
(おいしい・・・おじさん♥・・・おじさんおじさんおじさんおじさんおじさん!!!)
永久に続くかと思われたその接吻だが、生まれ持った種族としての差が次第に出始める。
男は体が出す命令を、相手から与えられる無尽蔵の快楽で塗りつぶされていった。
舌も喉も時折震えるだけで、彼のいう事を効かなくなっていた。
というより、指令を出す頭がただピンクの水音に塗りつぶされていた。
(良い・・・いい・・・・・・イ・・・・・・・・・)
少女は貪欲に彼を飲みほしていた。
彼からの刺激が無くなっても一向に構わず止まらず。
ただ彼の頭蓋を滅茶苦茶にかき混ぜる。
そして少女は暫くして男の顔をしっかり見たくなってそれを辞めた。
ぐったりとしていつつも、男の下半身に巻き付いた少女の下半身が、
しっかりと熱と硬度を保ったとある感触で、男の感想を雄弁に伝えてくる。
熱に浮かされたように男を抱きしめる両手に力を込める。
みしりと音を立てんばかりに力を込め爪も立てるが、
その刺激が男の魂を桃源郷から少しだけ引きずり起こす。
互いに荒い息を吐きながら視線を合わせる。
((何て・・・何て愛おしいんだろう・・・温かいんだろう。))
少女は己のいかつい腕と下半身でギリギリと男を抱きしめる。
男は少女の鱗から露出している細身の肩と背中に愛しく腕をまわす。
二人は体という境界線が邪魔だと言わんばかりに、
肌と肌を擦り合わせ、頬と頬をくっつけあった。
鱗から露出した少女の肌は年相応の瑞々しさと張り、
そして絶妙な弾力を汗でしっとりと男の肌にくっ付けてくる。
指で撫でる度に、指先が肌に甘くいかないでと引き留められ、
プンと甘い別れを告げたと思うとクニュリと次に迎え入れられる。
指先に鈍くも心地よい甘い疼きを残し続ける。
その甘い疼きを求め、彼の指は彼女の肌を撫で摩るのを辞められない。
そしてその何よりも大きく主張しているのが胸板で潰れる大きな果実だ。
肌は他の所同様に絶妙な張艶を残しながらも、
少女の回された腕に込められた力によって、
その中の蕩ける様な柔らかさを男の胸に張り付いて伝えてくる。
男が身じろぎする度に、触れあった箇所がミルクの様に溶けるような錯覚をさせられる。
そんな極上の感触を、歳とは不釣り合いに大きなそれが男に塗り込んでくる。
更にそんな果実の先端は、少しばかりの堅さとざらつきによって絶妙なアクセントを加え、
その感触に男を慣れさせることを許さない。
男の顔は震え潰れる柔肉と同様にだらしなく融け、
その体は先端同士が擦れあい、爪弾かれる甘い甘い刺激に震えた。
己が体を融け合わせる様にしていた少女は、
男の自身の胸への反応で更に興奮したらしく、
はっきりと紅と言える顔色で端的に言った。
「きて。」
腕を緩め、広げるようにして男を誘う。
己が裸身を見てと言わんばかりに男の眼下に晒していく。
吐息は荒く、上下する双丘とたおやかな平原、
少し魅力的な窪みからなだらかな丘、
そして覆う硬質な鱗という岩山に囲まれた柔らかな洞窟。
男の視線は旅人となってその大地を東奔西走していく、
余さず測量して正確な地図を描かんばかりに何度も何度も。
その行為によって、男の脳髄にマグマの様な興奮が溜まっていくのを男は自覚していた。
だが止めようなどとはこれっぽっちも考えない。
いや考えられない、視姦する少女のそれは淫らだが何処か美しく神聖でさえある。
未踏の地であるその洞窟の奥、其処に至るのが自分の持つ使命であるようにさえ男は感じる。
少女が焦れたように、拗ねたように、
まだ? と己の堅い爪で不釣り合いに柔い果実の先端を捏ねる。
爪によってたわみへこむ先端とその周囲、
形を変えた曲線とその柔らかな震え、
それが男の溜まった欲望を噴出させた。
「グウゥッ!」
「♥♥」
俺のだ そう言わんばかりに少女の腕を除け、
男は両の手を禁断の果実に被せ、顔をそれが作り出す谷間に埋めた。
押せばたわみ撫でれば震え、腕はもはや彼の意志を離れて勝手にそれを揉みしだく。
塞がった顔は我武者羅に左右のマシュマロに擦り付けられ、
口元に来たそれをしゃぶりつき吸う。
吸う息は少女の甘い汗と体臭で満たされ、
吐き出したはずの欲望を更にどんどん貯めさせていく。
相手の事などおもんばかる余裕は男には微塵も無く。
ただただ獣の様に顔と腕で少女の豊満な果実を貪りつくす。
乱暴とさえ言えるそんな男の扱いも、
少女にとって全て悦楽になっているらしく、
男の頭の上から甘い喘ぎを降らせる。
「んん♥ ああんっ♥♥」
もっといいよ いっぱい好きにしていいよ 思うままに 溺れるままに
少女の淫らな鳴き声が、命令に近い形で本能にそう囁きかける。
ボリュームのある肉塊が、息継ぎの為に谷間から顔を上げた彼の眼前で弾み揺れる。
彼のクモの様な指によって、波のように震えるおっぱいと乳首。
桃色に色づいた二つの揺れる乳首、それを皿の様な目で見つめる男。
甘い喘ぎと揺れる桃源郷、指の中で暴れる白い柔肉。
そして辺りに充満する淫靡な香り。
男は聴覚と視覚、触覚と嗅覚を目の前のただの脂肪の塊にすぎないものに、
満たされ溺れ独占されていた。
おっぱい・・・おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい
母への憧憬なのか、原始的な肉への欲求に突き動かされ。
彼はその震える桃にむしゃぶりつく。
「んん! ちゅば・・・ちゅぶちゅぶ・・・じゅぶ・・・ぺろぺろぺろぺr」
「ああん♥ して・・・いっぱい・・・ちゅばちゅば・・・ぺろぺろ・・・もっとっ♥♥」
血走ったオスの眼で少女の肉に被りつくその姿は、
聖騎士などという肩書を微塵も感じさせない乱れようだった。
少女の方もそんな男の狂ったような肉欲を受け止め喜びで全身を震わせる。
のたくった尻尾が洞窟の石柱を叩いて砕き折るが、
その轟音と地響きも二人にはどこ吹く風だ。
もんで すって はさんで うずめて
ただひたすらに 肉を貪る
薄らと紅がさしていた少女の肉は、
その白い胸を中心に、男の指と嘴で赤くなっていた。
男は登山者が山頂に旗を立てるがごとく、
少女の肉を征服したその証を見て男としての本能が刺激され更に興奮した。
女はそんな男の興奮した顔と息遣いを見て、
自分の女に魅了されたその痴態を見て、
自分の女としての本能が更に燃え上がるのを感じる。
先ほどのキスと違い、どっちが攻めていたのかさえ判然としない。
物理的に少女の体を攻めて鳴かせていたのは男の方だが、
その攻めの決定権は男の方にあったとは言い難いからだ。
少女と女の中間といっていい年齢特有の張艶のある肌、
それには不釣り合いな豊満な肢体と色香は男の心を虜にし、
まるで見ようによっては男の頭を、腕を、
少女の淫靡な谷間が喰らっている様にさえ見せていた。
「おじさん・・・もう。」
少女はそのごつい腕で器用に男の腕を導くと、
男の腕を下に走らせた。
へそにスプと指が掛かり少女の体が少し震える。
そのまま更に下へ、魅力的な曲線を描く下腹を越え、
高さ的にも下降線を描く男の指先。
ツプリッ 熱い
男の中指と人差し指が感じたのは少女の熟れた熱だった。
容易く呑み込まれた指先が感じたのは。
キュウキュウと柔らかくもしっかりと締め付ける熱い肉の未踏領域。
其処から泉の様に溢れる愛液が少女の意志を雄弁に語る。
言葉はいらない。
男は衣服を押し上げていた下半身のそれを外に出す。
冷たい外気に晒されながらも、稼動中のボイラーの様な熱を帯びたそれが屹立する。
(すご・・・此処って・・・こんな風に・・・)
男の其処は、今まで生きてきた中で見たことも無い程に大きく、
雄々しく、硬く熱くそそり立っていた。
自分のものではないみたいだと男は思った。
彼の体が人間相手に立たなくなる前、自分でした経験が皆無というわけでは当然ない。
だが、その際のサイズと比べて明らかに一回り大きくなっているようだった。
ぐつぐつと煮えたぎった白いマグマを内に秘め、
息一つでさえ暴発しかねない危険なそれを、
愛おしげにしばし見つめた少女は、
ヘビの様な形故に位置調節が楽に出来るその体を生かし、
自ら身を投げる様に男の聖剣にその身を落としていった。
ニュルン ニュリュニュルニュル ニュルルルルルッン
お互い、秘部への刺激は殆どなしで此処まで来た。
その時点ですでに我を失う程に狂い咲いていた両者の、
初めての粘膜通しの擦り合い。
共に耐えきれるはずも無かった。
男も少女も同時に果て、貯めに貯めた白い欲望と、
溢れに溢れた灼熱の蜜が混じりあい結合部から吹き上がる。
快楽という白い電流によって、
つま先から天辺までが満たされ痺れる。
男は足をピンと伸ばして痙攣し、
少女は巻き付けていた体をギリギリとしめて、
仰け反った上半身で洞窟の壁を砕く。
まるで魂だけが宇宙旅行をしてきたような感覚。
落下と共に意識をより戻した両者は、
互いが互いを見つめ合った。
大きく肩で息をし合い、心臓はともにバクバク言っていた。
もはや冷静にどれくらい飛んでいたかは知る由もないが、
それでも自分が吐き出した量が、発射した回数が、
今までの常識を打ち破るものだったことは見た目で分かった。
だというのに・・・だというのに、
彼の剛剣はいっこうにその刃を鈍られてはいなかった。
まだまだいけるぜオヤジ!
そうサムズアップせんばかりの息子の孝行っぷりに思わず苦笑しつつ、
男は少女の方を見る、その視線だけで少女は男の言いたい事を察し、
こんなに幸せな事は無い、そう言わんばかりの華の様な笑顔で答えた。
男は今度は自分の意志で突き上げを始める。
少女はそれに合わせる様に、迎え入れる様に、
子宮をぶつける様に体を弾ませはじめる。
達したばかりだというのに、剛直の先は未だ鈍る事を知らず。
新鮮な快と悦を体に伝えてくる。
こすり合わせる度に快楽を伝える神経を、
直に天使がさする様な幸せが体を駆け抜ける。
そして互いに内側に貯めあったその快楽が、
今度は内側から噴き出して自分という性感帯を刺激していく。
辞められない止まらない。
寄せては返す波濤の様な快楽の集約と放出、
二人は別々の歯車でありながら息ぴったりの蒸気機関の様に、
ピストン運動を繰り返して互いに幸せを与え合った。
今ここにあるのは、ただ互いと爛れた肉の饗宴だけであった。
※※※
ふわふわ ゆらゆら たゆたう たゆたう。
すごかった
それ以外にどう言い表せばいいのか。
男の半世紀にも満たぬ人生経験では筆舌に尽くし難く。
男はしばし目覚めた意識を放心したままにし、
己の中で未だ渦巻く、宴の熱を冷まそうとする。
(此処は・・・何処だ・・・)
男は目覚めると不思議な浮遊感の中にいた。
それは先ほどまで男が感じていた。
達した時のジェットコースターの様な快感によるそれとは違い。
まるで冬の蒲団に包まるような怠惰な感覚だった。
体の感覚が鈍い、金縛りにあったように手足を動かそうとしても感覚が無い。
見回す限り自分の体も確認できない、そんな視界だけの状態。
(夢か・・・久しぶりに見た気がするな。)
{夢ではないぞ。}
(その声・・・ウェンズか。)
{そうだ。此処は敢えて言うなら情報の海だな。}
(情報の海? 一体何の情報だというのです。)
{我のだよ、ルーン文字は一文字に様々な情報を含んだ優秀な圧縮情報だ。
だがな、そのルーン文字を持ってしても自我を、魂という情報を再現するのは困難を極める。}
(・・・何が言いたいのです?)
{それだけ我という存在の持つ情報は膨大だということさ。
君達が結ばれた事によって、その複製と転写が今行われている最中なのだよ。
それを君とあの娘の脳という演算機能を利用して、
やらせてもらっているというわけだ。}
(・・・ようするにその間、私達は仮死状態の様になっているというわけですね?)
{ああ、最低限の維持機能以外、全てこっちの作業に回させてもらっているからな。}
勝手な事を、と思いつつも男は文句を飲み干した。
必要な事だとは判っていたからだ。
其処まで考えてから少し疑問がわいたので質問する。
(ならこの私の意識も邪魔では? 気絶状態にでもしてた方が速そうですが。)
{その通りなのだがね。状況次第では途中で外からお客さんが来るかもしれない。
だから緊急の際にもすぐに目覚められるように、君にもこうして待機してもらっているわけだ。
まあ此処での時間は引き伸ばされているから、
気絶してるのは実時間にしたら精々1・2分にも満たない時間だがね。}
(成程、納得が行きました。退屈ですが作業を邪魔しても何ですし。
私は此処で何もせずに待つとしますよ。)
{理解が早くて助かるよ。}
そうやって男は奇妙な同居人との会話を打ち切り、
不思議な浮遊感に己を任せることとした。
(チェルヴィも彼女の中でこんな状態なのでしょうか。
退屈してそうですね、あまり困らせてないといいんですが。)
などと言う彼の心配は半分当たっていたが、
別段ウェンズは困っていなかった。
彼しか知らないエスクードの暴露話を、
チェルヴィは大人しく食い入るように聞き入っていたからである。
彼がそれを知るのはもう少し後の話ではあるが。
そうやってのんびりしている彼の目の前に、
急に映像が浮かんでは消え始めた。
ウェンズの響く声の様な伝達情報以外、
何も知覚出来なかった彼の目に、
突如映像が浮かび始める、
直後壊れたラジオの様なノイズが頭に響き、
その映像に次第にクリアになっていく音がのる。
(これは・・・チェルヴィ? いや、似てるが角が違うな。)
人の好さそうな男と、チェルヴィに似たワームが彼を見下ろしていた。
「おお、笑ったぞ。柔らかいな・・・あったかいなあ。ぷにぷにぷに〜〜。」
「もう、あんたったら、むずがってるじゃないか。
でも本当可愛いねえ。私達のてんしは。」
「ああ、お前に似て世界一の別嬪に育つぞ。俺には判る。」
「もう、やめなよくすぐったい。
でもあんたみたいに元気で優しく、思いやりのある子に育ってくれれば、
あたしはもうそれだけで十分だよ。そんでこの子の良さを判ってくれる男に出会って。
私達みたいな仲睦まじい夫婦になって。」
「そしてまた、俺達が今味わってるような幸せを感じて。
それが孫、ひ孫とずっとずっと続いていくんだ。」
「素敵だねえ、ほんと素敵な世界さね。魔王様には尻尾を向けて寝られやしないよ。」
「ははは、お前の寝相なら絶対何度か向けてるだろうけどな。」
「へえ、そういう事いう、だったらさ、
今日から寝る時はこの尻尾はあんたに巻き付けて、ずっと固定しておくとするよ。」
「行為の最中は大丈夫だが、寝てる最中に寝ぼけて絞められた場合、
果たして俺の体は無事に済むのだろうか。」
「なあに、事情を離せばあの東から来た道具屋も回復薬を格安で売ってくれるって。
そういうとこ融通が利く相手っぽかったからね。」
「・・・・・・頑張ります。」
(チェルヴィの・・・御両親か・・・ならこの映像は・・・彼女の記憶?)
{今、お前と彼女の間にバイパスを作っている。
言葉を介さず、我との会話の様に意志を伝達するためのそれをな・・・
その経路を通って、彼女の記憶が一部お前に流れ込んでいるようだ。
突貫工事だからな、こういう事もある。
まあ退屈しのぎに丁度好かろう。}
(彼女に勝手に見るのは気が引けますが、
目を閉じたり逸らしたりも出来ないようですし、仕方がありませんね。)
記憶映像はぶつ切りなようで、其処で場面は突然転換していく。
「ほんと・・・死んだと思ってたら突然現れて。
あげくにゃ魔物なんかと子供まで作って。
どこまで親に迷惑かけるきだい。」
老齢の女性がチェルヴィの父に食って掛かっていた。
狭い家に入りきらないから外で待っているのか、
母親の姿は見えない。
「しかし母さん。」
「しかしも案山子も無いよ。」
二人の間にはどうにも気まずい空気が流れているようだ。
まあ教団圏の場所で死んだと思った息子が、
魔物と夫婦になって子連れで帰ってきたら。
親としてもどう対応していいか判らないのだろう。
そんな母親の足元に視点が移動していく。
そして彼女の服の裾をくいくいと引っ張る。
その爪はまだ丸っこくて腕も短い。
(チェルヴィ?)
しかめっ面をしていた女性がこちらを見下ろして来る。
「ばあたん! ばあたん!」
「な・・・何だい? この子は。」
「・・・たぶんね。抱っこして欲しいんじゃないかな。」
「じょ・・・冗談じゃないよ。あたしゃ齧られたくないよ。」
「そんな事しやしないよ母さん。」
「ばあたん! あっこ!」
くいくいと裾を引っ張りながら見上げる。
人から見れば異形の孫、その姿をじっと見下ろす老齢の女性。
だがすっと膝を曲げるとその体をその腕に抱きかかえる。
すると視点が一気にその顔に近づいていく。
キスをした後、頬ずりしているようだ。
「ばあたん すき だいすき。」
「・・・まったく・・・この子は・・・本当に・・・馬鹿な息子だよ。」
暫く唇を震わせていると女性は涙を流し始めた。
そして膝をついて泣き始めていた。
その母親の姿を見て、男は寄り添って背中を撫でながら言った。
「心配かけてほんとごめん母さん。」
「まったくだよ。それにしても良かったねえ。」
「何が?」
「父親に似なくってだよ。ああ、可愛いねえ。
何て可愛いんだろう。 ぼさっとしてないでさっさとこの子の母親を連れてきなよ。」
「・・・うん、うん! 母さん!!」
二人の間にあったしこりは何処かへ消え去っていた。
何時の間にか二人は笑顔だった。
おそらく昔の日々の様に、自然に笑いあっていた。
不器用な夫婦とその家族や知人達、
それらが入れ替わり立ち代わり現れては消えていく。
そんな記憶を見る中で、男はある事に気づく。
みんな笑顔だ。心からの 含むところのない。
その記憶映像に登場する人物はみんな和気あいあいとした笑顔なのだ。
その原因に彼はすぐ気付く。
鏡の様な美しい湖で、それを覗き込んだ際に見えたもの。
それは彼の良く見知った笑顔だった。
チェルヴィの笑顔だった。
太陽の様に輝き、向日葵の様に可愛らしく、暖炉の様に暖かい。
そんな彼女の笑顔が、純真無垢なとびっきりの笑顔が、
出会う人々のわだかまりを融かし、心に灯を点して何時の間にか笑顔にさせていた。
彼女の両親が無償の愛を注ぎ、
そして彼女は笑顔という大輪の花を咲かせる。
鏡に映ったその三人の光景を見て、
男は瞳の奥が熱くなるのを感じた。
{どうした?}
(何でもないさ。)
{眼から血液に似た成分の液体が排出されてるぞ・・・}
(そういえば・・・お前と一緒になってから、
涙を流すのはこれが初めてか・・・)
{これが涙・・・医療的な知識としては知っている。
目を保護する時と、感情が高ぶった時に出るものだと。
だとしたら、やはり何でもないというのは嘘ということになる。}
(まあそうだな。だが理由は聞いてくれるな。お前はお前の為すべきことを為せ。)
{・・・それも・・・そうだな。}
その光景は憧憬、
幼き日、彼が只中にいた温もり。
運命の日、彼が永遠に失ってしまったもの。
掛け替えのない全て。
護りたかった。
あんな笑顔をこそ・・・
そしてそれはまだ此処にある。
彼女が生きている限り、
それはまだ此処にもあるのだ。
そして彼女がいる限りそれはうまれ続ける。
護らねばならない。
全てを賭して、魂を掛けて。
彼は誓う。
彼の足元に咲く大輪の花。
その種を世界中に蒔くために、
それを一生かけて守っていこうと。
聖騎士として人類の盾となった男がいた。
だが世界は回り巡る。
男は護るべきもの失ってしまった。
自分の存在意義を見失いかけていた。
だが男は気づく、
戦いの終りは只の始まり。
家族で笑い合い、隣人通しで憎み合う事のない。
ただそれだけ聞けば当たり前の様な世界。
その当たり前が世界の果てに満ちるまで、
彼の役目は終わる事など無いのだ。
そして彼は、その具体的な道程のついに一歩目を踏み出そうとしていた。
※※※
さわさわ さわさわ
ひんやりとしたものが肌の上を滑る。
その刺激がスイッチであったかのように、
男の瞼を震わせ上げさせる。
瞳に飛び込んできたのは少女の涙だ。
彼女の武骨な手が彼の体を擦っていた。
「おはようございます。チェルヴィ。」
彼は曇り顔の彼女の頬を伝う涙を、
人差し指で払うと挨拶をした。
彼は上半身を起こすと、コツンと額と額を合わせる。
互いに瞳の奥を覗き込める距離だ。
そうやって顔を合わせて微笑んだ。
どうしたの 何で泣いているの?
怒ってないから 僕に話して
エスクードはそんな笑顔のまま、
彼女の頭と背中を撫で摩りながら、
その口が語り掛けてくるのを待つ。
「いたかった?」
「行為がですか? それでしたら私の方こそ聞きたい。
初めてで痛くはありませんでしたか。」
汗と愛液と精液と、様々な体液が入り混じっているものの、
エスクードの嗅覚は血の匂いを僅かながらに感じ取っている。
「うんん、ふわああああっ!! ってかんじだった。」
「ふふ、私もそんな感じでしたよ。最後の方はよく覚えていませんが。」
「ほんと? おじさんはチェルヴィとして・・・からだポキポキになってない?」
「・・・ああ、私の体を気遣ってくれたんですね。でも大丈夫です。
ウェンズが守ってくれていましたから、体は少しも痛みません。
それどころか、負っていたはずの傷が治ってすらいます。」
エスクードはシルバらとの戦闘でついた傷跡を見せる。
「ほんとだ・・・でもでも、おじさんないてたよ。いっぱいいっぱいないてた。
だからチェルヴィね、おじさんがとってもしんぱいだったの、
またいっぱいおけがさせちゃったんじゃないかって、
それでまたチェルヴィ、おじさんとバイバイしないといけないかもって。」
それだけ聞くと、エスクードは彼女の体を抱きしめる。
痛いほどの抱きしめてその耳元で囁いた。
「辛かったですよね。好意を持った相手を望まないまま傷付け続けて、
でも大丈夫です。私は貴方がどうしようと決して傷つきません。
それに貴方が望まぬ怪我を誰にも負わせたりもさせません。
一生、傍で貴方のお目付け役をさせて下さい。」
「・・・おじさん。それって・・・」
「貴方がこれからずっと心から笑えるよう。
私を貴方の隣に置いてください。」
「・・・パパとママにもあってくれる?」
「勿論です。この件が片付いたら挨拶に行きましょう。
そして私の家族にも、国の皆にも貴方を会わせたい。」
フワッ 薄暗く息詰まりそうな洞窟の中が、
一瞬軽くなったように錯覚させられる。
それ程の笑顔を彼女は浮かべた。
それは、彼女が今まで浮かべた中でもっとも輝くような笑顔だった。
「うん!!」
元気いっぱいの声が洞窟に響いた。
※※※
彼らは洞窟を歩いて出入り口へと向かっていた。
「すると・・・彼らは待ってくれていた。ということですか?」
(そのようだな。複製中であったが、お前が気絶して少ししたら叩いて合図を送ってきた。
だからお前を起こした。アレとの実力差を考えれば罠を張る意味も薄い。
奇襲さえせずに態々そんな事をする理由はなかろう。
理由は判らんが、終わるまで待ってくれていたと考えるのが妥当だ。)
「つののおっちゃんはいいひとだよ。
せいせいどうどうだよ。チェルヴィのライバルだもん。」
エッヘンとドヤ顔するチェルヴィ。
「話を聞く限り、本当にそうなのかもしれませんね。
ところでウェンズ、途中で起こされたとのことですが、
複製は上手くいったのですか?」
(全てではない、肝心の魂、意識はまだだ。
だがそれ以外の全ての機能はチェルヴィに転写する事に成功した。)
「きのう? てんしゃ?」
「こういう事ですよ。」
チンプンカンプンなチェルヴィに手早く説明するため、
エスクードは光魔法の応用で空中に鏡の様な物を作り出す。
それにはチェルヴィの姿が映りこむ。
「くろっ?! ・・・・・・そっか・・・おそろだ。
おっじさんとおっそろ! おっじさんとおっそろ!!」
チェルヴィの体はエスクードと同様に、
ウェンズがその全身を覆う事で浅黒く変貌していた。
そして今の彼女は、エスクードとウェンズの間で交わされる。
声を介さない会話も聞くことが出来るのだ。
そうしているうちに洞窟の入り口が見えてくる。
入口から差し込む光は、
二人の行く道を照らしていた。
神聖なヴァージンロードを思わせるかのように。
だが・・・・・・
これから向かうは絶望の死地、
十中八九の即死圏、
されど竜は歓喜に踊る。
無量なる高鳴りに包まれ狂う。
誰が止めよう。誰が阻もう。
二人の心は一心同体。
あゝ 貴方と共に歩む限り。
私の心は竦まない。
馬鹿が二人で大馬鹿で、だから彼らは怖いものなし。
それが艶やかな黒髪を分け生えている。
そんなミスマッチとも言える二つの感触を手で撫で感じながら。
男はそれらをのせた少女の顔を見る。
年のころは十代半ばと言ったところだろうか。
細められた目の奥の、濡れた瞳は真っすぐに男だけを映し、
紅潮した頬はまるで食べ頃リンゴの様だ。
少し勝気そうなその顔は、熱に浮かされたようで年頃に不釣り合いな色香を纏う。
頤(おとがい)から視線を下げると、瑞々しい弾ける様な肌が、
人間の年頃の娘と比べると、だいぶ豊満な肉付きの体を覆う。
更にその上からグラマーなボディを包む様に、
武骨な竜鱗と牙や角を思わせる有機的な錘が配されている。
その切れ目は丁度、茂みの無い綺麗な下腹部まで続いていた。
ともすればその姿は、姫君が怪物に食べられかけており、
その口腔から衣服も無い上半身だけを出して、
あられもない姿を晒している様にも見えた。
瑞々しい肌は汗でしっとりと濡れ、
その肩と豊かな胸は興奮から大きく上下している。
熱を帯びたその顔色と相まって、
男は何処か倒錯した色香をその姿に感じてしまう。
痴態を晒し食べられかけている姫、
その妄想は男の眠っていた保存本能に火をつけたのか、
急速に彼の意志とは関係なく血をある一点に集め始める。
だが勘違いしてはいけない。
食べられそうなのは目の前の少女ではなく、
それに興奮している自分の方なのだから。
そう男は自分自身に言い聞かす。
自分より一回りは年下の少女が放つ熱。
それに浮かされる様に、
彼は肉体の求めに従って頭を撫でていた手を下に下げる。
そして耳の位置から生えている鰭(ひれ)を軽く撫で上げる。
魚で言う鰭骨(きこつ)に当たる鰭に通った骨を、
ワイングラスの淵を撫で上げる様に軽やかにタッチする。
「ンンッ♥♥」
鼻から熱い風が抜け、
情熱的に男を上目づかいに見ていた少女の顔が緩み蕩ける。
茫洋とした瞳、力を失いだらしなく緩んだ頬、
キュッと上がっていた口の端は下がり、其処から透明な蜜をツゥと垂らす。
「ここ・・・良いんですか?」
男は鰭骨の先をピンピン弾きながら、
反対側では鰭の根本付近を愛おしげに撫でさすっていた。
「あゝん♥」
肯定の代わりに嬌声が上がる。
少女は瞳を閉じて、口を大きく開けていた。
そのだらしない口元からは、
少女の口蜜に濡れた舌がテラテラと滑り、
彼を誘う様に時折ピクピクと震えている。
眉根も下がり焦点を失った瞳、
紅潮した頬と荒い息、
間欠泉の様に喉奥から時々漏れ出す甘い声。
そして彼を誘う様に震える舌と、
彼を迎え入れるピンクの貝の様な唇。
男は呑み込みかけた興奮を鼻から噴き出すと、
呻くようにしてその桃色の酒池に顔を突っ込んだ。
何より先に、突き出された舌が男の唇に触れた。
軽くそれを唇でつまんで味わう。
温かく心地よい弾力と、まみれた熱い唾液が男の口周りを濡らす。
蕩け脱力した顔はそのままに、舌がまるで別の生き物の様に男の唇に反応する。
ツプッと伸びて唇を割ると、一気に喉奥まで届きそうな勢いで男の口内を蹂躙する。
「んん?!」
その勢いに男は驚き、一瞬痙攣気味に頭を離しかけるが、
ピタリと絡められた舌と舌が、男のその動きを抑制する。
いっちゃだめ 少女の甘い瞳が、蠢く舌が暗にそう言っていた。
男も判ったと頷くことすら煩わしく、
少女の舌を甘い蜜ごと吸いながら、
頭どうしを近づけて口と口をピタリと合わせ、
行動で少女に応える。
互いに互いを貪るように口内の液体を循環させ飲み下し、
舌と舌を互いの根本や頬、歯茎に走らせ続ける。
鼻から抜ける嬌声とくぐもった水音が洞窟の内部でタップを踏む。
(アア・・・止まらない・・・止まれない・・・・・・いい・・・)
(おいしい・・・おじさん♥・・・おじさんおじさんおじさんおじさんおじさん!!!)
永久に続くかと思われたその接吻だが、生まれ持った種族としての差が次第に出始める。
男は体が出す命令を、相手から与えられる無尽蔵の快楽で塗りつぶされていった。
舌も喉も時折震えるだけで、彼のいう事を効かなくなっていた。
というより、指令を出す頭がただピンクの水音に塗りつぶされていた。
(良い・・・いい・・・・・・イ・・・・・・・・・)
少女は貪欲に彼を飲みほしていた。
彼からの刺激が無くなっても一向に構わず止まらず。
ただ彼の頭蓋を滅茶苦茶にかき混ぜる。
そして少女は暫くして男の顔をしっかり見たくなってそれを辞めた。
ぐったりとしていつつも、男の下半身に巻き付いた少女の下半身が、
しっかりと熱と硬度を保ったとある感触で、男の感想を雄弁に伝えてくる。
熱に浮かされたように男を抱きしめる両手に力を込める。
みしりと音を立てんばかりに力を込め爪も立てるが、
その刺激が男の魂を桃源郷から少しだけ引きずり起こす。
互いに荒い息を吐きながら視線を合わせる。
((何て・・・何て愛おしいんだろう・・・温かいんだろう。))
少女は己のいかつい腕と下半身でギリギリと男を抱きしめる。
男は少女の鱗から露出している細身の肩と背中に愛しく腕をまわす。
二人は体という境界線が邪魔だと言わんばかりに、
肌と肌を擦り合わせ、頬と頬をくっつけあった。
鱗から露出した少女の肌は年相応の瑞々しさと張り、
そして絶妙な弾力を汗でしっとりと男の肌にくっ付けてくる。
指で撫でる度に、指先が肌に甘くいかないでと引き留められ、
プンと甘い別れを告げたと思うとクニュリと次に迎え入れられる。
指先に鈍くも心地よい甘い疼きを残し続ける。
その甘い疼きを求め、彼の指は彼女の肌を撫で摩るのを辞められない。
そしてその何よりも大きく主張しているのが胸板で潰れる大きな果実だ。
肌は他の所同様に絶妙な張艶を残しながらも、
少女の回された腕に込められた力によって、
その中の蕩ける様な柔らかさを男の胸に張り付いて伝えてくる。
男が身じろぎする度に、触れあった箇所がミルクの様に溶けるような錯覚をさせられる。
そんな極上の感触を、歳とは不釣り合いに大きなそれが男に塗り込んでくる。
更にそんな果実の先端は、少しばかりの堅さとざらつきによって絶妙なアクセントを加え、
その感触に男を慣れさせることを許さない。
男の顔は震え潰れる柔肉と同様にだらしなく融け、
その体は先端同士が擦れあい、爪弾かれる甘い甘い刺激に震えた。
己が体を融け合わせる様にしていた少女は、
男の自身の胸への反応で更に興奮したらしく、
はっきりと紅と言える顔色で端的に言った。
「きて。」
腕を緩め、広げるようにして男を誘う。
己が裸身を見てと言わんばかりに男の眼下に晒していく。
吐息は荒く、上下する双丘とたおやかな平原、
少し魅力的な窪みからなだらかな丘、
そして覆う硬質な鱗という岩山に囲まれた柔らかな洞窟。
男の視線は旅人となってその大地を東奔西走していく、
余さず測量して正確な地図を描かんばかりに何度も何度も。
その行為によって、男の脳髄にマグマの様な興奮が溜まっていくのを男は自覚していた。
だが止めようなどとはこれっぽっちも考えない。
いや考えられない、視姦する少女のそれは淫らだが何処か美しく神聖でさえある。
未踏の地であるその洞窟の奥、其処に至るのが自分の持つ使命であるようにさえ男は感じる。
少女が焦れたように、拗ねたように、
まだ? と己の堅い爪で不釣り合いに柔い果実の先端を捏ねる。
爪によってたわみへこむ先端とその周囲、
形を変えた曲線とその柔らかな震え、
それが男の溜まった欲望を噴出させた。
「グウゥッ!」
「♥♥」
俺のだ そう言わんばかりに少女の腕を除け、
男は両の手を禁断の果実に被せ、顔をそれが作り出す谷間に埋めた。
押せばたわみ撫でれば震え、腕はもはや彼の意志を離れて勝手にそれを揉みしだく。
塞がった顔は我武者羅に左右のマシュマロに擦り付けられ、
口元に来たそれをしゃぶりつき吸う。
吸う息は少女の甘い汗と体臭で満たされ、
吐き出したはずの欲望を更にどんどん貯めさせていく。
相手の事などおもんばかる余裕は男には微塵も無く。
ただただ獣の様に顔と腕で少女の豊満な果実を貪りつくす。
乱暴とさえ言えるそんな男の扱いも、
少女にとって全て悦楽になっているらしく、
男の頭の上から甘い喘ぎを降らせる。
「んん♥ ああんっ♥♥」
もっといいよ いっぱい好きにしていいよ 思うままに 溺れるままに
少女の淫らな鳴き声が、命令に近い形で本能にそう囁きかける。
ボリュームのある肉塊が、息継ぎの為に谷間から顔を上げた彼の眼前で弾み揺れる。
彼のクモの様な指によって、波のように震えるおっぱいと乳首。
桃色に色づいた二つの揺れる乳首、それを皿の様な目で見つめる男。
甘い喘ぎと揺れる桃源郷、指の中で暴れる白い柔肉。
そして辺りに充満する淫靡な香り。
男は聴覚と視覚、触覚と嗅覚を目の前のただの脂肪の塊にすぎないものに、
満たされ溺れ独占されていた。
おっぱい・・・おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい
おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい
母への憧憬なのか、原始的な肉への欲求に突き動かされ。
彼はその震える桃にむしゃぶりつく。
「んん! ちゅば・・・ちゅぶちゅぶ・・・じゅぶ・・・ぺろぺろぺろぺr」
「ああん♥ して・・・いっぱい・・・ちゅばちゅば・・・ぺろぺろ・・・もっとっ♥♥」
血走ったオスの眼で少女の肉に被りつくその姿は、
聖騎士などという肩書を微塵も感じさせない乱れようだった。
少女の方もそんな男の狂ったような肉欲を受け止め喜びで全身を震わせる。
のたくった尻尾が洞窟の石柱を叩いて砕き折るが、
その轟音と地響きも二人にはどこ吹く風だ。
もんで すって はさんで うずめて
ただひたすらに 肉を貪る
薄らと紅がさしていた少女の肉は、
その白い胸を中心に、男の指と嘴で赤くなっていた。
男は登山者が山頂に旗を立てるがごとく、
少女の肉を征服したその証を見て男としての本能が刺激され更に興奮した。
女はそんな男の興奮した顔と息遣いを見て、
自分の女に魅了されたその痴態を見て、
自分の女としての本能が更に燃え上がるのを感じる。
先ほどのキスと違い、どっちが攻めていたのかさえ判然としない。
物理的に少女の体を攻めて鳴かせていたのは男の方だが、
その攻めの決定権は男の方にあったとは言い難いからだ。
少女と女の中間といっていい年齢特有の張艶のある肌、
それには不釣り合いな豊満な肢体と色香は男の心を虜にし、
まるで見ようによっては男の頭を、腕を、
少女の淫靡な谷間が喰らっている様にさえ見せていた。
「おじさん・・・もう。」
少女はそのごつい腕で器用に男の腕を導くと、
男の腕を下に走らせた。
へそにスプと指が掛かり少女の体が少し震える。
そのまま更に下へ、魅力的な曲線を描く下腹を越え、
高さ的にも下降線を描く男の指先。
ツプリッ 熱い
男の中指と人差し指が感じたのは少女の熟れた熱だった。
容易く呑み込まれた指先が感じたのは。
キュウキュウと柔らかくもしっかりと締め付ける熱い肉の未踏領域。
其処から泉の様に溢れる愛液が少女の意志を雄弁に語る。
言葉はいらない。
男は衣服を押し上げていた下半身のそれを外に出す。
冷たい外気に晒されながらも、稼動中のボイラーの様な熱を帯びたそれが屹立する。
(すご・・・此処って・・・こんな風に・・・)
男の其処は、今まで生きてきた中で見たことも無い程に大きく、
雄々しく、硬く熱くそそり立っていた。
自分のものではないみたいだと男は思った。
彼の体が人間相手に立たなくなる前、自分でした経験が皆無というわけでは当然ない。
だが、その際のサイズと比べて明らかに一回り大きくなっているようだった。
ぐつぐつと煮えたぎった白いマグマを内に秘め、
息一つでさえ暴発しかねない危険なそれを、
愛おしげにしばし見つめた少女は、
ヘビの様な形故に位置調節が楽に出来るその体を生かし、
自ら身を投げる様に男の聖剣にその身を落としていった。
ニュルン ニュリュニュルニュル ニュルルルルルッン
お互い、秘部への刺激は殆どなしで此処まで来た。
その時点ですでに我を失う程に狂い咲いていた両者の、
初めての粘膜通しの擦り合い。
共に耐えきれるはずも無かった。
男も少女も同時に果て、貯めに貯めた白い欲望と、
溢れに溢れた灼熱の蜜が混じりあい結合部から吹き上がる。
快楽という白い電流によって、
つま先から天辺までが満たされ痺れる。
男は足をピンと伸ばして痙攣し、
少女は巻き付けていた体をギリギリとしめて、
仰け反った上半身で洞窟の壁を砕く。
まるで魂だけが宇宙旅行をしてきたような感覚。
落下と共に意識をより戻した両者は、
互いが互いを見つめ合った。
大きく肩で息をし合い、心臓はともにバクバク言っていた。
もはや冷静にどれくらい飛んでいたかは知る由もないが、
それでも自分が吐き出した量が、発射した回数が、
今までの常識を打ち破るものだったことは見た目で分かった。
だというのに・・・だというのに、
彼の剛剣はいっこうにその刃を鈍られてはいなかった。
まだまだいけるぜオヤジ!
そうサムズアップせんばかりの息子の孝行っぷりに思わず苦笑しつつ、
男は少女の方を見る、その視線だけで少女は男の言いたい事を察し、
こんなに幸せな事は無い、そう言わんばかりの華の様な笑顔で答えた。
男は今度は自分の意志で突き上げを始める。
少女はそれに合わせる様に、迎え入れる様に、
子宮をぶつける様に体を弾ませはじめる。
達したばかりだというのに、剛直の先は未だ鈍る事を知らず。
新鮮な快と悦を体に伝えてくる。
こすり合わせる度に快楽を伝える神経を、
直に天使がさする様な幸せが体を駆け抜ける。
そして互いに内側に貯めあったその快楽が、
今度は内側から噴き出して自分という性感帯を刺激していく。
辞められない止まらない。
寄せては返す波濤の様な快楽の集約と放出、
二人は別々の歯車でありながら息ぴったりの蒸気機関の様に、
ピストン運動を繰り返して互いに幸せを与え合った。
今ここにあるのは、ただ互いと爛れた肉の饗宴だけであった。
※※※
ふわふわ ゆらゆら たゆたう たゆたう。
すごかった
それ以外にどう言い表せばいいのか。
男の半世紀にも満たぬ人生経験では筆舌に尽くし難く。
男はしばし目覚めた意識を放心したままにし、
己の中で未だ渦巻く、宴の熱を冷まそうとする。
(此処は・・・何処だ・・・)
男は目覚めると不思議な浮遊感の中にいた。
それは先ほどまで男が感じていた。
達した時のジェットコースターの様な快感によるそれとは違い。
まるで冬の蒲団に包まるような怠惰な感覚だった。
体の感覚が鈍い、金縛りにあったように手足を動かそうとしても感覚が無い。
見回す限り自分の体も確認できない、そんな視界だけの状態。
(夢か・・・久しぶりに見た気がするな。)
{夢ではないぞ。}
(その声・・・ウェンズか。)
{そうだ。此処は敢えて言うなら情報の海だな。}
(情報の海? 一体何の情報だというのです。)
{我のだよ、ルーン文字は一文字に様々な情報を含んだ優秀な圧縮情報だ。
だがな、そのルーン文字を持ってしても自我を、魂という情報を再現するのは困難を極める。}
(・・・何が言いたいのです?)
{それだけ我という存在の持つ情報は膨大だということさ。
君達が結ばれた事によって、その複製と転写が今行われている最中なのだよ。
それを君とあの娘の脳という演算機能を利用して、
やらせてもらっているというわけだ。}
(・・・ようするにその間、私達は仮死状態の様になっているというわけですね?)
{ああ、最低限の維持機能以外、全てこっちの作業に回させてもらっているからな。}
勝手な事を、と思いつつも男は文句を飲み干した。
必要な事だとは判っていたからだ。
其処まで考えてから少し疑問がわいたので質問する。
(ならこの私の意識も邪魔では? 気絶状態にでもしてた方が速そうですが。)
{その通りなのだがね。状況次第では途中で外からお客さんが来るかもしれない。
だから緊急の際にもすぐに目覚められるように、君にもこうして待機してもらっているわけだ。
まあ此処での時間は引き伸ばされているから、
気絶してるのは実時間にしたら精々1・2分にも満たない時間だがね。}
(成程、納得が行きました。退屈ですが作業を邪魔しても何ですし。
私は此処で何もせずに待つとしますよ。)
{理解が早くて助かるよ。}
そうやって男は奇妙な同居人との会話を打ち切り、
不思議な浮遊感に己を任せることとした。
(チェルヴィも彼女の中でこんな状態なのでしょうか。
退屈してそうですね、あまり困らせてないといいんですが。)
などと言う彼の心配は半分当たっていたが、
別段ウェンズは困っていなかった。
彼しか知らないエスクードの暴露話を、
チェルヴィは大人しく食い入るように聞き入っていたからである。
彼がそれを知るのはもう少し後の話ではあるが。
そうやってのんびりしている彼の目の前に、
急に映像が浮かんでは消え始めた。
ウェンズの響く声の様な伝達情報以外、
何も知覚出来なかった彼の目に、
突如映像が浮かび始める、
直後壊れたラジオの様なノイズが頭に響き、
その映像に次第にクリアになっていく音がのる。
(これは・・・チェルヴィ? いや、似てるが角が違うな。)
人の好さそうな男と、チェルヴィに似たワームが彼を見下ろしていた。
「おお、笑ったぞ。柔らかいな・・・あったかいなあ。ぷにぷにぷに〜〜。」
「もう、あんたったら、むずがってるじゃないか。
でも本当可愛いねえ。私達のてんしは。」
「ああ、お前に似て世界一の別嬪に育つぞ。俺には判る。」
「もう、やめなよくすぐったい。
でもあんたみたいに元気で優しく、思いやりのある子に育ってくれれば、
あたしはもうそれだけで十分だよ。そんでこの子の良さを判ってくれる男に出会って。
私達みたいな仲睦まじい夫婦になって。」
「そしてまた、俺達が今味わってるような幸せを感じて。
それが孫、ひ孫とずっとずっと続いていくんだ。」
「素敵だねえ、ほんと素敵な世界さね。魔王様には尻尾を向けて寝られやしないよ。」
「ははは、お前の寝相なら絶対何度か向けてるだろうけどな。」
「へえ、そういう事いう、だったらさ、
今日から寝る時はこの尻尾はあんたに巻き付けて、ずっと固定しておくとするよ。」
「行為の最中は大丈夫だが、寝てる最中に寝ぼけて絞められた場合、
果たして俺の体は無事に済むのだろうか。」
「なあに、事情を離せばあの東から来た道具屋も回復薬を格安で売ってくれるって。
そういうとこ融通が利く相手っぽかったからね。」
「・・・・・・頑張ります。」
(チェルヴィの・・・御両親か・・・ならこの映像は・・・彼女の記憶?)
{今、お前と彼女の間にバイパスを作っている。
言葉を介さず、我との会話の様に意志を伝達するためのそれをな・・・
その経路を通って、彼女の記憶が一部お前に流れ込んでいるようだ。
突貫工事だからな、こういう事もある。
まあ退屈しのぎに丁度好かろう。}
(彼女に勝手に見るのは気が引けますが、
目を閉じたり逸らしたりも出来ないようですし、仕方がありませんね。)
記憶映像はぶつ切りなようで、其処で場面は突然転換していく。
「ほんと・・・死んだと思ってたら突然現れて。
あげくにゃ魔物なんかと子供まで作って。
どこまで親に迷惑かけるきだい。」
老齢の女性がチェルヴィの父に食って掛かっていた。
狭い家に入りきらないから外で待っているのか、
母親の姿は見えない。
「しかし母さん。」
「しかしも案山子も無いよ。」
二人の間にはどうにも気まずい空気が流れているようだ。
まあ教団圏の場所で死んだと思った息子が、
魔物と夫婦になって子連れで帰ってきたら。
親としてもどう対応していいか判らないのだろう。
そんな母親の足元に視点が移動していく。
そして彼女の服の裾をくいくいと引っ張る。
その爪はまだ丸っこくて腕も短い。
(チェルヴィ?)
しかめっ面をしていた女性がこちらを見下ろして来る。
「ばあたん! ばあたん!」
「な・・・何だい? この子は。」
「・・・たぶんね。抱っこして欲しいんじゃないかな。」
「じょ・・・冗談じゃないよ。あたしゃ齧られたくないよ。」
「そんな事しやしないよ母さん。」
「ばあたん! あっこ!」
くいくいと裾を引っ張りながら見上げる。
人から見れば異形の孫、その姿をじっと見下ろす老齢の女性。
だがすっと膝を曲げるとその体をその腕に抱きかかえる。
すると視点が一気にその顔に近づいていく。
キスをした後、頬ずりしているようだ。
「ばあたん すき だいすき。」
「・・・まったく・・・この子は・・・本当に・・・馬鹿な息子だよ。」
暫く唇を震わせていると女性は涙を流し始めた。
そして膝をついて泣き始めていた。
その母親の姿を見て、男は寄り添って背中を撫でながら言った。
「心配かけてほんとごめん母さん。」
「まったくだよ。それにしても良かったねえ。」
「何が?」
「父親に似なくってだよ。ああ、可愛いねえ。
何て可愛いんだろう。 ぼさっとしてないでさっさとこの子の母親を連れてきなよ。」
「・・・うん、うん! 母さん!!」
二人の間にあったしこりは何処かへ消え去っていた。
何時の間にか二人は笑顔だった。
おそらく昔の日々の様に、自然に笑いあっていた。
不器用な夫婦とその家族や知人達、
それらが入れ替わり立ち代わり現れては消えていく。
そんな記憶を見る中で、男はある事に気づく。
みんな笑顔だ。心からの 含むところのない。
その記憶映像に登場する人物はみんな和気あいあいとした笑顔なのだ。
その原因に彼はすぐ気付く。
鏡の様な美しい湖で、それを覗き込んだ際に見えたもの。
それは彼の良く見知った笑顔だった。
チェルヴィの笑顔だった。
太陽の様に輝き、向日葵の様に可愛らしく、暖炉の様に暖かい。
そんな彼女の笑顔が、純真無垢なとびっきりの笑顔が、
出会う人々のわだかまりを融かし、心に灯を点して何時の間にか笑顔にさせていた。
彼女の両親が無償の愛を注ぎ、
そして彼女は笑顔という大輪の花を咲かせる。
鏡に映ったその三人の光景を見て、
男は瞳の奥が熱くなるのを感じた。
{どうした?}
(何でもないさ。)
{眼から血液に似た成分の液体が排出されてるぞ・・・}
(そういえば・・・お前と一緒になってから、
涙を流すのはこれが初めてか・・・)
{これが涙・・・医療的な知識としては知っている。
目を保護する時と、感情が高ぶった時に出るものだと。
だとしたら、やはり何でもないというのは嘘ということになる。}
(まあそうだな。だが理由は聞いてくれるな。お前はお前の為すべきことを為せ。)
{・・・それも・・・そうだな。}
その光景は憧憬、
幼き日、彼が只中にいた温もり。
運命の日、彼が永遠に失ってしまったもの。
掛け替えのない全て。
護りたかった。
あんな笑顔をこそ・・・
そしてそれはまだ此処にある。
彼女が生きている限り、
それはまだ此処にもあるのだ。
そして彼女がいる限りそれはうまれ続ける。
護らねばならない。
全てを賭して、魂を掛けて。
彼は誓う。
彼の足元に咲く大輪の花。
その種を世界中に蒔くために、
それを一生かけて守っていこうと。
聖騎士として人類の盾となった男がいた。
だが世界は回り巡る。
男は護るべきもの失ってしまった。
自分の存在意義を見失いかけていた。
だが男は気づく、
戦いの終りは只の始まり。
家族で笑い合い、隣人通しで憎み合う事のない。
ただそれだけ聞けば当たり前の様な世界。
その当たり前が世界の果てに満ちるまで、
彼の役目は終わる事など無いのだ。
そして彼は、その具体的な道程のついに一歩目を踏み出そうとしていた。
※※※
さわさわ さわさわ
ひんやりとしたものが肌の上を滑る。
その刺激がスイッチであったかのように、
男の瞼を震わせ上げさせる。
瞳に飛び込んできたのは少女の涙だ。
彼女の武骨な手が彼の体を擦っていた。
「おはようございます。チェルヴィ。」
彼は曇り顔の彼女の頬を伝う涙を、
人差し指で払うと挨拶をした。
彼は上半身を起こすと、コツンと額と額を合わせる。
互いに瞳の奥を覗き込める距離だ。
そうやって顔を合わせて微笑んだ。
どうしたの 何で泣いているの?
怒ってないから 僕に話して
エスクードはそんな笑顔のまま、
彼女の頭と背中を撫で摩りながら、
その口が語り掛けてくるのを待つ。
「いたかった?」
「行為がですか? それでしたら私の方こそ聞きたい。
初めてで痛くはありませんでしたか。」
汗と愛液と精液と、様々な体液が入り混じっているものの、
エスクードの嗅覚は血の匂いを僅かながらに感じ取っている。
「うんん、ふわああああっ!! ってかんじだった。」
「ふふ、私もそんな感じでしたよ。最後の方はよく覚えていませんが。」
「ほんと? おじさんはチェルヴィとして・・・からだポキポキになってない?」
「・・・ああ、私の体を気遣ってくれたんですね。でも大丈夫です。
ウェンズが守ってくれていましたから、体は少しも痛みません。
それどころか、負っていたはずの傷が治ってすらいます。」
エスクードはシルバらとの戦闘でついた傷跡を見せる。
「ほんとだ・・・でもでも、おじさんないてたよ。いっぱいいっぱいないてた。
だからチェルヴィね、おじさんがとってもしんぱいだったの、
またいっぱいおけがさせちゃったんじゃないかって、
それでまたチェルヴィ、おじさんとバイバイしないといけないかもって。」
それだけ聞くと、エスクードは彼女の体を抱きしめる。
痛いほどの抱きしめてその耳元で囁いた。
「辛かったですよね。好意を持った相手を望まないまま傷付け続けて、
でも大丈夫です。私は貴方がどうしようと決して傷つきません。
それに貴方が望まぬ怪我を誰にも負わせたりもさせません。
一生、傍で貴方のお目付け役をさせて下さい。」
「・・・おじさん。それって・・・」
「貴方がこれからずっと心から笑えるよう。
私を貴方の隣に置いてください。」
「・・・パパとママにもあってくれる?」
「勿論です。この件が片付いたら挨拶に行きましょう。
そして私の家族にも、国の皆にも貴方を会わせたい。」
フワッ 薄暗く息詰まりそうな洞窟の中が、
一瞬軽くなったように錯覚させられる。
それ程の笑顔を彼女は浮かべた。
それは、彼女が今まで浮かべた中でもっとも輝くような笑顔だった。
「うん!!」
元気いっぱいの声が洞窟に響いた。
※※※
彼らは洞窟を歩いて出入り口へと向かっていた。
「すると・・・彼らは待ってくれていた。ということですか?」
(そのようだな。複製中であったが、お前が気絶して少ししたら叩いて合図を送ってきた。
だからお前を起こした。アレとの実力差を考えれば罠を張る意味も薄い。
奇襲さえせずに態々そんな事をする理由はなかろう。
理由は判らんが、終わるまで待ってくれていたと考えるのが妥当だ。)
「つののおっちゃんはいいひとだよ。
せいせいどうどうだよ。チェルヴィのライバルだもん。」
エッヘンとドヤ顔するチェルヴィ。
「話を聞く限り、本当にそうなのかもしれませんね。
ところでウェンズ、途中で起こされたとのことですが、
複製は上手くいったのですか?」
(全てではない、肝心の魂、意識はまだだ。
だがそれ以外の全ての機能はチェルヴィに転写する事に成功した。)
「きのう? てんしゃ?」
「こういう事ですよ。」
チンプンカンプンなチェルヴィに手早く説明するため、
エスクードは光魔法の応用で空中に鏡の様な物を作り出す。
それにはチェルヴィの姿が映りこむ。
「くろっ?! ・・・・・・そっか・・・おそろだ。
おっじさんとおっそろ! おっじさんとおっそろ!!」
チェルヴィの体はエスクードと同様に、
ウェンズがその全身を覆う事で浅黒く変貌していた。
そして今の彼女は、エスクードとウェンズの間で交わされる。
声を介さない会話も聞くことが出来るのだ。
そうしているうちに洞窟の入り口が見えてくる。
入口から差し込む光は、
二人の行く道を照らしていた。
神聖なヴァージンロードを思わせるかのように。
だが・・・・・・
これから向かうは絶望の死地、
十中八九の即死圏、
されど竜は歓喜に踊る。
無量なる高鳴りに包まれ狂う。
誰が止めよう。誰が阻もう。
二人の心は一心同体。
あゝ 貴方と共に歩む限り。
私の心は竦まない。
馬鹿が二人で大馬鹿で、だから彼らは怖いものなし。
15/03/07 04:32更新 / 430
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