堕落の教会
瞼の裏に日差しを感じ、目を開くと見慣れた天井が目に入った。
木造りの年季の入った天井。
簡素なベッドから身を起こし、ぐぐ、と伸びをする。
ぽきぽきと全身の関節が鳴り、ふわりと香油の香りが鼻をくすぐる。
いい目覚めだ。
頭は澄み渡り、身体は軽い。
ベッドから身を起こし、窓を開けると朝の澄んだ空気と鳥のさえずりが部屋に流れ込んだ。
その空気を大きく吸い込み、コルトーニはしばし朝日を眺める。
ああ、よく寝た。
昨日はーーーーー
コンコン、と部屋にノックの音が響く。
「神父様、お目覚めですか?」
同時に聞こえたドアの外からの声にはっと我に返る。
いけない、朝からぼんやりとしてしまった。
「ああ、おはようマリーニ……すまない、少々寝過ごしてしまったようだ」
「ふふ、ねぼすけさんですね」
急いで乱れた寝間着を整えて部屋を出ると、修道服に身を包んだ少女が笑顔で迎えた。
ミチッ……♡
「すぐに朝のミサを……」
「その前に、湯あみをしてはいかがですか?準備できていますよ」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
言葉に甘えて浴室に向かう。
朝日の差し込む浴室では浴槽に張られた湯が湯気を立てていた。
昔はこのような贅沢な湯あみはできなかったものだが、少しばかり懐に余裕が出来た時真っ先に浴室の増築を考えた。
何しろこの教会には自分以外は年若い女性のシスターばかりなのだ。
なにより衛生環境を整えてあげたかった。
そして、コルトーニ自身も湯あみは好きなのだ。
ざぶりと湯を被ると、身に纏っていた香油の香りが浴室に広がる。
洗い流すのが勿体ないくらいにいい香りだ。
高級な品なのだろう。
そう、高級な……。
そういえばこの香油はどうやって手に入れたのだったか。
極貧ではないとはいえ、高級品を日常的に使える程ではなかったはず。
それをこんなに贅沢な使い方を……?
昨晩はーーーーーー
ぴちょん。
首筋に落ちた水滴で我に返る。
いけない、まだ寝ぼけているのかもしれない。
眠気を飛ばそうと、石鹸で身体を隅々まで洗う。
「……ううむ」
コルトーニは視線を下半身に落とすと小さく溜息をついた。
寝起きだから、というのもあるだろう。
だが、いくら何でも元気が過ぎるのではないだろうか。
隆々と天をつく自らの陰茎を極力刺激しないよう洗いながらコルトーニは頭から雑念を追い払おうとする。
自分の中の感情を直視しないように。
朝のマリーニの姿を、思い出さないように……。
「全く、度し難い」
戒めるように呟き、ぴしゃりと自分の頬を張る。
湯あみを終えて浴室を後にしたコルトーニが礼拝堂に向かうと、既に皆が揃って席に座っていた。
「おはようございます」
「「「「「「「おはようございます」」」」」」」
コルトーニの挨拶に応える七人の挨拶。
その全ての声が高い、少女の声だ。
皆の前に立って一つ咳ばらいをするとコルトーニは喋り始める。
「えー、まず、寝坊をした愚かな神父への赦しを神に祈ろうか」
ふふふ
くすくす
軽い調子で言うとそこかしこから笑い声が上がる。
にっこり笑うと、コルトーニはミサを始める。
決して大きくない教会に、少女のみで構成された讃美歌が美しく響き始める。
神聖な歌声に心が浄化されーーーー
むにゅぅ♡
コルトーニは素早く少女達から視線を逸らし、教会の数少ないステンドグラスに視線を移す。
少女達を視界に入れないように。
腹の内に滾る、不浄な炎を決して掻き立てないように……。
朝のミサが終わり、朝食の時間になる。
長いテーブルに皆でつき、軽いお祈りの後食事が始まる。
豆のスープにパン、サラダ。
質素ながらちゃんと量があり、滋味のある食事。
コルトーニは感謝を胸に味わう。
そう、食事の時間には過去の厳しい時期が最も思い起こされるのだ。
・
・
・
よく覚えている。
神父になり立てのコルトーニがまだ業務に四苦八苦していたとある日。
七人の少女達がこの教会に転がり込んで来たのだ。
ぼろぼろのみすぼらしい恰好の少女達を前に戸惑うばかりの自分に、七人を代表するように一人が助けを求めた。
「お願い!助けて!」
皆の中で一番長身の黒髪の少女、マリーニだった。
「いたぞ!」
「こっちだ!」
その声の直後、大勢の男達が教会に押し掛けた。
殺気立った男達と怯える少女達の間に割って入ったのはもはや神父としての使命感以前の感情だった。
詰め寄ろうとする男達を何とか抑えながら事情を聴くと、どうやら少女達は街のストリートチルドレンだという。
徒党を組んでスリや窃盗を繰り返していたのだ、と。
腹に据えかねた住人達が捕まえようとした所、ここに逃げ込まれたという事だった。
言葉を信じるならば、非は彼女達にある。
だが、コルトーニはここで素直に少女達を渡す気にはどうしてもなれなかった。
必死に説得し、彼女達を更生すると誓った。
当然素直に聞き入れられる訳もなく男達は殺気立つ。
だが、この場所が教会である事とコルトーニが神父である事が抑制になった。
コルトーニもそれを意識し、手を変え品を変え、時には屁理屈めいた理論を展開してどうにか説き伏せた。
必ず彼女達に真面目に働かせ、今まで与えた損害を賠償させる、と誓ってようやく男達は引き下がった。
少女達は泣いて感謝し、とりあえず教会に身を落ち着ける事になった。
そして、その晩全員で教会を脱走しようとした所をコルトーニに捕まるのであった。
男達の前ではきっと更生します、生まれ変わりますと誓った彼女達だったが、それがその場しのぎという事はコルトーニには分かっていた。
長い戦いの始まりだった。
まず八人分の衣食住を確保するだけでたちまち生活が苦しくなった。
そのため身を粉にして働かなくてはならなくなったが、そうなるとその間少女達の面倒を見る事はできない。
コルトーニは少女達に……特にリーダー格らしきマリーニに教会の外に出る危険性を説いた。
ここを脱走するのは危険であると、皆の安全を考えるなら一時的にでもここに身を寄せるのが一番だと。
そうして最低限の生活環境を整えながらがむしゃらに働いた。
少女達はそれでもよく教会を飛び出した。
労働でへとへとの身体に鞭打って少女達を探し出し、帰るよう夜を徹して説得したのも一度や二度ではない。
そうして数年間の激務の後、とうとうコルトーニは倒れた。
過労によって立てなくなった神父を看病したのは、他ならぬ少女達だった。
それ以来、少しずつ彼女達は変わり始めた。
仕事を手伝い、家事を手伝い、個々で細々と働き始め……。
とうとう、窃盗分を彼女達自身の手で賠償するまでに相当の年月が過ぎ去っていた。
・
・
・
カチャカチャと食器の鳴る中に、ひそひそくすくすと少女達の声が混じる。
厳格に規律を守るなら食事中の会話は禁止されているが、小声で喋る事は黙認している。
年頃の少女達だ。
おしゃべりくらいいいだろう、とのコルトーニの考えだ。
そう。
彼女達は年頃だ。
教会に駆け込んできた時には薄汚れ、がりがりにやせ細っていた彼女達は一見して性別も判別しづらい有様だった。
だが、規則正しい生活に十分な栄養を得た少女達はみるみる見違えた。
見違え過ぎた。
コルトーニは極力視線を皿にのみ注ぐように意識している。
しかしずっと下ばかり見ているのも不自然なので時折は視線を上げる。
少々食べづらそうだな、と毎回思う。
食器と口元の間に、皆一様に障害物があるからだ。
大きな大きな、障害物が。
ミチィ……♡
ムチィ……♡
修道服、というのは本来ボディラインを隠すよう設計されている。
多少起伏に富んだ体型であっても、着こなしによって女性らしさを表に出さないようにできる。
だが、それにも限度というものがある。
どんなに工夫しても人の頭ほど……増して西瓜ほどの質量が布の下にあれば、膨らまざるを得ないのだ。
修道服では、とても少女達の実り過ぎた胸元の果実を覆い隠す事は出来ないのだった。
それも、一人ではない。
七人全員が、である。
不思議に思う事もある。
十分とは言え、それでも質素寄りの食生活である。
そんなにも豊かに蓄える脂質をどこから得ているのか……。
いや、栄養状態に寄らず、生まれつきの体型というものはあるだろう。
それにしても……。
「神父様?」
声を掛けられ、「そこ」に視線が固定されている事に気付き、慌てて視線を顔に戻す。
「どうかなさったんですか?」
「いや、その……こほん、皆聞いて欲しいんだが……」
神父の言葉に、少女達は食事の手を止めてコルトーニの方を見る。
「この先の事、皆考えは変わらないのかな……?」
何度か、全員に問うた事がある。
賠償が済んだ時点で皆がここに居る義理は無い。
最低限の蓄えもそれぞれに出来ている。
その気になればここを出て、新たな生活を始める事も出来る。
「皆若いんだ、私に恩義を感じてくれるのは有難いが……それでこの場所に縛られる事は無い」
そう、若い。
年長のマリーニでも十代後半だ。
「ご迷惑ですか?」
マリーニが問う。
「い、いや……迷惑と思った事などは……」
「なら、考えは変わりません、私はここのシスターになります」
そう、全員がシスターになりたいと希望をするのだ。
「そうだよ、神父様」
パセトが声を上げる。
「あたしここが好きなんだ、ずっとここに居たい、だからシスターになりたいんだ」
はっきりとした口調で言う。
「駄目かな?」
「駄目とは言わない、だが、外にはもっと広い世界が……」
「外は危険だって教えてくれたよねー?」
にまにましながらフェルミーが言う。
「神父様がわたしがみんなを守ってやる!一生お嫁さんとして……!って言ってくれたし」
「うん、言ってないからね?私そんな事」
「で、でも……」
つっかえながらトアラが言う。
「じ、自由に……生きて、いい、って、言って、くれました……それなら、わたし、神父様のおそばに、いたい……」
おずおずと言われると、コルトーニは何も言えない。
「私もシスターがいい」
クツが平坦な声で言う。
「神父様の、シスターがいい」
ぼやっとした目で、それでもコルトーニと目を会わせて言う。
「シ、シスターというのは、神にお仕えする事が本懐であって、私のシスターという訳では……」
「「いーじゃん」」
マシェート、ルチェートが同時に声を上げる。
「好きに生きていいって事は」
「誰の為にシスターになるのかも自由じゃん」
「ねー」
「ねー」
双子の二人は交互に喋る。
相変わらずそっくり過ぎてシュールな光景だ。
やはり、皆の決意は変わらないようだった。
その意思は尊重してやらねば、と思う反面、本当に大丈夫だろうかとも思うのだ。
・
・
・
共同生活に慣れた頃、マリーニがコルトーニにこう言ったのだ。
「神父様のお嫁さんになりたい、です」
最初は他愛のない冗談として聞き流したのだが……。
「神父様、お嫁さん欲しくない?私じゃ駄目?」
「し、し、しんぷ、さま、あの、あの、あの、す、すしゅ、しゅき……でしゅ……」
「神父様がいいなら、お嫁さんになったげてもいーんだけどなー」
「神父様、結婚しよ」
「「神父さま、私達のどっちか欲しくない?」」
マリーニの告白を皮切りに、次から次へとそんな発言が彼女達から飛び出すようになった。
同時にずっと仲の良かった七人の仲が明らかにぎくしゃくし始めた。
コルトーニの隣の席を奪い合ったり、競うようにスキンシップを計ったり、時には険悪な空気にさえなった。
これはいけないと思った。
彼女達は自分に恩義を感じている。
そして、周囲に異性は自分しかいない。
これが重なり、まだ幼い彼女達はその感情を恋愛感情と誤認しているのだ。
美しく若い彼女達だにはくたびれた自分などより相応しい相手がいくらでもいるだろう。
そもそも自分は神に生涯を捧げる身だ、結婚は出来ない。
そう何度説いても納得はしてもらえず……ある日事件が起こった。
トアラがコルトーニの下着を盗み、あまつさえ自慰行為に使用したのだ。
駄目だ、と思った。
欲に流され、溺れている。
それだけは許されない。
コルトーニは滅多に使う事の無かった説教部屋にトアラを呼び出し、強めに戒めた。
トアラは泣きながら謝罪し、二度としない事を誓った。
それを境に神父へのアプローチは鳴りをひそめ、教会を少し暗い雰囲気が包んだ。
それでも彼女達はここを去る事はなかった。
・
・
・
朝食を終え、それぞれの仕事に戻る。
街に仕事に出る事もあれば教会の管理を行ったり、経理をしたりと、それなりに忙しい。
今日のコルトーニは街での仕事があった。
先日の嵐で建造物に被害が出たので、補修工事を手伝う事になっている。
コルトーニは重い物を持ち上げるなどのきつい仕事を率先して行う。
久々の肉体労働なので身体に堪えそうだと思ったが、予想よりも軽々と体は動いた。
「助かったよ神父さん」
配当を渡しながら礼を言う現場監督の後ろで、若い作業員が驚いた顔をした。
「えっ、神父さんなんすか?」
「そうだよ、お前さん会うのは初めてだったな」
作業員はまじまじとコルトーニの顔を見る。
「随分若いんすね」
コルトーニは最初、自分の事を言われているのだと思わなかった。
「私が……ですか?」
「就任したばかりっすか?」
「いえ……」
コルトーニは困惑する。
「こりゃ」
「痛て」
監督が作業員の頭をはたく。
「神父さんはもう相当なベテランだよ、ちゃんと敬語使え敬語」
「す、すいやせん……」
「お気になさらず」
違和感を覚えながらも笑って対応した。
現場を後にしたコルトーニは皆に何かお土産でも、と考えて繁華街に足を向けた。
店の窓を見ながら、ふと写り込んだ自分の顔に意識が向く。
「……」
若い。
確かに若い気がする。
自分はそこそこの年齢であるし、特に苦労した時期には鏡を見る度に老けたなあ、と自分で苦笑したものだ。
それが今見る自分は、まるで就任したての頃のような……。
思い返して見ると体もそうだ。
必死に働いていた頃に痛めた肩や腰も今は痛まない、むしろ現場での仕事をこなしてもピンピンしている。
こうではなかったはずだ。
いや、健康なのも若々しいのもいい事だ、いい事なのだが、何か、違和感が……。
その時、窓の映り込みに自分の後頭部が見えているのに気付いた。
よく磨かれた窓に、向かい合わせの店の窓が映り込んでいる。
合わせ鏡のようになっているそこに見える自分の後頭部。
「……?」
何か見える。
うなじに何かが、付いている……?
ごしごしと手で擦っても何もついていない。
でも、後ろ髪をかき上げると、確かにうなじに何かある。
目を凝らしてもよく見えない。窓の合わせ鏡では不鮮明だ。
コルトーニは周囲を見回し、化粧品店を見付けるとそこに足早に入った。
「いらっしゃい」
化粧品店など入るのは初めてだ。
慣れない店の匂いに戸惑いつつも、確認せずにいられない。
「し、失礼、その、手鏡を貸してもらえませんか」
「ああ、どうぞ?」
店員から手鏡を借りると姿写しに背を向けて立ち、手鏡で合わせ鏡にして後頭部の髪をかき上げる。
ある、何かが見える。
小さいが、何かが……刻まれている。
触れても肌の感触しかないので、刺青のか何かのようだ。
文字、かと思ったが、何か紋様のような……。
うなじから始まり、背中まで続いている。
服を引き下ろし、露出させてみるとそれは脊髄をなぞるように連なっていた。
七つ
七つの紋様
見た事のない……あえて言うならハート型に近い形状の紋様。
見た事のない……?
いや。
見た事がある。
どこかで
どこだった?
確か
ピンク色に、輝いてーーーーー
気付けば、教会の前に立っていた。
どう帰ったのか覚えていない。
だが、間違いなく自分達の住む教会だ。
見慣れた教会のはずだ。
日が暮れ始めている。
沈む太陽が投げ掛ける最後のオレンジ色の光を受けて、ステンドグラスが輝く。
町はずれで山の中にあるこの教会は周囲を森に囲まれている。
あまり暗くなってから外を出歩くのは良くない。
皆が帰りを待っている。
夜のミサもしなくては、ならない、夜の、ミサを。
コルトーニは扉を開けて教会に入った。
・
・
・
「お帰りなさい神父様」
マリーニが迎えた。
教会内には明かりが灯り、他の皆は夕食の支度をしているようだった。
いつもの光景だ。
コルトーニはほっと息をつく。
「どうかなさいましたか?」
「何でもない、今日は少し……いや、いいんだ、大丈夫」
「お疲れですか……?湯あみをされてはどうでしょう」
「ああ、そうだな、ありがとう」
疲労は無い。
だが、労働で汗をかいていたので浴室に向かった。
朝から湯を変えてくれたらしく、コルトーニは薄明りの中でその湯を浴びる。
「……」
いい香りがする。
それによく見ると湯の色が僅かに……紫がかっている。
僅かながら粘度も感じる。
香草でも入れてくれたのだろうか……。
何にせよ温かさが体に染み入るように心地いい。
しかし、どういう原理なのか陰茎が異様にいきり立ってしまう。
「まいったな……」
腹を打つほどに反り返ったそれをコルトーニは持て余す。
ここ最近はどうしてしまったというのか……昼間にも奇妙な感覚に何度も翻弄された。
環境が良くないのかもしれない。
自分ではそんなつもりは毛頭無いが、あのように若々しくも熟れた肉体の少女達ばかりと一緒にいるから……。
「……!」
ばしゃばしゃと顔を湯で洗う。
馬鹿者、しっかりしろ。
あの子達にそんな感情を向けるな。
例え、修道服をはち切れんばかりに押し上げる程発育が良くとも……。
ああ、馬鹿、馬鹿、考えるな。
何度も湯で顔を洗う。
だが、その湯をかぶるほどに陰茎はめりめりと硬度を上げていく。
血管が浮かび上がり、エラが張る。
一体、どうなっている。
結局昂ぶりを押さえる事もできないままに浴室を出る。
食堂に行かなくては、そこに行くまでに気持ちを切り替えなくては。
このままでは合わせる顔が無い。
とても無理だった。
原因不明のマグマのような欲情は収まらず、コルトーニは殆ど前かがみになりながら食卓に着いた。
夜は光源が少なく、卓上の蝋燭に皆の顔が浮かび上がる。
陰影が濃いとより一層、その修道服の膨らみが強調されて見える。
コルトーニは必死に息を整えながら食前の祈りを捧げる。
むにゅぅ♡
朝の讃美歌の時もそうだった。
皆が皆豊か過ぎるため、胸の前で祈りの形に手を組むと、肉が乗ってしまう。
まるで肉を捧げるかのような……。
コルトーニはぎゅっと目を閉じる。
不審に思われるかもしれないが、視覚情報を遮断しなければ耐えられそうにない。
「ふっ……んっ……ふぅ、ふ」
荒くなる呼吸をどうにか抑え、食事に集中しようとする。
鶏肉入りのスープにパン。
朝より少し贅沢なメニュー。
口に運ぶといい塩加減と、野菜の甘味。
そして香辛料のような刺激。
美味しい。
うん。
美味しい。
なのに。
何故だが食べれば食べる程に、腹の中の炎が大きくなっていく。
一口ごとに薪でもくべられているかのようだ。
痛い、陰茎が張り詰め過ぎて痛い。
「……っ」
顔を上げると、視線が合った。
マリーニが、じっとこちらを見ている。
しずしずとスプーンを口に運びながら、見つめている。
目を細めて笑っている。
その視線に耐えられず、他に視線をやるとまた目が合う。
皆が見ている。
食事をしながらも見ている。
会話は無い、朝の賑やかな様子とは全く違う。
全員がじぃ、と目を細めて笑いながら、コルトーニの事を絡み付くような視線で見ている。
自分の欲情を見透かされているように感じて、コルトーニは必死に食事を続ける。
今日を、早く終わろう。
一日過ぎれば元通りになる。
食事を終えて、ミサを終えて、眠って、朝が来れば……。
食べ終わった。
食後の祈り。
睾丸が重く感じる。
もう一つの心臓のように脈打っている。
早く、早くミサを……。
席から立ち上がる。
「神父様」
ルチェートが、とてとてと歩いて来た。
歩く時の、胸の揺れに目を奪われる。
小柄だと言うのに、そこばかり育って……。
脳が欲情に侵食される、それを振り払う。
「どうしたんだい、ルチェ……」
ぺろん
歩きながら、ルチェートは修道服を捲り上げた。
下には、何も履いていない。
真っ白な肌。
小柄でありながらむっちりと女の肉付きをした太腿。
上の実りに負けない程実った臀部が歩くたびにぷりぷりと揺れる。
その太腿の間にある女。
無毛の、濃い桃色の少女の花園。
その上に輝く、ピンクの紋様。
あの紋様。
自分の、首に、刻まれていた。
完全に思考が停止していた。
突然目の前に晒された幼いながらも極上の雌肉。
見覚えのある紋様。
全神経がそれに集中する。
陰茎が、服を突き破らんばかりにびき、びき、と張り詰める。
と、ずるりとその圧迫感が無くなり、下半身が涼しくなる。
「え?」
見下ろすと、ズボンが後ろから伸びた手に降ろされていた。
マシェートだ。
気付かないうちに背後に回り込んでズボンを引きずり下ろしたのだ。
べちん、と反り返る陰茎が腹を打つ。
ルチェートは足を止めない。
すたすたと近寄って。
に゛ゅるぅん
スムーズに、性器同士が繋がった
「お゛♡」
可愛らしいルチェートが上げたとは思えない濁った声が上がる。
「!?!!?!?!?!」
全く事態を把握できないままに、陰茎を快楽が貫く。
少女の肉壁が、無数の舌の如く絡み付く。
雄の至福を叩き込むようにきつく収縮し、きゅぅぅぅぅぅっと絞り上げる。
耐えようと思う暇も与えられず、溜まりに溜まった欲望が迸る。
どぐんっ!びゅるびゅるびゅぐっっっ!!!
びゅぶびゅぶびゅぶびゅぶどくっっ!!!!
「お゛〜〜〜〜〜〜〜〜♡」
中出し。
こってりとした白濁液を少女の胎内に送り込む感覚。
「あ゛ぅぐぁぁ!?な、なん、でぇ!何を!ぉおっぐ、や、やめぇ……!」
射精の快楽に意識を持って行かれながらも抵抗しようとするが、背後に回ったマシェートが両手を押さえつける。
少女と思えない力だ。
腰を引こうとしても背後に密着されて引けない。
ルチェートは体重をかけてしっかりと奥で射精を受け止め続ける。
「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」
ルチェートが腰を振り始めた。
まだ射精が止まっていないのに、狭い肉壁で陰茎を扱き始める。
ぶちゅ、ぶちゅ、ぶっちゅ、ぶちゅ、ぐちゅっ
出した精液と愛液が攪拌される下品な音とくぐもった悲鳴が響く。
「あーもう、ズルして一番とったぁ」
「しょうがないなあ」
突然神父が犯され始める事態にも、少女達は落ち着いている。
いや、目を爛々と輝かせている。
しゅるる、しゅるん
何かが少女達の背後から這い出て来る。
長く、黒い尻尾。
腰から現れる黒い翼。
エルフのように伸びる耳。
魔物、悪魔。
いつの間に、どうして、何が。
ぶちゃぁ♡くちゃぁ♡ぬっちゅぅ♡
きもちいい。
考えが纏まらない、ルチェートのねっとりした腰使いで陰茎を舐め上げられるたび、快楽で思考が途切れる。
「ど、どうし、て、んむぅ!?」
目を白黒させていると、腰を振っているルチェートが頬を手で挟んで目を合わせてきた。
「見て、見でぇ、神父しゃま、ぁ、ぉ、神父しゃまの、おちんちん、で、イクの、見ててぇ♡」
はっ、はっ、と甘い吐息を吐きかけながらルチェートの愛らしい顔が目の前で歪む。
「ふお゛、お゛んっ」
大きな瞳がくるんっと上を向く。
幼い魔膣が食い締める。
「さ、神父様、はじめましょうか、夜のミサ」
マリーニが囁く。
気付けばルチェートに貪られるコルトーニを皆が囲んでいた。
黒々とした修道着に身を包んだ淫魔達が。
目に淫蕩な光を輝かせながら。
・
・
・
コルトーニと少女達は教会に居た。
毎朝にミサを行ういつもの教会だ。
少女達の神聖な讃美歌が響いていたその教会は今、正反対の雰囲気に包まれている。
ステンドグラスから漏れる月光と、数少ない蝋燭に薄暗く照らされたそこは妖しい空気を醸している。
いや、事実、そこには魔力が充満しているのだ。
その壇上にコルトーニはいた。
まるで古の神への生贄のように、ベッドのように整えられた祭壇に括りつけられている。
衣服を全て奪われ、大の字に拘束された神父を八人の淫魔が囲む。
「神父様……それでは」
「教えてくれ……」
マリーニの言葉を遮って、コルトーニが息も絶え絶えに言う。
「何故……どうして……こんな、事に……」
わからない。
どうしてこんな事になったのか。
いつの間に彼女達は堕落していたのか。
一体、何がどうなっているのか。
「そうですねえ……私達は改宗したんです」
「……堕落の、神……!」
その忌まわしい名を、コルトーニは怒気と共に叫ぶ。
「いいえ?」
が、マリーニはあっさりと否定する。
「なんっ……」
「あたしが仕えるのは堕落の神なんかじゃないよ……」
パセトが言う。
「私達が仕えるのはぁ……」
フェルミーが言う。
「だっ……だっ……だだっ……だっ……」
トアラが何か言いそうで言えない。
「旦那様」
クツが言う。
「「だけ♡」」
双子が声を合わせる。
旦那様。
その言葉で、脳が無いはずの記憶を思い出す。
汝、病める時も健やかなる時も
富める時も貧しき時も。
共に愛欲と色欲に溺れる事を誓いますか?
「「「「「「「はい♡」」」」」」」
ステンドグラスから漏れる、妖しい月光に照らされる皆の姿、花嫁たちの艶姿。
神聖でありながら淫猥なウェディングドレス。
潤んだ14の瞳とドレスの下から輝く下腹部の紋様。
「うんっっっぐっっっ」
びきびきと、陰茎が張り詰める。
熱されて真っ赤になった鉄棒のように天を衝き、睾丸が鉛のようにずっしりと重たくなる。
「思い出され……ごくっ……ました、か」
その陰茎に視線を奪われながら、マリーニが唾を飲み込んで言う。
はあ、はあ、と少女達の息が荒くなる。
「な……何故……何で……!?こんな……記憶……!?」
「「狂った淑女」が私達の絶望を救ったんですよ……ふふ、もっとも神父様の記憶には無いですが」
コルトーニは必死に考える。
自分の記憶の齟齬、狂った淑女とは何なのか、どうしてこんな事になっているのか。
「何故、私の記憶を奪ったんだ……!」
自然に疑問が口をついて出た。
「快楽の為に」
ぺろり、と唇を舐めながら、マリーニは短く答えた。
「……????」
コルトーニは混乱する。
快楽の為?
記憶を奪う事がどうして快楽に繋がるのか?
「結ばれてから、私達は快楽の果てを目指しました……その中で、気付いた事があったのです」
「神父様が最も気持ちいい瞬間、最も沢山精液を出す瞬間、それは」
「「禁忌」を犯す時」
「私達の処女を捧げた瞬間、礼拝堂で犯された瞬間、七人と重婚している事を自覚した瞬間」
「元の教えから倫理が外れていれば外れているほど神父様は気持ちいい」
「そ、そんな……そんな事……」
「神父様の欲望について……私達は神父様自身よりもよぉく知っています」
ねっとりと微笑みながらマリーニが言う。
「そして、私達の教義は……」
コルトーニを取り囲む少女達が、手を祈りの形にする。
むにゅぅりと谷間を強調させながら、その14の熱い視線がコルトーニの陰茎に絡み付く。
「神父様を、気持ち良く射精させること」
魔界の侵略の為ではない。
神父を陥落させて堕落の教義を広める為でもない。
生殖の果てに神父の子を宿す為ですら無い。
全てはただひたすらに、コルトーニを気持ち良く射精させる為だけに。
「あ、が、あ」
ビギッ……!ビギィ……!
性器が、睾丸が、破裂してしまう。
「何度も何度も繰り返していると、背徳感も鮮度が落ちてしまいます」
「だから「リセット」するんです」
「改めて、何度でも、神父様の童貞を食べてあげるんです」
少女達はゆっくりと祈りの手を解くと、修道服をはだけ始める。
露わになっていく、少女達の豊満過ぎる肉体。
愛する男を存分に貪り、満たされた幸福な淫魔の身体。
「さあ、はじめましょう」
疑問が一つだけ解けた。
あんな質素な食事で、どうして彼女達はあんなに豊満に育ったのか。
「308回目の、夜のミサを……♡」
育てたのは自分だ。
淫猥な肉を揺らし、下腹部の紋様を誇らしげに輝かせながら、妻達は抵抗の一つもできない夫に近寄って行く。
むせ返るような甘酸っぱい少女の匂いに囲まれながら、コルトーニは教会の天井を見上げる。
コルトーニは、確かに、はっきりと感じていた。
神の視線を。
それは決して、彼が信仰する主神ではない。
堕落の神だ。
何故だかわからないが、それは女神なのだとわかった。
雄を愛し、慈しみ、貪り、蕩けさせる。
淫蕩な神だ。
女の、神だ。
やがて、視界は丸々と実った少女達の乳房に覆われて、教会の天井は見えなくなった。
「ん、んむ、んぼ、むぢゅる……」
「ほら、揉んで、いっぱい、揉んで?おっきくした責任取って?」
「見て、見でぇ、飲んでるとこぉ、しきゅぅ、ごくごく飲んでるのぉ」
「神父さま、神父さま、神父さま、神父さま」
「……イクっ……いぐぅぅん……」
「んしょ……二人で、挟も……?んしょ……」
「れろじゅぽっ……ん゛っ……ごくっ……ごくっ……」
「もう、ダメですよ?フェラチオでばっかり……ちゃあんと中に出さなきゃ……」
「ほらぁ、頑張って♪もっと頑張っておまんことっかえひっかえするの♪」
「ふ、ふへ、へぇっ、ほぉ、お゛んっおおぉぉぉんっ」
「響かせてっぇっ、讃美歌、みたい、に、ぱんっ、ぱんって、響かせてぇ♡」
・
・
・
瞼の裏に日差しを感じ、目を開くと見慣れた天井が目に入った。
木造りの年季の入った天井。
簡素なベッドから身を起こし、ぐぐ、と伸びをする。
ぽきぽきと全身の関節が鳴り、ふわりと香油の香りが鼻をくすぐる。
いい目覚めだ。
頭は澄み渡り、身体は軽い。
ベッドから身を起こし、窓を開けると朝の澄んだ空気と鳥のさえずりが部屋に流れ込んだ。
その空気を大きく吸い込み、コルトーニはしばし朝日を眺める。
ああ、よく寝た。
昨日はーーーーー
コンコン、と部屋にノックの音が響く。
見るとひょこ、と小さな女の子がドアの隙間から顔を出している。
「おはよー!パ……じゃなかった神父さま!」
「ああ、おはようミンス」
生活が安定してから、この教会にも新しい住人が増えた。
ぱたぱたと部屋を出ていく彼女を見送り、コルトーニも着替えて部屋を出る。
と、膝にぽすんと軽い衝撃を受ける。
見るとミンスよりもさらに一回り幼い女の子がまとわりついている。
「ん〜ぱぱおはよぉー……」
「こーら!まだパパじゃないでしょ!」
「んぁ〜しんぷさまおはよぉ……」
寝ぼけ眼ですりすりと顔をこすり付けるもこもこした髪の娘、シェリーニにミンスが注意する。
コルトーニは苦笑しながらシェリーニの頭を撫でてやる。
二人共孤児だが、よくコルトーニを「パパ」と呼ぶ。
まあ、この年頃なら仕方ないのか。
食堂へ向かうと、皆が朝食の支度をしている。
「はい、あーん」
「んー」
見ると、パセトとフェルミーはそれぞれ小さな子供に朝食を食べさせてあげている。
皆、新しい教会の住人達だ。
それにしても……見事に皆、女の子ばかりだ。
いや、当然か、母親が皆ーーーーー
ん……?
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
ぼんやりしかけたところでマリーニが挨拶してくれた。
あまり良くないのだが、微妙に視線を逸らしながら挨拶を返す。
修道服がはち切れんばかりのその肢体を視界に入れないように……。
「うふふ」
「えへへぇ……」
両脇の子供達が何だか、ニヤニヤと笑っている。
何か、おかしな事を言っただろうか。
私が来た事に気付いた皆の視線が一斉にこちらを向いて、一様に微笑む。
何と愛しい笑顔か、この娘達の為に、今日も一日頑張らなくては。
25/08/12 17:05更新 / 雑兵