【Big After】いつだって欲しいのは


 その日はグレゴリーとルフィアの、二百と数十年目の結婚記念日であった。

「ん〜……おはよ、あなた…」
「おはよう、ルフィア。
 いつも寝顔が可愛くて好きだよ」
「…あ! 先に言われちゃった…
 でも、約束はきっちり守ってくれるのが好き♪」

 魔物娘とその夫の愛情は、何歳になろうと飽きず、色褪せず、それどころか新婚当初から、際限なく強まり続ける一方である。読者の方々も覚えがある事だろう。
 ゆえに、どんな魔物娘の夫婦も、お互いの誕生日や結婚記念日、あるいは初デートに出かけた日など『特別な日』の数々は、もれなく心を込めて祝うのだ。

「それにしても、本当にこれでよかったのか?
 確かに面白いアイデアだし、その発想力は好きだけど…」
「いいの♪ べつに今さら、欲しいものって言っても思いつかないし。
 …あ、子供とかは別だけど。
 でも、いつも気にかけてくれるのは大好きだよ♪」

 人魚とその夫の人生は、長い。
 ふつうの魔物娘夫婦とは、とうてい比べ物にならないほどに。
 無論ふつうの魔物娘夫婦も、そのほとんどは人魚の血を口にしていることだろうが…
兎も角、長い時を生きた魔物娘夫婦は、どうしても物欲は薄くなりがちだ。
 なにしろ最も欲しいものは、とうの昔に手に入っているのだから。
 そのため、こうした記念日を祝う時は、モノではなく、思い出に残るような出来事をもってお祝いとするのが一般的である。

「もうお互い、見たり聞いたりしてない所なんて無いけど…やっぱり面と向かって言うと、どうしても恥ずかしいな。
 たまにやり返される事も、それはそれで好きだけど」
「うふふ…私だって、さんざん恥ずかしい事してきたんだから、いいでしょ?
 私の恥ずかしがってる所を見るたび興奮してくれるのが好きだから、私もこうなっちゃったんだよ?」

 ここまでのやや不自然なやり取りで、同じような過ごし方をしている多くの読者様方は察することができただろう。
 二人は、今年の結婚記念日のお祝いとして、しばらく『お互いの好きな所を交互に言い合いながら過ごす』というルールを設けたのだった。

「そうだよな。
 なにせ…こんなエロい、オレの大好きな体になってくれたんだから♪」

 グレゴリーはルフィアの背後に回り、ホルスタウロスに匹敵するほどの巨大な乳房に指を埋めながら、掲げるように持ち上げる。
 二百年以上にわたってグレゴリーの愛情と性欲を一身に受け続け、幾人もの子供を産み育てたルフィアの身体は、いまや魔物娘として円熟の域に達していた。
 むろん、老いたというわけではない。
 愛する者をより欲情させ、より多くの精を搾り取るように、魔物娘は肉体が変化していく…すなわち現在のルフィアは、グレゴリーの理想そのものの身体として、ほとんど『完成』されているのだ。
 そしてそれは、グレゴリーも同じ。 二人にとってもはや、心情だけでなく美的感覚としても、この世に伴侶より魅力的な異性などは存在しない。

「あンっ♪ …んもう、そうだよ。
 朝からこんなに元気で、えっちで…大好きッ♪」

 首を回し、グレゴリーと舌を絡める。
 このままセックスを始めてしまいたい所だったが…惜しくも今日は平日。日々の務めを果たさねばならない。

「さ、今日はどうする? 胸?口?それとも手?」
「じゃあ、口で。 ゆうべは1回しかできなかったしな。
 お前の舌も大好きなんだけど、つい胸とかに行っちゃうんだよな…」
「はーい。…ふふ、昨夜の事、全部覚えてくれてるんだよね…好き♪」

 そのため、グッとこらえて、朝勃ち処理は手早く済ませなければならないのだ。
 言うまでもないが、しないという選択肢は存在しない。

「ん〜、あもっ…んぐ、ぢゅぅっ…」
「っ、その舌使い…最高だよ、ルフィア…」
「んっんんっ、えっく、ぉ、えくえく、ひへ、ふひぃ…♪」
「何言ってるのかわか……いや、なんとなく分かるな…
 そういう分かりやすい所も好きだよ、昔から…ぅ、出る…!」
「んむっ……んふぅ〜♪……ごくっ。
 …はぁ、濃くて甘くてたっぷりの、あなたの朝精…大好きだよ♪」
「そりゃどうも…」
『パパ、ママ、ごはん出来たよー!』
「はーい♪ ちょうど朝処理終わったから、今行くねー!」

 結婚記念日を祝ってくれるのは、お互いだけではない。二人の子供達もだ。
 すでに何人もの巣立ちを見送り、孫や曾孫もいるが、まだまだ老いの気配さえ見えない二人の愛の結晶は、いまもなお新しく産まれ続けている。
 そして皆、二人の記念日には贈り物をしたり、家事を代わりにやるなどして祝福してくれる。 それらの思い出も、もれなく全て、二人の心に刻まれていた。

「ど、どうだった?朝ごはん…」
「うん、美味い! しっかり出来てるじゃないか」
「見栄えもいい感じ
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