【Little After】オシャレをしよう

「うまく泳げない?」
「う、うん…」

 魔物娘になったといえど、あらゆる悩みと無縁でいられるわけではない。
 放課後、ルフィアは一時グレゴリーと別れ、学園で新しくできた友達のセルキーに相談してみることにした。

「講義に行く時とか、みんなと並んで泳いでると、私だけなんだか遅い気がして…
 ヒレでのちゃんとした泳ぎ方を教えてほしいの」
「頼ってくれたのは嬉しいけど…何であたし?先生じゃダメなの?」
「私、ちょっと前まで人間だったでしょ?
 だから、人間と同じ足もある貴女なら、どうヒレを動かしてるか分かりやすいんじゃないかなって」
「う〜ん…あんまり役には立てないよ?
 あたしの泳ぎも別に、母さんとかから教わったわけじゃないし。それにこれまで見た限りじゃ、ルフィアちゃんのヒレの動かし方も、特に変な所とか無い感じだよ?」
「そうかぁ…」
「泳ぎ方じゃなくて、なんか他の原因があるのかもよ。
 例えば…単純に運動不足とか。いつも本読んでばっかりだしさ」
「うっ…」

 痛いところを突かれた。
 確かに人間であったころから、ルフィアは運動の習慣が全くない。
 海流に乗れるおかげで、泳いで自分達の町から通学する分には問題ないのだが…基本的に地上で暮らし、ほかの水棲の魔物娘たちのように泳ぎまわったりもしないルフィアは、やはり運動不足といえるだろう。

「たまには体動かさないと太るよー?ほらほら、ちょっとお腹見せてみて…」
「きゃあっ!?」

 いきなり服をはだけられ、素肌と巨大な胸があらわになる。
 今、周りには誰もいないとはいえ、驚きと羞恥でたちまち顔は真っ赤に染まり──

「……なにこれ?」

 ふざける時の無邪気な表情から一変、すっと真顔になる友達。

「…え?な、なにか変?」
「当たり前よッ!!
 こんな超大物隠し持ってたのはこの際置いといて、なにこのブラ!?」
「ブラ…?」
「っていうか、自分で窮屈とか思わないの!?どう見ても小さすぎでしょ!!
 あーわかった、泳ぎが遅い原因、完全にこれだわ…」

 ついこの前の人間時代から、大きすぎるほど大きく成長したルフィアの乳房に対して、その人間用のブラはあまりにも小さすぎた。
 肉が行き場を求めてカップから溢れ出しており、それでもなお胸全体を圧迫してしまっている。

「あ…その、人魚になってから、どんどん大きくなっちゃって…
 こんな大きいのが入るブラなんて、私の町に売ってないし…」
「だからって、そんな小さいの着けてたら体にも悪いよ。新しいの買わなきゃ。
 あたしはこの毛皮があればいいから、服屋さんとかあんまり行ったことないけど、魔物の町なら多分あると思うよ。合うやつ。
 ちょうど明日は休みだし、さっそく買ってきたら?運動にもなるでしょ」
「うう、やっぱり買いに行かなきゃダメかぁ…」
「…というかあたし、まずこの学園のある街で、ルフィアちゃん見かけたことないんだけど…帰りに寄り道とかしないの?グレゴリー君もそうだけど」
「え…?しない、けど…」
「えっ…?」

 途端に友達の目つきは、信じられないものを見るようなそれに変わる。

「嘘でしょ…?学園入って何週間も経つのに、一度も?
 デートとかしないの?気になるお店覗いたり、屋台で買い食いしたり、しないの?
 いつもルフィアちゃんと一緒なら、シフ先生の『加護』は切れないし、グレゴリー君も溺れたりしないでしょ?早く帰る必要なんてないんだよ?」
「で、デートはしてるよ?
 例えば、私達の町の近くの海で、手をつないで水中散歩したり、とか…」

 友達はもはや、呆れを多分に含んだ大きな溜息を漏らすしかできなかった。

「あのねルフィアちゃん。いくらなんでも、それはマジメ過ぎ。
 毎日ヤることはヤってるんでしょ?なのに今更デートがそれだけって変じゃない?もっと積極的になりなよ。
 生まれたときから魔物娘のあたしにはよく分かんないけど、まだ人間の感覚が抜けてなかったりするの?」
「そう、なのかな……なのかも」

 まだ魔物になってからの時間よりも、人間であった頃の時間のほうが遥かに長い。泳ぎ方の心配と同様に、人間の感覚が抜けきらないと言えばそうなのかもしれない。
 ルフィアはそう思ったが、無論、意識しすぎなだけである。

「早いとこ魔物娘の感覚に慣れたほうが、これからの学園生活も楽しいよ?きっと。
 …あ、そうだ。今更だけど、その服も地上のやつ?」
「え?う、うん」
「ブラ買うついでに、服ももっと人魚らしいの買っちゃいなさいよ。そのへんの子みたいなさ。
 形から入ってみたら、もうちょっと魔物らしく積極的になれるんじゃない?」
「人魚っぽい…貝殻の胸当てとか、そういうやつだよね。
 恥ずかしすぎるんだけど…やっぱりそうした方がいいのかなぁ…」
「愛し
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