天野美緒の回想5

 マルガちゃんとハリシャちゃんは色々教えてくれた。単に『魔法使い』と言った場合、魔法を使える人間も含まれる。けど魔女とダークメイジはもう人間辞めてて、魔物の類なんだってさ。まあ二人を見る限り、そこは大した問題じゃないような気がしたな。異世界で育った人にはどうなんだか分からないけど。

 あと、二人のお菓子を食べても太らない理由。それは食べても栄養にはならないで、魔力として体に蓄積されるからだった。体の調子が良いのも変な高揚感もその魔力のせいで、私はもうただの人間より上の存在に片足突っ込んでたみたい。嫌いな教師が取るに足らないヤツに思えたのはそのせいってわけ。

 そうすると、もう一つピンと来たことがあったわ。逆に私が「この人は怒らせたくない」と思った相手は、もしかしたら……

「もしかして、小宮山先生も魔女なの?」
「ああ、あの人はヴァンパイアよ」

 ハリシャちゃんがさらっと教えてくれた。ヴァンパイア……吸血鬼。
 紫外線に弱い体質って聞いたけど、そういうことかって納得した。

「あの人、ミオちゃんの血を狙ってたよ」
「え!? こわっ。私って美味しそうなの?」
「というより、眷族したかったみたいよ。まあ貴女は今からダークメイジになるわけだから、もう他の魔物にはなれないわね」

 あとで知ったんだけど、ヴァンパイアが眷族にするのは魔界の貴族に相応しい、立派な精神を持った女性だけなんだって。私としては吸血鬼より魔女の方がいいけど、選んでもらえたことはちょっと嬉しい。

 さて。この時点で私はただ中途半端に魔力を溜めている人間。その力を呼び覚まし、ダークメイジとして覚醒するための儀式をやってもらうわけだけど……

「このシャンプー、良い匂いでしょ?」
「うん。これも魔法で作ったの?」
「魔法じゃないけど、故郷のハーブを使ってるんだー。ミオちゃんもそのうちおいでよ、ドラゴニア」

 なんか、お風呂で体を洗ってもらってた。ああ、さすがにお風呂場とトイレはお菓子じゃなかったわ。壁と床は良い匂いのする木でできてた。

「いつか行ってみたいな……ところでこれって、儀式の前に体を清めて、とかそういうやつ?」
「ううん。体触ったりするから、お風呂でやった方が抵抗ないかなって」
「あ、じゃあこのまま儀式に入るわけね……」

 心の準備ができてない、ってわけじゃなかった。ただ、二人に言おうかどうか迷ってることがあったのよ。
 目の前にある鏡には、いつも通りの私の姿が映ってた。マルガちゃんとハリシャちゃんは優しい手つきで髪を洗ってくれているけど、ある部分が私の体に当たっていたのね。私とは明らかに差のある部分が。

「あー、あのさ。できれば、その、お願いがあって」
「え? 何?」
「えー、笑わないで聞いて欲しいんだけど……」

 口に出すのは恥ずかしいけど、どうせ人間じゃなくなるんだし。あとから「あれは人の弱さ故に」みたいなこと言っとけば恥ずかしくないだろ、なんて思った。

「魔物になるついでに、その……胸、あなたたちくらい大きくしてもらうとか、できないかなって……」
「ぷっっはははははは!」

 マルガちゃんが盛大に吹き出した。顔から火が出そうだった。

「ふひっ、うっははははは!」
「そ、そんなに笑わなくても!」
「多分、笑わないでって言われたときから笑う準備してたわね、この子」

 ハリシャちゃんは冷静。対照的な二人だな、って思った。マルガちゃんはそのまま笑い続けて、胸についた二つのミルクプリンがぷるんぷるん揺れてた。

「あはっ、うわっはっはっはっ!」
「とにかく、そうして欲しいならできるわよ。貴女は今のままでも綺麗な胸だと思うけど」
「いや、そりゃ、ぺたんこってわけじゃないけど。でも二人のを見ると……なんか羨ましいなって」
「ふっはっは、はっはひゃひゃひゃ!」
「まあ確かに、わたしも魔女になるとき、体の……」
「ひゃーっはっはっはっはっは!」
「うるさい!」

 怒声の直後、お風呂場は静かになった。ハリシャちゃんがマルガちゃんのうなじに、恐ろしく速い手刀を打ち込んで気絶させたから。漫画だとちょくちょくあるシーンだけど、実際に見るのは初めてだったわ。しかも全裸の美少女同士なんて。

「……わたしもね、体のコンプレックスを消してもらったの」
「え? ハリシャちゃんが?」

 すると、ハリシャちゃんは鏡に手を伸ばした。鏡の中の自分と指を触れ合わせる。

「これが、人間の頃のわたし」
「え……?」

 鏡に映るあの子の姿がガラッと変わった。間違いなくハリシャちゃんだし、胸のチョコプリンも今よりちょっと小さい程度。でも、他の体つきが違ったの。手脚とか、女の子としてはかなり筋肉ついててさ。お腹に至っては……割れてた。腹筋。
 ハリシャちゃんは恥ずかしいか
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