旅の始まり

2021/03/11 登場人物の記載を追加


登場人物

アイオン
 主神教団の戦士として訓練を積んだ青年。
 かつて住んでいた村と、慕っていた兄を魔物の襲撃で失う。

ステリオ
 アイオンの兄。
 ハイオーク姉妹の姉と戦い、消息不明となる。

アルデン神父
 主神教団の神父であり、アイオンの養父。
 戦士の一団を率いており、アイオンを戦士として育てる。

ティリア
 主神教団のシスターであり、アルデン神父の養女。
 アイオンの姉替わりであり、歳も上。

ハイオークの姉妹
 アイオンの住んでいた村を襲った魔物の姉妹。
 姉はエデル、妹はガーラという名。






第一 アイオン

……とある教会の大広間にて、荘厳な雰囲気の中儀式が執り行われていた。
 片や、この教会を治める神官であるアルデン神父、片やその神父を父代わりに育った青年アイオン。そしてその二人を取り囲むように並び立つ《戦士》たち。彼らは主神とその教えの為に、魔物と戦う戦士たちであった。
 「天に座す主神の名と許しの下、そして我がアルデン・ノクトアムの名と言の葉によって汝、アイオン・ノクトアムを教会の剣たる戦士の任につくことを命ずる 汝、民を守り、民を導く、民のための剣となることを誓うか」
 厳粛な声で誓いを求められたアイオンと呼ばれた青年は神父であるアルデンの前に跪き、同じく粛々とした様子で誓いの言葉を返す。
 「我、アイオン・ノクトアムは主神の名と許しの下、民のための剣となることを誓う」
 その言葉に恭しく頷いた神父は、アイオンの額に聖別した葡萄酒に浸した指をあて、主神の印を描く。
 「立て、アイオン・ノクトアム 今より汝は主神の戦士として、魔を討つ者とならん」
 その言葉と共に立つ青年は、表情こそ穏やかであったが、その目は魔を討つという使命と怒りに燃え立っていた。

 アイオンは神父の子ではない、かつてはこの教会のある国の片田舎で過ごしていた普通の少年であった。両親はおらず、決して裕福でもなかった。それでもアイオンは幸せであった。優しく、そして誰よりも強かった兄が一緒だったからである。兄は普段は猟師として、時に村の用心棒として、非常に頼られていた。アイオンはそんな兄が大好きであった。だが、そんな慎ましくも幸福な日々は突如として終わりを迎える。
 オークの群れの襲来である。
 決して豊かでない、小さな農村は瞬く間もなくオークの群れに蹂躙された。ただでさえ、貧しい村である。身を守る道具もろくに整っていない、それでも精いっぱいの抵抗は試みた。だが統率されたオークの群れの前には無力であった。
 そう、オークの群れは統率されていた、恐ろしいハイオークの姉妹によって。
 今でもアイオンの脳裏に焼き付いて離れない、恐ろしいあの日の記憶。村を、家を、そして何より兄を奪ったあの憎き魔物の群れ。
 『ひひっ、見っけ!』
 アイオンが隠れていた家の木戸をまるで粘土細工のように打ち砕く小さな少女。褐色の肌、灰の様に白い白髪、そして未だに鼻の奥にこびりつくかのように鮮明に思い出せるあのむせ返る臭い、あの時アイオンは一体のハイオークに執拗に狙われていた。まるで獲物をいたぶる捕食者のようにハイオークの少女はアイオンを追い回して《遊んで》いた。村を、アイオンを守ろうと、飛び掛かっていった村の大人たちをまるで蠅を払うかのように弾き飛ばしてじりじりと追ってくる《怪物》を前にアイオンはただ泣き叫びながら逃げることしかできなかった。そして、そんなアイオンの様子をまるで新品の玩具を見るような目で、嬉々とした表情で追いかけるハイオークの少女はついに、アイオンの腕をつかむ。
 『捕まえた♪』
 さあ、遊びましょ……そんな少女の嘲りをアイオンは一度も忘れることはなかった。その目を、声を、嗜虐に歪んだその笑みを。
 だが、ハイオークの少女は獲物を捕らえることは叶わなかった。鋭く飛翔した矢が少女の腕を射貫いたからである。つんざくような悲鳴をあげ、少女はアイオンを掴んでいた手を離す。
 『アイオン! こっちだ!』
 何よりも安心する、兄の声。声の方へと走り寄る。
 『貴様ァッ!』
 あと少しで兄の下へたどり着くというところでのハイオークの絶叫、突き破られ砕け散る家屋。その衝撃を受けたアイオンは吹き飛ばされる。もしもあのまま地面や壁に叩きつけられていればどこかを挫き身動きが取れなくなっていたであろう。だが幸運にもアイオンは川へと落ち、事なきを得た。溺れかけながら、何とか対岸へと泳ぎ着きアイオンは兄へと目を向ける。衝撃の主、それは妹を傷つけられ激昂した姉のハイオークであった。憤怒のあまりか、それとも性質か、湯気を放ちながら全身を震わせる様はまさに怒れる大猪であった。そして、そんなハイオークの様子に中てられたかのよう
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