カイがティーア、そしてアリスの暮らす牧場に住み込みで働き始めて数週間が経った。
最初は遠慮がちだったティーアも、この頃になるとカイを名前で呼び、親しげに話せるような関係となり、アリスの弄りにも耐性がつき、今では軽く返せるほどにまでなった。
カイの仕事は、早朝に畑の手入れ――幸いなことに、まだこの牧場の作物は魔界産の風変わりなモノではなく、ごく一般的な作物だったので、カイでも十分に農作業が可能であった――を行い、その後は村の開発のために森の奥に向かったり、村に新しくできる建物の建設を手伝ったりした。
その他にも、アリスに言われて彼女の毛の手入れを手伝ったり、ティーアがミルクを運ぶのを手伝ったり。村にやってくる強引なタイプの魔物を追い払ったり――追い払う、とは言うがどちらかと言えば今回は諦めてくれ、我慢してくれと言う交渉である――と、教団時代ほど忙しくはないが、それでも毎日を楽しく、それこそ家では帰りを待つ美女二人が控えていることもあって、日々の潤いという点に置いては教団時代よりもより充実しており、楽しく暮らしていた。
だが、そんな彼には今悩みがあった。
――性欲を持て余すッ……じゃなくて、ミルクが出ないんだよなぁ。
決して魔物娘が言う男性のミルク、というわけではない。好み一直線な美少女二人と一緒に住んでいる時点で色々思うところがあるのに、最近は慣れてきたこともあって、二人が結構無防備な姿を晒す。
その為、二人といる間は彼の股間は常に臨戦態勢のようなものであるのだが、村の周辺には娼館なんてないし、同じ屋根の下に居るし――ということもあってそれを発散することができずにいた。
まあ、それもある意味悩みではあるのだが、今彼が悩んでいるのは、ティーアとアリスのことだ。
出会って暫くの間は、朝昼晩と、三食にどちらかのミルクが出てくる生活が続いていたのだが、ここ数日に掛けてそれがない。更に、ミルクの出荷量が減少しており、また、アリスの毛並に関しても最近は質が悪い部分が目立ち、毛刈りをして出荷できるような質ではなくなっている。
ティーアのミルクと畑の作物が収入の半分以上を占めている現状で、ティーアのミルクの質と量が悪くなるのは、家計に大打撃を与えることとなる。
アリスの毛は連続で出荷できるものでは無いものの、その質もこのまま落ち続けるようなら収入の低下は免れない。
これが二人だけなら、まだ少し食費を切り詰めるなりで何とでもなるのだろうが、今は空量の多い男が一人増えている為、それも難しい。
最近、毛の手入れどころか、ミルクの運搬もあまりさせて貰えないこともあり、もしや自分の存在が二人の負担になっているのではないか、カイはそう考えているのだが、ソレに関して二人は、それは違うと曖昧に笑って首を振る。
――俺はどうすれば彼女たちの助けになれるのだろうか?
一度ここから出ていこうとしたときは大変だった。ティーアは大泣きしてこれでもかという力で抱き付いてきてこちらの身体が危うく鯖折りされかけ、アリスは普段のふわふわした様子は何処へやら、鋭い眼光で「居なくなるなんて私許さないから」と口調すら変化してカイを必死で止めた。
だから、この家を出ていくのは駄目。というか、この一件から出荷量などが目に見えて下がってきて居るように思える。
図鑑や今まで見聞きしてきた知識を総合するに、ホルスタウロスやワーシープは過度なストレスがかかるとその影響が顕著に現れる。
特にこの二種に関しては、母乳が出にくくなったり、毛並が悪くなったりという影響が出るそうだ。つまり、現在の二人の症状に当てはまる。
ならば俺はどうすれば良い。考えろ、考えろ…。
カイが立ち上がる。もはやこの方法しか彼女たちを何とかする方法はない。
部屋の扉を開け、一階に降りる。
今日はアリスが用事で出掛けているので、家に居るのはティーアだけ。扉を開いた音に気づいたフィーアがソファからカイの方を振り返る。
「あ……どうかしたんですか? カイさん」
彼の真剣な表情を見て、なぜそんな表情をするのかと首をかしげるティーア。
彼女の動きに合わせて揺れる二つの神器を見、そして彼女の顔を見て、彼は覚悟を決めた。
「ティーア! 無理を承知で頼みがある!!」
「は、はい!」
「貴女のその豊満な胸を思う存分
揉んで、ミルクを直接吸わせてくれないだろうか!!」
土下座。見事なまでの土下座である。膝をつき、腰を低く、地面に頭をつける勢いで頭を下げる。今このときに己の全てを賭ける。そんな覚悟がひしひしと伝わってくる、そんな土下座だ。
と、そこまでやりきって彼は気づいた。
――しまった!? 欲望を出してしまったぁあああ!!?
本当なら乳搾りを手伝わせてくれと言うはずだった
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