「はぁ、はぁ、はぁ…ふぅ」
複雑に入り組んだ裏路地、そこにある高く積み上げられた酒樽を背にして地面に崩れ落ち、堪らず、と言った風に面帆を跳ね上げて荒い息を繰り返す男。
顔は赤く、顔中汗まみれで無精髭から雨のように汗を垂らす様子から、どれだけ激しい運動をしていたかが伺える。
「ねえ、もしかしてもう男居ないの?」
「…私たちまた出遅れちゃったのかなぁ」
「ッ!?」
表通りから聞こえてくる声にビクッと身体を震わせると、息を殺して樽の隙間から表通りを見る。
彼の目の前、丁度裏路地に入る道で立ち止まっている二つの人影。どちらも少女であるが、人間のような手足は無く、どちらも美しい黒翼と鳥のような形状の足がある。
ハーピー、その中でブラックハーピーと呼ばれている種族だ。他の魔物と違ってハーピー特有の布を巻いただけの服装などから、恐らく町に侵攻してきた部隊とは別の、後方支援部隊の魔物なのだろう。二匹はあたりをキョロキョロと見回しながら残念そうに話し合っている。
突然の魔物の侵攻から既に数刻。恐らく女性を含めてこの国の国民はほとんどが魔物に襲われ交わっているか、魔物になっているかのどちらかだろう。
「ん? 何か凄い精の香りがするんだけど…」
「ほんと!? どこどこ!?」
拙いバレた!? 二匹が自分の潜伏している裏路地の方を向いたのを見て、樽から急いで離れて口元に手を置いて息を殺す。
今までの戦闘から、魔物が精――生命力、精液、魔力など様々な要素――を感知して襲ってくることは知っていたが、まさかこんなところでその効果を知ることになるとは。
じわりじわりと近づいてくる二匹の魔物。息を殺しながらも懐にある剣に手をかける。前線級の魔物ではないとはいえ、魔物である以上自分達人間よりもはるかに強い。その為手加減なんてできやしないのだが、碌な武装もしていない、更に見た目が自分より遥かに年下の少女でしかない二人に武器を振るうと言うのは、騎士として、何より男として少々気が引ける。
だが、ここで倒さなければ更なる被害者が、もしくは自分が大変なことになる。そう考えれば剣を振るわざるを得ない。
「おい! そこのお二人さん!!」
「あ、姐さん男だよ!?」
「本当!! まさかあちらから来てくれるなんて…。私たちラッキーね」
女性と男性の獣のような唸り声と甲高い嬌声が響き続ける町に、理性的な声が響く。
自分はその声を知っている。同僚で、自分の認めたナイスガイの一人。無限の平原を愛する漢。軟派な所が見受けられるが、その実一途で内に暑苦しいほどの情熱を持った奴だ。恐らく、路地裏に何かいることを察した二匹を見てそれを止める為に現れたに違いない。
こんな状況で自ら身体を晒すなんて凄い気力だ、そう感心したのだが――。
「ようやく、ようやく理想の女性を見つけたッ!! この町に侵攻して来たのはどの子も綺麗だけど皆ムチムチな子ばかりッ。お嬢さんたち!! 貴女達のその慎ましい胸とプリンとした尻に色々させて貰えるんなら、俺はこの身すべてを捧げよう!!」
っておいいいいいいいいいいいいいい!? 思わず内心で盛大に叫んだ騎士。確かに同僚は何かにつけて、ペチャパイもみたいだの、ペチャパイ気にしてる女の子を涙目にさせて弄りたいだのと公言していたのを知っているが、まさか魔物にまでその食指を伸ばすとは…。いくら何でも予想外過ぎた。
「姉さん、あの人ああ言ってるけど…どうしよ?」
「うーん、確かに彼は好みだけど…」
確かに、いくら魔物が人間を食べると言っても二人同時になんて口外する男を食べたがるかと言えば微妙な所だろう。うーんと二人して頭を悩ませる姉妹に、もうどうでもいいから早くその馬鹿と一緒に俺の目の前から立ち去ってくれ!! と本気で願う騎士。
「見つけたぞ!! 私のむこどのぉおおおおおおおおおおおおお!!」
「ッチィ!! 回復が早すぎるぞ!?」
ドガァアア!! と言う破砕音と共に新たな女性の声。確実に新手の魔物だ。と言うか婿ってなんだ? と思わず首を傾げる騎士。
「あの程度で私の貴方への愛は薄れない!! 愛してるんだ貴方を!!」
「俺はペチャパイが好きだと言ってるだろうが!! 大きな胸はお断りだ!!」
「身持ちが固いなぁ、婿殿!!」
甲高い金属音が響き渡る。恐らく戦闘が開始されたのだろう。と言うか、婿だのと言ってる奴と切り合うってどういう状況なんだ? そろそろ本当に混乱してきた騎士を差し置いて、表通りの会話はどんどん進んでいく。
「と言うか、何で戦闘に負けたら追ってくるの君!?」
「君じゃなくて、シータと言う名で呼んでほしい!! リザードマンは決闘で負けた男に嫁ぐと言う伝統があるのだ!! あ、別に勝ってもお持ち帰りすることもあるぞ」
「何
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