「クソッ! こんなところで雨に降られるってんだからやってられっか!」
泥濘に足を縺れさせながら森の中を全力で駆ける影。
深く被った外套に、大きな背嚢。そして擦り切れた厚底のブーツ。これらの特徴からして旅人であるということが伺える。
急な出来事だった。森の中で新しく村を作ろうとしている夫婦が居る、と言う話を聞いて、その噂の森の近くまで来たのは良かった。
雲一つ無い青空。旅をするには絶好の日だったが、彼が森に入って暫くするとポツと雫が落ちた、と彼が立ち止まり空を見上げるのが早いか急にタライを逆さまにしたような豪雨に見舞われた。
憎たらしいまでの晴天なのにそんなこと関係ないとばかりに叩き付ける豪雨。狐の嫁入り、と言う言葉が東国にあると聞くが、こんなものは嫁入りで流す物ではない。最早交わりで感極まってぶちまけている潮吹き。狐の潮吹きだ! と良く分からない下らないことを考えながら全力で走る。
「ありゃ建物か!? 助かった!!」
口に雨水が入ってくるが気にしていられない。非難する場所を見つけられた。それだけで歓喜の声を挙げてしまう。
目的地が見えたことによって水を吸って重くなっていた装備すら軽く感じる。先程よりも歩調を上げて建物に向かって走り――扉を蹴り破るようにしてその建物に転がり込んだ。
「くはッ! あー、助かったぁ…」
幾ら旅をしていると言っても足元の悪い場所を全力で走ったのだ。疲労によって思わず床に転げて息を荒げる。
だが、いつまでも倒れているわけにもいかないと息を整えて立ち上がると周りを見渡した。
大小様々な損傷個所がある規則正しく並べられた長椅子。窓の豪勢なステンドグラスは神話の一場面でも表現しているのだろうか、数多くの人が描かれており、それが日の光と豪雨を浴びて幻想的に蠢いていた。
そして何より、祭壇と思わしき場所にある半壊の像。恐らくは昔の教会か何かなのだろう。とりあえず、教会ということは貴賓室や客間、居住スペースなどがあったはずだ。過去に訪れた教会の間取りを思いだしながら歩く。
ボタボタ、ズルズル、と水を含んで重くなった外套が床を擦る。いくら防水性に富んだ材質であってもあんな馬鹿みたいな雨の前には無力だったらしい。ああ、これじゃあ荷物も全滅かもしれないなと憂鬱な気持ちになりながら奥にある扉を開ける。
純白の布に包まれた濃いワインレッドの宝石が目の前に広がった。いや、良く見れば人だ。ベールを纏った見麗しい女性。日の光もかくやと言った純白の肌に良く映える濃いワインレッドの瞳。瞳に映る自分の姿を見て、随分と不審者チックだなとどこか他人事のように彼は考えて――。
――ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!??
ゴシャッ!! と言うナニカ大変な物を潰したような音と共に森に一人の男の悲鳴が轟いだ。
「ご、御免なさい!!」
教会の居住区、パチッと薪が燃えてその暖かさが身体に染み入る。上半身を毛布に包ませた男の前で、一人の女性が必死に頭を下げていた。
「構わないって。ほら、俺もあんな格好だったわけだし」
「でも、困った人をフライパンで叩くなんて…」
今にも泣きそうな女性にもうどうでもいいから、と投げやりに返す。仕方ない。かれこれこのやり取りは数十回目なのだから。いくら目の前の女性が責任感が強いと言ってもこれだけ同じやり取りを繰り返せば誰だって面倒くさくなるだろう。
だが、それでも彼が律儀に言葉を返しているのは、彼の視界の隅、床に放置された歪んだ鉄の塊が何かを知っているからだ。
フライパン。正確にはフライパンだったもの。
彼女と会ったあの時、一体あの細腕でどういう力をしているか分からないが、叩く、と言うより叩き潰すと言った方が正しい威力を持ったソレを思い切り振り下ろされた彼は、迷わず防御魔法を発動した。だが、それでも彼が床でのたうち回ってしまうほどの威力をしていた、と言えばどれだけ凄まじい一撃だったか分かっていただけるだろうか?
「えっと、その、確かにシスターとしては良くない格好だと思いますけど。あまり見ないでください」
彼女の言葉に訳が分からず顔を上げる。
彼女はその白い肌を赤く染めて顔を背けていた。服装? 首を傾げて相手の服装をよく確認する。
頭部のベールはレースが多く、どこかウェディングドレスにつけるベールのようなデザインとなっており、とても可愛らしい。普通はボディラインが浮かばないはずの修道服は、胸元を十字架の形に切り取られており、しかもその切り取り方が大胆で下手をすれば一般よりはるかに大きい爆乳が零れ落ちてしまいそうだ。更に言えば彼女が恥ずかしそうに身を守るように胸の下で手を交差させてるせいで只でさえ大きな胸が強調され本気で零れ落ちかけて
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