「――ォオラァッ!!」
気合い一閃。降り下ろした斧が薪を真っ二つに割る。
斧を持ち上げ木を設置、再び斧を降り下ろす。
「――さん!!」
「……ん?」
さて、もう一度――と振り上げた彼の頭上から響く声に彼は空を見上げた。
太陽の光に目を細めると、太陽の中からなにかが降ってくるのが見える。
翼を広げたそれは鳥に見えるし、その姿は人間のように見える。
「ドランさん! 緊急の呼び出しです!!」
緑の鱗と甲殻に、小さな角。腕と一体化した翼。飛翔に特化したドラゴンとはまた違うタイプの竜である、ワイバーンだ。
いつものことながら上空から迫るその姿に表現しきれない感情を抱くが、すぐにそれを消滅させ彼女の話を聞くことにした。
「呼び出し? そんな、俺の力が必要になるような――」
「腐りが出た、と言えば分かると」
腐りが出た、その言葉を聞いた瞬間、彼の身体は風となった。
「――え、あのドランさん!?」
家に駆け込んだ男を追ってワイバーンも家に入る。
服を脱ぎ捨て、鞣し革の服を着る。鎧立てに置かれた脚甲、胴鎧、手甲、兜を被り、壁にかけてある大きな袋を背中に掛ける。
次に大きな麻袋を担ぐと家の外へ。普段とがらりと変わった雰囲気の彼を邪魔しないように壁に寄ったワイバーンを気にすることなく家の裏手にまわった彼は、幾つかの大きな箱を台車に乗せる。
「――おい」
「ひゃい!?」
「とりあえず数人、これ運べる奴を手配してくれ」
「わ、分かりましたっ!!」
慌てて飛び立つワイバーンの背中を見送り、彼は愉しそうに笑った。
長かった。ようやく奴を狩れるのだ、と。
ドラゴニアの女王からの依頼は至極簡単。ドラゴンの墓場の外れに突如として現れた腐れを調査してほしいというものであった。
腐れ、とは大地を侵食する謎の物質だ。腐れ日の竜より漏れるそれは、大地と生命を腐らせ燃やす。そこに例外はない。
それが発生すると、周囲の大地が瞬く間に変色し奇妙な煙を発し始める。どうやらそれを近隣の魔物が確認したようだった。
幸いなことに被害は一切出ていないというが、それも時間の問題だろう。
異界からの来訪者である自分が男のままであるのと同じく、奴もまた、この世界ににつかない命を奪う者であると見て間違いはないはずだ。
「さて――と、相変わらずヒッデェ土地だことで」
ワイバーンやドラゴンたちの力を借りてたどり着いた腐れ。そこは生前見た光景と同じく、命が腐り燃える世界であった。
ここには例外がない。全てが等しく腐り、全てが等しく燃える。鼻につく激臭にやれやれと肩を竦めると、彼は腐れの中を歩き始めた。
「――防腐処理凄いな……」
歩き始めて彼が感じたのは、こちらの世界に来て行った防腐処理などの各種腐れ日の竜対策の効果だ。
彼の元居た世界では、いくら対策しても最終的に彼の手元に残ったのは、腐れ日の竜と同等の存在である天災たちからもぎ取って作られた武具のみで、飲み薬も爆弾も、全て腐るか燃え尽きてしまっていたのだ。
それがこの世界の魔法では、一切腐る様子も何もないのだからどうしたことか。感動しながら彼は真っ直ぐ腐れの中を歩く。
腐れの濃い場所に居る。それは何十回と殺してきたからこそ分かる腐れ日の習性だ。どこが濃いかも、手に取るように分かる。
しかし、同時に違和感も感じていた。
腐れは大地を腐らせる。過去に悪い足場で戦わざるを得ない状況になってしまったことは多々あるのだが、今回何故か腐れ日に近づくにつれて大地がしっかりとしていくのだ。
腐れ日が弱っているのか、彼は考える。
腐れ日の竜が弱ると必然的に腐れの効力も落ちる。しかし、それにしては入り口の腐れの具合は凄まじいものであったし、それに自分がこちらに来てもう三月と半。強靭な肉体と強力な再生能力、そして理不尽なまでの不死性を持った天災級の竜である腐れ日の竜が快復していない筈がないのだ。
「どういうことだ……」
分からないことが多すぎる。警戒を強め慎重に足を運び――見つけた。
それは山脈。山のように巨大な身体、剣山のように身体を突き破る肋骨と、骨ばった多肢。穴だらけの被膜を広げ、玉のような瞳が虚空を見つめていた。
腐れ日の竜、その最初の形態である数多の竜を無理矢理くっつけたようなグロテスクな姿。
この姿で一定期間を過ごした腐れ日の竜は、その殻を破り真の姿に至る。
つまり、この状態で決着を目指すのが最もよい選択であった。
「妙だな……」
歩みを止め腰を低くしつつ彼はつぶやく。
腐れは腐れ日の竜の探知器官の役割を担っているという研究結果があるように、ここまで踏み込んできたなら既に臨戦態勢になっていてもおかしくないはず。
だというのに、腐れ日は一切活動
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