魔王と勇者の再会〜なぜ世界は変わったのか〜

ここは神族と魔物の全面戦争が行われた近くの海辺である。
死闘と言う言葉さえ生やさしい程の凄まじい戦いはまる10日に及び、両軍とも全滅。総帥である主神と魔王も、共に深手を負って同時に退き、ようやく戦塵は止んだ。
魔物と神族の死体が長い浜辺を埋め尽くし、海は流れ込んだ血によって赤潮のように染まっている。
鬼哭啾々、まさに死んでいった者たちの泣き声のように、今はただ海風が響く。それはあまりにも悲しく淋しく、海の上を響きわたっていた。


この戦いの後、世界は大きく変わることとなった。
これは自らの容姿に運命を翻弄されながらも、飽くまで一途に彼を想い続けた女と、過酷な状況にも迷わず、彼女を愛し通した男の二人で選んだ、時代の転換点となった物語である。



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「どういう事だ…」
勇者は思わず口走った。まったく魔物に出会わない。ここは魔界だというのに。
彼は主神を崇める教団内でも随一と言われた剣と魔法の腕を持ち、神託を受けて勇者となった。彼の使命は『魔王城に潜入し、瀕死の魔王にとどめを差す』ことであった。

突然起こった主神と魔王の全面戦争。神族軍対魔王軍の昼夜を分かたぬ激烈な戦いは両者の放つ凄まじい魔力によって戦場付近に猛烈な嵐を巻き起こし、人間はもとよりあらゆる生き物は近づく事さえも出来ず、息を殺して戦いが終わるのを待った。しかし決着はつかず、主神も魔王も深手を負って退いた。自ら動けない主神は、魔王の傷が癒えぬ間に討伐することを教団に命じ、教団軍の腕利きたちに勇者としての神託が下され、魔界への潜入を殊に願っていた彼にも神力が授けられ、魔王城への突入が命令された。本来なら大勢の騎士や魔導師、傭兵たちが加勢に付くはずだが、魔界の混乱を突いての行動なので、勇者4人での単独行動・・・と言えば聞こえは良いが、つまる所は刺客、つまり暗殺者同然である。

勇者は授けられた美しく輝く鎧兜に、同じく輝く盾と鋭い剣を左右に構えていた。魔界にただよう、どんよりとした瘴気はうっかり吸いこんだら、ただの人間はどうなるか分からない。しかしこの装備がそれを防いでくれている。
授かった神力で強い魔力を探りながら進む。魔界に入り込む方法があやふやだったせいか、ここへたどり着くのには苦労した。おかげで仲間たちともいつの間のかはぐれてしまったが、仲間たちを待ち探す余裕は今の彼には無い。急ぐ理由がこの勇者にはあるのだ。

魔王の本拠、どれ程の敵がいるかと思ってきたが、いざこのうす暗い魔界に入ると、どうしてなのか何の襲撃にも遭わずに、あっさり魔王城にたどりついた。赤い月の照らす中、向こうにそびえる強い魔力を放つ、魔王城と思しき建物に勇者は違和感を覚えた。
「以外と普通の城だな…」
魔王の棲家ならさだめて忌まわしい、見るに堪えない禍々しいものを想像していたのだが、目の前にある城は規模は比べ物にならない程巨大だが、人間の街にある城と見掛けはたいして変わらない。
辺りの岩陰に身を隠しながら、ようやく正門と思われる巨大な城門のそばにたどりついた。開く訳は無いが、ものは試しと大きな鉄扉に手を掛けて押してみた。それは拍子抜けするほど簡単に開いた。トラップも無いようだ。わずかに開けたすきまからすばやく中へ入り込む。
『広い…』
この城前の広場だけで軽く人間の小さな町ぐらい余裕で入るだろう。警戒しながら城壁沿いに進む。
城内への扉には、さすがに魔王の城らしく大きく不気味な目玉がついていて、ぎょろぎょろと辺りを見回している。剣を突き立てようと物陰からばっと飛び出す。だが、その途端に目はしっかりと閉じてしまった。盾をかざして防御態勢を取るがなんの攻撃も無い。この扉の魔物を倒すのにはまた目が開くまで待っている必要がありそうだが、そんなひまは無い。この隙に、と扉を押してみるとこれまた簡単に開いた。トラップに用心しながらさっと飛び込む。
広大な魔王城を進んでいくと、長い廊下の曲がり角や扉の上に門扉よりやや小さい目玉が付いていたが、それが無ければうす暗い以外は人間の世界に普通にある城と変わらない。目玉は勇者が近づくとみんな目をしっかり閉じたり、消えたりした。だがいくら進んでも襲撃もトラップもない。それどころか魔物たちの姿さえ見えない。
『もう魔王は主神様に受けた傷の為に死んでいて、魔物たちも姿を消したのだろうか…』
いや、奥へ奥へと進む度に感じる魔力が大きくなっていく。このとてつもない大きな魔力。魔王の力に違いない。一刻も早く魔王を討って、自分の目的を叶えるのだ。勇者は自然と急ぎ足になる。
少々の旅をしたほども歩いて、城のかなり奥まった場所へたどり着いた。そこはとても内装が豪華で貴族の屋敷を見るようだった
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