それはそれは私がまだ子供の頃の話。
私の両親は熱心に神を信仰していて、いつも近所の小さな教会に通っていた。
それこそ狂ったように。
私はその時生まれていなかったから分からないが、
なんでも神様に命を救われたのだとか……
そんな両親の元に生まれた為か、私は幼い頃から教会に預けられ、
そこで色々な事を教えられた。
神様はどういうものか、地獄とはどういうものか、天国はどういうものか、幸せは……
数えると際限がないが、ともかく役には立っているとは思う。
でも私の頭の中の考えを知ったのなら両親はきっと私を叱るだろう。
当時私は十歳だった……
その日私は授業を終え、頭の中に湧いたある疑問を、
その教会に住むたった一人の神父、
ロウル神父に問いに私室へ向かっていた。
私はロウル神父の私室の前に着くと、扉を軽くノックした。
「ロウル神父様。居ますか?」
すこし間が空いた後、ロウル神父は扉を少し開けて、十cmはある顎鬚を
撫でながら顔を出した。
「……レイス君じゃないかどうしたんだね?」
ロウル神父はもう五十歳を過ぎていて、この教会で二十年以上神父をしていた。
それだけあってこの地域の住民からは信頼されていて、何かあった時はいつも頼られていた。
「神父様。僕は、神父様に聞きたいことがあって……」
「ほほう、どんな質問かな? 楽しみだ。それなら、さあ中へ入りたまえ、立ち話では疲れるだろうからね」
ロウル神父は笑顔を浮かべながら、扉を開けて私を部屋に入るよう促した。
私はロウル神父に言われるがままに、近くに置いてある木造の椅子に座った。
そして彼も、私の前にテーブルを隔てて椅子に座った。
「飲み物は何がいい? コーヒー? 紅茶? それとも……」
「ミルクでいいです」
「そうだ、そうだったね。すまんすまん」
ロウル神父は苦笑いを浮かべながらミルクを注ぎ、私の前に置いた。
彼の飲むものはコーヒーのようだった。
「それで、私に聞きたいこととは?」
「……神父様、本当に神様は存在するのでしょうか?」
私は叱られる覚悟で、ミルクを飲みながら彼に質問をした。
「ふむ? 珍しい事を聞くんだね。
どうしてそんな事を聞く理由を教えてもらってもいいかね?」
私の予想とは反して、彼は怒りもせず、興味ありげに聞いた。
「神父様。例えば僕が目の前にいる鳥を撃ち殺したとします。
そうすると僕はきっと死後地獄へいくでしょう。……でも何故その場で
神様は罰を与えないのですか?
例えば、どこかで誰かが誰かを殺したとして、
どうしてその罪人はすぐに罰を受けないのですか?
何故僕達は死ななければ、天国に行くか地獄に行くか決まらないのですか……
何故……」
「もういいよ。君の思ってる事は良く分かった。
くっくっく……そうだね、君の考えも最もだ」
私はこの質問を彼は良く思わないだろうと考えていたのに、
彼は笑いを堪えながら、さも楽しそうに、私の肩をポンポンと叩いた。
「笑わないでください神父様。僕は真剣です」
「いやいや笑うつもりはなかったんだ、許してくれ」
「……」
私はちょっとだけむくれた。こんなに勇気を持って聞いたことが馬鹿らしくなった。
「でも聞いたのが私で良かったよ。他の教会の神父様に聞いたら
君はただじゃすまなかっただろうね」
「ど、どうなるんですか?」
彼の『ただではすまない』の言葉に私は恐怖を覚えた。実際別の教会では
神を冒涜するような行為をしたら、ある部屋に入れられると言われていたからだ。
そこは昼でも真っ暗闇で音も聞こえなくて、静寂だけが支配する
地獄のような部屋であって、
私達はそんな恐ろしい部屋をあり得ないと思いつつも、そこに入れられないように
気をつけて暮らしていたからだ。
だからこの疑問がその神への冒涜になっていないのか心配で堪らなかった。
「ん? 何、ただ密室で一日中自分の罪を悔いるよう懺悔させられるだけさ、
真っ暗だからちょっと怖いけどね。なれればどうって事ないよ」
「え。神父様はその経験が……?」
「あるよ。君と同じ年の時、君と同じような疑問を抱いてね。
……でも、そのお陰で…………いや何でもない」
彼は途中で言葉を濁し、何かを思い出しているようだったが、
すぐに首を振って私の疑問に答え始めた。
「正直、君の疑問に答えるには私では無理だろう」
「……そうですか」
私は少し残念で、でもどこか安心していた。きっと同じ疑問を
彼が抱いていたことがあったからだろう。
「ちょっと座ったまま動かないでくれないか」
「はい」
私にそういった後、彼は自分の机の引き出しを開け何かを探し始めた。
「……あったあった。君ならもしかしたら資格があるかもしれない。
いや、本当は資格など余計な物がなければ……」
「神父様?」
「ああいや独り言さ。さ、もうち
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