日が暮れてきたので、僕は外に出ることにした。沿岸の村というのは夕日が映える。村が親魔物領となる前は、観光客がよく来ていたらしい。
だが、教団にこの村が親魔物領であると知られてからはぱったり来なくなった。最近父が家に帰らないのもそれが原因なのだろう。などと陰鬱な思考をしていると、村の入り口から痩身の男性が帰ってきた。
「おお、ロビンくん。勉強の休憩かい?」
「ええ。まあ。おじさんもお疲れ様です」
靴墨にまみれた手で鼻の下をこすり、疲れたように笑うおじさん。僕はおじさんのこういう顔以外見たことがない気がする。
日中はテッセ川の向こうの街まで、靴磨きの仕事に行っているらしい。街中に立っていると自然と情報通になるものさと得意げに語っていたことは記憶に新しい。
僕はこの村を出られない身であるので、そんなおじさんの話は楽しみであった。
「いやぁ、隣町にも教会ができて、だいぶ教団の人たちが増えたね。近いうち山の向こうの遺跡を調べるらしくて傭兵募集もやってて気が立ってたし、ぼく自身もこの村の出だとばれないかヒヤヒヤしていたよ……あっ。すまないね、先生のことを悪く言うつもりはないんだ」
「ええ。わかってますよ」
魔物ですらないのに魔物と近しい扱いを受けるのは、反教団の宿命か。別に僕たちは教団のやり方が気に食わないわけではないんだが、親魔物=反教団なのだ。
そんなことを考えると、昼に出会った傷つけられたサハギンのことがどうしても頭に浮かぶ。隣町からの荷物ではなかったが、テッセ川を下るならあの街の近くを通るはず。
「……おじさん、隣町で昼ごろ、魔物が出たっていう話はなかったですか?」
おじさんが一瞬驚いた顔をする。
「おっ? どうして知ってるんだい? 昼ごろに教団の正規軍……ほんの数人だけどね、その人たちが魔物が出たと街の鐘を鳴らしたんだ。大パニックだったよ。鍛冶屋のおじさんなんかフレイルまで持ち出して、戦争でも始めそうな感じだった。いやぁ怖いね」
フレイルと言えば、棘付の鉄球を振り回す武器だ。あんなもので殴られれば魔物でも死ぬ。あの少女に刺さっていたのは教団の剣だが、あのぼんやりとした態度は殴られた痛みを隠すためだったのかもしれない。
少女の笑わない顔が、頭から離れない。
「ロビンくん、君も学者の顔をするようになったね。先生に似てきたよ」
僕の苦悩する顔をどう受け取ったのか、おじさんはうんうんと頷いて僕の頭をなでた。そういえば父が笑うところなど見たことがない。
「君もそろそろフィールドワークをしたっていいとぼくは思うんだけどね、先生は頑固だね。まあ確かに、野生の魔物なんて危険すぎて近寄れないけどね。たとえ今の魔物でも、いやむしろ、今だからこそ、かな?」
遠い目をしながらおじさんが呟く。おじさんは父とよく酒を飲むらしく、村の集会場で夜を明かすことも多いようだ。だから父はあまり家に帰らない。
「おじさん。父は何か、僕に隠しているのではないですか?」
「えっ? いやぁ、ロビンくんは鋭いね。先生は確かに君に色々なことを教えていない。でもそれは、まだ知るべきではないからだよ。意地悪で教えないからじゃあない。学者には危険がいっぱいだからね。勇気だって要る。おっと、こういうこと言うと、ロビンくんには良くなかったかな?」
「いえ。そんなことないですよ」
なるほど得心した。僕はこんな事実を知り父をとがめることなどしない。つい数時間前、自分の勉強不足は痛感したばかりだ。
あのサハギンの少女は、大丈夫なのか……?
「それじゃあロビンくん、ぼくは明日も早いからここで失礼するよ」
おじさんは手を振って、少し曲がった背筋で歩いていく。
僕の中に違和感が生まれる。僕はこの機会を逃すと何か良くない気がして、口を開いていた。
「……おじさんは、元学者とかなんですか?」
おじさんが歩を止めて、疲れたような笑顔を見せた。
「ふふっ。ロビンくん、よくわかったね。ぼくは数年前まで学者だった、というか先生の弟子の一人だったんだけど、やめてしまってね。ロビンくん、気をつけなよ」
僕は会釈した。
そして家に帰ると、シー・ビショップの少女が顔を出していた。
次の文章もまた似たような出来であった。それどころか明らかに酷くなっていた。全部描写すると頭が痛くなるので抜粋でご容赦願いたいが、『体の中をあの人で満たしたい方募集』とか『繁殖しようぜ☆』とか本当にこれまともな精神のやつが書いてるのかと本気で頭を捻りたくなる。
「どうですかロビンさん! とっても素晴らしい文章ですよね!?」
そして相変わらずこいつの目はどうなっているんだろう。ちょっと気になったので訊いてみた。
「どこがどうすごいんだ?」
「リアリティがあるところ
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