アルラウネになった少女

 後輩が部活をサボった。
 「こんな時に休むって……なんなの?」
 滴る汗が不快。季節は夏、前年以上の猛暑。

 私は浅木美紗。園芸部の一応部長。と言っても、そろそろ引退も近いんだけど。三年生だし、他校との交流会ももう終わった。することといえば、こうやって暑い夏の中花の世話に出かけるだけ。
 もちろん殆どの日は後輩がやってるし、私が出る今日も松本くんっていう園芸部じゃ珍しい男の子の後輩が来るはずだった。

 「メールしても蓄積、電話も出ない。……電源切ってるなーこれ」
 そこまで行きたくないわけ? 女子が多いからって入った手合いだと思ったら、意外と根性あって見直したのに。

 うちの高校の花壇はビニールハウスの外にもある。なんせスポーツ重視の高校だからね。文化部の扱いなんてぞんざいなもん。今時、植物すら殺しかねないこの暑さで屋外花壇なんて。花に死ねって言うようなものよ。
 私はまあ、見かけ上意外だって言われるけど、一応花が好きだし。あの甘いにおいとか。私がここで行かなかったら間違いなく全滅する。そんなの見たくないじゃない。


 うちのとこは山の中腹あたりにある高校。その道中の、遮蔽物のない田園地帯がとにかく暑い。
 「……おねえちゃん、だいじょうぶ?」
 そんな中で、真黒いドレスに身を包んだ女の子が私に声をかけてきた。子どもだってのに黒い日傘を差していて、育ちが違うなーとか僻んでしまうほど。田舎にもまったく似合わない。
 よく見ると髪は金髪、目は青色。日本人ですらなかった。
 「うん、ありがとう。大丈夫よ」
 滴る汗を首からかけたタオルで拭う。制服も下着が透けそうなほど濡れてるし、膝上までスカートを上げようと暑いものは暑い。
 「おねえちゃん……ちゃんと、水分とらないと」
 ハーフの子なのか、流暢な日本語で言って、某青いスポーツドリンクのペットボトルを私に差し出してきた。一応水分はあるし大丈夫って言ったんだけど、「いいから」と押し切られ受け取ることに。
 「きをつけてね。おねえちゃん」
 「ありがと」
 今飲もうかなーと思ったけど、首にあててシップ代わりにしたほうが良さそう。

 そうやって私は、一人きりで高校を目指す。



 ビニールハウスの中もどこもかしこも暑い。暑い。とにかく暑い!
 家から持ってきたぬるいお茶で体は冷えず、ずっと冷たいままのドリンクで脇の下やらを冷やさなければ本当に熱中症だったかもしれない。


 「はー……どうしてこんな時に限って休むかなーほんとに……」
 松本くんへの恨み節も尽きない。次の部活でビニールハウスの改善交渉にでも行かせよう。あの頭の固い顧問のとこへ。
 ようやく屋外の分以外の水やりは終了。ついに最後の水分が尽きたから、頼れる保冷剤のドリンクを飲むしかない。
 横のジョウロには水がたくさん入っているけど、これを飲むわけにもいかないしね。
 「どういう仕組みなんだろう? まだ冷たい……」
 その某スポーツドリンクは軽く一時間は経っているはずなのに、ずっと冷たい。なんにせよ有難い。

 それを一気に、飲んだ。

 「っはあー! 生き返るっ!」
 効果はてきめん。体が一気に冷える。「さて!」とかなんとか声を上げて、ジョウロを掴んだ。

 「…………水?」
 ゆらゆらと揺れるジョウロの中の水に、私の顔が映っている。なんだかうつろな目で、夢を見ているような顔。

 水が飲みたい。飲まないと死んじゃう。

 私はそのジョウロを両手で抱え、口へ流し込むように水を飲み干す。体の隅々、指の先まで水が行き渡り、体の各部に水が溜まっていく。
 「まだ、まだ必要……」
 ふらふらと近くの水道に寄って、頭から水をかぶる。流れていく水を舌で飲み。両手を滴る水に添えると、そこに清浄な水が吸い込まれていく。
 「水、もっと……水……」
 私はカッターシャツを脱いで、水道の水を全身に塗りこむ。肌についた水はすぐに体内に吸収され、強烈な渇きを生む。頭上の太陽が命を奪うような錯覚。
 私はふと、水やりを終えた後のビニールハウスを思い出す。動きの悪い足でビニールハウスへ入り、邪魔な靴を脱いで土に素足をつける。
 「はぁ……おちつく」
 足の裏から直に水分を吸収する。ビニールハウスの端にはちょうど水道もあって、歩くのが面倒なので腰から細い蔓を伸ばす。でも蛇口が硬い。
 「もう……! ちゃんと整備しときなさいよ」
 小さな花の咲く腐葉土の上を這って――あ、これって水分をたくさん吸えて合理的――蛇口をひねる。流れる水に私の蔓を添えておいて、また元の位置に座り込む。
 強烈な渇きが満たされていく。
 「はー……」



 そして数分経って、私は『アルラウネ』として完全に魔物化するための第一段階に成った。
 肌と髪の色が薄くなり、両手
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