朝
今日は講義が昼からであることを知った上で、僕は朝七時にクレアと待ち合わせる。絶対何か起きる。そう見越してのことである。
普通電車しか止まらないローカル駅なので朝の雑踏はやや少ない。そのあのちんちくりん魔法少女を見つけられないはずはないのに、僕は見つけることに手間取る。
「クレアー。どこだー」
僕が呼びかけると、後ろから返事が来る。振り返ると、雑踏の中にいた。
有名私立小学校の制服を着たクレアが。
「ふふん。似合うでしょ? バフォメット様、こんな高級な服を用意してくださったなんて……感じちゃいそう」
黒のブレザーに同色のスカート、襟元に金のバッチがついている。ランドセルなんてものはない。革っぽいデザインのリュックだ。
「さあ藤原、さっさとその大学とやらに案内しなさい。あっ、見下ろすんじゃないわよ。あたしを見下ろしてなでなでしていいのはサバトに寄与した男だけなんだから」
その格好で行くと絶対追い返される、と言うと色々面倒なことになるので、僕は「何かバフォメットさんに連絡取る手段は無いか?」と訊く。すると小さなスマートフォンサイズの板を渡された。表面に見たこともない文字がびっしり書かれている。何かの合金の板のようだ。
僕はとりあえずそれを耳に当てる。『おお、どうした』とバフォメットの声。まるで近くで話しているようだ。
「……バフォメットさん、あの服は」
『ああ。こちらの文化に合わせてみた。ちなみにセレアレも私ももう着替えているぞ。今夜見に来るがいい』
「文化には合ってますが場所には合ってませんよ。あれ着て大人しかいない大学へ入ろうとするとつまみ出されます」
『なぜだ』
ここで素直に子どもの制服ですと言うとクレアが激憤しそうなので言葉を選ぶ。
「……あれは、まだ未成熟な人専用の衣装だからです」
『だから、何が問題がある? 魔女とは永遠の未成熟の存在だ。それこそが美しい……』
ああ、永続ロリですか。そうですか。
「……じゃあ、一応連れて行きますけど、失敗しても知りませんよ」
『そんな狭量な人間の元に行くぐらいなら別の大学とやらを探すのだ』
前途は多難である。
通学
普通電車の車内はすいている。僕はクレアを座らせ、その前に立とうとすると「見下ろすなって言ってるでしょ!」と怒られたため横に座る。こうなれば保護者を気取る。
「ふーん、これがあんたの世界の移動手段……。ね、これ何で動いてるの?」
「電気だよ」
「でんき? 何、魔力属性で言うとどれ?」
「魔力属性ってなんだ」
「あんた知らないの? 昨日のうちに魔力序論ぐらい読んどきなさいよ。まあめんどくさいから省くけど、要するに魔力は物理的な力に変換すると、いくつかの典型的な形を取るの。それが属性。素人はよく勘違いするけど、あたしたちの体内魔力に属性がある……例えばウンディーネは水属性だから火に弱いとかがあるわけじゃないのよ」
いや、素人も何も知らんがな……。
「僕の世界に魔法は無い。代わりに科学、要するに自然物理学に則った力が発展しているんだ」
「……ふぅん?」
クレアがにわかに興味を示し、僕にぐっと顔を寄せてくる。
「例えば? この重たそうな箱を動かすには何をしているの?」
「その電気……物質すべての原子に含まれる電子の流れのことだが、それを使って大型の駆動機械を作動させる。それを車輪につけ、車輪を回して線路の上を運ぶ。そういう仕組みだ」
「電子……物質の原子……おもしろそうっ! ねぇねぇ藤原、もっと聞かせて!」
「と、透と呼んでくれ。嫌ならお兄さんとかでいい」
苗字で呼ばれると誘拐犯扱いされそうなんだよ。だがクレアは完全無視。
「駆動機械はその電気で動くように構造化されているわけよね? どんな構造? ねぇねぇ」
「そ、それを学びに今から大学に行くんだよ。それまで待ってろ」
「へぇ? 大学ってそういうことを学ぶ施設なのね。面白そうじゃない。あのカタブツデュラハンが押し付けたんだからどんなくだらない場所かと思ったけど」
やる気に満ちた留学生、ねぇ……。
大学
僕は理工学部情報工学科所属、その中でも自然言語処理を専攻している。
だからうっかり興味を持たせてしまった機械に関する事柄は畑違い。とは言え建物の階層が違うだけなので、僕は講義中の時間を狙って大学に侵入、迅速に研究棟までダッシュ。
バフォメットの作った『しんしょ』とやらがあるので、少なくともある程度相手に事情を伝えることは出来るらしいのだが、ひらがな発音で言われても困る。なにやら物々しいマークが中世っぽい長方形の封筒の中央に刻印されている。
「へぇ、ここが研究施設? あたしたちのところより広いわね。それになんだか
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