◆
私は、本棚の整理をしていた。
「……ん?」
そこで、一つの古ぼけた手製の本を見つけた。本と言ってもペラペラで、30ページも無いだろう。
表紙は擦り切れていたけど、辛うじて読み取れた。
「調査ファイル……第零号、ナイトメア……?」
調査ファイルなら局長の後ろの戸棚に纏めてある筈なのに……それに零号?
「ん? まだ何か隅に……えっと、何々……?
『※この資料はハバカル・ハーツバイスの記憶を元に作られている部分が多い為、正式な調査ファイルではない。』……何これ」
私は整理の手を止め、古ぼけたページを開いた。どうやら中は局長の直筆らしく、局長らしい汚い字は読み取り辛かった。
けど、中には本を切り取って貼り付けたような部分もあったし、古びてはいたけど十分に読める状態だった。
最初のページは大体こんな感じ。()の中は局長のメモ書きかな?
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【ナイトメア】(対策本部蔵書より抜粋)
生息地:不明(一箇所に留まる事は無い?)
気性:臆病、弱気、好色
食料:人間の男性の精
人間の上半身と馬の下半身を持つ、獣人型の魔物。
高い魔力を持ち、睡眠中の人間の夢に入る事が可能。
特定の場所に生息はせず、夢の中以外で遭遇する事は非常に稀。
(予想:渡り鳥のようなルート巡回制?)
ケンタウロス種だが人間の男性の精を糧とする。
好みの男性を見つけると夢の中に妖艶且つ強気な美女の姿で現れ、性交を通じて精を搾取。
(実際に入っているのは精神、肉体は下半身を魔法で変化させて性交するか口で搾取している)
一度夢に現れた後は毎日襲われる事となる。
(気付かないケースが多い)
本来は非常に臆病で気が弱く、現実で男性に触れられると途端に動けなくなる。
(眠っているか自分から触った場合は大丈夫?)
襲われていると解った場合、寝たふりをしていれば簡単に捕獲が可能。また、殆ど抵抗も無く飼い慣らせる。
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「……何これ」
この後のページも、スクラップした資料にメモ書きがびっしりと書かれているだけだった。
「見ての通り、調査ファイルだが?」
「いやー、それにしちゃ汚いし。第一、零号って―――」
思わず聞こえた声に動きが止まり、私はゆっくりと後ろを向く。そこには見慣れた糸目の男性が立っていた。
「まだこの仕事を始める前に作った物だし、不完全だからね。記念にとっておいてあったんだ」
「きょ、局長っ!?」
私は思わず飛び上がり、ファイルを取り落とす。けど局長は難なくそれを空中で掴んで見せた。
「こらこら、アメリア君。いくらどこにやったか忘れてたからって投げる事は無いだろう」
「あ、すみません……」
糸目の目尻を下げ、局長は顔を曇らせる。滅多な事では怒らない局長でも、流石に少しムッと来たようだった。
「まあ良いけど……これは丁度、俺が君ぐらいの時に作ったんだ。友達の為にね」
「お友達……ですか」
昔を懐かしむように元から細い糸目を更に細め、局長は宙を見上げた。
「そういえば私、局長のプライベートとかって殆ど知らないんですけど」
「俺だってアメリア・ニールボゥの生活の全てを知ってる訳じゃないさ……聞きたいかい?」
是非、と私は頷いた。
「そうだな……ある日、友達が妙にニヤケた顔で教室に入って来たんだ。その辺りから話そうかな」
◆
山間にある少し小さい町、その町の学校に若い頃のハバカルは居た。
教室の一番後ろの席に深く腰掛け、手にした本に目を通している。魔物研究が趣味の少し暗めな学生、と言った所だろう。
そして、そのすぐ後ろにある扉から彼の友人が現れた。が、何故かいつもと様子が違う。
「いよぉーう、ハバちん。今日も暗いねぇ、ん?」
いつも軽い感じなのは確かだが、今日は更に軽い。まるで空へ飛んでいってしまいそうだった。
「……おはよう、イカル。そういう君はご機嫌だね」
「まぁな。今日は夢見が最っ高に良かったんでよ」
イカルと呼ばれた青年は軽やかなステップを踏んでハバカルの前の席へと座る。傍から見ると全く接点の無い組み合わせだった。
「そうなの? 夢は滅多に見ない、見ても覚えてないって言ってたよね」
「良くそんな事覚えてるな……ま、その分だけ今朝の夢は最高だったのさ。今思い出しても興奮しそうだ」
「興奮って……何? 下ネタ?」
読んでいた本からハバカルが目を離すと、ニヤケた顔のイカルが鼻の下を伸ば
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