イザナギ一号_13:LIKE a LOVE 前篇

 出発前の時間、実に半日ほど前の会話。
「君に新たな機能を付加した」
「そ、それはどんな?」
「言うなれば『盗電機能』だ!」
「高校生が教室のコンセントで携帯充電してんのと変わらないレベルだろうそれは!?」
「げふぅ!」
僕は単純な男だったので、即座に博士を殴り倒した。
 半日後である今。
 そんな冗談を交わしていた自分は、敵のの本拠地に乗り込んでいた。


 ロイヤリティホスティングカンパニー。
 名前の通り、パテントの管理、運用を代行する会社で、本社は北欧にある『はず』の企業。
 目標地点の算出、及び、計画の立案そのものは博士の情報よるものだ。僕自身はこれといった苦労もしていない。
 計画の目的は首謀者の確保、または殺害。そして必要機材の強奪。この点については取り繕うつもりもない。
 参加人数総計30名。
 集会による人的援護の賜物だ。本当なら、自分だけで作戦、とも呼べぬ行動を起こすつもりだったので、格段に生存率が上がった。
 悲しくも自分は単なる改造人間に過ぎず、圧倒的多数を制圧するには少し心細かったのも事実だ。
 首謀者の確保を念頭とした改造人間Aこと自分と、随伴ユニット『ツカハギB装備』が8機。
 アマゾネス種、ミノタウロス種を中心とした突撃班が8名。
 ミミック種、ゴーレム種を中心とした制圧班が10名。
 ヴァンパイア種、ウィッチ種、バフォメット種などによる外延部での警戒、隠蔽工作班が6名。
 メロウ種、ダークブリースト種などで構成された残り5名は、逃走経路の確保、及び、救護などを含む後衛班。
 そういった各班のおかげで、割れた自動ドアが破砕されたことすら外部の人間は認識していないだろう。 
 

 事前に調査されていた経路を走り、それぞれが外部との物理的な遮断、警備室の制圧、地下施設の掌握などに動き出している。
 各部隊に一機ずつの『ツカハギB装備』が随伴し、各班の状態と作戦の進行状態の相互通信を行う。それらは自分にも直接伝わる為、緊急時はこちらから警告や支持を飛ばすこもと可能だ
 ちなみにB型は強行偵察モデルで、大型の電子兵装と軽機銃、マニピュレータなどを備えた工作仕様装備。
 唯一、受付前に残ったこちらの姿に呆気にとられたままであった受付嬢に対し、

 おそらく帰宅の準備中だったのだろう。立ち上がろうとしていた受付嬢に対し、満面の笑みで歩み寄る。
 もっとも、その顔は人ではなく、笑顔だとしても伝わるはずもないのだが。
「ば、ばけ」
 人に非ず。ならばなんと呼べばいい。
「化け物・・・」
 呆然とした口調で告げられる真実。
青い外殻、露出した牙。歪な外殻の配置も、外見の禍々しさも、生物的な必然性はなく、時に嫌悪感を与えるであろう姿。
 その通りだ。そして化け物が守るのは魔物だ。それを滑稽と笑うか?
 僕もそう思うが、曲げるつもりもない。
 掌をゆっくりと近づけると、小規模な電撃によって彼女達は呆気なく昏倒した。


 上層階、ビルの上へと走っていく。
 対象、事前情報で名前も聞いたはずだが思い出せないのでとりあえず『対象者A』としておくが、その男はこの社のCEOの一人であり、この時間にも残っていることは確認されている。
 そして、おそらくは異世界の住人。
 魔物に対する知識と見識から教会関係者との見方もあるが、魔物排斥派の最も大きな存在、帝国と呼ばれる国家の間者が入れ替わっている可能性も示唆されている。
 どちらにしろ、自分達と同じ常識の上で行動しているとは考え辛く、早々にご退場願った方が世界の為だ。
 たかが魔物を排斥する為に企業一つを私物化している人物だ。クソ野郎には違いない。
 失礼。下品な言葉を使ってしまったようだ。
 どうも、記憶と意識の共有化現象は安定の方向で保たれているようだが、こういった無意識の動作や会話にどうしても出てしまう。
 尊敬すべき相手が、実は口が悪く腹黒いともなれば若干の失望も感じるが、人間であれば誰であれ裏と表があるはずだと割り切った。
 目下、懸念事項は精神的な問題ではなく肉体的な問題だ。博士の話曰く、自分はリミッターが完全ではないらしい。


 これは術後、身体の検査をされている間の会話であるのだが。
『バランサー?』
『そう。頭の中、人間であれば無意識下における身体機能の統制や、100%の身体能力発揮を抑制して体組織のバランスを保っている安全装置のことだね』
よく人間は身体機能の80%から90%しか使用できないとは言われる。
 だが、その上、100%近くを使用しないのは、不可能だからではなく、ハイリターンだからだ。
 間接の浪費、心拍数の異常、筋繊維の酷使、骨への負荷、臓器への負担。
 そういった危険を承知の上で使う必要性は、命の危機でもなければ存在しない。スポーツ選手などの
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