イザナギ一号_10:タイムリミット

 これから書くのは、おそらく最期となる内容の一部だ。
 日付は自信がないので記入をよしておこう。これも何日分かを、まとめて書いている。
 最近、気付いたのだが、体調が悪い。
 気付いたのは、とある理由で異世界に行って以降だろう。
 少々派手に能力を使い過ぎたのは事実であるし、新たな技の連続使用と、落雷規模の電撃を防御したというかなり大規模な過負荷もあった。
 その結果。
 日付の感覚が曖昧になったと思ったら、気分が悪くなる事が増えた。
 吐血と機能不全。今までの六割ほどしか発揮できない身体能力。
 気絶した俺に対し、慌てて駆けつけた二人の呼びかけで目覚めた頃、半日が経過していた。
『改造人間の寿命』
 その言葉が、恐怖と共に突きつけられる事となった。
 何故か、という問いに答えはない。知ることのできない事実であるから。
 俺は、このまま死ぬのかと思い、その恐怖に苛まれた。
 しかし、今。
「おいっす。元気?」
突然現れた『博士』によって、新たな転機が訪れようとしていた。

 博士。は通称だ。覚えている限りは本名を名乗ったことはない。
 痩身の男で無精髭に眼鏡、青白い肌と、どこか非人間的な雰囲気をまとった壮年の男手、その卓越した技術は多くの組織にマークされているという。神出鬼没で足取り不明。生存すら不明だった男が、過去に自室だった場所、今は俺達の生活している部屋で茶を啜っていた。
「で、元気?」
「正直、あまりよくはないな」
「って、え!? 初耳なんだけど!?」
「にゃ!?」
驚く二人に肩をすくめ、博士に先を促す。
「まー、単純に言えば機構的な不調だな。ぶっちゃげ、お前だけパーツが足りてないんだよ」
なんだかとんでもない事を言われた。だいたいこの男、なんでここに来た?
「よーするにお前、未完成なんだよ。他のやつらは生命維持系のパーツは全て揃えている。だが、お前の場合は戦闘パーツは八割、生体維持パーツは7割程度。あとを本来備えた器官で補完している」
「本来の?」
「未改造の部分ってこと。消化器系や心肺機能の一部、ってとこか。酸素供給量だって、不足している可能性は高い」
「記憶喪失もその所為か?」
「いんや、そっちは演算関係のプロセッサだろうな。集積演算回路は戦闘用の容量が多い。で、お前はそちらを使っている。本来は脳と生体パーツへのラインが通っている場所が繋がっているから、本来の脳が反応できていないわけ」
「だが、たまに夢を」
「バイパスが構成されてるんだろうな。基本的に生体用と戦闘用はハードで分けているわけではなく、仮想ドライブでCとDに分けられているようなもんだからな」
わけがわからないとばかりに首を捻る小柄な二人はとりあえずおいておいて、要点を求めて先へ進める。
「なるほど。それならその全てのパーツが揃えばなんとかなるのか?」
「揃えばな。けど、そもそもないパーツとかあるし。予備パーツも含めて」
「な、何故だ?」
「お前だけ規格が違う部品があるんだよ」
わけがわからない。自分は量産化、汎用化を前提とした零号の余剰機能をカットした機体だ。以降の機体とは基本的な面で全てのパーツが共通しているはず。
「あ、それとは別に、改造上のテーマがあってな。児玉 好冬って男のこと、知っているか?」
「一応。俺の夢、いや、記憶が確かなら、その男の関係者が、俺のはずだろう?」
「いんや。正確にはお前でもある男の記憶だ」
「どういうことだ?」
「お前の脳、二人分のデータが詰まってんだよ。たまたま」
「はぁ?」
いよいよ話が解らなくなった。

 R財団に持ち込まれたのは、瀕死の青年と死んだ男。脳組織の中から必要な情報をサルベージする為、青年の脳をベースに男の情報を追加した。青年の脳がOSとデータであるのに対し、男はデータのみといった形だそうだ。
 つまり。
「お前は有勝 創で児玉 好冬ってことだ。で、そういった脳の配線の都合上で、生体パーツの一部は更に改造されている。で、適合するパーツはない。解ったか?」
「つまり寿命はここまでってことか?」
「それも違うかなー。そんなお前を心配して俺が来たんだ。偉いだろう?」
「あー、うん、そうだな」
正直言うと殴りたい。
「で、どうすればいいかというとだな」
資料がテーブルの上に並べられる。
「R財団にあるイザナギ計画用のスマートデザイナーをパクって来い」
「それは?」
「要は生体パーツの培養機械だ。遺伝子データに適合したパーツを作れる。勿論、戦闘用の予備パーツがあるからそれを改造して身体は補強しておいてやろう。動ける程度にはな」
「選択肢はない、か」
「そのとおりだ。あとR財団に乗り込むとだな、彼女達もたぶん呪いが解けるぞ。一挙両得だ」
「え?」
「にゃ?」
彼の真意は解らない。むしろ、利用しようとしているのは確
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