○月к日
拡張接続。簡単に言えば、改造人間の機能を追加、強化する為の装備や部品との高速適合と接続に関するコンバート機能のようなものである。
改造人間同士の装備共有や、同時使用を可能とする。二人分の処理能力を使用したり、武器の交換や受け渡しを瞬時に行う事もできる。
何故、こんな話をしているのかというと、説明しなければならないからだ。
怪人。
そういうった単語で呼称するしかない相手が居た。改造人間どころか人や魔物というカテゴライズすら外れた存在が。
しかも僕等を襲ってくるという最悪の形で。
話は数十分前に遡る。
研究施設内、処分や廃棄の憂き目にあった資料の調査を行っていた。彼女達が呪いと呼んでいた代物の資料が一切見つかっていなかった事に疑問がもったことが発端である。
思えば、この施設で主に研究されていた実験の中に、魔術式を用いたものは皆無に等しかった。むしろ、その存在を知ったのは施設の襲撃後、集会と呼ばれる魔物達の組織を通してだ。
もともと、僕は魔物という存在について懐疑的だったほどだ。そんな存在がいるはずもないとさえ思っていた。
それが覆されたのがあの襲撃である。
蜘蛛に似た肢を持つ美女や、蛇体を備えた美女、果ては、その、一般的にアブラムシと呼ばれる特徴を備えた美女。まるでミスユニバースの本選会場に、特殊メイクの項目があったようだと思った。
それが魔物との初めての接触である。
多少の陳腐な表現になるが、見事なサイズの胸やら尻やらに見蕩れている間に自分は孤立していた。気付けば爬虫類的、トカゲに近い特徴を備えた美女に、首筋へ剣を突きつけられていたほどである。
一生の不覚である。
記憶喪失の憂き目にあって、男という存在についての認識が鈍っていたようだ。こう、僕の内部にある一部分が反応する事態が、これほど無防備だとは思わなかった。
一生の不覚である。
さて、そういった事情から初めて魔物を知り、まぁ、彼女達がごく一部の行動についてオープンなのも知った。酔っ払った彼女達へ、多少揉んだり揉んだり揉みしだいたり程度のことはあったものの、記憶にある範囲では自分は未だ小奇麗な身体のままである。多分。
最後まで書いて正気に戻った。上の一文消そうと思って使っているペンが万年筆である事を思い出す。ページを破るのも最初に書き始めた頃から禁止している。
だって、そうしないとまた記憶を失った時に困る。日記とは本来、その日起きた事を回顧したり、確認したりする為のものだ。
嘘はいけない。
けれど、あの二人に対して見せられないものになってしまった。
話を戻そう。
やはり彼女達の方が魔術式に詳しいのは確かだ、そう思って『集会』へ連絡をとったのが昨日の夜。呪いという現象について、多少のことは解った。
呪いとは、魔術式の中でも特殊であり、多くの場合において、媒体と宣誓が必要となるらしい。媒体は呪いを維持するもので、宣誓は発動の際に必要となる術者自身の代価だ。
対象は基本的に一人であるが、術式の発動時に対象が揃っていれば複数設定することも可能であるという。見合うだけの代価と魔力が用意できれば、であるが。
つまり複数回はありえない、彼女達は一度の術式で同じ呪いをかけられたのだろう。
だったら他にも術の対象者が居た可能性が高い。二人というのは、なんとも中途半端な数に感じた。
そして呪いが継続している以上、媒体はまだ存在している。
その媒体探し、もしくは糸口の発見が今回の目的である。いや、あった。
途中、よくわからないケースが損壊していたのが戦闘の始まりである。
どう見ても棺桶にしか見えないケースの刻印には『ジキタリス』の文字。
背後に気配。
慌てて探索していた二人を抱え込み、走り出した時に見たもの。
そう、それが怪人ジキタリス。
箱に封印されていた何かであった。
怪人ジキタリス。よくわからないので怪人。
一応は人型をしている。フジツボの張り付いた岩壁そっくりの様相に加え、上半身を花で覆われた彼は、全身から腐った花のような異臭を放ち、時折咆哮を上げる。
花の奥から覗く眼球は血走り、咆哮のたびに巨大な牙の並ぶトカゲじみた口が大きく開閉するのだ。
タイツを思わす滑らかな青の皮膜が下半身と両腕を包み、両手の先は巨大な蟹の爪の形で、いかにも鋭い。
「それでどうするのよこの状況!」
怒鳴られた事で正気に戻った。身体の説明からしばらく、考え込んでいた。
「あの花が脅威なんだ。うかつに近づくとあぁなる」
自分達が隠れているのは大型倉庫の中。ジキタリスから逃げるうち、資材の減ったここへ飛び込んでいたというわけだ。
そのうち、半分以上が奇妙な色に染まり、溶けかけている。全身の花がら飛び散る白い霧が、周囲の
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