カヌクイ_番外編2

【カヌクイ 番外編2】


 小さい頃、どうしても理解できなかった事がある。
『○○ちゃんどうして一人でなんでもするの?』
そう言われた事がある。確か、幼稚園児だった頃。
 芋掘り、何かの遠足だった。
 人より運動神経がよく、頭の回転もよかった。早熟だっただけだが。そのくせ、人の話を聞かないし、協調性がまったくない。
 籠を背に、自分一人で芋を掘って収穫していく。祖父の手伝いで農作業を経験した事もあり、班を組んでいた子が三人がかりで蔓を引っ張っている横で、割り当てられた一枚の畑のうち、半分近くを一人で掘ってしまった。
 そこで、最初に述べた『○○ちゃんどうして一人でなんでもするの?』となるわけである。
『なんのころ?」
『○○ちゃんばっかりずるい』
『べつにじゃましてないよ』
『○○ちゃん、いっしょにやろうよ』
『いいよ』
こんな具合である。別に嫌っているわけではないが、協調するわけでもない。思考の系統そのものが違うので、まったく噛み合わない。
 独立独歩とは違う。
 行動パターンや思考ルーチンが自分一人で完結しているのが普通で、知らないこと、解らないことは、聞いたり観察して得れば終わりなのだ。共有もしない。
 祖父との時間が長い代わりに、父親や母親との時間が皆無だった自分の成長は歪だったのだろう。ペアを組みなさいと言われるとすぐに困ってしまった。
 結局、おゆうぎや運動を先生と一緒にやるのだが、その時も別の事を考えている。お昼のご飯、さっき聞いたお話の続き。
『○○ちゃんどうして先生の話を聞いてくれないの?』
『なんのこと?」
『ほら、聞いてない』
こんな事の繰り返しである。今にして思えば自分も極端過ぎたのだと思うが、どこか薄気味悪く思われていたようにも思う。
 絵を描いて、本を読んで、一人で遊ぶ。それを寂しいと思う感性が存在しなかった。いない人はいない。ないものはない。
 どこかで諦めていたのだろう。人とは違う事を認識するには十分な年齢だったし、欲しがったりくずったりしない子だっという。
 祖父がいなければ犬のナナカマドとべったりである。よみきかせてあげる、と、絵本片手に黒い毛皮に抱きつきながら。
 寂しくはない。だが、どこか楽しくもなかったのだろう。
『もうあるけない!』
遠足の時、そう言って座り込んだ女の子。名前は定かでないが、灰色がかった髪の色を覚えている。
『じゃあ、せおってあげようか?』
 何故、そう言ったのだろうか。
 理由は解らない。気まぐれとしか言いようのない行動だった。
 そしてその子に手を貸した。おぶって帰ったのだ。
 全身汗だくになって最後まで運んだ彼女から言われた言葉が、今となって思えば、自分の目的意識を感じた瞬間だろう。
『ありがとう』
 たったのそれだけ。
 だが、そこで気付いたのだ。自分の甘えに。
 それが一人っきりの孤独ごっこを辞めた日だった。
 親如きは関係ない。生き方は決められるわけでもなければ与えられるものでもない。
 そして自分は選んだのだ。祖父の背中を追って。 
 言い遅れたが、俺の名前は枝節 布由彦(えだふし ふゆひこ)。
 時に魔物という異世界の存在を相手にもする少々荒唐無稽な生業、カヌクイを引き継いだ英雄の末裔である。


 カヌクイ。端的に言えば、異世界と現世界と繋ぐ道を守護し、異邦人を迎え入れ、次元を管理し、そのついでに危険な物品の管理もする。
 言うなれば、交渉役兼守護者兼倉庫番といった何でも屋の印象が一番近いだろう。そういった多彩な役割を担う過程で、それぞれ専門の一族も生まれた。
 笹門、百倉、恵比寿の御三家と呼ばれる直系筋である。役割は名前の通り、守護、倉庫番、交渉役、そういった役回りである。
 そして自分の家名、枝節であるが。
 その仔細がどうにも不鮮明である。
 元々は大陸………正確には異世界からの異邦人と、当時の庄屋が結婚して生まれた分家筋の一つであるとの記述がある。
 しかし、そこで食い違っている。きちんと考えれば年代と役職があっていない。
 庄屋は江戸時代、村役人である地方三役(村方三役とも言う)のひとつ、あるいは町役人のひとつである。
 江戸の頃より昔という記述がある時点で噛み合っていない。恐らく、近年、江戸時代以降に聞きなれた単語で書き直されたのだろう。
 では、その『庄屋』という単語の前には、なんと言い伝えられていたのだろう。
 支配の末端機関、村の窓口が庄屋を指すのだが、家系図を辿っても、おそらく恵比寿筋か笹門筋だろう、くらいにしか解らない。
 無論、双方の宗家に管理されている家系図の大本を見せてもらえれば、解決するかもしれない。
 だが、そんな事を頼めるはずもない分家の分家である。
 結局はそういった立ち位置、組織で言えば末端に過ぎないのだ。
 
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