カヌクイ 第五話 男の甲斐性と女の事件性 【中篇】

 空気の断裂が庭石を断つ。口元だけを笑みに歪めた少女は、音速超過の斬撃を身体の一部、破れた振り袖から覗く長大な鎌で繰り出す。
「ただいま現場からお伝えしています。間断の差が激しい今日の天候は荒れ模様のようです」
「・・・最近、お前の冗談にユーモアが足らない事が解った」
会話の間にも、頭上は真空波の嵐。
 かたや、多少着馴れた様子のある黒のスウェット姿の高校一年、細目の面立ちが特徴である杵島 法一(キシマホウイチ)。
 かたや、着古された印象のある古いデザインの礼服姿をした高校二年、オールバックに鋭い眼差しが特徴である枝節 布由彦(エダフシフユヒコ)こと自分。
 地盤の比較的緩い位置を布由彦が自身の特技で割り出し、法一が咄嗟にガントレットの衝撃波で塹壕を掘ったのだが、その頭上を烈風とカマイタチが吹き荒ぶ。
 土が抉れた瞬間に礫が飛来したのか、法一の頬へ一文字の傷が赤く描かれる。
「あははははははははははははははははははははははははははは!!」
木霊す声から守るよう、一人の少女を庇う法一は、蒼褪めた顔でこちらを見る。
「・・・とりあえずここは若い二人に任せて、帰っても?」
「てもー?」
「困る。今は困る。というより、離脱は無理だろう」
「それもそうだが」
事態は。
 なんか悪化していた。


 時間は遡る。
 要約。カンジナバル(龍の眷属で法一の彼女)が家出した頃、布由彦に突如持ち上がった見合い話。
 仔細に説明するのであれば、恩人であり、家族同様である勇登氏から聞かされた話とは、日貫射筋の御三家、始祖から続く直系の家柄に近しい女性との婚約を前提とした見合い話であったという。
「断るわけにもいかないが、相手の意図も解るので、どうにか破談にはしたい」
法一のアパート。テーブル越しに向かい合う二人は、難しい顔で向かい合う。
「それでビターを彼女役の影武者に仕立てて、早々に事を収めてしまいたいと?」
「理解が早くて助かる。ところで、本当に彼女を探さなくても?」
「そのうち冷静にはなるだろう。頭が冷えてからでないと話もできない」
「そういうものか?」
彼等の背後、法一の別途で眠る少女、その首には欠けた首飾り。その所為か、実像はたまにぼやけ、その髪は緋色に、頭には角が生えた姿が幻影のように揺れ動き、ちらついていた。
「彼女も、魔物か」
「だからだ。そうでもなければ警察に通報して話は終わりだろう?」
「その通りだが、これからどうするつもりだ?」
「それをカンジナバルに頼むところだったのだが、あの女が勘違いして家出した」
「・・・どっちもどっちな気がするのだが」
ぼやく布由彦の声に反応してか、ベットの彼女が目を覚ます。
 身体を起こす緋色の髪の少女、一瞬、布由彦を警戒してか身を強張らせるが、法一が身構えていない姿に安心したのか、一応の警戒を解く。
 元々が柔和な風貌であり、緊張した顔より、柔らかな微笑みの似合う子であった。
「起きたか。それで、名前は?何処から来た?」
「あぁ、あと氏族が解ればそれも。場合によってはこちらから知り合いを探せる」
「私、はー、あー、うー」
ぽつり、ぽつりと、言葉を続ける。
 とりとめもない内容へ、二人は黙って耳を傾けた。


 エイナン。そう名乗った緋色の髪の隙間から角の伸びる少女。
 種族はホブゴブリン。小鬼の種族、ゴブリンの中に稀に生まれる希少種でもあり、族長などには彼女達から選ぶ習慣などもあるという。
 そんなゴブリンの氏族の中でも、彼女達は別の魔物との交流も少なく、大陸の東北に居を構えて寒冷地で穏やかに暮らしていたという。
「なーんもないのに、故郷だからかなー?なんかすきだったの」
 薄暗い雲に灰色ばかりの空。薄く煙の棚引くような陰鬱な北ではあったものの、小鬼達は山林での洞窟生活にも慣れ、時に人里でイタズラをしながら楽しく暮らしていた。
 そんな平和な種族であったのだが、突然に教団が山へ侵入し、大きな争いが起きた。
「なんかねー、龍狩りだって。山の石が欲しいから、どけってー」
鉱山資源の発掘を目的に龍を狩ろうとした、だが、龍退治に向かった信者は全滅。龍は逃亡したものの、山は大規模な術式によって侵入が不可能となっていた。
 術式の解除は人間に叶わず、結局はその場に居た教団関係者も内部分裂、そのまま引き上げたという。
「けどねー、山には魔物や人が入れなくなったせいでー、冬が越せなくなっちゃったのよー」
その後、近くに隠れ里を形成していた東方移民の力を借りて、一時的に異世界の縁故を頼ってきたという。
「なんかねー、うちの一族の出身で、今、人と一緒に孤児院してる子がいるんだけど、その知り合いの人のそのまた知り合いの人を頼って、こっち来たのー。けど、なんかあっちの村で魔力がどーのこーのあったとかで、ゲートから飛ばさ
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