はらぺこだった青虫 ワンダーワームの誘惑恍惚交尾

 ピンク色の薄い霧に覆われた、異様に明るい色の草木に満ちた森。こんな異常な場所に迷い込んでからいったいどれだけの時間が経ったのだろうか。俺はただいつもの森にいつものように香草を取りに入っただけなのに、ああ、今日は本当についていない。
「ん?なんだ……?」
 ため息をつきながらとぼとぼと歩いていると、突然ピンクの霧が異常に濃い場所に出くわした。まるでピンク色のカーテンのように視界の一切を遮っている。今までよりもさらに得体のしれない現象を目の当たりにし、思わず身がすくんでしまう。いつのまにか、どこからか甘い香りが漂ってくるような気がした。これが錯覚でないとすれば、この霧の向こうから……いやもしかすると、このおかしな霧そのものが甘い匂いを帯びているのだろうか。なんのために?何もかもわからないことだらけだ。
 とにかく、俺はこのままずっと森をさまよい続けているわけにはいかない。このピンク色の霧が毒かなにかなら、きっと俺はとっくに死んでいるだろう。散々歩き回ったせいかやや向こう見ずとなった俺は、目の前の霧のカーテンへあえて飛び込むという、文字通り向こう見ずな行動に打って出た。

 霧の塊を抜けると、そこは少しだけ木々が開けた小さな広場のような場所だった。広場の中心には椅子くらいの大きさがあるどぎつい色のキノコが生えている。そのキノコのてっぺんに生えたなにかから、ピンクの霧が絶え間なく噴き出していた……いや違う。あれは植物ではない。少なくとも人の形をしている。いやそれは上半身だけだ。あ、あれは……!
「すぅー……ふはぁー………ん?誰かな?みたところ兎でもなく猫でもなく、妖精でもトランプでもなさそうだ」
「ま、まさか、魔物か……?」
 キノコの上に腰かけていたのは、どう見ても「魔物」としか形容しようのない生き物だった。青白い肌。濃い青のショートヘアからのぞく二本の角。上半身は豊満な胸に引き締まった腹を持つ美しい女性だが、下半身はどう見てもまるまると太った青い芋虫だ。彼女は傍らに置いた水煙草じみた喫煙具に何度も吸い付き、口を離すたびに周囲の霧と同じ色の煙を吐き出している。
「魔物?そうだね。少なくともボクの足はご覧のとおり、昔の食べ過ぎがたたって太いままの芋虫さ。しかし魔物というものは人を襲って食べるものだという。果たして日がな一日こうして煙草を吸ってばかりのボクは、魔物と呼んでよいものだろうか?君は一体どう思う?」
「えっ?魔物……なんだよな?なら教えてくれないか。ここは一体どこなんだ?勝手に入り込んで申し訳なかったが、俺もできればここからすぐに出ていきたいんだ」
「ふふ……入り込むだって?面白いね。ここは屋外なんだ、入るも出るも何もないさ。その上ここは不思議の国だからね。ある日突然人間が、しかも男が入ってきたってなんにもおかしいことなんてない」
「不思議の国?」
「おや、ここに来るまでに兎にも角にも猫にも会っていないのかな?珍しいこともあるものだ。今日はお誕生日でもないのにね」
「一体どうやったら出れるんだ?」
 彼女の話は回りくどく、まるでこちらを煙に巻こうとしているかのようだ。なんだか気分が落ち着かない。このあたりは甘い匂いが強すぎて頭がくらくらしてくるほどだ。腹が立っているわけでもないのに体の奥から妙な熱が沸き上がってくる。あまりここに長いしない方がいいのかもしれない……。
「出る方法?さてね。実はボクもこの国の外から迷い込んだんだけど、このとおり出ようとすら思ったためしがないから、あまり力にはなれなさそうだ。せっかくここに人が訪れたというのに、力になれなくて申し訳ないな……」
 煙と共にため息を吐く彼女の憂い顔は、不思議な魅力を帯びていた。もう少しだけ彼女と話していたくなったが、これ以上話をしていては日が暮れてしまうかもしれないし、彼女にとっても迷惑かもしれない。
「いや、ありがとう。こうして誰かと話ができただけでも気が楽になったよ、それじゃあ……」
「ああ、ちょっとまった。君にこっそりと伝えたい大事なことがあった。もう少しだけこっちに来てくれないかな?君の顏がよく見えるくらいの距離まで、こっちへ」
 なんだろうか。もしかするとこの森を抜ける特殊な方法でもあるのだろうか?俺は少しも疑うことなく彼女の元へ歩み寄っていった。薄い霧のヴェールに覆われていた彼女の姿が少しずつはっきりとしていく。礼服に窮屈そうなまでに詰め込まれはちきれんばかりとなった乳房に、霧の色と同じ濃いピンク色の、霞んだようなきれいな瞳……彼女はまた、たばこに口をつけた。
「すぅー……」
「あ、あの……?」
「……ふうーっ
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「!?」
 突然目の前がピンク一色に染まった。浴びせかけられる濃密な匂いにむせ返る。酒場で顔に煙草の煙を吹きかけられる嫌がらせな
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33