木立の隙間から流れ出す、どこか不吉な生ぬるい風が頬を撫でる。しかし、その程度の風で俺の心に燃え上がっている歓喜と情熱が冷めることは無かった。長い探求の旅を経て、俺はついにたどり着いたのだ。今の俺のようにキノコへのあくなき愛と好奇心を極めた者たちが最後にたどり着き、そして誰一人生きて帰ったものがいないとされる伝説の魔境、『胞源郷』へと!この森に一体何が待ち受けているのかはわからない。それをこれから知るのが俺の役目だ。
「すごい……これはすごいぞ……!」
森に入って数時間、思わず独り言を漏らしながら俺はうっそうとした森の中を興奮した面持ちで歩いていた。食用のものから薬用のものまで、一般的に知られたものから希少なものまで、ありとあらゆるキノコが自生している!この森に手つかずのまま残された芳醇なキノコ資源の存在が明らかになれば、人とキノコの関係性は今まで以上に密接で活発なものとなるだろう!そうすればきっと、俺を含めた人類に更なるキノコ愛の境地が開け……そこまで妄想したところで、俺は腰から下げた愛用のロングソードを抜いた。
「いるのはわかっているぞ。さっきから俺の後をつけていたな?」
剣を構え、油断なく周囲を警戒する。俺はこの森に入ってから今までの間に、キノコと木々以外の動植物を一切目にしていない。この不自然なまでの静謐を説明できるものはただ一つ。この森に潜む普通ではない『なにか』が、森への侵入者を排除しているのだ。おそらくは、その被害にあったものが少なくとも生きてこの森の外に出られなくなるほどにおぞましい方法で。緊張感に満ちた視線を遮るように、木陰から小さな影が歩み出てきた。
「……キノコ?」
一見するとそれは人間の子供ほどの大きさのキノコに見えた。だがそれがただのキノコでないことは、その傘から下を見れば一瞬で分かった。その傘の下に続くのは薄紫色の長い頭髪、ぼんやりとした美しい少女の顏、煽情的に膨らんだ胸とくびれた腰にしなやかな両足を備えた、一糸まとわぬ少女の肉体。そしてその体のところどころに生えた毒々しい色彩のキノコ。間違いない、奴は魔物だ。それも未確認の。それを確認できた瞬間、俺は剣を収め踵を返してその場から勢いよく逃げ出した。当然だ、俺はキノコの専門家であって魔物の専門家ではない。たとえ相手がキノコの魔物であっても、魔物である以上興味を示すより早くまっすぐ逃げ出すのが生き延びるすべだと、俺はよく理解していた。
木の根に躓かないよう注意しながら、森の中を必死に逃げ回る。おかしい、これだけ走ればとっくに森の端にたどり着いてもいいはずなのに、一向に木立の果てが見えてこない。キノコ少女は俺よりもやや遅く、しかし決して振り切られることの無い速度で走って俺に追いすがって来ていた。どこまでも追いかけてくる……恐怖に囚われそうになりながら前を見ると、進行方向にあった木の影からまたしてもキノコ型の影が現れた、後ろにいるのと同じ種類の魔物!
「畜生、悪く思うな!うおおっ!?」
方向転換を試みれば後ろの魔物に追いつかれる、俺は再び剣を抜き、前方の魔物に斬りかかった。すれ違いざまの斬撃が魔物の胸を捕らえる。しかしそれによって帰ってきた感触は肉を斬った感覚でも骨を砕いた感触でもなく、スライムか何かを殴ったようなぶよん、とした強烈な弾力だった。その直後に魔物から周囲へ放出される、ピンク色の煙。攻撃したのは失敗だった……浅慮を後悔するのと、わずかに吸い込んでしまった胞子が俺の体を侵し始めるのはほぼ同時だった。走り続けた分以上に体が熱くなり、思考がぼやけて股間へ熱が集中していく。それでもなお男の意地を振り絞って逃げ続ける俺を、2体のキノコ魔物が追いかけてきた。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
俺を捕らえようと走り寄ってくる魔物たちは、少しずつその数を増やしていった。もう何度立ち塞がれようと走る方向を変えている余裕がない、眼前に立ちはだかる魔物を振り払うように斬っても斬っても、当の魔物は驚いたような顔で転ぶだけで平然と立ち上がり、おびえる様子すらなく立ち上がって俺の追跡に加わってくるのだ。そして斬りつけるたびに胞子が飛び散り、俺の理性と体力を奪っていった。一体どれだけ走り続ければ逃げ切れるのか、いや、誰も逃げ切れなかったからこそ、この森からは誰一人……それに気が付いた瞬間、俺のつま先を無慈悲な木の根が捕らえ、転ばせた。
「……」
「ひっ……!」
追いつかれてしまった。俺の周りをぐるりと取り囲む、感情の読めないぼんやりとした顔。顔。顔。魔物たちは俺がもう逃げられないと判断したのか。一斉に笑ってその体を震わせた。
「ふふ……ふふふふふ……
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「うあああああ……!」
身を寄せ合う彼女たちがこすれ合い、ぶつかり合うことで周囲に何重
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