「おはよう、レレン」
聞いたことのある…というか一日中聞こえている声が、俺の耳に入ってきた。
透き通っており、落ち着きのある彼女の声からはα波が出ている。
「あ〜しゃべらないでくれ…また眠くなっちゃうじゃないか…」
実際、彼女の声からα波が出ていようと、俺の脳からα波が出るワケじゃないんだけど…。
だが、詭弁とはこうして使うものなのだよ。
「何回その言い訳を聞いたと思ってるの…?早く起きないと、毛布剥がして布団でくるんでお日様の下にでも干すよ?」
「…………」
しぶしぶ、俺は身体を起こした。
俺の睡眠欲求をα波で刺激したくせに、その睡眠欲求を満たさせてくれない彼女は、ティリアという。
昔から仲が良くて、それこそまるで家族のように慣れ親しんだ。
明るく、正義感が強く、誰にでも優しい…そんな誰からも好かれる性格で、子供の頃にした『ティリアの御婿さんになる』という約束を、俺が告白するまで覚えていやがりまして、俺は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤なったというのをよく覚えている。
さりげなく嬉し泣きしてたのは、今でも内緒。
それから長い間、俺はティリアと時間を共にし、日々を過ごしている。
泣いたり、笑ったり、怒ったり…色々な感情を共有した。
もちろん、その中にはお互いの関係が崩れそうになる出来事も存在している。
だが、今となってはそれさえ良い思い出だ。
俺にティリアが必要だし、きっとティリアも俺を必要としている。
それが結ばれるという事だし、それが"夫婦"という事だ。
そんな、自己完結なプロローグを長々と話している内に、どうやら朝食が出来たようだ。
「ん〜…良い匂い…」
カタ、カタ、と机に皿が並べられる音が聞こえてくる。
睡眠欲求なんぞ、食欲に比べればどうってことはないのだと、俺はベッドから降りて、机を見た。
刻まれた青葉が散りばめられた、とうもろこしのスープに、小麦色に焼けた四角形のパン。
透明なガラスのビンには、クリーム色のバターが目一杯に入っている。
「これっ、ちょっと前にエルムの牧場でもらってきたんだよ〜。あそこのホルスタウロスは一級品っていわれてるからねー。お金も持っていったのに、エルム、タダでくれたんだよ〜。ほんとにエルムは良い子だねぇ〜」
机の真ん中には、三原色の野菜とバラバラになったゆで卵を盛り付けたサラダが置かれていた。
「それだけ余裕があるってことだろ…?」
「ん…?その言い方はいただけないなぁ…」
手を伸ばし、バターのビンを取ろうとしたところを、ティリアに邪魔される。
不機嫌そうな彼女の顔に、思わず俺は目をそらした。
「そうだな…エルムは頑張ってるよ…」
「うんっ、よろしい」
相変わらず、ティリアには勝てない。
まぁ、勝てないのが日常であり、普通なのだから、特に何かを思ったりはしなかったが…。
因みに、エルムというのは俺たちの昔の同僚で、まだ魔物が、人間を殺戮のために襲っていた時に俺たちのチームに加わっていた魔術師だ。
子供らしい容姿に似合わずその腕はかなりのものだったが、召喚魔術の式を誤り、この世界と魔界を繋ぎ、大量の魔物を生み出した事がトラウマとなってほとんどの魔術が使えなくなってしまった。
本人の言っていた言葉を引用するならば、魔術は精神的集中が最も大切だから、との事。
チームとして活動できなくなった俺たちは、強制送還され城下町で街の警護に回された。
そんな、つまらない生活にも慣れ始め、3人共に笑顔が見えてきたその時に、起こったのだ。
魔王の世代交代が。
そこから、世界は大きく変わった。
そしてエルムは、城下町にいたホウルタウロスのリナルタに貞操を奪われ、そこから彼の新たなる牧場物語が幕を上げた、というワケだ。
今となっては、一級品と言われるホルスタウロスの乳の中でも、最上級と言われるまでに成長した。
時々会いに行くが、完全に牧場ライフをエンジョイしまくっていて、トラウマも、心のどこかへ押し込んでしまったかように明るい笑顔を見せる。
皮肉な話だが、彼は魔物に救われたのだ。
食欲を満たし、ゴロンとベッドに横になる。
「また寝るの…?」
「ふむ、人間は常に欲求を抱いている。だから、自由な内に本能的な欲求は解消しておくべきなのだよ」
ワーシープの毛布を被って、椅子に腰掛けるティリアに背を向けた。
この毛布は優れものだ、眠くなくとも、まるで睡眠薬のように人を眠りへと誘うのだ。
全く、家は小さいくせに家具の1つ1つが地味に素晴らしいこの空間が好きだ。
「ふ〜ん……じゃぁさ…」
ティリアがごそごそと毛布を動かす、というか一人分のベッドの中に侵入しなさってきた。
え?なにしてんの?
後ろから手を回され、逃げるに逃げられない状況へと陥り、身の危険を察知する。
あまりにも遅すぎる察知であった。
「私も寝ちゃお
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