突撃!ワーシープの黄金羊

「さて助手くん。今日は魔物娘の育てている家畜について調査をするぞ」

「はい教授!ここはワーシープの村ですね」

「そうだ。ここに来るまでにずいぶんと苦労したが、ようやく来ることができた」

「思い出すのも恐ろしいですね…いきなり魔界に行くと教授が言い出した時は、ついに壊れたかと心配しました」

「何を言うか。政府は魔物娘に関して一切の情報を出さず、突撃して行った研究仲間は皆消息不明。私の親友も…」

「それは何度も聞きました。彼の無念を晴らすためにも、こうして調査に来たんですよね?」

「そうだ。こうしてなんとかワーシープの村にコンタクトが取れたのは、非常に行幸だろう」

「路銀も食料もないうえに、道に迷ってもう帰り道もわからないですけどね」

「探求にはアクシデントがつきものだ! 一流の研究者は脳だけでなく体を動かしてなんぼだぞ」

「こんな平和そうな村にアクシデントなんてないと思いますが…」

「ところが気を付けたまえ。ここにいる黄金羊だが、非常に危険なので注意が必要だ」

「え、ただの金色の羊に見えますが…こうして見ていても、とてものんびりしていますよ?」

「これは親友が最後に残したメモなのだが、魔物の中で危険度はA級クラスのようだ」

「ドラゴンとどっこいどっこいじゃないですか!? そんなの家畜にしてワーシープは大丈夫なんですか?」

「この黄金羊にはある特性があってな。ワーシープにだけは唯一その特性が効果を発揮しないのだ」

「といいますと?」

「あの毛皮に触ると寝る」

「寝る」

「以上だ」

「え、ちょっとまってください。それでA級なんですか!? ただ寝るだけでしょう!?」

「何を言う。睡眠こそすべての生物に必要とされる欲求だ。その1つをどんな生き物ですら適用できるこの黄金羊はとても危険なのだ」

「ということはドラゴンでも?」

「触れたとたんに寝る」

「わお」

「この黄金の毛皮は強力な魔力を帯びているようだな。恐らく、これに触れると脳の中枢神経を強制的に心地よい眠りにつかせる。ちなみに他種族の場合、眠り耐性を持っていても関係なしだ」

「地味にすごいですね」

「種族として非常に近いためか、ワーシ―プだけはこの効果は反映されないようだがな。興味深い」

「黄金羊の毛は特殊な加工をすることで、その効力を弱めることができる。これが昨今の超高級安眠枕として販売されているようだ。この村の収入減にして特産物だな」

「あぁ、幻の枕って噂の…あの枕の中身って、この羊の毛だったんですね…」



「まぁ君の言うようにそれだけだったら、せいぜいB級の魔物だっただろう。が、A級になった理由がもう一つわかった」

「この絶対に生き物を眠らせる毛というのは、犯罪者たちの間では非常に魅力的になるだろう。何せ睡眠薬などと違って副作用や分量を量る必要がないからな」

「おお…なるほど。それで特定の者にしか扱えないようにA級にしたと」

「あくまで予想だが、外れてはいないだろう。実に恐ろしきは人の知恵だな」

「そういえばワーシープは全員女性しかいないんですよね?」

「うむ、これは魔物娘の特徴にもれず、女性によるコミュニティを形成している。面白い文化の一つとして、彼女たちは気に入った伴侶に黄金羊の毛と、自分の毛を合わせて入れた枕を渡す風習があるそうだ」

「おお異文化らしいですね」

「もちろんワーシープの毛にも非常に強い安眠作用がある。最近では重度の不眠症患者に対して彼女たちの作った枕を貸す商売もしているらしい。今日は彼女たちの村を紹介してもらうついでに、その枕の効果も試してみようと思ってな」

「なるほど、それは楽しみですね!」

「ここまで来たかいがあったってものだ。論文にして持ち帰れば、きっと学界でも大騒ぎになるだろう!」

「ところで教授。さっきからワーシープの娘さんたち…妙にこちらをチラチラとみていませんか?」

「人間が来ることが珍しいのだろう。とはいえ彼女たちは温厚だ。こんな独身のおっさんと苦学生の二人組なんぞ襲うわけもなかろう」

「それもそうですね」

「さて宿についたぞ」



「………ふぅ。宿の食事も最高でしたね。滅多に出さないという黄金羊の肉料理…絶品でした」

「うむ、なんだか妙に体が元気だ。だが今夜はもう遅いからな…今こそ彼女たちの作った枕を試すときだろう」

「わざわざ別々の部屋まで用意してくれましたからね。まるで一流旅館みたいです」

「では寝るとしよう」

「はい教授、おやすみなさい」

「うむ、おやすみ」



「………んん…むにゃ……ん? 誰かいるような……え、あなたは村長の娘さ……ちょ!むぐっ!? んんんんん!?」

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