成績は平凡、読書は苦手、帰宅部だが運動は得意、身長は少し上でまぁまぁ筋肉質。
典型的な男子学生である俺、優木(ゆうき)には好きな人がいた。
これもありきたりで典型的なパターンなのだが、その好きな人は幼馴染で美香子(みかこ)という。
だが、幼なじみであるが故に彼女が俺のことを好きになることはないと、俺はこの恋が叶うことはないのだと理解している。
決して仲が悪いわけではない……と思う。
学校は違うが途中までは一緒に学校に行っているし、休みの日には一緒に出かけたりする。
しかしそれはご近所付き合いというか、昔からの習慣のようなものだ。
俺の恋が叶わない理由は彼女の男性恐怖症、いや、男性嫌悪症といえばいいだろうか。
とにかくそのような、男性というものを受け付けることができない心の病を持っているからだ。
幼い頃に"襲われた"からだそうだが、詳しいことは知らされなかった。
とりあえず、俺は襲ったやつを殺してやりたいとだけ言っておこう。
「あら、おはよう。偶然ね」
「あぁ、偶然会ったな。おはよう」
これが俺と彼女の朝の挨拶である。
もちろん、朝俺の家の前で会うのは偶然でもなんでもなく、俺が彼女が来るのを待っていたのだ。
彼女もきっと知っていると思うが、何故か彼女の中では「偶然会った」ということになっているらしい。
同じ電車に乗って、彼女は俺が降りる二つ前の駅で降りる。
彼女はそこからさらに電車を乗り換えて行くので、朝の登校時間はかなり早い。
彼女の登校時間が早いということは、待っている俺の登校時間も自動的に早くなる。
教室の鍵を開けるのはいつも俺だ。
「優木の学校、共学じゃない。あなたまだ彼女とかできないの? もうそろそろそういう時期かなって思ってるんだけど」
空を見上げ、どこか遠くを見ながら美香子が言った。
背は俺と同じくらいで、長い黒髪と整った顔立ち、長い脚と大きな胸。
すれ違えば、女でも振り返ってしまうのではないかと思うほどの美人だ。
だが、ドSだ。
もう一度いう、ドSだ。
なんでも自分の思い通りにしてしまうし、気に入らないものはとことん叩き潰す。
小さい頃は、アリの巣に炭酸をぶっかけて大笑いしていた。
今でも酷い毒舌を容赦なく俺にぶつけてくる。
俺は少し考えたふりをしてから質問に答えた。
「彼女はいないし、好きな人もいないな。告白されたこともない。お前こそ、女子高だろう。付き合ったりしてないのか?」
普通の人が聞いたら首をかしげそうな質問である。
男性を恋愛対象と見ない美香子は、年を重ねるたび女性を恋愛対象に見るようになっていたらしい。
百合系の漫画とかが部屋にあったのを覚えている。
美香子にこの質問をするのも初めてではないが、こちらも"彼女はできたか"とよく聞かれるのでお互い様だ。
そしてこれは、俺が彼女にまだ恋人ができていないことを確認する機会でもあった。
美香子は早く恋人でも作って私から離れろとでも思っているのかもしれないが……。
「なかなかいい子がいなくてね。女子高よりも共学の方がいい子がいそうって思うわ」
「何でだ?」
「前も言ったけど、天然装ってるクソビッチか高飛車なお嬢様しかいないもの。私好みの可愛い子犬みたいな女の子はなかなか見ないのよねぇ」
「そんな漫画みたいな女って実在するのか?」
「ふんっ。その言葉、世の中の男どもにそのまま返すわ。現実見なさいよ」
俺にとって美香子と話すことができる少ない時間は楽しいものだった。
よく言われていることだが、楽しい時間はすぐ過ぎる。
家の前出会ってから二十分ほどで別れてしまう。
帰りは学校が終わる時間もちがうし、同じ電車の同じ車両に狙って乗ることができないために会うことができない。
美香子の家に遊びに行けばご両親は喜ぶだろうけど、彼女からしたら迷惑だろう。
「あぁそういえば」
こう切り出した彼女の言葉が俺の人生を、そして、何もかもを変えたのだ。
「最近可愛い転校生が来たのよね。驚いたわ。あの子、本当に漫画の中にいる娘みたいに可愛いのよ? それにね……」
☆
「某山の上の神社で人がいない時に恋の相談をすると、ナニカが現れて恋を叶えてくれる」
俺が最近学校で聞いた噂だ。
この街のナニカが何なのか誰も知らないし、"某山の上の神社"が学校付近のこの神社なのかもわからない。
というか、どうしてナニカなどという表現になったのだろう。
普通、神社で願いを叶えてくれるのは神様とか巫女さんじゃないのか。
などと思いながら、そんな不確定で、そして嘘としか思えない噂にすがってその神社の前にいる。
それも学校をサボってだ。
これまでずっと美香子のお眼鏡に叶う女は現れなかった。
そして、俺はそのことに安心しきっていた。
いつかは俺にもチャンスがあるのではない
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