2-A 「日常:学校生活」

僕は朝が苦手だ。
それも弁当を作らなくてもいい休日となれば尚更だ。
だが、今日はいつもよりも早く起きなくてはならなかった。

「何でそんなに早起きなのよ」
「朝食の調達と、昨日風呂に入らなかったので風呂に入るためだな」
「私だって入っていないわよ」
「母さんが会社に戻ったら入っていいから、それまで我慢してくれ」

風呂も上がって朝食も完成という頃にリリムさんが起きてきたのだが、何故か機嫌が悪い。
でも、パンを食べながらジト目で見上げてくるリリムさんは綺麗で、可愛かった。
何故か目をそらすことができない。
リリムさんが無意識に発動している魅了という魔法の効果だろうか。

「私の顔になにかついてる?」
「いや、あんパンが異世界の住人の口に合って良かったなと思ってな」
「あんこは食べたことあったけど、パンに混ぜるという発想はなかったわ」
「混ぜるって言ったらあん食パンってのもうまい」
「食パン?」
「食パンは知らないのか。って日本でしか食パンって言わないんだったな。うーん、何て言うんだ? ってか異世界にこの世界と同じものがあるとも限らないんだよな。でもあんこはあるみたいだしなぁ……」

よく考えたらそもそも言葉が通じることすら不思議なのだが、何故かそのようなリアルな事を考えようとは思わなかった。
異世界の住人がここにいる。
僕はこの異常なシチュエーションに舞い上がっているのかもしれない。

「美味しいのならまた今度食べさせて欲しいわね」
「あ、あぁ、また見かけたら買ってくるよ」

あん食パンなら、よく近所のスーパーで売っている。
あの何とも言えない味と食感は、どう表現すればいいかわからない。
だが、これだけは言える。
あん食パンはものすごく美味しい。
リリムさんはあん食パンを買ってくるという言葉に気をよくしたのか、ニコニコして言った。

「今日、今朝食を食べているだけでも新しい発見がある。これはこれからの生活が楽しみね」
「人間を救いに来たんじゃないのか?」
「まずは私がこの世界のことをもっとよく知ることから始めるわ」
「そういえば、救うって具体的にどんな感じに救うんだ?」

そういえば、人間を救うと言っていたがその具体的な方法を聞いていなかった。
この日本はある程度平和だが、人は死ぬ。
事故と殺人と自殺とその他もろもろ理由はさまざまだが、死んでいる。
だが、それをいくら魔法が使えるとは言えリリムさんが助けるのだろうか。
僕は脳内でラノベのような展開で正義のヒロインを演じているリリムさんを脳内再生し始めた。
魔法を使って人々を助けるリリムさんはすごくかっこいいのに、服装が露出の多いあの服のせいでいろいろ台無しな映像が流れる。
と、後ろからガチャガチャという音が聞こえてきた。
母さんがいつもよりも早く帰ってきたのだ。
僕は反射的に振り向き、一瞬にして噴いた冷や汗を額ににじませながら必死に考える。
この状況からリリムさんを母さんにバレないように家から出す方法。
残念ながら、そんな方法はない。
すぐに声が聞こえてくる。

「た〜だ〜いま〜。シュウ君〜。元気にしてた〜?」

何故だ。
何でこんなに早く家に帰ってきたんだと、僕は心の中で叫んだ。
母さんはリビングまで来て、僕とリリムさんを見る。
リリムさんも立ち上がって母さんの方を向く。
いつの間にか彼女の角や翼などの人外に見える部位は無くなっていた。
ついでに、銀色だった髪の色が黒くなっていた。
そうなると、彼女は普通の人間にしか見えない。
しかもその格好はうちの学校の制服と同じセーラー服だ。
母さんがどんな反応をするか想像に難くない。
驚いて、テンションを上げながら質問攻めにして、勝手に勘違いして、みたいなところだろう。

「あれれ〜? シュウくんと……!? もっもももももももしかしてっっっ!! かかかかかかかかかかっっっ!?!?」

リリムさんが、か? と言って首をかしげる。
母さんは俊敏な動きでリリムさんの前に立って、彼女の両手を握る。
そして掴んだ両手を大きく上下に振りながら涙をこぼす。
いや、ちょっと待てそれはおかしい。

「シュウ君にもやっと彼女さんが……。しかもこんなに美人さんだなんて!! こんな弱っちくて気弱な男の子だけど末永く宜しくねっ!!」

涙目から満面の笑みに変わり、何故か目をキラキラさせていた。
こういうことになると思ったから母さんに合わせたくなかったんだ。
リリムさんは少し驚いた顔で母さんの顔を見ていたが、次第に顔を赤らめていった。
これ以上はいけない。
僕はリリムさんと予想通り盛大な勘違いをした母さんの間に割って入る。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。この人は部活の先輩でそういう関係じゃな――うわっ!?」
「はい!! 私、リリムって言います。シュウ君とは結婚を前提
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