ヘルタースケルター

ジョーダンじゃない!

こう毎日毎日ストーカーに遭ってんじゃタマんないわ!!
家に帰って、発売日に開店直後の本屋で買った小説を読み切っていないのだ!
相手が人間女だろうが魔物娘だろうが、俺の至福の時間は邪魔させてたまるか!

脚の回転数を上げる、上げる。
しかし敵(=ストーカー)もさるもの。
振り向けばそこにいそうな気配をキープし続けている...。

今読んでいる小説を読み切らんことには、人生の墓場的に死んでも死にきれない。
読む暇がなくなってしまうからだ。

...本当に毎日毎日、出勤と退勤時にツケてくるとかなんだんだろうか。
社会人じゃないから、そんな時間を確保できるのかもしれない...。
本当にとんでもないやつだ...。


今日も何とか家までたどり着くことに成功した。
さっさとシャワーを浴び、軽く夕飯と摂り、自分は狭い部屋にある数少ない家具であるベッドに腰かける。
そして、コーヒーをお供に、尊敬している...作家である『喜代 半兵衛』先生作のポルノ小説を読み始めた...(余談だが、先生の作品はすべて所持して読了している)。
ベッドに腰かけ、お気に入りの銘柄のコーヒーをお供に、尊敬してやまない小説家の作品を読む。
これぞ人生最大の至福である、異論は認めない。


今読んでいる作品は、魔物差別主義者の男と白蛇の上司の話であった。
ちょうど白蛇の上司に押し倒され、相手が上司故に逆らえない部下の濡れ場である。

「<『あっ、今お腹の中で何がおきているかわかる? あなたのよわよわ精子と白蛇のつよつよ卵子が合体しちゃったわ......
#9829; あなたと私の遺伝子が混ざっちゃったのよ
#9829;』>
 <『そんな......それじゃあ、ボクの人間遺伝子は永遠に魔物の遺伝子としてこの世に残ってしまう...!』>」

半兵衛先生の作品はいつも淫語がぶっ飛んでいる...。
それも先生の作品が好きな理由の一つだ。
淫語というのは、言う側に相応の語彙がないと締まらないのだ、と高校生の時の国語の先生(白澤)が言っていた。
『バカでは淫語は使いこなせないのだ』とも、その国語の先生は言っていたのだ。

大人になって魔物娘とその夫の結婚記念AVを何本か見たことがある。
しかし、淫語を使いこなすほど語彙を多く持った者はだれ一人としていなかった。

そんな中、自分はあるポルノ小説を立ち読みした、それが半兵衛先生の作品だった。
先生の作品は実に淫語に力を注いでいて『頭がおかしかった』。
だが、それが自分の琴線に触れた。
その日店にあった半兵衛先生の作品を全部購入し、店に置いていなかった作品はAmazonesで取り寄せた。
それからというもの先生の小説は発売日に本屋の開店時間に合わせて買いに行くようにしていた。

だが、身を固めてしまっては、そんな大好きな小説を読む時間が無くなってしまうではないか。
先生が現役で物書きをしている間は結婚などしない、それが自分の選んだ道であった。







「クビ...ですと...!?」
「本当に言いづらいことなんだけどね......」

部長が苦虫を
#22169;み潰したような顔をしている。

なんでも自分の勤めている会社は事業を縮小することになったらしく、その一環の人員整理で解雇者がピックアップされたらしい。
そのピックアップされた者に、自分がいたわけだ。

「本当に私としても苦しいことなんだけどね......なぜか君の名前がリストにあってね...」

権力に逆らったところで不毛でしかない。

「......わかりました...」

そう言って本日の業務...業務引き継ぎ書を書きにかかった。

引き継ぎ書を作成している最中、ずっと考えていた。
・帰る家(アパート・借家)があるだけマシだが、それも家賃が払えなくなる
・自分は田舎から都会に出てきた身、頼れる人なんてここにはないない。
・自分はどちらかというと友達を作るのが苦手で、さっと会って身を寄せさせてくれる友達はいない
・それに大好きな半兵衛先生の本だって購入する資金のアテがなくなった

......ぐぬぬぬぬぬぬっ!!

心の中で悶え叫んだ。

本当に助けてくれそうなアテなんていな...
......んっ?

いるじゃないか、助けてくれそうな『アテ』が。
自分の心の中に生まれた悪魔は、『あいつ』を頼っちまえ!! ...と、自分の中で声を張り上げていた...。




そして帰り道。
日もすっかり沈んだ帰り道。

(おおっ、いるいる、いつものアイツが...)

いつものように帰っていると、例のあいつが、振り向けばそこにいそうな気配をキープし続けていた...。

自分は腹をくくって、足を止めた。

「オイッ!!」

大声でストーカーに呼びかける。
いきなりのこと
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