「ここが...不思議の国の混浴温泉...だと...」
目の前にかかっている暖簾に、目を疑う。
なんで男と女の漢字が絡んだのが書いてるんだ...。
脱衣所は普通に男と女で別れてたじゃねか。
で、全部脱いでいざ温泉に出るってなったら、こうなってるんだ...。
もうオチが読めたよ、怖いよ、ここ。
全裸に腰にタオルを巻いて、いざ入る寸前で躊躇しているのを、背後でお掃除さんのチェシャ猫がジロジロ見てるのが分かる。
おそらく、ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべているだろう。
だってさ、福引で当てたのが『ただの温泉旅行券』って書いてたんだよ。
そうなんだよ、不思議の国だとは誰が予想できるよ。
......できたな、福引のスタッフが魔物娘だったし。
レスカティエか、不思議の国か、魔王都くらいは予想しようとすればできただろう。
完全に自分の落ち度である。
「ほらほらぁ、さっさと欲じょ...浴場に出ましょうよ、風邪ひいちゃいますよー」
腹を括るしかないのか......。
ええぃ、ままよ!!
俺は引き戸を開け、豪快に暖簾をくぐった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
そこには、男も魔物娘もすっぽんぽん...ではなく、最低限タオルを巻いている光景が広がっていた。
浴場を闊歩し、ビン入りの牛乳などを売り歩いている売り子もいる。
...あれ、案外風紀がちゃんとしている...?
掛け湯して体を清め、一度浴槽に浸かる。
自分が浸かったのは、赤ワイン風呂のようだった。
...入った途端食われるかと思ったけど、案外そうでもなかった
「お兄さん、一人か?」
......そうでもなかった!!
隣にジャバウォックが浸かってきた。
しかも距離が近い、近い近い。
「一人、ですけど...?」
「奇遇だね、私も一人でな、だが、どうにも話し相手がいなくて寂しい。ちょっと話でもどうだろうか、とね」
「いい、ですけど...」ゴニョゴニョ
自然と語尾がごにょる。
「君はなんでここに?」
「福引で旅行券を当てて、ここに。......入ってすぐ食われるかと思ったけど、そうでもなくて安心した...けど安心できないような感じです」
「そうか...。じゃあ、君はここのルールを知らないのだな?」
「ルール? ......詳しく教えてもらえないでしょうか」
頭を下げると、ニコリとはにかむジャバウォック。
「構わないよ。そうだね、
ここは見ての通り、混浴温泉だ。
だけど、ただの混浴じゃない。
ここでは一方的に襲うのは御法度なのだけど、合意さえあれば、奥の個室温泉で親睦を深め合えるシステムなのさ。
なので、混浴スペースで先鋒・婚活戦、奥の個室で大将戦、といったことができるのだよ。
つまり...ここにいる魔物娘の全てが、君のナンパ待ち、君からのナンパ待ちということなのだよ。
わかったかい?」
ジャバウォックの説明を聴き終える。
背後を向いてみると、案の定、こちらを凝視していたマーチヘアとジャブジャブが目を逸らした。
......本当...だと...。
視線を正面に戻す。
正面にいたチェシャ猫が視線を下に逸らした。真ん前にもいたのか。
案の定というか、なんとういうか、魔物娘の考えることは人間の数千年先を行っていると思った。
最初に誰が考えついたんだよ。
「ところで、だ」
ジャバウォックが咳払いをする。
「君は、名前は何というのかな? 私はラウザというのだが...」
...こいつも自分が目当てらしい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そうか、君はルポライターなのか」
「まぁ、今回のも面白く記事に出来たらいいんだけどねぇ。題名は『不思議の国の混浴温泉事情』とでもしようかな、って思ってんの」
「そうなのか、出来たら読ませてくれないか?」
「いいですよ」
ジャバウォックのラウザさんとの話は、当初の予定より大幅に弾んでいた。
二人共楽しそうだからか、他の魔物娘もちょっかいを出してこない。
正直助かる、ラウザさんのことが好きになりかけているし。
それと、ラウザさんとの距離が近い、いや、ゼロ距離だ。
ラウザさんは湯船の中でぴったりと自分にくっついている、左腕が桃に埋まっている。
さらに、ドラゴン系の魔物だからか、体格が自分よりでかい。
湯船の腰を下ろしている状態でも、頭1.5個分デカイ。
なので、左頬に当たっている、桃が、桃が!
しかし、それ以外は意外な程ちょっかいを出してこない。
尻尾、触手(?)×2、桃色のブレスも大人しい。
やろうと思えば、いくらでもこちらを発情させられるはずだ。
...となると、つまりこいつは、それほどまでに真摯に自分を落とそう
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