PM10:10
「ただいまー」
「おかえりー、街コンどうだった?」
「それがねェ、最中は今回もダメだなぁ、とか思ってたんだけど、今冷静になって考えるとモロ脈アリだったような...」
「連絡先は?」
「それがねぇ...話すのが楽しすぎて忘れた...」
俺は屋島キドウ。
職業は接客業、笑顔が不器用な、24歳独身です。
読んでわかるとおり、街コンから帰ってきた直後です。
脈があっただろうに連絡先を聞き忘れるという、大チョンボをやらかしてきました。
死にたい...。
リビングに入って、某海パン一丁でもそんなの関係ない芸人の出だしのポーズでへこたれていると
「なぁにやってんのさ、アタシっていうものがありながら街コンだなんて行くから傷つくハメになるのさ」
「そうだねぇ...。.....................?」
俺は会話の流れに違和感を覚えた。
「ただいまー」から「話すのが楽しすぎて忘れた」の下りの会話相手は母親だったはずだ。
だが、今、ぬらりと求愛してきたのは『誰』だ。
声の主に目を向けると、黒地に藍色の蘭と三日月の模様の和服の、灰色の髪の女がいた。
一瞬「お前は誰だ?」という疑問が湧きかけるも、すぐに溶けてしまった。
「ばかやろう、お前、歳分からない相手と結婚したいと思うか?」
「馬鹿なのはお前さんの方さ、姉さん女房は身代の薬って言うだろう?」
ケタケタ嗤う女。
こいつは朔蘭(サクランと読む)、我が家のご意見版である。
見た目は20代後半。実年齢は知らん。
なんで我が家にご意見版がいるのか。
それは俺にも分からない、屋島家の7不思議の一つである。
「ほら、明日は仕事なんだろう、さっさと寝ようじゃないの」
「うっせー、わかってますよー」
俺は2階の自室に向かう。
テッケテッケとついてくる朔藍。
自室でジャケットとカーゴパンツを脱ぎ、寝巻きのスェットに着て、脱いだものをクローゼットに干そうとし...たのだが、それを受け取り朔藍が掛けてしまった。
この動作で、俺はまたしても違和感を抱いてしまった。
...あれ、いつからこいつがいたんだっけ...。
...あれ、俺が今の仕事に就けたのも、こいつのおかげだったじゃないか......あれ?
変な感覚に翻弄されていると、朔藍が口を開いた。
「ほら、さっさと歯ァ、磨いてきな。マウスウォッシュでもいいからさ、さっさと寝て、明日に備えな」
「..................................おう、そうする」
いて当然のことを考えても仕方がないと、足早に俺は1階の洗面所へ行く。
歯を磨いて戻ってくると、寝巻きの生地が淡い藍色の襦袢を着た朔藍が、。
「ほぉら、横になりな、朝まで優しく抱きしめててやるから...」
朔蘭は左腕を枕の上に乗せる、腕枕するつもりらしい。
言われるがままベッドに横になり、彼女の腕に頭を乗せる。
朔蘭は、さらに足を、全身を絡ませてくる。
これで今日もいい夢を見られるだろう、そう思いながら。
によによと笑う朔蘭の胸元に顔をうずめて眠りに落ちるのだった。
「ただいまー」
「おっ、おかえり、疲れたか?」
「大丈夫よぉ」
午後5時。
シフト勤務故に発生する日曜日の仕事を終えて帰ると、朔蘭が禁煙パイポ(黄色いから、レモン風味だろうか)を加えながら出迎えてくれた。
「禁煙始めたの?」
「ああ、お前さん、嫌煙家だったろう」
「そうか。......?」
あれ、家にはタバコ吸うやつなんて、弟(次男。俺は男三兄弟の長男)くらいだ。
アイツは、今は埼玉にいるから............あれ。
記憶がわけのわからないことになっている。
おかしい、何かが、おかしい。
思い出せ、屋島家は5人家族だ、父・母・俺:長男、弟:次男、弟:三男。
次男は関西にいるから、今は4人だ。
『5人目』なんているはずがないのだ。
「ほら、ワイシャツとズボンを脱いで、シャワーを浴びてきな、帰ってきたらご恒例のが待ってるよォ」
朔蘭が嗤った。
違和感の正体を突き止めるのは、シャワーを浴びながらでもできる。
そう思い、脱いだワイシャツとズボンを朔蘭に手渡した。
シャワーを浴びながら整理した考えは以上だ。
1:我が家は5人家族、一人は関西なので、現場は4人のはず
2:では、こいつは誰だ、そしていつからいる?
3:なんで俺はこいつの名前と顔を知っていた?
結論 = お前は誰だ。お前はどこの誰だ。
両親は気づいていないようだ、錯覚したままのようだ。
となれば...家に残る三男だ。
俺は弟の部屋にカマをかけに行った。
コンコンコン、三回ノック。
「おーう、『ぬらりひょんの玄孫』を全巻一気買いしたんだけど読む?」
「いらねー、俺、和風ファンタ
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