温泉宿の陰謀

「おぉ〜、いい感じの宿だなぁ...」

俺、紀伊ヨシヒトは敷居のたかそうな温泉宿の前に立っている。

俺の趣味は、ネットで口コミを調べて、日本各地の温泉を巡ることだ。
おい、ジジくさいって言った奴、怒らないから出てこい。
ていうか、ネットを使う時点でジジ臭くないだろ。

まぁ、それはともかくだ。
今、東北の温泉街にある、『幻蕩温泉』という温泉宿にいる。


クチコミサイトで、

ここは、温泉街の中でも、知る人ぞ知る、天にも登る気持ちよさの宿なんです!
ですが、『知る人ぞ知る』というせいか、あんまりお客さんいないんですよね...。
残念です...。

と書かれていた。

『知る人ぞ知る』というフレーズに弱い俺は、すぐさま荷物を纏めて直行。
そして、今に至る。


玄関を写真に収めていると、

「ようこそいらっしゃいましたぁ」

稲荷の女将が出迎えた。

「へぇ〜、魔物娘の経営する宿なんですか」
「そうですよぉ。 珍しいですかぁ?」
「ですねぇ、客として来ている方は見たことありますけど、自分で経営しているパターンは見たことないっす」
「ふふっ♪ そうですか。 まぁ、立ち話もなんですから、ささっ、中へ中へ」
「はーい」

俺は、女将に連れられるまま、宿の中へと入っていった。



「不躾な話になるんですが、お客さん来てます?」
中に入るや否や、この質問をぶつけてしまった。

「...まぁ...確かにあんまり有名どころじゃないですけど、そこそこ来てますよ?」
「へぇ」
「ただ、今日はお兄さんの他に、3人しかいませんねぇ」
「...それって人間ですか?」
「全員、魔物娘ですねぇ」
「.............やっぱり」

ちょっと、地雷を踏みかけてるかも。
まだ、人生の墓場行きにはなりたくない。

そうこうしているうちに、

「ここがお客様のお部屋、『月地の間(げっち)』になりますぅ」

自分の部屋へ着いた。

「げっち...ですか...」

ゲッツでも、ガッツでもない、『げっち』である。
なぜか、「下衆なエッチ」というイメージが湧いたのは俺だけだろうか。

「なんかぁ、変なこと考えてません?」
「......いいえ、特には」
女将さんの鋭い問いに、即答ですっとぼける。

訝しんでいる様子の女将さんだったが、
「......まぁ、いいですわぁ」

そして、
「お客さんにご注意をしておきます。 よぉく聞いてくださいね?」
妙に意地の悪そうな笑みを浮かべて注意事項を切り出した。

「はい、なんでしょう?」
ちょっとビビリながら聞く。

「ここはお風呂は共同浴場しかありません。 そんで、『男湯』と『女湯』は絶対に間違えないでくださいねぇ? もし、間違えても、うちらは一切、一切責任を負いませんので、悪しからず」

「わかりました」

男湯と女湯間違えるな...ねぇ。
間違えんだろ。
間違えるとしたら、よほどのアホだ。
もしくは、確信犯の変態だな。

「本当に分かりました?」
「本当に分かりました」
「本当に本当ですね?」
「本当に本当です」
「日本刀?」
「......」

何を言ってるんですか、あなたは。

「ホントのホントに分かりました! はい!」
パチン。
手を叩き、「この話は終わり」の旨を伝える。

「...分かりました、ではごゆるりと...」
女将さんは、部屋を出てった。

だが、俺は気付かなかった。
女将さんの口が、ニタリと歪んでいたことに。



さっそく荷物を置き、宿のロゴの入った浴衣を着て、風呂へ行くことに。

風呂と思われる場所の前には、
青い暖簾で『男湯』、
赤い暖簾で『女湯』と書いていた。

これで間違えるならアホだわ。
アホ以外の何物でもないわ。

そう考えながら、俺は青い暖簾の『男湯』と書かれて方へ入った。



浴衣を脱ぎ、腰にタオルと巻き、いざ出陣。

まず、掛け湯。
内湯を素通りし、露天風呂へ。


「ほぉ、雪見露天ですか」

露天風呂の周囲が見事な雪景色だった。
いいねぇいいねぇ、風流だねぇ。

さっそく、お湯に浸かる。
「フィ〜〜〜〜......来たかいがあったねぇ...」



お湯に浸かりながら、雪景色を堪能していると、内風呂の方から、複数人の女性の声が聞こえてくる。

「まさか......まさか!!」

気づいた時には、もう遅かった。

「おー、イイ感じじゃん」
「んー? 男の人がいるー」
「もしかして、俗に言うヘンタイさん?」

タオルも巻かず、サキュバス、エルフ、ダンピールが入ってきた。

「ちっ、違います! 俺は変態じゃないです!! つーか、ここ男湯でしょ!!」
「えー? 違いますよ?」
「嘘でしょっ!?」
「だったら、見てくればいいじゃないですか」
「はっ? 上等だよ...ッ!!」

勢いよく
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